悪鬼の妖界入り
天邪鬼。正直な感想は超弱い。
糸を括り付けてぶん回しただけでも瀕死になった。そして。
「ごほっ……。つ、強い……」
「お前が弱すぎるんだよ……」
「そうだな」
と、悪鬼が天邪鬼の頭を踏み潰した。
えげつないことしやがる……。悪鬼はパルツェを肩に抱え、片方の手には妖鋼石がたっぷり詰まったかごを手にしていた。
「あ、じゅんぺー! たくさん採れたよ!」
「その話はあとだ! おい、こっから出るぞ!」
と、悪鬼が焦ったように話している。
金花猫が薄汚れたまま、こっちだと先導。
「なにがあったの?」
「妖気溜まりをこいつが当てちまった! 爆発が起きるぞ!」
「ガス溜まりみたいなのあるんだ……」
「そんなしゃべってる暇ねえよ! 急ぐぞ!」
と、悪鬼と金花猫は走り出した。
が、次の瞬間、引きずり込むような風が吹いてくる。悪鬼、金花猫はなんとかこらえたみたいだが、完全に不意を突かれ私はその風に押し流される。
「おい!」
「まだ大丈夫だっての! 鋼水の糸!」
私は悪鬼に蜘蛛の糸を巻き付ける。
「あ!? んだこれ!」
「引っ張ってくれ!」
「あー、しょうがねえなぁ!」
私は悪鬼の馬鹿力で引っ張られ、なんとか事なきを得た。
急いで出口へと向かう。蜘蛛の糸で一応ふさいで少しでも被害を減らしておこうか。こういうのはふさいでおくのも大事だろう。
なんとか出口にたどり着いた瞬間。背後からものすごい轟音が鳴り響く。
「っぶねぇ……。あれは俺らでも食らったら相当やべえ」
「ましてや人間が耐えられるはずもないにゃ……」
「危なかったー! 助かったよ!」
「話はあとだ。まだ二次爆発とかもあるかもしれねえ」
「妲己様に報告しておくにゃ。被害状況とか知らせるから中に残ってる人がいないか知りたいのにゃ」
金花猫は妲己に報告しようと近くの人にいない妖怪はいないか聞きに行っていた。
悪鬼はパルツェを地面におろす。パルツェは腰を押さえていた。
「わりぃな。逃げるときに力を少しこめちまった」
「いいのいいの! 死ぬよりはマシだから! 爆発なんて私は何度も食らってるからね! さすがにこの規模の爆発は死ぬかもしれないけどそこら辺の人間よりは耐久力あるから!」
「それもそれでおかしいと思うぜ?」
悪鬼の辛辣なツッコミ。
よく考えてみればパルツェ、たしかに耐久がおかしい。飛行機墜落しても中にいたこいつ無傷だったよな。あんな突き刺さり方しておいて無傷っておかしくないか?
一応飛行機の前はひしゃげていたし、コックピットも少し変形して足が挟まれていてもおかしくないだろうに。
うーむ。こいついったい何者なんだ。
「昔から頑丈なんだよ私! すごいよね!」
「すごいが……。そういえばお前、この世界にいるのに妖怪にもなってねえ。こっちのじゅんぺーってやつは九尾になってんのによ」
「なにか人間とは違う異質な血が入っておるの。それがなんなのかは妾にもわからぬが……」
「……妲己!」
「久しぶりじゃの。悪鬼。あちらの世界に辟易してこちらの世界に喧嘩でも売りに来たのか?」
「いや……。俺はそういうわけじゃねえよ。俺はこっちの陣営に移ることにしたってだけだ」
「ほう? そなたのような戦闘狂が生ぬるいこちらの世界に?」
「ああ。仕方ねえだろ。俺だって見てえもんができちまったし……」
悪鬼は頭をぽりぽりと掻く。
「見たいもの?」
「……こいつが作るもんだよ。あっちの世界にいると人間と仲良くしてるの見られたら困るからな。最初は殺そうと思っていたが飛行機の話を聞いて俺もあこがれができた」
「ほう。なるほどのぅ。絆されたわけか」
「そういうことになる。情けねえがな」
「いや、考えを変えることは誰にでもできるわけがなかろう。ましてや人間に絆されたということは人間に対して恨みもそこまでないというわけじゃ。いいじゃろう、浪漫を追うのも。妾たち妖界の人間は応援するぞよ」
「……情けねえな。玉藻前様には絶対処罰されてたぜ」
悪鬼はその場に胡坐をかき、両手を地面につけて頭を下げる。
「これからもよろしく頼みたい。都合がいい話ってのはわかってんだが、俺は魔界とは縁を切った。俺はこの妖界のために働く」
「来るもの拒まず、去るもの追わず……。妾たちは歓迎するぞよ」
「……ありがとう」
悪鬼は頭を下げたままだった。
まぁ、ここで呑気にしてるわけにもいかないか。
「あ、私たちは帰りますよ」
「このタイミングでそれをぶっこむのはすごいにゃ……」
「また来るがよい。妾たちはそなたらを歓迎するぞ」
「また来まーす! 妖鋼石ありがとうございましたー!」
一つ目終わり!