現実でもけりを
東京都内にある喫茶店。
私はカフェラテを注文する。レタスサンドも注文して、待っているとカランコロンという優しい鈴の音が店内に鳴り響く。
「あ、あのー……」
「来たね」
今日は待ち合わせだった。
あのニセモノじゅんぺいと。じゅんぺいは髪を金色に染めており、なんていうか、ギャルという印象が強い女の子だった。
今を生きる若者って感じ。私とは似ても似つかない。
「ま、座りなよ。なんか飲む?」
「か、カプチーノを……」
「おっけー。店員さーん、カプチーノ追加でー!」
メニュー表を閉じる。
少しの間、沈黙が流れた。そして、ものすごい勢いで頭を下げるじゅんぺい。
「すいませんした!」
「うんうん。謝ってくれて嬉しいよ」
現実でも一応話をつけることにした。
今までのことは全部認め、偽物として活動していたこともすべて認めた。法的措置は今のところ取るつもりはないが……。ま、一応こういう形式で謝罪というのも大事だからね。
「それで、なんで私のニセモノとして活動してたの? 見たところ声質は若干似てるかもしれないけど容姿は似てないよね?」
「わ、私、承認欲求が強くて! たくさん動画を投稿しても伸びなくて、有名人に似せたら間違えてでも見てくれるんじゃないかと思ったけど見てくれなくて、炎上商法で有名になろうとして……」
「これYeyTubeの闇だろもう」
伸び悩んで、いいねがほしい。
いいねがほしいが見てもらえない。
見てもらえないならどうするか。炎上するようなことをすれば嫌でも目についちゃうよな。炎上商法の利点はまず否が応でも見てもらえることだ。
こればかりは私の口から説教しても皮肉としかならないだろうな。
「まぁ……動画を見てもらえるのは時の運だからね。真新しくて面白い企画ほどバズるかもしれないけど……。そういうのって難しいしね」
「…………あ、あの、訴えたり、とかは」
「しないよ。反省してるならしない。もとより言ったでしょ。私は真似される分はいいんだよ。面白おかしく真似するならウェルカムさ。君は炎上商法してたでしょ。それが嫌だったんだよ。私に似てる名前を使って炎上商法して、ぶっちぎりで炎上したら名前がそっくりな私にだって飛び火するんだよ? 世の中じゃ同姓同名で勘違いされて攻撃されるってのもあるからね」
正義感ぶって人を攻撃したい輩も一定数は存在するわけで。
そういうのって超うざいからねぇ。
「まぁ、今後そういうことはしないっていうならいいんだよ。今度一緒に動画撮ろうねっていう話にはなるよ。承認欲求を満たしたいという気持ち自体は悪くないしね」
「……はい」
「昨日、謝罪動画もあげてくれたみたいだし、私のリプとかにも仲直りしたんですかとか聞いてくる人もいるし、そろそろ私も動画で君について触れなくちゃならないんだよね。だからまぁ、和解のあかしとしてツーショット撮ろうか」
「えっ、い、いいんですか?」
「いいのいいの。ちょっと店員さんに写真お願いするからさ。アへ顔ダブルピースで……」
「いや、それはさすがに……」
「えっ」
「そのポーズってどこかのエロ漫画みたいで……」
エロを否定するな!
だがしかし、たしかにわかる。最近、中学生とかの視聴者のコメントもあるんだよね……。私って相当変態だから教育に悪いのにねぇ。
くっ、こっちが教育に屈しなければならないのか……。それもそれで押さえつけられてるようで興奮するが。
「じゃ、ピースしようかピース。可愛くキメちゃおっ」
「は、はい」
私はカプチーノとカフェラテを運んできた女店員さんにスマホを渡し、カメラで写真撮ってもらった。
「あ、あの、じゅんぺーさん。ふぁ、ファンです……」
「おお、そうなの? ありがとう」
「わ、私ともツーショお願いしてもいいですか!?」
「構わないよ」
「アへ顔ダブルピースでいいですか!?」
「おま……!」
わかってる。




