冒険者ギルド
堅牢そうな門に向かうと、そこには入門を待つ冒険者や荷馬車に荷物を積み込んだ商人達が列を作っていた。
一行は最後尾に並ぶと、カインは前の冒険者グループに軽く挨拶をする。
「よう、ネス。首尾はどうだい?」
「まぁまぁってところだな」
彼らの横に置いてある、はち切れそうな大きな袋が上首尾だったことを伺わせた。
「それにしても、今日はやけに荷馬車が多いな」
「そろそろ精霊祭ですからね。その準備でしょう。」
周りの精霊たちも浮かれているようですと、エドはどこか嬉し気に話す。
「精霊祭?」
「日頃お世話になっている精霊たちに感謝し、持成す日ですよ。と言っても普通の人種や亜人種のほとんどが精霊を目にすることが出来ないので、精霊を名目にした祭りの日と思われていますね」
精霊は祭りのような楽しい雰囲気を好むのだとエドは続ける。
「その妙な格好の奴は異邦者か? それなら知らねぇのも無理もねぇか」
ネスはブルーゲイルの見た目から勝手に判断すると、そのまま納得したように頷く。
「お、そろそろ俺たちの番だな。また一緒に飲もうぜ」
そう言うと、ネスと仲間たちはずっしりと重そうな皮袋を担ぎながら門に向かっていた。
「あいつらも栄光の剣っていうBランクの冒険者パーティさ」
冒険者を管理する冒険者ギルドは、その活躍に応じてランク分けを行っており、下はGから最上級はSまでとなっている。
その中でBランクは一流の冒険者として認められたごく一部がなることができるとカインは語る。
「次! って、今度は聖鉄の皆さんでしたか。」
門の守衛はカイン達と顔見知りらしく、気が抜けたように気安く話しかけてくる。
「よう、ご苦労さん。通っていいかい?」
「もちろんですが……そっちの彼は?」
守衛は訝し気な視線をブルーゲイルに向ける。
「異邦者だよ。森の中で保護した。これからギルマスに報告しに行くところだ」
「ああ!やはり異邦者の方でしたか! ようこそバルトへ!」
先程迄の訝し気な態度とは打って変わり、ブルーゲイルを笑顔で出迎えてくれる。
他の冒険者や商人たちよりも格段に速くチェックが終わると、一行は街の中に足を踏み入れた。
街の中は人でごった返し騒然としていた。
道の脇には露店が軒を連ね、行き交う人々に声をかける。
怪しげな薬を掲げる老婆や、見事な装飾を並べて年若い女性相手に口上を述べる犬の顔をした商人、旨そうな匂いを漂わせながら串に刺さった肉を焼いている豚顔の男等など。
様々なものが混じりあい、その場は混沌としながら、凄まじいか活気に包まれていた。
元の世界では経験したことが無い熱気に、ブルーゲイルは珍し気に見回してしまう。
「ふふ、やっぱり驚かれてますね。ここは冒険者通りと呼ばれていて、いつも活気があるんですよ」
サリは自身もこの街に初めて来た時、圧倒されたのだと愉快気に話す。
「このまま街を案内してやりたいところなんだが、まずは冒険者ギルドに報告してからだな」
カインはそう告げると、通りの奥にある一際大きな建物を親指で差した。
冒険者ギルドバルト支部の建物は飾りっ気のない武骨な外観しており、周辺の建物と一閃を隠す威圧感を醸していた。
カイン達は慣れた調子で重そうな扉を開き、ブルーゲイルをに向けて手招きをする。
中に入ると、広いロビーは冒険者たちがひしめき合い、ある種異様な熱気に包まれていた。
左手には酒場のようなスペースががあり、上機嫌な荒くれもの達が酒を飲み交わしている。
汗の匂いや血の匂い、酒や香辛料の匂いが混じり合い、ブルーゲイルは仮面の中で思わず眉を顰める。
そんな人込みの中、入口付近にいた冒険者たちが聖鉄の面々を確認すると、人混みがきれいに分かれ道が作られた。
彼らにとってはそれが当たり前なのか、気にするそぶりを見せずに、ロビー奥の受付へ真っすぐ進んで行く。
その姿を見る冒険者たちは尊敬や畏怖、妬みの視線を向けていた。
そしてそんな冒険者たちの視線を全身に浴びていたのがブルーゲイルだった。
それらはこの変態は何だという胡乱なものがほとんどであった。
「いらっしゃいませ。カインさん」
「よぉ、アミュ。ギルマスに連絡を取ってくれないか」
アミュと呼ばれた女性は怪訝そうに顔を横にかしげる、
「狩猟依頼中に森で異邦者を保護したんでね。報告したい」
異邦者という言葉に成り行きを眺めていた他の冒険者たちがざわめき出す。
アミュは小柄な背をピンと伸ばして後ろを覗き込み、ブルーゲイルの姿を確認する。
「承知しました! 少々お待ちください」
そう言うと、パタパタと3階に駆け上がっていく。
数分もすると、アミュは再びパタパタと会談を駆け下りてくる。
その様子にブルーゲイルは内心、小動物のように見えて仮面の下でわずかに微笑んでしまう。
