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diary〜ひびのおと〜  作者: 菖蒲P(あやめぴー)
第一章
8/23

八話 rest〜休息の時間〜

以前から手紙で知らせはあったが、翌日のホームルーム、 改めて担任から学年テストの知らせがあった。ちょうど一週間後に行われるらしい。マークシート式なので皆安心はしていたが、栄は頭を抱えていた。


「栄ー、心配することねーだろ!俺もお前も二桁取れればそれでいいんだからさ!」


遙があてのない慰めをするが、


「お前なんでそんなに前向きなんだよ!受験生だろうが俺たち!」


と泣きそうになりながら大声で言った。その瞬間、その場の空気が凍りついた。


「お前俺たちバカ御一行の前で受験生とか現実的な言葉はよせよ…」


遙は身震いした。周りに群がる『バカ御一行』のメンバー(?)も。


「ていうか、さっきからヘラヘラしてるけどマミコ!お前こそ勉強クソ苦手だろ?あの頃から何か変わったのか?」


栄に声をかけられるとマミコは満面の笑みでこう返した。


「まぁ、なんとかなるって!」


根拠のない自信を見せつけた。流石の遙も「お前、能天気がすぎるぞ…」 と引き気味だった。


「マミコさあ、そろそろ焦ったら?真面目に受験危ういんだから。」


瑞希から声をかけられる。


「えっ、マミコってマジでバカ御一行レベルなの?」 遙は自分たちと同じバカ御一行レベルなのか、と期待で目を輝かせた。


「でも、国語だけは毎回85点以上取ってるよ!」 と一言発すると、遙たちバカ御一行は体をくねくねさせて苦痛に悶えるような仕草をした。


「まぁそうだよな、マミコって昔から国語だけは大得意だったもんな。」


ただ、マミコは元から国語が得意、というわけではない。 国語に関しては今まで人から見られずに努力を重ねてきただけだ。 というのも、マミコには親にも瑞希にも、まだ誰にも打ち明けたことのない夢があったのだ。 小説家になること。そのために、日記も毎日欠かさず習慣づけている。 文章を書いている時がマミコにとっての一番落ち着く時間なのだ。もちろん今回のテストでも、国語だけは学年20位以内を狙っている。


とはいえ、それまで地元に戻ってこれた喜びで勉強をおざなりにしていたマミコは帰宅後、慌てて国語の教科書を開いた。 テスト範囲の部分を慌てて勉強し始めた。その様子を仕切り板の上から眺めた瑞希は「無理しすぎないようにね」と一言声をかけた。 テスト勉強以前に宿題も出ている。 コツコツ取り組むことが得意な瑞希が順序だてて一つ一つ取り組んでいたのに対して、順序だてることが苦手なマミコは結局その日は夜十時まで机に向かっていた。


翌朝、案の定マミコは寝坊した。今日は長いこと声をかけても起きなかったらしく、瑞希は先に学校に行ってしまった。マミコは時計を見るなり悲鳴をあげて朝食も食べずに学校にダッシュした。


「茶原、遅刻だ。」校門の前には情一朗が立っていた。 手元の紙にマミコの到着時刻を書いて玄関に通した。 「計画はきちんと立てて勉強しろよ。」 「うっ、見抜かれている…すみませぇん…」


マミコの心の内も生徒会長、学級委員長にはお見通しのようだ。


その日の放課後、居残りして遅刻反省文を書ききったマミコはダッシュで学校を飛び出した。 それでも部活動に参加している生徒よりは早い帰宅だったが、マミコ的には居残りは青春を削る行為らしいのでダッシュしていた。曲がり角で急ブレーキを踏んだかと思うと、また走り出すマミコ。すると、何者かと体をぶつけ、思い切り尻餅をついてしまった。 マミコは慌てて「ご、ごめんなさい!」と向き直り、相手の顔を見るとそれはよく見覚えのある顔だった。 「あれ?情一朗くん?」


「茶原か?」


情一朗が目の前にいた。情一朗も尻餅をついていたようで、立ち上がり服についた砂を手で払っていた。 「部活とか、生徒会は?」


疑問に思ったマミコが問いかける。 部活に生徒会に大忙しな情一朗が、まだ日が出ている内にこの近辺を歩いているとは何があったんだろう、と思った。そうして情一朗の顔を見て、マミコはなんとなく察した。


「少し、具合が悪くてな。」


頭を手で押さえる情一朗。立ち歩きも喋りもできているが、少し顔色が悪そうに見えた。


「だ、大丈夫?家まで一緒に歩く?」


「そんなに心配しなくていい。 家はあそこだ。」


と言うと、情一朗は立派な四階建ての一軒家を指差す。マミコは目が飛び出そうになった。


「あ、あ、あの豪邸って情一朗くんの家だったの!?」 「ああ。茶原も、体の異変を感じたら迷わずにすぐに休め。お前を支えてくれる人たちは沢山いる。俺にも幸い支えてくれる頼れる仲間がいるから。 一番偉いとか一番目立つ人間だからといって、休んではいけない理由なんてないからな。」


そう言って情一朗はゆっくりと歩き出した。 マミコはとりあえず、情一朗がその豪邸に住んでいるという事実にただただ驚いていた。


翌日、情一朗は学校を休んだ。その後熱が上がったらし い。ホームルームで伝えられる。


「情一朗〜!元気にしてろよ〜生きてろよ〜!!」 一番心配していたのはやはり幼馴染の遙だった。


「栄、あとマミコと瑞希と、優気も!今日放課後お見舞い行こーぜ!」


遙は四人をテキトーに選び、情一朗のお見舞いに誘った。 「ちょっと、部活あるんだけど!?」


「部活より友人の体だろ!!!俺から断っておくからさ!!今日のバスケ部部活は中止だ!!」


「おい、勝手に部活中止にするな!!俺が進行するから!!」


「さっすがバスケ部副部長大輔様!!あとは頼んだ!!」


遙は部活すら中止にしてしまいたいほど、情一朗を心配していた。


「というわけで行くぞ!」 遥は困惑気味の四人を連れ回し、情一朗の家に向かった。

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