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第七話 三日目 ミサンガ

 翌朝、起床して食堂に行くと、昨日倒れちゃったせいか、みんなに心配された。

 朝までぐっすり寝たおかげか、かなり頭がスッキリしている。睡眠ってホント大事だね!

 その後、アルバートさんの部屋を訪れて、彼にも心配かけたことを謝った。でも、わたしに止めを刺したのは、イケメンで美尻すぎる彼だと思うんだけどね。


「もう無理するんじゃないぞ」

「うん。スキルの使用限度について理解したから、次からは気を付けるね」


 あんなにフラフラになるなんて、経験しないと分からないことだった。

 もうちょっと体力に余裕を持って作業は止めないとね。


「次はミサンガの作り方を教えてください!」

「おっ、すごいやる気だな」

「うん! 色々スキルを試すのが楽しくて」

「そうか。なら、見回り前に教えておこうか」


 もう既に馴染みとなったアルバートさんのファンシーな寝室で、さっそく手芸の講義が始まる。

 二人で仲良くベッドに腰かけていた。


「実は編み方は色々あるんだが、今回は初心者でも分かりやすいものにしよう」

「うん! よろしくお願いします!」


 色とりどりの刺繍糸をアルバートさんが用意してくれた。

 という訳で、さっそく作ってみた。


「仕上がりが微妙に変だよね。表は気を付けていたけど、裏側が変になってる!」

「コツは力加減と糸のねじれを直すことだな」

「うう、わたしが雑ってことなんだよね」

「いやいや、違うぞ。すぐに決めつけるんじゃない。これは経験して学んでいくことだ。気にするな」

「そっかー。慣れか。地道に頑張るしかないのね」

「そうそう長い旅路も一歩からだ。それに、性能は見た目通りではないことが多い。もしかしたら、これも意外に高性能かもしれないぞ。調べてみるか?」

「うん!」


 アルバートさんがまた検知のレンズを持ってきてくれた。

 ワクワクするけど、こんなに下手なら、駄目だよね。


「まずは私が作ったものを見てみよう」


名前「綺麗なミサンガ」

性能「耐久性(高)」


「魔法付与スキルのない私が作ったものには、特殊な効果はないだろう?」

「そうだね。やっぱりスキルの有無が関係あるんだね」

「ああ、残念ながら私には才能はなかったし、後天的にも得られなかった」


 彼は言っていた。訓練でスキルを得られるのは稀だと。


「どうしてアルバートさんは、魔法付与スキルが欲しかったの?」

「魔法付与のスキルを持つ者だけが、着衣魔法具職人として、世間体を気にせず手芸できるからな。でも、剣の師匠から刻印を継いでからは関係なくなった」


 そう言ってアルバートさんは笑うが、その表情は無理に作ったように感じた。

 彼は元々手芸を活かした仕事をしたかったのに、この国では許されなかった。

 そんな中、アルバートさんの師匠が死んで、彼は八剣士になったんだ。恐らく、否応なしに。


「誤解がないように言っておくが、刻印を授かったことは誠に栄誉なことだ。師との絆の証なのだから。私はそれも誇りに思っている。だから、国のため八剣士として我が身を捧げるつもりだ」


 危険な役目すらアルバートさんは受け入れている。

 彼の覚悟を強く感じて、わたしはこれ以上彼の本心について触れられなかった。


「――この国では、男女のあり方が違うんだね。わたしの国では、仕立て屋さんがあったけど、男女問わず仕事をしていたよ」

「水月の国では、男が手芸をやっていても変ではないのか?」

「うーん、やっぱり女性向け、男性向けっていう概念はあるけど、わたしとしては、なにが好きでも個人の自由だと思う。だから、私はアルバートさんが手芸をしていてもなんとも思わない。むしろ、アルバートさんのおかげで、こうして手芸を学べるから、すごく感謝しているよ」


