人間に恋をした
出てきた妲己様は、とても美しい見た目をしていた。
黒髪で儚げな、絶世の美女。キツネ耳がついていて、目には赤いアイシャドウが。
『すっごい美人で草』
『じゅんぺーと同じくらい美人』
『性格も考えるなら妲己のほうが百倍美人』
とコメント欄も美人だっていう声がわいている。
「どうした? 私の顔に何かついておるか?」
「いえ……。すごい美人だなと」
「魅了されてしまったか? 無理もない。私は昔この美貌で国を傾けたこともあるのでな……」
そういえばそういう話が現実にもあったな。
傾国の美女。国を傾けたという美女ならば国に追われて、人間を恨んでいてもおかしくないとは思うのだが……。
「妲己様って人間をなぜ恨まないんですか?」
「それうちも気になるのにゃ。人間に追いやられたんだよね?? だったら人間恨んでもしょーがにゃいとおもうのにゃ」
「私が人間を好きな理由か? 聞きたいならば聞かせようぞ」
「聞きたいです」
「聞きたい!」
というので、妲己様は再び座り、昔話をしてやるといって私たちを座らせた。
「もともとは私も人間を恨んでいたのじゃ。それも、相当な」
「ですよね。国を傾けて人間に迫害されないわけがない」
「そう。王を篭絡し、私はその王とともに国を追われ、王は私を道連れに自害しようとしてきたのじゃ。あの時の人間は私に怒りの感情を向けておったのじゃ」
妲己様は人間に恨みを持つあまり、偉い人を篭絡し、国を亡ぼしたり内戦を起こさせたりしたらしい。人間なんて滅びればよいと思っていたとか。
そっからよく人間を好きになれたな。
「悪いことばかりなのにゃ……」
「反省しておる……」
「で、人間が好きになったきっかけは?」
「理由は簡単じゃ。人間に本気で恋をした」
と、妲己様は語る。
ある時代にある男の人に本気で恋をしたらしい。だがしかし、その男は妲己様の美貌にもなびかず、ただただ強さを求めていたという。
妲己様の恋は実らなかった。が、人間に恋をした事実が妲己様を改心させるきっかけにもなったのだとか。
「それからというもの、人間を恨むのはやめたのじゃ。そして、もともとは一つであった妖界と魔界を分離させた。もともとは妖魔界っていう名前だったのじゃ」
「で、妖界のほうには人間を好む善良な妖怪ばかり集めたと」
「そうじゃ。魔界は先も言った通り人間を憎むものばかり。あっちの長も私と同じキツネの妖怪なのじゃ」
「……玉藻前?」
「よく知っておるな」
やはりか。
キツネの妖怪で有名なのってそれぐらいだ。
「キツネの妖怪はその玉藻前と私しかおらぬ。九尾であるおぬしが珍しいのじゃ。じゃから……私以外のキツネの妖怪に会ったら逃げるがよい。私のところに逃げてきてもよい」
「キツネには注意しろってことね……」
出くわさないように祈るばかりだ。
「では! 妖界を案内してやろうぞ。ミケ、じゅんぺー、ついてくるがよい」
「お願いしまーす!」
「妲己様と歩けるなんていい気分にゃ!」




