実の息子だぞ
あの塩野というやつ、母親は知っていたが父親までは役職くらいしか知らないと思い母に電話してみる。
「父親の方はたしか……有名VTuber事務所の社長してるのよ。たしか……くるらいぶ!って言ったかしら。私そういうの疎いから……ごめんなさいね」
「よし、裏取れた」
その事務所はもちろん知っている。ただ、私の考えが正しいことを証明するために電話した。
というか、ものすごく失礼な対応をされてムカついた記憶が蘇る。
子が子なら親も親だな。蛙の子は蛙というわけか。はよ金返せ。
その事務所のVのコラボ案件は全て断るぐらい嫌な事務所。
「あっちもあっちでプロか……。どうせ何かしてくるだろ」
だがしかし、予想は裏切られた。
次の日事務所に呼び出されて向かうと、スーツ姿の男性が頭を地面につけていた。
隣にはイヤイヤ謝罪しているであろう塩野。
「ああ、なんとなく理解した」
「この度は申し訳ございません……!」
「……はぁ」
「息子がしたこと、息子から全て聞きました。あなた様に大変失礼な態度を……!」
「なんで謝らなくちゃ……」
「馬鹿者! じゅんぺーさんは世界で人気の配信者なんだぞ! そんな人を陥れようだなんて自惚れるな!!」
と、塩野が殴られていた。
気持ちよさそう……じゃなくて。
「まぁまぁ。殴るのは後にしていただいて……。とりあえず謝罪は受けましたよ。はい。ですが……」
「わかっておりますとも! 私が過去にした言動! その全てをお詫びいたします……」
「おろ?」
「この業界に入ってわかりました。あなたの偉大さを……。無知でした。誠に……」
「あー、あー」
マジの謝罪かよ。
うーむ。流石にその件は許してあげるというか、過去のことだしそこまでぶり返すことでもないんだけどな。
「なんで……俺よりこんな女なんかの方が……」
「お前は少し常識というものを学べ! いや……教えてこなかった私が悪いか。教えて来たつもりだったが甘やかしすぎたな……」
「そうですね。ほんっっとに常識っつーもんがなってない。叩き込んでやりたいくらいですね」
「もう一度教育し直す……。それでダメだろうか」
「いいけど……。二度とそいつに飲食店の予約をさせるな。二度と人と関わるような仕事をさせるな。人と関わらせたら見下していつか酷い目に遭うぞ」
「わかってます……」
多分親父が有名Vの事務所、母親が出版社でそれぞれ社長を務めているから自分も優秀だと勘違いしたパターンだろう。
思い上がりも甚だしい!
「謝罪はとりあえず受けました。私も意地になり申し訳ありません」
そういうと、応接間にたくさんの人たちがなだれ込んできた。
女性と男性が沢山?
「社長! よがっだでずねえ!!!」
「ああ……」
「長年のわだかまりがなくなりましたね」
「ああ……」
「おー、慕われてますねー」
「あ、ああ……」
「ならなんで慕われているのにこんなの……もとい、こういう人を?」
「…………」
「それは社長の謎です」
「謎か」
それで済ましてよいものか。
だがしかし、嫌な予感がするな。ここまで放置されてコケにされて黙ってるはずがないだろうに。
現になにかワナワナと震え出している。
「よくも……よくも俺を見下しやがって……!」
と、私の腕を掴んできた。
殴りかかろうとして来たので私は頭突きを塩野の顔面に食らわせる。
「こんの……!」
「止めろ!」
「落ち着きなさいや! 悪いのはあなたです!」
「うるせえんだよ!」
と、止めに入った男を突き飛ばし、男の人の頭からだらりと血が出始めた。
騒ぎになるがそんなことには見向きもせず、私を殴ろうとして来た。
「止めろ馬鹿野郎が!!」
と、社長が思い切りぶん殴った。
「いてて……。社長……」
「無茶するな。病院に行こう。バカ息子がすまない……」
「いえ……」
「ここまで落ちぶれるとは。もう、俺はお前を息子とは一切思わんことにする。が、お前を社会に放つのも社会に対して申し訳がない」
「親父……」
「せめてもの情けだ。警察には一緒に行ってやろう」
「じ、実の息子だぞ! 警察に突き出すのかよ!」
「実の息子なら親父が立場悪くなることしないでしょ。息子の皮を被った悪魔かよ。ああ、病院には私が付き添いますよ。社長は息子さんを警察に」
「ああ」
まぁ、証人は沢山いるからな……。普通に暴行罪だ。
「改めて思うとうちの母さんって子供運が本当にないな……」
子ども二人が罪犯してるしな。
「あと、貸した金返して♡」