告白したい温人と海斗
全体的に少女漫画的展開なので苦手な方は回れ右してください。
「あ、温人くん海斗くん、こっちこっち」
そう言って手を振ったのは紅葉。
パーカーに短パン、スニーカーにリュックと少しボーイッシュな動きやすい格好をしているがそれがまた似合っている。
(めちゃくちゃ可愛い…!!)
温人のハートにクリティカルヒット!
「こうやって外で皆んなで遊ぶのは初めてですね。楽しみです」
そう言ってはにかんだ笑顔を作る夢菜は森ガールのようなフワフワした服装だ。
(私服めっちゃ可愛え…!!)
海斗のハートにクリティカルヒット!
今日はゲームではなく、4人で遊園地に遊びに来たのだ。
ゲーム内では4人で散々遊んでいるものの、リアルとなるとまた新鮮味がある。
「遊園地とか子供の時以来だな」
「あー…温人と俺の家族合同で行ったのが最後だっけ?」
「そっか。温人くん達って家族ぐるみで仲が良いもんね」
「2家族みんなでって楽しそうですね」
そんな会話を交わしつつ入場する4人はそれぞれとてもソワソワしていた。
まだ付き合ってはいないものの、温人と紅葉、海斗と夢菜でお互い両思いだ。
ゲームの時と違い
『これってデートになるのでは!?』
と全員が心の中で思っていた。
「とりあえずどこに行こっか」
「結構色々あるな」
紅葉がパンフレットを開き温人が覗き込む。
続けて海斗と夢菜も覗き込んだ。
「急流トロッコにしようぜ急流トロッコw」
「今の時期だとまだ水被ったら寒いですよw」
因みに今は春休み中である。
「とりあえず近くにあるし、あれにするか?」
「そうね」
そう温人と紅葉で話し、みんなで空中ブランコに向かった。
因みに、温人と海斗はある徒党を組んでいた。
紅葉達に出会ったのが秋。
そして今は春。
つまりは何事も無く半年が経過してしまったのだ。
このメンツで遊ぶのも定番と化していてそれも楽しいが、やはりもう一歩先に進みたい。
そうして組んだのが【今日こそ告白しよう!】をスローガンに掲げた徒党だ。
『わかってるな?』
『おう』
空中ブランコで回転しながら、海斗がアイコンタクトを送りそれに温人もアイコンタクトで応える。
「きゃーっ」
「ひゃわ〜!」
そんなやり取りをしている事などつゆ知らず、紅葉と夢菜は純粋に楽しんでいた。
「次はジェットコースターとかどうだ?」
「良いですね」
海斗の提案に夢菜が賛同し、今度はジェットコースターの方へ向かう4人。
((よし!))
そして向かう中、さり気なく男女ペアになるように歩き列に並ぶ温人と海斗。
(あ、温人くんと…なんだ。嬉しい)
(かかか海斗さんが隣に…!!)
女子2人も心の内で歓喜する。
緊張している男子2人はそれに気付ける余裕などない。
「紅葉はジェットコースターとか平気?」
「うん、絶叫系は好きかな。温人くんは?」
「苦手って程ではないけど、そんな得意ではないかな…」
「そうなの?じゃあいっぱい連れ回しちゃお」
「オイ」
緊張を誤魔化すようにする温人と紅葉の会話は側から見れば自然である。
(紅葉ちゃんスゴい…私も何とか!)
「かっ海斗さん…っ」
「ん?」
「…き…今日も眼鏡が似合ってますね…」
「んん!?あ、ありがとう?」
(私は一体何を言ってるのー!!)
