行商人が見た怪しい影
フラオスに到着し、私たちはそのアリスタイオス出現条件を満たすためにそれぞれクエストを片っ端から受けていくことにした。
こういうのは何かクエストをクリアして、ようやく出現するか、それともそういうクエストが出るか。
こういうのはほかのゲームでもよくあることで、特定のモンスターを倒すと出現するというのもある。
だがしかし……蜂というのはこういう荒野に出現するものなのだろうか。
「昔はのぅ……緑が栄えておったんじゃ」
と、隣に立つ老人が語り始める。
ここはもともと緑が生い茂っていたということ、数十年前に起きた戦争で焼け野原と化し、草木も生えぬ荒野と化してしまい、生態系が変化したことなどが語られる。
この荒野を好んで生息するのはニートリビー、一角うさぎなどの小型の魔物。
「蜂の魔物の噂とか聞いたことないですか?」
「ないのぅ……。ただ、変な話は聞くがの」
「変な話?」
「この前この街にきた行商人が言っておったんじゃ。ここに来る途中、荒野を歩いていると黒い影を見た……。その影はこちらを見つけると襲い掛かってきたので命からがら逃げてきた、と」
「……それだな。姿かたちは蜂だとか言ってました?」
「さぁのぅ。必死に逃げてきたものだから見ていないそうじゃ」
「うーむ……」
その黒い影が私たちが探しているアリスタイオスだろう。
だが、この話を聞いて出現するわけではなさそうだ。
「その行商人はどこに?」
「この街を出て……ファルメル伯爵家の領都ファルメルで商売をするとか言っておったかの。二日前くらいに街を出ていったからそろそろついてるはずじゃな」
「ありがとうございます」
ファルメル伯爵家領都ファルメルね。
マップを開き、距離を確認。確かに歩きだと遠い距離にある。もともとここが辺境ということもあり、距離はあるな。
歩いて行っても間に合わないだろうし、何か乗り物が欲しいものだ。馬車を頼むしかないか。
「じゃ、ファルメルにいってその行商人を探して話を聞いてみます。顔立ちとかは?」
「緑色の髪をしているからわかるはずじゃ」
「緑色の髪……。珍しいですねぇ」
このゲームのNPCにももちろん髪の色がある。
が、この国には金髪や銀髪の人が多く、緑色の髪というのは確かに目立ってわかりやすい目印だ。
私は馬車乗り場に向かい、馬車を手配する。
確証もないし、二人はまだ聞きこんでもらおう。私ひとりでそのファルメルに向かおうか。
私は馬車に乗り込み、そのままファルメルへ向かうのだった。