 アルバートさんにすり寄るつもりはなく、これは自分の本心だった。

 いちいち他人の好みに文句を言う奴が、野暮って感じ。

 すると、アルバートさんは目を大きく見開いたまま、こちらを見て固まっていた。

 まるで何か大きな発見があったような驚いた顔つきだった。


「どうしたの?」

「いや、そう言われて感謝されたのは初めてだったから……」


 良く見たら、アルバートさんの顔が少し赤くなっている。目線もわたしから逸らして少し泳いでいた。

 恐ろしい魔物に追われても彼は毅然としていたのに、こうして照れて戸惑っているのは珍しい気がした。

 だからなのか、動揺する彼が、可愛らしく感じた。

 微笑ましい気分でアルバートさんを見守っていたら、彼からふと視線を向けられた。

 強い意思と情熱が込められた両目が、わたしを見つめる。宝石のように綺麗な翠瞳は、感極まったみたいに少し潤んでいた。曇りなくまっすぐに向けられ、わたし以外は映っていないみたいだった。


「ふあ!」


 思わず声が漏れてしまった。イケメンがそんな顔をしたらダメでしょう!

 だから誤解されるのよー。

 顔が熱くなるのを感じながら、わたしは心の中で彼に突っ込んでいた。


「私の趣味を受け入れてくれた数少ない理解者は弟だけだったが、今は水月もだ。ありがとう」

「い、いえ。そんなお礼を言われることでは」

 

 ただ感謝されただけなのに自分の過剰な反応が恥ずかしくなる。さらに、アルバートさんの熱い視線に耐えきれなくなり、わたしは下を向いた。

 彼も照れくさくなったのか、ゴホンと咳払いをして、わたしのミサンガを調べ出していた。

 わたしも気持ちを切り替えないとね。


「よし、次は水月の作ったものを見てみよう」


名前「聖女が初めて作ったミサンガ」

性能「耐久性(低)、防御力アップ(高)、武器攻撃無効、魔法攻撃無効、即死無効、状態異常無効」


「うわっ、どういうこと? 性能がすごいことになっている!」


 隣にいるアルバートさんを見ると、彼も驚いた顔をしていた。


「すごいな。この性能の多さははっきり言って異常だ。通常なら、性能はせいぜい一つぐらいしかつかない。聖女が初めて作ったものは特別なのかもしれない」

「そっかー。わたしが新しく何か作ると最強なアクセサリーができるんだね。面白い!」

「確かに興味深いな。だが、申し訳ないが、これから私は見回りの仕事がある。これ以上は教えられないから、引き続き同じものを作っていてくれないか? 二作目以降の性能も調べてみたい」

「了解です!」

「無理するなよ」

「はーい!」


 わたしは元気よく返事をして、仕事に向かうアルバートさんを見送った。


 それからわたしはミサンガを量産していった。ところが、二作目以降は名前が「聖女のミサンガ」と変わり、性能が「耐久性(低)、防御力アップ(高)、状態異常抵抗(中)」となっていた。

 しかも、十個くらい作っても、名前と性能は変わらなかった。


 まぁ、最初よりは劣るけど、一つ以上あるし、性能としてはいい感じだよね? 

 そういえば、尻好きのインパクトのせいで注目していなかったけど、わたしの祝福レベルが数字ではなく、∞って書かれていて、おかしくなっていた。これって無限大ってことだよね?

 あの神様らしき人がわたしに力を授けるときに多すぎたって言っていたけど、もしかして祝福のことだったのかな。うん、きっとそうだろう。


 じゃあ、最後に神様が間違えたのは、なんだったのかな?

 よく分からない。判断するための情報が少な過ぎる。


「うーん。でも、どうして防御系だけしか付与できないんだろう。アルバートさんは魔法で攻撃もしていたから、そういう魔法付与もできるはずだよね?」


 わたしは検知のレンズで自分の手を覗いてみる。すると、魔法付与レベルが上がっていて、1から2になっていた。

 きっと魔法付与レベルが低すぎて、攻撃魔法まで付与できないんだ。そう推測して、わたしは引き続きミサンガを作り続けた。

 アルバートさんが戻ってくるまでに、何か新しい発見があったほうが、彼も喜んでくれるよね。


 次にレベルが上がるまで、ひたすら没頭した――。



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