第一話 異世界へ
わたし、高里水月は二十四年間生きていて初めてだった。
目が覚めたら、寒空の下にいたなんて。
確か、家で寝てたと思うんだけど、ここどこ?
わたしは慌てて自分の身体を見下ろす。服は眠ったときの――見覚えのあるシャツとズボンのままだ。特に乱れはなかった。いつもどおりのぺったんこの自分の胸を見て、このときばかりは安心した。
でも、持ち物が何もないのは、ちょっと困りものよね。
吹きつけてくる風が冷たい。せっかく春がきたっていうのに、冬に逆戻りしたみたい。おかげで、体が冷え切ってしまっている。わずかに体が震えていた。
わたし、職場から終電で帰ってきて倒れこむように家で寝ていたんだよね。
でも、いつもと違ったのは、今日に限ってちょっと変わった夢を見たんだ。神様を名乗る変な男が勝手に話しかけてくるやつ。そして、寒くて目が覚めたら、こんな状況に陥っていたわけ。
はっ! まさか、これって創作でよくある異世界転移……?
わたしは改めて周囲を見渡した。
人工的な灯りなど一切なく、あるのは草と木だけ。
しかも、少し前からゆっくり暗くなってきている。もしかして、太陽が沈みかけているの?
やばい。暗くなったら身動きが取れなくなっちゃう。
よし、それじゃあ、恥ずかしいけど、異世界に来たなら、さっそく試してみようかな。
わたしは何もない空間に手をかざす。
「……ステータスオープン」
しーん。
異世界系の定番な台詞では、何も起きなかった。
あれ? こういう場合、ステータス画面が出てくるんじゃないの?
「アイテムボックス」
「スキル!」
気を取り直して他にも色々試したけど、特殊な技能は何もないみたいだ。
あれ、わたし無力じゃない? いきなりこんな見知らぬ場所に女性一人を放置なんてひどいよ。
このままじゃ、わたし冒険が始まる前に遭難しちゃう!
「助けてー! 誰かいませんか!?」
思わず大声を出したとき、ガサガサと草木を掻き分けるような物音が遠くから聞こえた気がした。
えっもしかして、さっそく誰か助けに来てくれたの?
息を凝らし、聞き耳を立てる。わたしの前方から何かがこちらに勢いよく近づいているみたい。その気配は、どんどん大きくなる。
――何かが来る!
現れたのは、テレビで見る格闘家のような雰囲気の男だった。しかも、金髪碧眼の外国人だ。呼んだ途端に反応して来てくれるなんて。
ところが、彼はわたしを見るなり、
「木の陰に身を隠しなさい」
緊迫した声でいきなり指示してきた。
まさかの流暢な日本語。でも、そんなことを気にしている場合じゃない。彼の真剣な表情から、ヤバイ雰囲気が伝わってくる。
彼はわたしの前に立ちはだかると、何かからわたしを守るように、大ぶりな剣を両手に構えた。
薄暗い中でもはっきりとわかるくらい筋肉質な体つきで、こんな時に不謹慎だと思うけど、特に大殿筋――お尻の筋肉が素晴らしい。あと、ちらりと見えた顔は相当なイケメンだ。
でも、彼って、なんて格好しているの……。
上半身は裸で何も着ていないし、唯一身につけているのは白い下着。お尻の形も露わなブリーフみたいなパンツだ。あとは首に長いマフラーを巻いているだけって。こんな寒空で、明らかにおかしくない?
彼の視線の先の方向から、重い物が勢いよく倒れるような地響きが聞こえた。その音は、こちらに向かって近づいてきている。
今度は一体なに?
