表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花の化身は、お憑かれ少女を庇護したい。  作者: 魚澄
第2章 Kalaratri
7/21

予感


 厘は、少々警戒していた。


 花瓶に生けられているときも、こうして化身となったあとも、岬の体質については熟知しているつもりではあったが、正直霊魂の方については謎が多い。


 岬の額に触れて、中にいる奴をつまみ出そうと試みてみたが、それも到底かなわなかった。妖気では、うまく太刀打ちできる相手ではないらしい。……それに、


「なんなんだ、あいつの気は……」


 いま岬に憑いているみさ緒は、とくに妙な気を放っている。あのおとぼけ……岬には到底感じることはできないだろうが。


「……まぁ、いいか」


 厘は、襖の向こうを気に掛けながら目を閉じる。


 何者だろうと、傷つけさせはしない……絶対に。そう思いを馳せながら。




 ガシャンッ───


「いっ……!」


 翌朝。厘はその騒々しい音と、岬の声で目を覚ました。


 なんだ……?


 身体を起こすと、狭い台所で小さくうずくまる岬が目に入る。また、ドジをしたのだろう。厘はやれやれ、と羽織を纏いながら彼女のもとへ向かった。


「おい、どうした?」


「り、厘……っ、えと……これは、」


 厘は目を見張る。岬の手が、血に染まっていたからだ。

 

 近くに落ちているのは調理バサミ。その先端も同じく赤い……ということは、岬の手の上に落ちてきたのか……こいつが。


「傷口はどこだ。とりあえず洗え、(すす)げ」


「うん……」


 トングやお玉と一緒に、シンク上にぶら下げていたハサミ。


 留め具が弱ったってことか……?厘は岬の手を漱ぎながら、眉を顰めた。


「もう大丈夫、だと思うよ。ありがとう、厘」


「あぁ……出血が多いだけで、たぶん傷口は深くない。ちょっと待ってろ」


 厘は岬の指に、持ち出した絆創膏を巻きつける。この白い肌も、細い身体も……危うい。正直言って、持て余す。


「ありがとう。やっぱり厘は、器用だね」


 正面で細まる丸っこい黒目。窓越しの朝日に照らされる薄紅色の頬。糸のように細長い、母親譲りの黒髪。


 ……どうして託したんだよ、宇美。俺に、この娘を。


「厘?」


「……悪い。なんでもない」


 厘は雑念を払い、視線を背けた。どうして、と問う前に、俺にはやるべきことがあるだろう。


「岬、今日は俺が支度するから、他の準備してろ。もう指は平気か?」


「うん、平気。ありがとう」


「あとな……登下校は俺もついていく。そのつもりでいてくれ」


「…………え?」


 案の定、気の抜けた声が返ってくる。厘はそんな彼女の額をつついて「いいから早く準備しろ」と促した。


 やるべきこと……まずはこの嫌な予感、渦に、岬を巻き込まないこと。そして───


「みさ緒も起こしておけ。まだお前の中で眠っているらしい」


「う、うん……」


 棲みつく霊魂の正体を、探ること。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