夢菜心の中で絶叫。
「あ、もしかして絶叫系苦手で緊張してる?」
「はっ、はい!実はそうで…!」
実際はそうでもないが便乗する夢菜。
「似合ってるって言ってくれたの嬉しいけど、お互い風で飛ばないよう外した方が良いかもな」
「あっ、そうですね!」
慌てて夢菜が眼鏡を外し、海斗も続けて外しケースに仕舞う。
そうこうしている間に順番が回り、4人ともコースターに乗り込んだ。
「うわ、ヤバい緊張してきた」
「フフ、温人くんその割にワクワクしてない?」
「バレたか。緊張半分期待半分って感じだ」
「案外平気なんじゃない」
終始楽しそうに話す2人。
それを後ろから見ながら海斗と夢菜も後に続こうと試みる。
「夢菜ちゃん大丈夫そう?」
「はっはい!眼鏡外したらボヤけてよく見えないので平気になったかもです!」
「はは、普通見えない方が怖くないか?」
「そ、そうですかね?」
実は景色ではなく海斗の顔がハッキリ見えなくなった分緊張感が減ったとは言えない。
なんとか会話らしくなってきた辺りでコースターは頂上に達し、それ以降は勿論会話できる状態ではなかった。
ゴールに到着し、ようやくまともな会話となる。
「楽しかったぁ〜」
「紅葉本当に好きなんだな」
「うん!また乗りたい!」
「おぉ…良いけど連続は勘弁」
「え〜」
正直もうカップルにしか見えない温人と紅葉。
眼鏡を掛け直しながらそんな2人に続いてコースターから降りた海斗と夢菜は自然に顔を寄せる。
「あの2人…すごい良い感じじゃね?」
「ほ、本当ですね」
「せっかくだからさ、2人きりにしてやらない?」
相手の為のように言っているが本当は自分が2人きりになりたいだけである。
「良いですね!そうしましょう!」
無論夢菜も自分が2人になりたいだけである。
「次どうする?」
「バイキングにしようよ」
「結局絶叫系じゃんw良いけど」
そう話す温人と紅葉の会話に海斗が割って入る。
「あー悪い。俺と夢菜ちゃんあんまり続けてだとキツイから2人で行ってきてくれる?」
「あの、その間別のアトラクションで遊んでますので」
((!))
その2人の提案でここからは本当のデートになると察した温人と紅葉。
「そ、そう?良いの?」
「じゃあ、一旦別行動な」
もちろん反対する訳がなく、すんなりと別行動が決定した。
『ナイス海斗!』
『おうよ!上手くやれよ?』
『お互いにな』
2人にとってアイコンタクトでの会話など朝飯前だ。
海斗は小声で夢菜に話しかける。
「とりあえず、出来るだけ遠くのアトラクション行こうか」
「そ、そうですね」
了承し移動を開始する2人。
(よし、取り敢えず二人きりになるのは成功!)
(わわぁ〜海斗さんとリアルで二人きりになるなんて初めて…!)
普段は二人きりになったとしてもゲーム内での話だ。
現実世界でとなると心持ちが全然違う。
((できればこのまま急接近したい!手とか繋ぎたい!))
この2人の心は下心で満ちている。
そんな2人の目についたのは、当然と言えば当然のお化け屋敷だ。
((あそこなら自然にくっつけそう!))
同じ思考回路である。
「えっと…絶叫系以外も行きたいし、お化け屋敷とかどう?」
「そ、そうですね!色んな種類行きたいですし」
「怖いのとか大丈夫?」
「へ…ちょっと苦手〜、ですね」
危うく平気と言いそうになった夢菜は軌道修正した。
『っしゃ!!』と海斗が心の中でガッツポーズを取ったのもセットだ。
「もし怖かったらくっついても良いから」
「あ、ありがとうございます!」
(やったぁ許可も貰えた!)
好きな相手からの素敵すぎる提案に心の中で大喜びする夢菜。
違う意味でドキドキしつつ、2人はお化け屋敷へと突入した。
「廃校設定の建物…か。結構本格的だな」
「夜の学校とか不気味ですもんね」
慎重に歩を進める2人。
「うおっ」
時折ガタッと音がする度に、海斗だけがビクリとする。
夢菜は全く驚けないタイプだ。
それ故に悩んでいた。
(ど…どのタイミングでくっつけば良いのか分からない。演技だって気付かれたら引かれちゃうかもしれないし…)
何かが出てきた時にでも驚いたフリをすれば良いんだろうが、タイミングがずれたら違和感があるだろう。
たが、ここでチャンスが訪れる。
(あ、理科室。人体模型とか出てきそう)
ガタンッ ダダダダ!
