黄金を手放せない
言い忘れていましたが最終章です。
金塊を運ぶという使命を受けた。
これを持っていると強制的にNPCがこちらを狙ってくるのだという。ヒステリアも何度か持っていこうと試みたものの、NPCと会った瞬間に親の仇のように狙われたということで引きこもっていたようだ。
この黄金……しまうことはできないようで、肌身離さずこの手で持っておくしかないようで。
「しょうがないか……。キンシ! 空から攻めるぞ」
キンシを呼び出して空を飛ぶことにした。
魔物には黄金の呪いが効かないとヒステリアが言っていた。魔物には黄金の価値なんてなく、価値がわからない、価値がないと感じるものには呪いが効かないという仮説。
価値があるからこそ欲が刺激され、欲が刺激されるからこそ争いが起きる。
「クルック―」
私はキンシの背にまたがり、烏兎池を目指す。
キンシで優雅に空を飛びながら向かっていると、突然私の頭上に影が下りる。私は上を見上げると大きな鳥が私を狙っているように感じた。
大きな鳥の視線は黄金に剥いている感じがする……。
ああ、そうだ。
烏だって光物を狙うじゃないですか。となるとこの黄金も欲しがっているだろう……。
「そりゃ馬鹿じゃないよな運営も。空も対策してるはずだ」
考えてなかったぜ……。
馬鹿でかい烏は黄金の煌めきに魅了され、その大きなかぎづめで攻撃を仕掛けてきたのだった。キンシを降下させ、地面に飛び降りてキンシを戻す。
私は全力で走りだした。クソ、地道に歩いていくしかないか……。見つからずに逃げ切りながらも烏兎池を目指すしかない。
人々はまだ争っている。黄金は私のものだという声も聞こえてくる。黄金の厄災は世界をも終わらせる……。人間ってのは欲望の塊だな……。わかってはいたことなんだけどな。
ただ、この呪いはプレイヤーには効かないんじゃないか? 私も効いてないし。
「プレイヤーの協力者がいればいいんだけど」
「となると彼氏である僕の出番だろう」
「私もいるよ」
と、目の前に現れたのはゼノ、サンキチ。
「え、なんで二人がここに?」
「キンシってやつが見えたから走ってきたのよ。ちょうど近くにいたし」
「僕はこの戦争の光景をスクショしていたのだよ。ネタにもなるからね。ずいぶんと大変なことになっているようだね。僕たちの責務は君の保護だろう?」
「とりあえず移動しないと。人が来るわ」
私は運がいいな。二人と今出会えるとは。
「どこまでいけばいい? 僕の予想だとその黄金がこの争いの元凶だろう? 黄金というのははるか昔から争いの種だからな……。使い古されたネタだが、争いの元凶となる理由には十二分にあるといえるだろう」
「正解。これを烏兎池に」
「了解だ」
私たちは歩き出そうとして、私はフレンド欄を見て足を止める。
「おいサンキチ」
「なによ」
「お前……誰だ?」
私が見たフレンド欄。ゼノはオンライン状態になっているが……。サンキチはオフライン。つまりログインしていない。
このサンキチはニセモノだ。となると……誰かが変装しているのだろう。
「タイミングよくいたのを疑問に持ってよかったぜ。サンキチじゃないだろ。なんとなくそんな気はしてたんだよ。私の友達に変装するとはねぇ」
「……チッ」
そういって、サンキチの姿が変貌していく。
そこに現れたのは黄金の体をもった魔人だった。黄金の魔人と名付けたその魔物が目の前に立ちふさがっていたのだった。
「オトナシク……黄金を寄越せばよかったモノノ……」
「ゼノ。本物だよな?」
「さすがに僕は本物だ! 僕は本当に偶然いたのだよ。運命というものであるならば幸運だねぇ」
「そうかい。さっさと逃げるよ。この黄金を抱えたままじゃ私は戦闘するのは厳しいぜ」
黄金を手放してしまえば盗られるだろう。手放して戦うわけにもいかず、双剣、刀はともに両手でなければ戦えない。
となると、ここは……。
「全力で逃げるしかない」
逃げるんだよォ!




