誘拐
じゅうじゅうと肉が焼ける音。
そして、いいにおいが立ち込める。
「これもういいよな」
「いいんじゃないか?」
私はゼノと一緒に焼き肉屋に来ていた。
イベントから一週間がたち、お互いの日程があいたので今日焼肉することになった。ゼノ……瀬野はここの焼肉屋の常連だということらしい。
チープな感じの焼肉屋で、七輪で肉を焼いて食べる。この店のおすすめはジンギスカンらしい。骨付きカルビとかもとてもうまいのだとか。
『続いてのニュースです。再び、女子高生の行方不明事件が起きました。
二日前に、山野 葵さん、江崎 唐子さんが行方不明になった東京都……』
「物騒だな。ここらへんじゃん」
「そうだな。じゅんぺーも気を付けることだ」
「そうだね」
『警察では誘拐されたものだとみて、捜査を進めているようです』
物騒な世の中だ。
すると、そのニュースが映っていたテレビの下でものすごく焦ったような感じの男性と女性陣がいる。
その集団を不思議に眺めつつ、ご飯を食べ進めていた。
「大将、そういえばほかの客はいないのか?」
「え? ああ……今日は本来休みにするつもりだったんだ……」
「休み?」
「さっきのニュース見ただろ。誘拐された女子高生。うちの娘も、誘拐されたんだ……」
「誘拐されたぁ?」
「空手部に入ってる娘でね……。昨日、連絡が途切れて……警察が今朝来て誘拐されたかもといってきて……。でも、あんたの予約入ってたし休むわけにはいかなくて……」
「大将! そういうのは言え。僕だってあんたが落ち込んでるところを見て食べるのは嫌だぞ」
「申し訳ねえ……」
そもそも気が気じゃないだろう。
娘が誘拐されたとなったら本来は営業なんてしてる余裕もないはずだ。なのに私たちを入れてくれて焼肉を食べさせてくれてるって……。優しいんだか優しくないんだか。
まぁなんにせよ……。
「食べ終わったら帰ろう。さすがにこのムードじゃ私でもきつい」
「そうか。わかった」
「すまねえな……」
「いいですよ。それより犯人?の要求とかは?」
「ない……。ないからこそ警察も誘拐とは決めつけられてないらしい……。失踪してまだ一日もたっていないから……。うちの娘の年頃だと、そういう悪いことにあこがれるというのもあるという話で……」
「身代金なら私が何とかしてやれたかもしれなかったんだけど……」
金を渡すのは癪に障るが、助けられるのなら助けられたはずなのに。
まだ失踪して一日もたっていない。けど、誘拐されているという風に想定して警察も動いているらしい。
焼肉屋の大将曰く、娘である入山 璃子はそういう悪いやからとは付き合ってこなくて、空手一筋の少女だったらしい。だからそういうのに入り浸るというのは考えづらいということ。
これ本格的に誘拐だよな……。
「……一応、私も探してみます。街でそれっぽい少女を見かけたら連絡しますよ」
「いいのかい?」
「助け合いでしょ? その璃子ちゃんの写真を見せてほしいんです」
といって、私は璃子ちゃんの顔を脳にインプット……。
ってこの顔は先日のイベントの第2位の女の子だ。押忍!とか言っていた熱血少女。なるほど、世間は狭いな。
「僕も協力しよう。だが、誘拐ではなくあくまで失踪した女の子を探しているということにする。家出少女を探していると僕の知人にも聞いてみることにする」
「二人ともありがとう……」
まぁ、深くまで聞いちゃったし無視できないからな……。
私たちは店を後にして、今日は夜遅いし帰ることにした。
ゼノは電車なので、私は徒歩で帰る。
店は今あの雰囲気だったが肉はうまかった。地元にこんなうまい店があったのは知らなかったな。と思いながら帰っていると。
「むぐっ!?」
口元に何かを押し当てられる。
意識が……。なんかの薬品かな。もしかしてこれって誘拐ですか。そうですか。