(やっぱり)
なんて反応をする夢菜の横で、海斗が本気で驚いた。
「うわっ!」
「ひゃう!?」
夢菜ではなく、海斗の方が驚きのあまり抱きついた。
海斗は直ぐに我に返りビックリする夢菜から慌てて離れる。
「ご、ごめん!つい!」
「いいいいえ!」
夢菜は混乱と共に狂喜乱舞状態だが、海斗は頭を抱えた。
(あぁあーっ!俺が抱きついてどうすんだ!!ダサ過ぎんだろ…!!)
平気なフリをしようとしてたがビビるものはビビる。
格好つけられず凹む海斗。
(あれ、もしかして海斗さん落ち込んでる?そ、それなら…えいっ)
「え!?」
夢菜は思い切って海斗の腕にしがみついた。
驚きと共に海斗のボルテージが一気に上がる。
「その…こうしてればお互い少しは怖さも減るかなと、思いまして…」
「ああ最高だ。今ならゾンビが出てきても倒せそうだ」
腕に当たるふわりとした感触によって不思議な事に(?)恐怖心など消え失せた海斗は無敵状態に。
軽やかな足取りで歩を進める。
(こ、これなら少しは意識してくれるかな?)
そう思いながら更に強くしがみつく夢菜。
実際は意識どころのレベルでは無いが、相手は自分を良くて友達くらいに見てると思っているので必死だ。
(や、やべぇ。保て俺の理性…!)
因みに海斗も必死だ。
そんなこんなしていると、あっという間に出口付近に辿り着いてしまった。
(もう出口…外に出てまでくっついてたらおかしいよね…)
堂々と海斗に密着でき喜んでいた夢菜は名残惜しげにゆっくりと手を離す。
だが、その手を今度は海斗が掴んだ。
「ダメ。離れないで」
「え?え?」
手を掴まれた事と言われたセリフに真っ赤になって大混乱する夢菜。
『よし行け俺!』と海斗は自分を鼓舞する。
「そのまま俺のそばにいて。夢菜ちゃんに、俺の彼女になって欲しい」
「…!!!」
夢菜は驚き過ぎてこれは現実なのかと疑った。
海斗と付き合えたらなと妄想してはいたが、本当にそれが叶うかと言えば自信が無かったからだ。
じわりと涙が滲んでくる。
「は…は、はいぃっ…!私で良ければ…!!」
喜びの涙を堪えながら、必死に首を縦に振った。
その返事を聞き、海斗の力が抜ける。
「やっっ…たぁ…ぁぁ」
「海斗さん!?」
ヘナヘナとその場に膝を付いて四つん這いのような状態になる海斗。
夢菜の手だけは離してないが。
「や、ごめん。嬉しい。断られたらどうしようかと思った」
「そんな事あり得ません!」
「もぉ〜〜!何それもぉ〜〜!」
「?? 取り敢えず、後ろの人来ちゃうかもしれないから出ましょう?」
自分の言葉が海斗のハートに打撃を与えたとは気付かず提案する夢菜。
渋々立ち上がり、夢菜の顔をジッと見る海斗。
「…呼び方、変えて い?」
「え?」
そっと夢菜の耳に口を寄せる。
「夢菜」
「〜〜!!!!」
呼び捨てにされ、夢菜の顔が爆発する。
その顔を見てニヨニヨする海斗。
「はっ、早く出ましょう!!」
「はははっ」
逃げるように外へ飛び出す夢菜。
けれど、それでも繋がれた手を離す事だけはなかった。