熱海旅行 ②
体もすっきりさっぱりリフレッシュして、夜を迎える。
夜はものすごく豪華で、食前酒があって、前菜など和食のフルコースだった。土瓶蒸しとかおいしかったです。
こんな豪華なものを堪能して無料とか事務所が太っ腹すぎる。
「あぁ……。生き返るう」
私は部屋の風呂につかりながら太平洋を眺めていた。
水平線が見える。もうすでに太陽は沈み切っており、月が顔をのぞかせていた。私は気持ちよくとろけていると。
「じゅんぺー……。最近疲れてるよね」
「わかる?」
「この前の配信でもめちゃくちゃ疲れてたよね」
「酒飲み配信のとき?」
「うん。いろいろあったもんね」
たしかに。
誘拐事件やらミツキの病気やらで……。ここ最近、いろいろとせわしなかった気がする。12月の中旬だってのになぜこんな疲れなくちゃならないんだろうかとは思っていた。
さすがのマゾヒストでも疲労はする。疲れたらさすがに何のやる気も出なくなる。
「じゅんぺーって本当に優しいよね」
「そうね。苦労を一人でしょい込もうとするやつよ」
「え、私って二人に優しいって見られてんの?」
「店の改修費用を支払って返さなくていいっていうやつのどこが優しくないってのよ」
「そうそう。3000万なんてぽんって出せる金額じゃないでしょ。普通は貸すのだって躊躇する金額だよ? それを返さなくていいからただで飲み食いさせろっていうのはさすがに釣り合ってないよ」
そういうものなのか。
私は別にお金を使わないでいるのが不憫だからお金を使ってるっていう感覚だったんだが。私自身そこまで出費しないほうだし。
「なんていうか、じゅんぺーって欲そこまでないよね」
「枯れてるわ」
「枯れてるて」
「今の生活に満足してるから、生涯を共にするパートナーはいらないと思ってるでしょ?」
「……まぁ」
実際、二人で生活なんてのはあまり得意じゃない。
家事やなんやらはやってもかまわないが、配信するのが好きなので配信する時間を設けられるのかっていう話になる。
子供ができたら猶更。そう考えると躊躇している面もある。
「じゅんぺー、今本当に幸せ?」
美春がそう問いかけてきた。
幸せだって言いきりたいけど……。ミツキのこと、誘拐のことが頭をよぎる。心労のほうが最近多いので幸せとは言いづらいかもしれない。
「じゅんぺーってマゾヒストではあるけど……。それって痛みを感じてないと生きているっていう実感が持てないからじゃないの?」
「……いきなり本質をついてくるね」
「じゅんぺー。嫌なら怒りなさいよ。美春もこの際だからずかずか聞いてるだけ。人によっては聞かれたくない内容でしょう」
「いや、怒るほどのことじゃないし。それにマゾヒストのルーツ話したろ。アレがすべて。すべてはぼこぼこにされるところから始まった……」
「そこじゃない。ルーツはそこかもしれないけど、最近、そういうことしてないよね?」
「…………」
たしかに。
殴られてもないし罵られてもないし。そういう欲が一切沸いてない気がする。あれ、もしかして私のマゾヒストパワー枯れはてた?
「なんてことだ……。最近暴力を受けてないなんてマゾヒストとして失格ではないか……」
「落ち込むとこそこ? 普通の人に近づいたって言おうとしたんだけど」
「違う! 最近、心労とかがあっただけでそういう欲はあるはずなんだ! 確かめるためにも殴ってくれないか!」
「あ、ごめん。ボクの勘違いだったようだ。いつも通りのじゅんぺーだ」
「殴って罵って……。私をもっといじめて……。そうすればいつもの欲が戻るはずなんだっ……! このままじゃ私はマゾヒストじゃなくなってしまう!」
「それは……いいことなんじゃない?」
「よくない! マゾヒストであると素晴らしい! すべて受け身をとっても気持ちいいから……」
「よし、まじめな話終わり! あがろう!」
と、美春とサンキチは風呂から上がっていったのだった。
くっ、確かに最近、忙しくてそういうこと考えてる暇なかった。定期的に殴られないと気が済まない……!




