プロローグ~一人目、サキの場合~
___俺は、昔から女子と付き合いたかったんだ・・・
そういえば幼稚園の頃なんかは女子と混ざっておままごとをしていたし、小学生では休み時間に女子と鬼ごっこでよく遊んでいた。
男友達から「女子と遊ぶのはヘンタイだ」とからかわれても遊ぶのはやめなかった。
中学校に入ってからは遊んでくれる女子がいなくなり、少しでも関わりを持つために吹奏楽部に入部した。
しかし、男子が自分含めて2人しかいなかったせいか盛り上がらず、女子と遊ぶどころか話すことすらなく、灰色の青春を終えた。
結局、俺はここまで彼女ができることはなかった。
そして現在、高校、ついに俺は初めて一人の女子に告白しようとしている。
その女子の名前はサキ。幼稚園の頃からの幼馴染であり、友人でもある。
おままごとでは進んで夫の役を買って出たし、鬼ごっこでは追いかけなかった日はない。
中学の部活まで一緒だったうえ、話し相手になってくれた。
おまけに高校で同じクラスにもなった。これはもはや運命と言うほかないだろう。
もう一度サキに送ったメールを見返す。
『放課後、屋上に来てくんない?』
我ながらぶっきらぼうなメールだ。だけど、
(こっちだって人生初めての告白なんだ!しょうがないだろ!)
俺はめちゃくちゃに緊張していた。
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必死に告白の言葉を練習していると、ギィッと音を立てて扉が開く音がした。
焦りを隠して振り向くとそこにはサキがいた。肩まである細い髪を風に揺らしながらにこやかに話しかけてくる。
「どうしたの?なにかあった?」
「いや・・・あのさ・・・」
怖いが今更戻ることはできない。俺はサキの目を見て言った。
「俺らさ・・・もう出会ってずいぶん長いし・・そろそろ付き合わない?」
馬鹿か!?なんて軟派な告白だろう!事前に練習した言葉は意味をなさず、なんとも歯切れの悪い言葉となってしまった・・・
だが問題ない。そもそもこの告白なんて形式的なものだ。
この長い間楽しくやってきたのだ。断られるなんてありえない。
それを証明するかのようにサキは驚いた表情を見せると目を伏せ、顔を赤くして
「え・・・ヤダ・・・」
と返事をした。
「・・・?」
現実逃避を始めた俺の脳は、このあとサキが涙を流して「うれしい・・・」と続くことを期待した。
が、いつまでたってもその続きが来ない。
聞き逃したか、と勘違いした俺はもう一回告白することにした。
「すみません!付き合ってください!」
「嫌です・・・好きじゃないし・・・」
完全に拒否されていた。
訳が分からない。告白して振られた?
俺とサキは長い間良い関係で過ごしてきたはずだ。
小さい頃はよく遊んだし、中学生の時だってサキ買い物に付き合ったこともある。
なのになんで?
「なんで…?」
声に出ていた。
「だって…別に好みの顔じゃないし…」
いきなりショックの大きい言葉を言われる。顔はどうにもならない。
サキの言葉は止まらない
「それに優しくないしさ…パソコン教えてって言ってるのに訳わかんないこと言うし…」
それは理解しないそっちが悪いじゃん!大体俺も詳しくないんだよ!
そう言い返したかったがもはや頭の中は真っ白になり、焦点が合わなくなっていた。
サキは申し訳なさそうにしているが少しニヤついていた
「あと弱いし…体育でボールぶつけられて泣いてたじゃん」
現役サッカー部のシュートが顔に当たったら泣くに決まってんだろ!
というか思ったよりもサキの理想が高過ぎる。少女漫画の見過ぎじゃないか。そんな男は存在しない。
手足が異常に冷えて体が震えてきた。もうやめてほしい。
だがサキはとんでもない言葉でトドメを刺してきた。
「つまり…ほら…『運命の人』じゃなかったっていうか…?」
運命の人!?
なに言ってるんだこの人は…と思ったが、それでも初告白で断られた上に傷心した身には深く突き刺さった。
まるでこの十数年間の積み重ねが一気に否定されていく気分だった。
流石に言い過ぎたと思ったのかサキは小さく咳払いをして慰めるように言った。
「だから告白は嬉しいけど、友達のままでいようよ、ね?」
「うるせ〜〜〜〜!!!!!!!!」
惨めすぎる俺は大声を出して必死に自分を守った。
「別にお前のことなんか好きじゃねーし!なんとなく告白しただけだし!大体さっきから理想が高すぎんだなぁ!そんな奴今どきいないから!もっと現実見たらどうだよ!
もう良いよ!もっと楽な奴と付き合うから!じゃあな!」
早口でそう言って俺は屋上から走り去った。
負けてられないと思い切り言い返したが、誰が見ても俺は負け犬はだった。
去り際に
そういうところだよ、
と言われた気がしたがきっと気のせいだ。
そして俺は走った。息が切れても走った。周りの人に変な目で見られようが見向きもせず走った。横断歩道で赤信号の時はさすがに止まったが青信号になったらまた走った。
家に帰ったら不貞寝しよう。今日はもう忘れよう。そう心に誓って走った。
そして家に着き、玄関を開けようとしたが
ガチャガチャ…
ドアが開かなかった。
そういえば今日親は出かけると言っていた。苛つきながらポケットを漁る。しかし見つからない。どうやら家の中に置いて行ってしまったようだ。
「……もうやだ…」
今日は嫌なことばっかりだ。
そんな事を思いながらドアに手をつき膝から崩れ落ちた。
今更ながら俺の名前はリョウだ。
成績は普通。運動能力も普通。顔は…たぶん普通。
この物語はそんな俺が彼女を作るために、サキを見返すために99人に告白し、そして99人全員に振られるまでのストーリーだ…。