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diary〜ひびのおと〜  作者: 菖蒲P(あやめぴー)
第一章
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九話 sensitive〜繊細な彼〜

「ていうか、具合悪い人の家にこんな大人数で押しかけていいの?」 瑞希が問いかける。


「あったりまえだろ!!人数多い方が楽しいに決まってんだろ!だから、この人数で情一朗の病魔を吹き飛ばしてやるんだよ!」


「こっちに感染る心配もあるけど。」


「吹き飛ばせ!」


「お前、たまに理論が脳筋だよな。」


「脳筋はお前もだろ!」


「んだとー!!」


優気や栄の言葉に全力で反論する遙。先頭を切って大きな歩幅で歩いていた。


「ついた!!ここだぜ、情一朗の家! マミコと瑞希は知らなかったんじゃねーの?」


遙がまるで自分の家のように自慢する。


「ああ、マミコがたまたま情一朗くんに会ったって言ってて、その時ここが家って言ってたって。にしても大きいなぁ。ご両親がすごい人なのかなぁ?」 瑞希がふとこぼしたその言葉に、先ほどまでニコニコ笑顔だった遙が表情を変えた。


「…両親とかどうでもいいだろ。 行くぞ。」 「…あっ、うん。」


瑞希はなんとなく、触れてはいけない。と察した。


「お邪魔しまーす!こんちわ!!情一朗のお見舞いに来ました!!」 遙が大声で呼びかけると、足音が二つ。ヒゲを蓄えたやや肥満体型の男性と白髪の中肉中背の女性が出てきた。


「遥くん、お友達もいらっしゃい!情一朗は部屋にいるわよ。」


「そろそろ具合も良くなってきたから、おしゃべりしてやってくれ。」


おそらく情一朗の両親だろう。 マミコたちは「こんにちは」と会釈する。遥はもうこの家に慣れているのか、遠慮なくあがっていく。


「情一朗ー!来たぞー!」


遙は隣にいるだけでうるさいと感じる大声で、ドアを開け情一朗に呼びかけた。情一朗はベッドから体を起こした。


「よく来たな。だいぶ具合も良くなってきた。だが、 もう少し声量を抑えろ。 単純に近所迷惑だ。」


「へへっ、サーセン!」


怒られているのに、遙はなぜか嬉しそうだ。


その後情一朗の両親によって歓迎の菓子が配られ、しばらく今日の出来事などを話し込んでいた。 瑞希はふと部屋を見渡し、気になる写真を見つけた。赤ん坊と両親の写真。写真には日付が書かれていた。瑞希が生まれた年、 ということはこれは情一朗の写真なのだろうか。でも一つ違和感を感じた。 情一朗と思われる赤子を抱える母親と隣に立つ父親の姿が、先ほど部屋を訪ねた両親の姿とは似ても似つかないのだ。しばらく写真に見入っていた が、声をかけられすぐに前を向いた。


その日は結局日が落ちるまで情一朗の家で話し込んだ。 遙は最後まで情一朗の家を出るのを名残惜しそうにしていた。


「明日は学校来いよー!」 そう一言投げかけた。


翌日は、情一朗も復活して…今度は情一朗の家を訪ねた優気が感染されたようで席が空いていた。 「優気くん休んじゃったけど、遥くんが無理やり連れ回したからじゃない?」


「いやいや、こいつはなー、もともと体弱いんだよ!」 瑞希の問いかけに遥はそう答える。


「もともとこの辺の生まれらしいけど、あまりに体が弱かったからずっと山形のおばあちゃん家にいたんだってよ!中学になってこっちに戻ってきたって。」 初めて知った事実に瑞希は「ふーん…」と少し興味ありげな声を出した。 一度地元を離れて、それから中学になって帰ってくる、というのは自分たちと同じ境遇だ。ということに気づいた。


「昨日は情一朗くんの家にお見舞いに行ったんだから、 今日は優気くんの家に行けばいいんじゃない?」 そう瑞希が提案するが、


「流石に部長が二日連続部活サボれねーから、行くならお前が行ってこい!」とあっさりした様子だった。 「僕一人なら行かないよ…」瑞希は心配するのも、行くのもやめた。とその日は部活に顔を出した。


一方のマミコは、その日も四時で学校を出た。 出るなり、 走り出した。 何か用事があるわけではないはずだが。そのまま真っ直ぐ家に帰る、と思いきや、マミコは商店街の方に出た。いつのまにか財布を手にスーパーに買い物に行った。手には味噌やナス。 どうやら自分で晩御飯を作るようだ。 マミコは決して料理が得意、というわけではないはずだが。


そのまま玄関で靴を脱ぎ捨てマミコはキッチンにスーパーで買ってきた食材を並べる。キッチンから見えるリビングには誰の姿もない。いつもなら、父か母のどちらかがいるはずだが、今日は用事があるらしく夜は家にいないらしい。だからマミコが料理を作る。 しかし、調理研究部の瑞希の方がもちろん料理はうまい。 なぜマミコが料理をするのかというと、 本人の申し出らしい。マミコは手に料理雑誌を握りしめ、『ナスの味噌田楽』のページを見ていた。あの日、樂に聞いた好きな食べ物。それを自分で作ってみたいと思ったらしい。 すでにナスを切る手つきが危うい。 絆創膏も一枚巻いているが、汗を流しながら必死に料理を作っていた。 ナスの味噌田楽が出来上がる頃に、瑞希も帰ってきた。


「マミコちゃんとやってる?ご飯炊くのも忘れてない?」


その問いかけに、マミコは顔を真っ青にして


「ご飯忘れてたー!!」と地面に手をついた。 「そんなこったろうと思って、パックのご飯買ってるから。 これチンして食べよう。」 「良かったぁ〜!!」 マミコは救われた、という表情で料理を机に並べた。 その出来は、瑞希曰く『全てが欠落している』というものだったが。


休みを挟んで翌週、瑞希の前の席は空席のままだった。 気にしないつもりだったが、その翌日も休みで、流石に心配になった。 マミコも同じように心配していた。 「優気くん、まだ休んでるの?本当に大丈夫かな?」 心配する二人に栄が声をかける。 「こいつ一回休むと長いんだって。 お見舞い行ってもすげぇ具合悪そうだし、最後の最後まで苦しそうだから。」と説明した。


「それなら、行ってあげなきゃ!ね!瑞希!」 「えっ、まぁ、そうだよね…うん。優気くんの家ってどこにあるの?」


瑞希の問いかけに、遙が窓の外を指差す。


「あのマンションの501号室。すっげぇ近所なんだぜ。」


優気の家は学校にほど近いマンションの一室らしい。マミコと瑞希は顔を見合わせて、「行こう」とお互いに確認し合った。

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