あけま死ておめでとう
あけましておめでと死は芸術的なものにしたい。それこそピタゴラスイッチのような感じで死にたいが、そこまでは望めないだろう。高望みってものだ。
格上に挑んで負ける……。それもそれで美しいが、なんか違う。
「私が望むのは無様に死ぬことだけなのに……! どうやって芸術点を高くしようか……!」
『無理に死ななくてもいいよ』
『俺らが望むのは君が生きていることだけさ……!』
「死ぬと決めた以上曲げられない。そこで曲がったら……一族の恥さらしだろうがぁ!」
『すでに恥さらしてる定期』
『お前のその性癖がすでに恥さらし定期』
どうやって死ぬ?
「ああ、じゃあ、新年になったとき地球にいなかったごっこだな!」
あれはジャンプしていなかった~とのたまうものだが、その逆。落下して地面に落ちて新年を迎えよう。
私の体力と落下ダメージを計算してみよう。高ければ高くなるほど落下ダメージが大きくなる。落下ダメージの計算は落下距離と私自身のHPと防御力を参照して計算される。あと落ちてきた時の体勢とかもあるが。いろいろ計算がややこしいんだよな。
で、私が計算するのは手を広げて体の真正面から落ちた時に死ぬ高度。装備をしていない分の防御力はないが、種族のせいで防御はそこそこあるほうだ。
「落下距離をXとして……」
私は脳内で地道に計算していく。
今求めるべきは落下距離。答えの値は私のHP。HPぴったりになるか超えれば私は死ぬ。
『真剣な表情はすごい美人なんだけどな』
『計算してる内容が多分自分が死ぬ高度だな……』
『真剣な表情で自殺を考える女』
『いじめられてるわけでも炎上してたたかれてるわけでもないのに死のうとする女』
『¥50,000 どしたん?話聞こか?』
計算の答えが出た。
「ぱーちくさんありがとう! ざっと高さ590mくらいかな? キンシ!」
私はキンシを呼び出した。
時間的に、新年を迎えると同時に死ぬには今上がらないとだめだ。私はキンシの背中に乗り、空に上昇していく。
そして、目測590mくらいは上っただろうか。ものすごく高い。私はキンシに帰っていいよと告げて、飛び降りた。
「クルゥ!?」
『キンシちゃん戸惑ってるよ……』
『助けていいのか悩んでる』
「今は助けなくていいよキンシ!」
「クルゥ……」
ああ、いいね。この風。
そろそろ新年を迎える時間だ。私は地面に背中を向けたまま落下していく。今思えば、今年はいろんなことがあったな。
「今年はいろんなことがあった……」
『走馬灯かな?』
『この状況で今年を振り返るなんて走馬灯でも見てるんか?』
振り返ってみるとものすごく不運な年だったな。
「妹に刺されたり、個人的な因縁で炎上させられたり、誘拐されたり、雇った女子高生の一人が大病にかかっちゃったり。ついてない一年だった」
『普通はそこまでねえよ』
『妹に刺されたり←ない』
『全部マジなのが怖えよ』
「でも……」
いいことだってもちろんあった。
「今年はいろんな人に出会えた。私自身の個人的な出会いもあった」
禍福は糾える縄の如し。
いいことがあった次は悪いことがある。その逆もしかり。
「来年もまた元気で配信したいねぇ。そろそろ新年、あーんど地面だ。新年を地面で迎える。なんかギャグっぽい!」
『いいやつだったよ……』
『あと少し!』
私は目をつむり、その時を待つ。
そして。
「新年、あけましておめで――」