ダッシュ!
私はゼノに踏み台にされていた。
というのも、双剣でやるより弓で狙撃したほうがいいという判断をしたから。だがしかし、弓で狙撃するには少しばかり距離が必要なこと、そして地面に引きずられていてはうまく弓の弦を引き絞ることができないということで、私が踏み台となって弓で狙撃。
「あんっ、この人扱いされてない感じたまらんっ……!」
「少しばかり静かにしていたまえ」
「はひっ、仰せのままに……」
たまらんっ……! この扱い……!
私は押し黙る。そうだよな。踏み台はしゃべらないもんな。人扱いされないってこんなにも屈辱的で何とも言い難い高揚感……!
ゼノは私を足蹴にしつつ、弓でタイヤを狙撃したのだった。タイヤを狙ったことが功を奏したのか、タイヤの片方が破裂し、バランスを失ったのかバギーは蛇行運転。私はすぐさま鋼水の糸を切り離すと、バギーはそのまま木に直撃し大破したのだった。
中にいた二人が外に投げ出される。
「なんだ……?」
「あの二人がやったみたいだぜ?」
「あれってさっきやったバイクの……」
「やり返されたみたいだな」
と、男二人は笑っていた。
ゼノは私の上から退いて、臨戦態勢を取っていた。もうちょっと乗っていてもよかったのにと思いながらも私は立ち上がり、双剣を構える。
「戦るか」
「……あれ? じゅんぺーさんじゃん!」
「うわ、マジだ!」
「って、知ってるの?」
「もちろんす! いつも配信見てます!」
「装備とか諸々参考にさせてもらってます!」
「そ、そう」
視聴者かよ。
「さっきのバイク、じゅんぺーさんだったんすね」
「これはどうもすいませんでした……」
「いや、ゲームだし無法だからいいんだけど……」
「ここでちんたらしている暇はあるのか? このイベントはレースだろう。話している間にもほかのプレイヤーは先へ進んでいるんだから急がなくてはいけないのではないか?」
「そうだね。ただでさえバイクを失ったからねぇ。ダッシュだ!」
私は走る構えを取った。
「いつも見てくれてありがとう! 私たちは先を急ぐから! じゃ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
と、引き留められた。
「あの、お詫びといっちゃなんですが俺らが集めたポイント交換アイテムをもっていってください!」
「おろ、いいの?」
「はい! 差し入れだと思って!」
というので、私はありがたく全部いただいた。
一応、もらっているときに攻撃されないかだけを警戒していたが杞憂だったようだ。私はポイント交換アイテムを受け取る。
「受け取ったはいいけど君たちもバギーかなんか手に入れなくちゃいけないんじゃない? 私たち壊しちゃったし」
「それは……まぁ、なんとかします!」
「ならいいんだけど……」
人の厚意はありがたく受け取っておかなくては。
私は二人に別れの挨拶だけを残し、ゼノとともにひた走る。
「いいやつらだったな」
「あれは君のファンだから君に攻撃しなかっただけであってバイクを壊した罪はあると思うが。それでいいやつだといえるのか?」
「言えないな。ま、いいじゃん。もらえるものは病気と借金以外なら喜んでもらうさ」
私たちは全力で走る。
スタミナが尽きるまで。走って少しでも先を急がないと。バイクを手に入れられるのはポイント交換所だけだ。
「次の街まであといくらだ?」
「ざっと6kmかな」
「そんなにあるか……。なぜゲームで走らなくてはならんのだ」
「まぁ、自分をいじめてるって思えば気分が高ぶるじゃん」
「君と同じにしないでくれたまえ。僕はマゾヒストではない」
知ってるよ……。でも運動はそういうもんじゃん。




