妖界と魔界
妖怪の世界にも天守というのは存在し、ここに女王様がいるらしい。
猫又とともに城に入り、私は女王様と面会することになった。畳が敷かれた屋内の奥にはすだれがかけられており、うっすらとその奥に誰かがいる様子が見える。
「ふむ、外からの来客のようじゃの……。ミケよ。そなたが連れてきたのか?」
「そうにゃ! 興味津々だったから!」
「ふふ。妖怪なんて珍しい存在ではなかろうに。まあよいじゃろう。楽にするがよい」
というので私はとりあえず座ることにした。
ミケも胡坐をかいて座り始めた。
「私は妲己……。この妖界を治めるものじゃ。元人間であるお前さんに、妖怪についての説明は必要かい?」
「頼みます」
「いいじゃろう。まず、妖怪には二種類おるのじゃ」
二種類?
「人間と仲良くしようとするもの……。人間を憎み、恨むもの。この二種類がおる。この世界には人間と仲良くしようとするものしかおらん。じゃが……もう一つ、魔界という世界には人間を憎む、恨む妖怪しかおらぬ。同じ妖怪であれば攻撃される心配はないが……。やつらは人間を時折さらっているらしいのじゃ」
へぇ。
この説明を聞くと、ミケや妲己様は人間に友好的なほうらしい。もう一つの魔界には人間を恨むものばかり……。
妖怪はもしかしたら人間の味方であり、敵でもあるという立ち位置なのかな。
「私たちは人間に悪意などない……。この世界の住人は人間を好いておる。心配などないから安心するがよいぞ」
「ならいいんですけど」
この世界で襲われないのならいいかな。
妖怪の存在があるってわかっただけでも結構いい情報だしね。
「じゃが、不思議じゃな。この世界に来て、妖怪になるとは……。この世界の妖力がお前さんの種族を変えたのやもしれんな。なにせ、人間をこちらに連れてくるのは初めてじゃから」
「でもでもぉ、魔界に連れてかれてる人は変化してにゃいよ? あっちも同じくらい妖力あるにゃ」
「ふむ。もしかすると双方の合意が必要なのかもしれぬ。あちらは強制的に連れていかれる感じじゃが……。貴殿はミケに招かれる形で同意してついてきたのじゃから。妖怪に好意をもって招かれると変化するのかもしれぬ。そこはまだ謎だらけじゃな」
妲己は何か考えるような仕草をしていた。
『これ、場所は俺たち分かったけど種族変化できないパターンか?』
『妖怪に招かれる必要があるのかよ』
『そういう妖怪と出会うしかないようだな……』
コメント欄は妖怪についての話になっていた。
「ま、そこはいい。この世界を存分に楽しむがよい。九尾であるお前さんはいい種族になったの。ふふ。私と同じキツネじゃ」
「妲己様もやっぱ狐なんですね」
「尻尾は一尾しかないがの。じゃが、キツネの妖怪はこの世界には私しかおらぬ。久しぶりに同族を見た」
と、少し声が高くなっていた。うれしいのだろうか。
「よし、気分がいい。私が直々にこの世界を案内してやろう。ふふ、光栄に思うがよいぞ!」
と、すだれを開けて、妲己様が出てきたのだった。




