死ぬときは一緒っす
残り時間はあと1時間。
私はまだ捕まらずに逃げきれていた。
鬼の様子を見ると、残り1時間ともなってきてようやく焦りの色が浮かんできたようだ。早く見つけて捕まえないとという気持ちが見て取れる。
今回はガチで勝ちに行くって言ったしな……。わざと捕まりに行くなんて真似はしたくないし、捕まったら解放してくれる優しいやつがいるなんて思えない。
今回のイベントは自分一人が逃げ切ればいいだけだからな。危険を冒してまで解放しに行く理由はおそこまでない。
解放する理由はただ、人を多くして自分が捕まる確率を少しでも減らすためだけだ。本来はそれ以外に開放す理由はないし、それでも鬼に捕まるリスクを冒してまで解放しに行くかは疑問。
本来プレイするならば、人助け以外に開放する理由は全くと言っていいほどない。人数が多いほど有利になるわけではないし、リスクマネジメントを考えると解放しに行くより逃げていたほうがリスクが低い。
これ解放できるって言ったのもこういうことなんだろうな。
わざわざ解放しに向かうリスクがないからな。鬼に対しては見張ってなきゃいけないというデメリットはある。
鬼の人員がそちらにも割かれることは逃走者にとっては少しうれしいが誤差の範囲だ。
「うひぃ~、鬼近いっす……」
「あまり気配を悟らせるなよ。この距離じゃ逃げ切れん」
私は気配を隠しながら物陰に隠れつつ、鬼の様子を見張る。
鬼ももちろん物陰を見て回っている。くまなく探しているようだが、探し物は得意じゃなさそうでよかった。
気配を溶け込ませば、見つかる可能性は低いだろう。極力存在感をなくすように……。
『この変態まじでなんでもできるな』
『そういやさっき公式チャンネルの配信でじゅんぺーの場所ばらされてたな』
『そういうのはダメって公式言ってなかった?』
『アンチがやったんだと思う』
マジか。
となると話が変わってくるな。もちろん、そのコメントを見て来るのは叩かれる可能性もあるが、場所は割れてしまっている。
だからこんな鬼が多く感じるのか。なるほど。
「場所われてるんなら早く移動したほうがいいな……」
「どうするんすか? この鬼の量でかいくぐる真似ができるんすか?」
「できなくもない。けど……仕方ないか。コガラシ」
私はコガラシの肩をつかむ。
「お、囮になれってことっすか!?」
「違う。別々行動しよう。コガラシが私と一緒に行動したらリスクのほうが高い。私は配信して常に居場所を知らせてるようなもんだし、逃げ切る可能性を高めるなら私と行動しないほうがいい」
「え……」
「ついてくるならきてもいいけど、捕まるリスクも高いからな」
私はそう忠告し、鬼の目をかいくぐるように姿勢を低くして茂みを進んでいく。もちろん警戒は解かない。
私はゆっくり進んでいると。
「死ぬときは一緒っすよ。一緒に誘拐された仲じゃないっすか」
「ついてくるか」
「はい! じゅんぺーさんがガチで勝ちにいくならいたほうがいいっすよね? 最悪自分を囮にしてくださいっす!」
「それは無理かなぁ」
私ならともかく、ほかの奴を囮にはまず無理だ。
だがまぁ……道連れができたことは嬉しい限りだが。私は物陰を進み、鬼の目をかいくぐりながら逃げていく。
「ほんとに私の居場所をチクるなんて真似はやめてほしいなぁ。まだ曖昧な場所だったからよかったけど場所を細かく言われたら逃げ切れん」
『ほんそれ』
『難易度急に高くなったな』
『人が一番怖いんだよね』
配信してるほうも悪いんだけどねぇ。
 