「お待たせしました! ギルドマスターが異邦者さんにお会いになるそうです。」
聖鉄のメンバーには別途保護の謝礼を支払う旨を告げた。
「そうなると、俺たちも素材の買取があるから、ここで一度お別れだな。」
「ああ、君たちには本当に世話になった」
ブルーゲイルは彼らに向かい頭を下げる。
「よせって、こそばゆい。それじゃまたな」
聖鉄の面々はそれぞれ軽く挨拶をすると、人混みに消えていった。
「ええと、それでは異邦者さんをご案内するのでついてきてください」
アミュはブルーゲイルを先導するように階段を昇っていく。
3回は冒険者達に開放されていない他為か。閑散としていた。
その最奥にある一際立派な扉に立ち止まると、アミュは中に向かって用向きを伝えた。
「異邦者の方をお連れしました」
「入ってくれ」
中から中年男性と思われる声が返ってくる。
「それでは中へどうぞ。私は業務にもどりますので!」
アミュは役割は済んだとばかりに、ぺこりとお辞儀をすると、パタパタと1階の受付に戻っていった。
「行くか」
ブルーゲイルは軽く息を吐くとずっしりと下ドアノブを回し、中に入っていった。
執務室の中に入ると、広い室内には華やかさは無いながらも細かい意匠が施された革張りのソファや、調度品などが、品よく並べられ、部屋を利用している人間のセンスよ良さが伝わってくる。
「すまないが適当に掛けて待っていてくれ。もう少しで一段落つく」
うず高く重ねられた書類の山の向こう側から、張りのある低い声が聞こえてくる。
-この声……何処かで?
ブルーゲイルが聞き覚えのある声の持ち主について思い出していると、仕事が一段落したのか男がゆっくりと腰を上げる。
書類の山から現れたその顔は、うんざりする程に見覚えがあるものだった。
「貴様は!」
「久しぶりだな。蒼い疾風」
ブルーゲイルは男の顔を確認するや、高価そうな椅子を蹴飛ばしてすぐさま戦闘態勢に入る。
「何故、貴様がここにいる? ミスタープロット!」
ミスタープロット、それが男の名前だった。
本名は不明だが、その天才的な頭脳から生み出される犯罪計画により、幾度となくヒーロー達が苦渋を舐めさせられてきた。
自身が立てた計画を作品と称し、そのプラン通りに完遂させることを至上の喜びとする異常者である。
「今度は何を企んでいる!」
「まぁ、落ち着け。ブルーゲイル」
ミスタープロットと呼ばれた男はブルーゲイルに対して敵意を向けることも無く、落ち着いた動きで応接用のソファに腰を掛ける。
「ギルドマスター! 大きな音がしましたが大丈夫ですか!?」
カートで飲み物を持ってきたアミュとは別の女性職員が慌てて室内に入ってくると、一触即発の雰囲気に思わず口元を抑えた。
「リズ、心配はいらない。彼は少し興奮しているだけだ。悪いがクテ茶を淹れてくれないか? 少々喉が渇いてしまってね」
「は、はい」
さも何でもないように女性職員に命じると、彼女も次第に落ち着きを取り戻したのか、ブルーゲイルの分も含めて淹れていく。
ミスタープロットは置かれたカップをソーサーごと慣れた動きで手に取ると、淹れたてのクテ茶が入ったカップを口元で傾ける。
「うむ、やはりリズはクテ茶を淹れるのが上手いな」
「あ、ありがとうございます」
紳士然とした美中年のお褒めの言葉に、リズという女性職員は蚊を真っ赤にして俯いてしまう。
-一体、どういうことだ?
そんなやり取りを目の前で行われ、すっかり毒気を抜かれてしまったブルーゲイルは、改めて宿敵だった男の様子を覗ってみた。
「君もそんなところにいないで座って飲まないか? 彼女の淹れるクテ茶は美味いぞ」
毒は入っていないと見せつけるかのように、ミスタープロットは改めて飲んで見せる。
「はぁ、どういうことか説明してもらうぞ」
「無論だ。その為に君だけをこの部屋に呼んだのだ」
ミスタープロットはリズに下がるように伝えると、部屋の中には2人だけとなった。
「まず、今更だが自己紹介といこう。私はダニー・スミス、この冒険者ギルドバルト支部のギルドマスターを務めている。」
「ダニー・スミス? それがお前の本名なのか?」
「そうだ。かつて呼ばれていたミスタープロットという名は既に捨てた」
その言葉にブルーゲイルは驚愕する。
「名を捨てただと! ヴィランをやめたという事か?」
「その通りだ。今の私はダニーというしがないギルドマスターだよ」
ダニーは僅かに自嘲を込めてミスタープロットというヴィランは死んだと話す。
「一体何があった? 何故急に……」
「急ではないよ。ブルーゲイル。急ではない。」
ダニーは被せる様にして話す。
「私がこの世界に飛ばされてきたのは5年前だからな」




