苦悶でいくもん
苦悶の巣を使うためにはMPが必要。
先ほど隙を作った鋼水の糸もMPを使う。消費MPから考えて糸を放てるのはあと2回くらいだろう。大事に使わなくては。
だが、ま、とりあえず一発放ってみようかな。
「外した」
糸は華麗に躱され、ヴァンピィの追撃も躱される。
どうやら躱して攻撃されるのは学習してしまったらしい。フクロウは賢いからな。となると、残り一発、どうやって当てたらよいのだろうか。
せめて当てる隙を生みたいが……。
まぁ、考えても仕方ない。
私はもう一度放とうとすると。
「おい! 糸を吾輩に向けて撃つのじゃ!」
「ヴァンピィに?」
「叩き落すいい案があるぞい! 吾輩を信じろ!」
「わかった」
私はヴァンピィめがけて糸を出す。
ヴァンピィが糸に絡まり、フクロウに飛び掛かる。そして、ヴァンピィごとぐるぐる巻きになったのだった。
翼すら固定されてしまったキンシは飛ぶことができず、墜落してくる。
「奥の手を使うがよいぞ!」
「ヴァンピィ巻き込まれるけど……」
「吾輩は大丈夫ぞ! さっさとやるのじゃ! こやつ暴れて今にも抜け出しそうじゃ!」
「わかった!」
私は苦悶の巣を発動した。
私の体からあらゆる方向に糸が出て、燃え、電気が流れる。キンシはその糸に触れ、感電し、また、体が燃え盛る。
「キュリィイイイイアアアアアア!」
「あちゃちゃちゃちゃ!!」
「巻き込まれるって言ったからね」
「わかっておる……。ああ、びりびりするのじゃ……。吾輩をもってしてもこの蜘蛛の巣は苦痛じゃ!」
だから苦悶の巣なんだよ。
結構な大技で威力も高い。キンシは逃れようと空を飛ぼうとするが、羽根を広げた瞬間に糸に触れ感電し、羽根を飛ばして切ろうにも攻撃するためには振りかぶらないと行けず、糸に触れて燃える。
雁字搦めになって動けない。蜘蛛の巣の怖いところは誰も逃がさないということだ。
「はぁ……。吾輩はこの巣がなくなるまでじっとするしかないのぅ……」
「キュリィイイイイ!」
「キンシ! とどめだ!」
私は糸をつかみ、近づいていく。
まずは翼を切り裂いた。不惜身命で火力が高くなっている今、一撃一撃が重い。
翼の羽根が地面に落ち、片方の翼は今にもちぎれそうだ。
そして今度は首筋に剣を突き立てる。
「キュリィ……」
《キンシが命乞いをしています》
《テイムできるチャンスです》
《テイムしますか?》
あ、テイムできるんだ。
ならする。
私がすると決断したら、苦悶の巣がなくなり、キンシは落ち着き始めた。私のほうを向いて、頭を下げる。
「クルックー」
「おい、いきなりフクロウになるな」
キンシは翼を広げようとするが、怪我が痛いらしい。
「クルック」
「仲間に引き入れたのか。ま、それもありじゃのぅ。人間を乗せて空を飛べるから移動に便利じゃぞ」
「うん。四人くらいは乗れそうなぐらいだもんな」
「ああ、火傷したわ。じんじん痛む……。奥の手じゃのぅ。じゃが、それはアトラク=ナクアの力ではないか?」
「ん? ああ、アトラク=ナクアは私が吸収したから」
「ほほう! ということは進化した人間ということか! アトラク=ナクアは古代種の中でも獰猛で強いのじゃ。アリスタイオスがいなければ天下を取っていたぐらいにのぅ」
アリスタイオスってそんな強いんだ。
あまり強い印象はなかったけど。むしろキンシのほうが苦戦したレベルだし。
「吾輩もとんでもない人間を食おうとしていたものじゃ。アトラク=ナクアに勝てるような人間に敵うはずもなかろうて」
「勝ったってわけじゃないんだけど」
「どういうことじゃ?」
「いやぁ、私って炎龍の眷属みたいなものでもあってそれにおびえた隙に乗じてテイムしたから」
「ほほう。炎龍の。炎龍はこの大地を作った神みたいなものじゃからのぅ。アトラク=ナクアもさすがに敵わんて。そなた不思議な人間じゃな。興味深い」
ヴァンピィは翼を広げる。
「吾輩はもう行くぞ! 空島には吾輩がおるからの! いつでも遊びに来るがよい!」
「あ、うん。ありがとう!」
「いいってことじゃ! ではのー!」
と、ヴァンピィは去っていく。
私はとりあえずキンシに近寄り、羽根にポーションをぶっかけてみる。
「クルック~~~!!」
と、ポーションをかけたら治ったといわんばかりに羽を広げた。
「そんなに早く治るかっての……」