告白したい温人と海斗 2
つづき。
ひと足先に海斗と夢菜がカップルになった頃、温人と紅葉はというと
「次はこれにしない?」
「そうだな」
普通にアトラクションで遊び続けていた。
(紅葉と遊ぶのメッチャ楽しい。楽しいけど…いつ言えば良いんだこれ…!)
正直告白のタイミングが全く掴めない温人。
お互いとても楽しめているし会話も弾んでいるが、告白に至る切っ掛けが無いのだ。
(前は出会って1週間で告白できたのにな…)
あの時は永遠に会えなくなると思っていたのもあるが。
そうなるとあの時のクレハがNPCだった事が悔やまれる。
「どうしたの?」
「い、いや、何でも…」
「そう?」
「…っ、あのさ、紅葉!俺…ぁぁあーっ」
言いかけた所でコースターが一気に降った。
最初に乗ったのとは別のジェットコースターの上に居たのだ。
そのコースターが止まった頃には告白どころではなかった。
「うぐぅ…こっちのがヤバかった…」
「あははっ凄かったねぇ!」
「平気そうな紅葉も凄いって」
「ふふ、まだまだ行けますよー?」
若干グロッキーな温人と違って元気いっぱいな紅葉。
「うーっ、俺もまだ行けるぞぉ!」
「おー!その意気だぁ♪」
そんな紅葉に負けじと付き合って遊ぶのは結局楽しく、あっという間に時間が過ぎてしまう。
気がつけば、徐々に日も傾き始めていた。
(マズいマズいマズい!折角2人で居るのに普通に遊んでるだけじゃん!)
ゲーセン近くで小休憩にベンチに座りながら頭を抱える温人。
お花を摘みに行って戻ってきた紅葉もそんな温人の様子に気付く。
(あれ、もしかして調子に乗って連れ回し過ぎちゃったかな…)
絶叫系ハシゴ制覇はやり過ぎたかと反省する紅葉。
実際は全く関係ないのだが。
「温人くん、大丈夫?」
紅葉は軽く身体を屈め、温人の前髪を寄せながら顔を覗き込む。
突然の美少女のどアップに硬直する温人。
「へっ、あ、だ、ダイジョブ、デス」
隠しきれない動揺。
「ごめんね、疲れちゃったかな?あ、飲み物買ってくるから少し待ってて!」
「い、いや!俺も一緒に…」
「大丈夫!すぐそこだから」
「そういう事じゃ…」という温人の言葉を聞く前に離れていく紅葉。
動揺し過ぎて直ぐに立ち上がれず、ついて行けなかった温人は顔を覆う。
「あぁ〜っ、なんで上手く出来ないかな俺…」
ゲーム内での経験もあるので、正直温人は紅葉とは現実でも両想いではと思っている。
その分少しの勇気を出すだけで良い筈なのだが、どうにも告白のタイミングが分からない。
「や…もうタイミングとか考えてる時点でダメか。よし、紅葉が戻ってきたら直ぐに伝えよう」
自分自身に言い聞かせるように独り言を言い決意を固める。
もうおかしなタイミングだろうとどうだって良い。
「……てか、紅葉どこまで行ったんだ?」
すぐそこと言っていたけれど、紅葉の姿が一向に見えない。
少し嫌な予感がし、温人は立ち上がった。
その頃、温人の嫌な予感は的中していた。
「ですから、友達と来てるんで無理です!」
「えー、ちょっとくらいなら良いっしょ?ね?」
「そうそう。行こうよ行こうよ」
紅葉に絡んでいたのはなんとも典型的なナンパ男達である。
と言っても美少女である紅葉はよくある事なので怯える事もないが。
「行きません!それじゃ、待たせてるので」
ハッキリと断り踵を返す。
しかし、今回絡んできた2人はしつこかった。
「まー待ってよ」
「気の強い子って良いなぁ」
去ろうとした紅葉の手を無理やり掴んで止める。
「ちょっと!離して…!」
怒って振り解こうとするが、男性の腕力相手ではなかなか上手くいかない。
更に、抵抗する紅葉にもう1人の男も手を伸ばしてきた。
「…っ」
二人に掴まれれば完全に逃げられなくなると、流石の紅葉も危機感を覚える。
だが、その男の手が紅葉に届くことはなかった。
「痛って!」
横から伸びてきた手にガシリと掴まれ、思いっきり振り払われた男が声を上げる。
ついでに先に掴んでいた男の手もはたかれ、紅葉は守るように抱きしめられた。
「…! 温人くん!」
そう、ヒーローのように完璧な登場をしたのは温人だ。
男達を睨みつけて堂々と言い放つ。
「俺の彼女に何か用ですか?」
腕の痛みで、相手はそこそこ力があると思ったナンパ男達はたじろいだ。
「な、なんだよ。友達って言いながら彼氏いんじゃねえか」
「チッ、行こうぜ」
ザコ台詞を吐きながら去っていく男達。
(うぅわ良かったー!行ってくれて…!!)
流石に相手が2人では勝てないかもという気持ちもあった温人はホッとする。
「大丈夫か?紅葉」
「う…うん…あの…」
が、どうにも紅葉の様子がおかしいと気づく。
「え?もしかして何かされた?」
だとしたら刺し違えてでも滅してやる。
「そ…じゃなくて…。あの、温人くん…今、彼女って…」
「あ。」
真っ赤になっている紅葉の後を追うように温人も赤くなる。
完全にフライングした。
「あ、ごめん…っ、今のは嘘で…!」
「え!?あ、そうよね…!やだ、私ってば…」
「や、そうじゃなくて…!」
目をつむり2、3度深呼吸する温人。
それから、改めて紅葉を真っ直ぐ見た。
「俺は…紅葉が好きです。もし良ければ、本当に俺の彼女になってください」
流れでそのまま付き合う感じにせず、きちんとやり直す温人。
そんな真摯さに、紅葉は笑う。
「…うん!私も温人くん大好き!」
「だ…っ」
ストレートに言われた言葉にハートを撃ち抜かれる。
激しい鼓動を必死に落ち着かせようと天を仰いだ。
と、その時、少し離れた場所から聞き慣れた声が届いた。
「おぉ…やるな温人」
「か…カッコよかったですね」
温人と紅葉は赤面した状態で勢いよく振り返る。
建物の陰から覗くようにこちらを伺っていたのは海斗と夢菜だ。
「お、お前らいつから…!」
「温人がナンパ男達を撃退したあたり?場合によっちゃあ参戦しようと思ったけど、必要無かったな」
「そう…言われると文句言いづらいじゃんか」
「うはは」
上機嫌に言う海斗を見て、察する温人。
『さてはそっちも上手くいったな?』
『当然だろう?お前よりだいぶ早くな』
『にゃろう』
『はっはっは』
アイコンタクトでの長い会話も朝飯前だ。
「良かったですね、紅葉ちゃん」
「あ、ありがとう夢ちゃん」
「じ…実はですね、私も…」
「…え!?」
女子達は普通に小声で報告し合う。
その日は無事にカップルが2組誕生した、めでたい日となった。