サンキチの不運
秋の味覚の代表格といえばやはりサンマだって偉い人が言っていた。
サンマ三匹を七輪で焼く。脂がしたたり落ち、とてもいい匂いが庭先に広がった。
「ほれ、焼けたで」
私は焼けたサンマを皿に乗せ、二人に手渡す。
サンキチは紅葉おろしを作っていたようで、私も紅葉おろしと一緒にサンマをいただくことにした。身がホクホクで、とてもおいしい。
「ん~~! 脂のってておいし~~!」
「今朝獲れたばかりのものらしいわ」
「ほーん」
秋の味覚はやはりうまい。
「そういやサンキチ、最近ゲームログインしてないみたいだけど」
「あー……」
「まだ、嫌がらせとか続いてるの? ごめんね、ボクのせいで……」
「いや、嫌がらせとかはもうないの。なんか客が増えて休日も仕込みしなきゃ間に合わない状況なんだよな」
サンキチが話すに、なぜか居酒屋だというのにお客さんが急増したらしい。
前までの仕込みの量じゃ全然足りなく、休日もその前日も寝る間も惜しんで仕込みをしていたからゲームをやる暇がなかったということだ。
「え、忙しいのに今日大丈夫?」
「ああ、今日からお店は一時休むの」
「なんで!? 書き入れ時だよね!?」
「店のほうがだいぶ古いから改修工事するのと、やっぱり店が狭いから広げるためにね。じゅんぺー、まじサンキュー!」
「はっはっは。あ、まだ3000万用意してないから明日持ってくるわ」
「このご恩はまじで……」
「いいのいいの。私だけただで飲み食いさせてくれればいいから」
たしか請求書を私のほうに回されるはずだから支払いにいかないとな。
私自身、割と稼いでるし3000万はポンと出せる。出せる人間になれてよかったな。
「え、お金返さないの……?」
「前配信でいってたろ。サンキチが出たときに。返してもらわないよ。別に私は恩を売りたくて貸すわけじゃないし」
「あれって優しく見せるための建前だと……」
「建前じゃないって。まぁ、返さなくていいって言えるのはサンキチが友人だからね。誰にでも無償で金を上げるわけじゃないし」
サンキチ自身、使い道に嘘がないというのはわかってるからな。
「すごいね……。改めてじゅんぺーのすごさがわかったよ……」
「あっはっは」
「じゅんぺーっていくらぐらい稼いでるの? 3000万は余裕で出せるって相当稼いでるよね?」
「そりゃね。チャンネル登録者100万人越してんだぞ? 広告費だけでも食費に困らないぐらいには稼げてる」
「たしか貯金額はいくらだったっけ?」
「貯金? たしか……今は2億ちょいあるかな。割と浪費してるから少ないけど」
「多いよ!? ボクのアイドル稼業でためた金よりめっちゃあるじゃん! ボクって今を生きる人気アイドルなのに!」
「この中で一番貯金額が低い私の前で言うか?」
この中で貯金順ならたしかにサンキチが一番下だろうな。
でもサンキチが一番浪費しないから溜まっていく一方だろうに。店の改修工事費用も私が全負担だからなおさら使い道がないと思うが。
「サンキチはいくらよ」
「私? 私はたしか……20万?」
「すくな! なんか使った?」
「いや、後々返ってくるとは思う!」
なにがあったんだ。
「なにがあったかっていうとね、税金と、隣の家のせい」
「……なんで?」
「隣の家ね、夫婦なんだけど旦那さんの実家が家を親に無断で建てたものなの。去年ね」
「うん」
「それで、親が大激怒して取り壊せと依頼したんだけどできなくて、自分で壊しに来たの」
「なんかオチ読めたんだけど……」
「そのご両親はもちろん建物を壊す仕事をしていたから得意だったようでね……。その、来たご両親が私の家をその隣のご夫婦の家だと勘違いしてぶっ壊したの。粉みじんに」
「……サンキチって三年前ぐらいに家の工事もしたばかりだよね?」
「そう。だから新しく見えたらしくてこの家だってなって、そして……」
不運すぎる。
「もちろん、謝罪はされたの。隣のご夫婦に。両親からはされてないけど」
「慰謝料とかもらえるの?」
「ぶっ壊した本人に支払わせるわ。裁判中」
「なんか、ついてないね……」
「そう。一応私が負担して家を建てたけど……。そのせいで金がすっからかん……。家が建ったのもついおとといのことなの」
おお、だからこんなぴかぴかなのか。
新居みたいだと思ったけど、新居だな。マジの。
「ちなみに壊されたのはいつ?」
「じゅんぺーと酒飲み配信してるとき」
「……あれって一か月かそこら前だよね? 一か月で家建つんだ」
「ものすごく早く仕上げてくれって依頼したから」
「手抜き工事されてないよな?」
「されてな……なんか不安!」
だよな。
手抜き工事されてたらもう本当にお祓い行ったほうがいいレベルだ。さすがに同情せざるを得ない。