利害の一致
やっと帰ってこれた。
家に帰ってこれたのは夜の10時。病院に付き添い、警察が来て事情聴取、そしてあの息子は拘留所にいて裁判待ち。
社長がお詫びとして焼肉に一緒にいって、たくさん食ってきたら夜の10時。
「急に人変わったみたいに謝罪してきて……。3年前はもうちょっと横暴だったくせに……」
3年前は塩野 太郎のような奴だったんだぞあいつ。
まぁ、形式だけにせよ謝罪はしてもらえたし、いいんだけど~。やっぱこういうまじめなのって疲れるぅ。私はもうちょっとおチャラけて行きたいんだよぉ。
「ゲームは最近マゾヒストを潰すかのようなことしてくるし……」
なんでワールドイベントなんかやってんだ私は。
死ねないじゃん。死ねないってことはダメージ……。殴られたりできないじゃん? 辛いか辛くないかといえば辛くない……。いや、やっぱつれぇわ。言えたじゃねえか。
欲求も何もかも不満なのに……。やっぱくそげーのほうが私自身を痛めつけてくれるようで安心するんだよな……。
「クソゲー、か」
いや、だめだ。
今更クソゲーだなんて……。自分を追い込むのは格別に好きだけどさすがにお口直しとしてプレイしたら逆にツッコミを受けるな。
くぅ。欲求が……。沈まれ私の変態性よ……。
「ログインして何か適当にモンスターとたたかお……」
私はヘッドギアをかぶりログインしたのだった。
目が覚めると宿の中にいた。ここでログアウトしたからな……。ここがリスポーン地点となっているんだよな。
……リスポーンか。
「よし、思う存分殴られてこよう」
そうじゃん。ここリスポーン地点に登録したから死んでもいいじゃん。別に今はクエスト中じゃないしぃ?
私はさっそく魔物が出るエリアに向かう。
「よし、来い!」
魔物を見つけた。
ヘイトをこちらに向けるように少しだけ攻撃をする。すると、魔物はこちらを向き、怒って突進してきたのだった。
その突進をもろにその身で受ける。痛覚設定をオンにしているので、もろに痛みがやってきた。
「ごふっ……。これこれ……」
レベル差もあるし、ステータスがなぜか素で高いし装備なしでも割と固いから何度でも受けられる。
装備があったらこの痛みも和らいでいただろうな……。そんなの気持ちよくない。
「もっと……もっと痛みを……」
「ブモッ!?」
「あ、逃げるなコラ!」
ウシ型の魔物は走ってどこかに行ってしまった。
くそ、もっとあの突進を受けたい……。私はポーションを再び飲む。体力満タンから一気に削られる感覚がたまらねえんだ……。
くそ、まだ足りない。まだ満ち足りない……。もっと痛みを……もっと暴力を……。
「モット……モットォオオオオオオオ!」
私は怪物となろう。
もっと痛みをくれ。もっと痛みをよこせ。
「いた! じゅんぺー! ここで会ったが……」
「君たち殴ってくれるの?」
「おい、なんか目が怖いぞ?」
「かまうな! 黄金郷を探す際にはよくも……」
「ふふ、やってくれるんだ。来い!」
「やめろ! 殴るなお前! なんか目がキマってる! マジでヤバイ目してるって!」
「なんかいやな予感がするぜ! やっぱ撤収!」
と、走って逃げ始めた。
私はそれを追いかける。
「殺せよおおおおお! 私をぶん殴ってくれえええええ!」
「なんだこいつううううううう!?」
「怖い! なんかすげえ怖い! 美人なのに超怖い!」
「どっちがPKかわかりゃしねえよ! ちょ、だれかこのド変態を止めろ!」
「ド変態……そんな褒めるなよ」
「興奮してやがる!? ちょ、だれか! 悪かったって! もうPKしないから! ちゃんとゲームをするから!」
「それじゃだめだよ! 私を殺してくれなきゃ!」
「そんな目がキマってるやつ殺れるか!」
本当は殺したいくせに。
私のことを嬲って屠ってやりたいくらい憎んでいるくせに。自分の感情に素直になれよ。お前は殺したい、私は殺されたい。winwinの関係だろうが。
だから待ってくれ。お互いに利害が一致した関係だろう。
変態要素最近足りないよね。そりゃ欲求不満にもなりますよ。




