ユグドラシルと白犬
敵を大方殲滅した頃にはレベルが9まで上がっていた。
多少、ダメージは受けたが誤差の範囲だ。私は残り1Lvを上げるべく、さらなる敵を探していると。
「た、助けてえええええ!」
と、魔物をトレインしている女性を見つけた。
私は双剣を握りしめ、その連れてきた魔物に襲いかかった。
「いいところにつれてきたな! 私から出向く手間が省けた!」
私は双剣を突き刺しながらモンスターに攻撃を加えていく。
モンスターは私に狙いを定めたのか、その馬鹿でかい前足を振り下ろしてくる。
「そんな鈍い攻撃は私にゃ当たんねーし気持ちよくならねーぞ!!」
私はなんとかモンスターを倒し、レベルが上がったのを確認する。
やっと10になった。あとは挑むのみ、か。
「あ、あの!」
「ん? ああ、連れてきてくれてありがとう。いい経験値になった」
「た、助けていただきありがとうございます……」
「どうってことないよ。それより……。なんで追われたの? なんか仕掛けた?」
「いえ、モルモルの森にポーションの素材を取りにいったら襲われて……」
「なるほど。モルモルの森ってこっから少し遠いよね。よくここまで追いかけてくるもんだ……。執念深いのかな」
だがなんにせよいい経験値にはなった。
私は双剣をしまい、行こうとすると。
「あ、あの! よろしければフレンドになっていただけないでしょうかっ! 助けてくれたお礼もしたいですし……」
「あー……」
どうしよ。
まぁ……。仕方ないか。
「いいよ。申請しておくね」
私はフレンド欄を開き、申請ボタンを押す。
彼女の名前はユグドラシルというらしい。職業は錬金術師で、一応武器は片手剣。だがそれも護身用みたいなもので戦うステータスは生産職であるために低い。
「じゅんぺーさん……。はい! では、また後日お礼に……」
「うん」
ユグドラシルは手を振って走り去る。
私のこと知らないみたいだ。まぁ、日本人全員知ってるってわけでもないし知らない人は当たり前のようにいるだろう。
彼女……実にいい。彼女にイヤイヤ私を踏んでもらいたい。
嬉々として踏むんじゃなくて、嫌そうに、申し訳なさそうに暴力を振るわれるのが一番興奮する。
お礼は殴ってもらうことにしてもらえないかな。
「やっと見つけたぜ!」
「この声は」
「お前もやっぱやってたか! てか、配信してたもんな!」
「えと、白犬」
「俺のこと覚えてくれてたんだな! ライバルとして鼻が高いぜ!」
白髪の細い男が目の前に元気よく現れる。
彼の名前は白犬。もちろん、配信者で、彼の場合はゲームがものすごく下手でリアクションがいいから売れている。
もっとも、本人はゲームが上手いと思っているようだが。
「ってことで! ゲームでもよろしくな! じゅんぺー!」
「嫌です」
「なぜだ! 俺のライバルだろ!」
「ライバル視、私してないし……。あなたの変に熱いとことかはマゾヒストの私でも流石にちょっと……」
「なんてことだ……! 俺の配信の中でライバル視されてないと明言されるとは……! よし、PvPやろう! 俺が勝てばライバル視してくれよ!」
「出来るといいけど」
PvPモードを起動する。
これでキルしてもカルマ値は貯まらず、その場でリスポーンするようになる。
白犬の武器は大剣。相変わらずのパワープレイ。
「うおっしゃあ! 今回は勝つぜ!」
「今回も私が勝つけど?」
大剣を担ぎ、直球に攻めてくる白犬。
私は振り下ろされた大剣をひょいっと躱し、首を右手の剣で切り裂いた。
相手が振り返ったところを左手の剣で切り裂く。そのまま白犬は倒れ、PvPが終わる。
「あーーー! クソ! あと少しだったのになーーーー!」
「どこがだ……。ともかく、私は忙しいから! じゃ、またね、ポメラニアン!」
「白犬! 間違うならせめてプードルにして!」
どっちでもいいよね?




