漫画と痴漢
会社を案内してもらっていた。
プログラミング部門、デバッグ部門などさまざまな部署があり、それぞれがものすごい熱意を持っている。デバッグ部門はプレイヤーから寄せられたバグを検証している最中らしく、ヘッドギアをかぶった人が何人もいた。
「という風にしたいんですよね……」
「ああ、わかりました」
と、なんだか聞いたことがある声がする。
この第一会議室という会議室からだ。私はその会議室ではなにをしているのかというと、ファンタジーフロンティアのコミカライズを出そうとしているらしい。オリジナル主人公がゲームで遊ぶ話のようだ。
その話を今漫画家の先生と煮詰めているところだという。私は覗いてみた。
「あれ、瀬野?」
「じゅんぺー?」
まさかの瀬野和人。たしかに漫画家だけど週刊で連載とってるやつ。
「じゅんぺーなんでこんなところにいるんだ?」
「依頼があって話に来てたんだけど……。瀬野はコミカライズの? 週刊持っててきつくない?」
「ふん。それは僕が並大抵の漫画家だったらの話だろう。それに、ファンタジーフロンティアが連載されるのは月刊誌だ。何の問題もない」
「ほえー」
瀬野ってすげえなぁ……。
瀬野はそのまま企画の話し合いを続けに入ったので、邪魔しないよう私は会議室を後にしたのだった。
そして、会社の見学も終わり、私はそろそろこの会社をお暇することにした。
私はコートを羽織りマフラーをつけて、会社のエントランスに向かう。
「では、クリスマスの時よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ……。あ、最後に一つだけよろしいでしょうか」
「はい?」
「もちろん私たち自身の公式アカウントでもするのですが、よければそのツイートをリツイートしてもらいたいんです。司会がじゅんぺーさんということも大々的に広報いたしますので」
「いいですよー。了解ですっ」
「ありがとうございます」
「では、電車の時間もそろそろなんで!」
私は駅に走って向かった。
ああ、人生順調! 順調すぎて怖い! って思ってると絶対どこかで転落するんだよな。気を引き締めて、スキャンダルとかにも気を付けていかねば。今スキャンダルとか撮られたらKUJIRaさんにも迷惑がかかるし。なんか、後ろにつけている記者もいるし。
私は改札を通り、キヨスクで飲み物を買って電車に乗り込んだのだった。
そして、カバンを抱え、電車に揺られる。今の時刻は午後四時くらい。早上がりの会社員や下校最中の女子高生たちで電車がいっぱいいっぱいだった。
ぎゅうぎゅうとおしくらまんじゅうのように押される。少し気持ちがいいが、隣がおっさんじゃなかったらまだよかった……。吐息がタバコ臭い。
すると、なんか私のお尻に触られてる感覚があった。
「痴漢がいるな」
私はその手をむんずとつかんでみる。そして、力いっぱい引っ張ると。
「わあああ!? すいませんっす! 誰かのお尻を触っちゃったっす! 痴漢っすか!?」
「璃子ちゃん……?」
「あれ、じゅんぺーさんっすか? じゃあさっきのケツはじゅんぺーさんの?」
「そうそう。奇遇だね。帰り?」
「今日は部活ないので帰りっす! すんません! ケツ触って!」
「大声でケツケツ言わないの。ま、璃子ちゃんならいっか」
あまり痴漢されるのは好きじゃないから。
知ってる人や、ゲームで嬲られるのはいいが、こう、誰も知らない不特定多数の中でこうやってケツ触られるのはあまりいい気分はしない。最近、こういうのに巻き込まれやすいから……。
「なんでケツ触ってたの?」
「えーっとっすね、お恥ずかしながら友人の腕をつかんだものだと思いまして……」
「友達と乗ってるんだ」
「途中駅までっすけどね! この人ごみの中ではぐれたようで……。それでケツを触っちゃったってわけっす」
「なるほど。あるある……のかはわかんないけど気を付けてね。私だからいいけど」
「気を付けるっす……」
「でも女がこうした場合痴漢になるのかな? 男じゃないから痴漢とは呼ばないよね」
「痴女になるんすかね?」
「どうだろ……」
痴漢の逆バージョンはあまり聞いたことないからな。




