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二人のプロポーズ ②

 窓の外には夜景が。

 

「アンティパストのサーモンのカルパッチョでございます」


 フルコースの前菜料理アンティパストが運ばれてくる。

 サーモンのカルパッチョのようだ。私は一口食べてみる。うまい。カルパッチョは何度か作ったことはあるけど、ここまでうまくはできないな。

 味で何使ってるか少し研究してみよう。酒のつまみになりそうだ。


 私たちは黙々と食べ進める。

 第一の皿プリモ・ピアット第二の皿セコンド・ピアットが運ばれてくる。が、一向に告白される気配がない。

 あれ、私の勘違い? だとすると相当恥ずかしいが。


「…………」


 私から言い出したほうがいいのだろうか。指輪とか用意してないけど。

 思い返してみりゃ、私は受け身なんだよな。マゾヒストだからだろうか……。最初に告白したのもあっちだし、今告白しようとしてるのもあっちだ。

 私って攻めれねぇー。


「このままだとコース料理も終わっちゃうな……」


 私は小声でつぶやいてみる。


「……じゅんぺー」

「はいはい」

「……その、なんだ。僕の口から言うのは相当もどかしいし、恥ずかしいが」

「はいはい」

「その、なんだ。あー」


 と、少し照れている。

 周りの人たちはなんかこの席に視線を寄越していた。カップルに見られていて、告白する場面を見ているからだろう。

 じれったそうにしている紳士の人もいる。


「結婚してくれ、瀬野」

「お嬢ちゃんが言うのかいっ!」


 と、なんか周りからつっこまれた。


「へ、あ?」

「よく考えてみりゃ私から告白なんてしたことないよな。瀬野からだったし。このままだと私は受け身しかしてないことになる。そういうのってなんかヤダ。そっちからの愛はホンモノなのに、私の愛はただただニセモノって気がして気が気じゃない」


 告白はするほうがいい。

 ちゃんと好きだと言葉ではっきり表して、ちゃんと伝える。そうしないと、片方の愛はニセモノだと捉えられてしまうかもしれない。

 だからこそ、私から今度は告白するべきだったのだ……。


「指輪も何も用意していない。実は告白するんじゃないかって察知したのが今日だからさ。なんも用意できなかった。けど、私の愛はホンモノだよ」

「じゅんぺー……」


 瀬野はすっとポケットから指輪を取り出した。


「敵わないな」

「すげー、ダイヤモンドの指輪だ……」


 瀬野はダイヤモンドがあしらわれた婚約指輪を用意していたようだった。私は左手を差し出す。


「瀬野……。いや、和人さん。よろしく頼むよ」

「あ、ああ」


 私の左手の薬指に、指輪がはめられていく。

 私の指のサイズピッタリだな。私はあしらわれたダイヤモンドを見る。


「きれいだね」

「そう、だな」


 透き通るようなダイヤモンドの透明感。

 未来はこんなにも明るいのだということを表しているのだろうか。このダイヤモンドは砕けないだろうな……。


「で、告白の返事は?」

「えっ?」

「答えを聞いていない」


 私の名前を呼ぶばかりだった。

 ここは、ちゃんと受け入れるかどうかの答えを出してもらいたい。そうじゃないと私は納得できない。周りの人たちもそうだろう。


「……これからも、よろしく頼む」

「ああ」


 お互い、一礼すると周りから拍手が舞い上がる。


「おめでとう!」

「初々しくていいですな……。大人になっても青春とは甘酸っぱいもの……」

「私たちも負けないように仲良く過ごしていきましょうね」


 祝福の声があふれ出す。

 

「こちらあちらのお客様からです」


 私はそういって指さされたほうを見ると、穏やかそうな老紳士が手を振っていた。


「え、こんなワインいいんですか?」

「構わん構わん。二人の結婚生活に幸あれ! この歳になってこんな甘酸っぱいもの見せてくれたからお礼の気持ちだよ。ありがとう」

「いえ……こちらこそ」

「まぁ、お礼がしたいというのならサインをもらえないかな? 孫が君のことをよく呟くんだ」

「それぐらいいいですよ……。私のことわかるんですか?」

「ネットで活動しているじゅんぺーくんだろう? 有名だからわかるよ。この紙に巽 司ちゃんへと書いてほしい」


 巽 司……。男っぽい名前だな。

 まぁ、サインならお安い御用だ。


「えと、サインです」

「ありがとう」


 老紳士は笑って再びワインを飲み始めたのだった。

 私も席に座り、ワインを飲んでみる。あ、美味しい。










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黒猫は眠らない
新作です。VRMMOものです。
読んでもらえると嬉しいです。
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