新たな脅威を感じて、わたしは息を呑む。
薄暗い中、目を凝らして観察すると、イケメンの正面に巨大な黒い何かが迫っていた。丈夫な太い木々を勢いよくなぎ倒しながら近づいてくる。
一言でいうと、巨大な蜘蛛だった。胴体部分が丸い塊で、そこから長細い脚が何本も生えている。大きさは、工事現場で見かけるブルドーザーくらいに見える。
「きゃぁぁっ!」
わたしは情けなく叫んでしまうが、パンイチマフラーのイケメンは私を守るような位置から動こうとはしない。
イケメンが巨大な蜘蛛のモンスターと向き合っている。
蜘蛛のモンスターもピタリと立ち止まり、紅い目を爛々と光らせて、目の前にいるイケメンを狙っている。節足の脚には、びっしりと黒い毛が生えていて、動くたびにカサカサと擦れるような不気味な音が聞こえる。
あれは……、生理的に受け付けられないやつだ……。
蜘蛛のモンスターはイケメンを警戒しているのか、様子を窺って、すぐには襲ってこない。
わたしはハラハラとこの緊迫した状況を見守っていた。
「くっ、この技は使いたくなかったが……」
イケメンは小声でそう呟くと、「着衣に秘められし力よ、その力を現せ!」と、叫んだ。
「???」
突然イケメンがわけわからないことを言い出す。もしかして、恐怖のあまりに錯乱でもしちゃったの!?
ところが、イケメンがはいていた白いパンツがいきなり光り輝いた。
繊維の一本一本が何か神秘的な力を持っているように、パンツ自体が神々しい光を発している。わたしはあまりの眩しさに直視できなくなる。
何故パンツが光るの?
疑問は蜘蛛のモンスターの反応で吹っ飛んだ。モンスターが動き出し、いきなり襲いかかって来た。脚を素早く動かしてイケメンに向かってくる。
突進で大木をなぎ倒すほどのモンスターだよ!?
いくら逞しそうな人でも、ブルドーザーの直進は受け止められない。このままでは、イケメンもろともわたしも押し潰される!
絶望が目の前に迫ったとき、イケメンは剣を地面に差し、両足を地面にしっかりつけたまま、右手をまっすぐ相手に突き出した。
「くらえ! クロスレーティング18・神聖流破火炎砲!」
イケメンの声と共にパンツがさらに輝き、それと同時にイケメンの右手から炎が放射される。燃え盛る火柱は激しく渦を巻き、地獄の業火のような凄まじい勢いで蜘蛛に向かって突撃していく。ぶつかった瞬間、激しく爆炎が上がり、蜘蛛のモンスターは大きく吹き飛び、全身が一瞬で炎に包まれる。
「うそ……」
それは、間違いなく魔法の力だった。炎に焼かれた蜘蛛のモンスターは、身動きを取ることもできずに燃え上がっている。
魔法を使った後、彼のパンツは消えてなくなり、後ろからお尻が丸見えになっていた。無駄な脂肪はほとんどなく、ずいぶんと筋肉質で逞しい。
今まで沢山のお尻を見てきたけど、その中でも稀に見る素晴らしい美尻だ。絶妙な臀部筋のバランス。うん、実にわたし好みだ。まさか、こんなところで理想のお尻に出会えるなんて!
あっ、いけない! 口からよだれが。
いや、イケメンの美尻はひとまず脇に置いておいて。
問題は消えたパンツだ。魔法を使った後、まるで寿命を使い果たしたみたいに光り輝いた後、綺麗に消えた。
わたしがぼうっとイケメンの尻に見とれていると、彼の背中にある異変に気付いた。
腰近くにゴルフボール位の黒い影があった。もしかして、彼は怪我をしているの? 目を凝らして注意深く確認したら、どうやら違うみたいだ。痣か刺青なのか、花のような形をしていた。
「ふう」
イケメンの疲れたようなため息が聞こえて、舐めるように尻を見つめていたわたしはハッと我に返った。
蜘蛛のモンスターは死んだのか、巨体は身動きせず、延々と燃え盛っていた。どうやら当面の危機は去ったみたいだ。
イケメンはようやく安心したのか、地面から抜いた剣を鞘に収めた後、わたしに振り向いた。動いた勢いで、彼の首に掛かっているマフラーがひらりとたなびく。
「あっ!」
わたしは慌てて自分の顔を両手で覆い隠した。かろうじてマフラーが彼の大事な部分を隠しているけど、もう少しで見えそうだったから。
年齢=彼氏なし歴のわたしには、二次元ではなく実物は少々刺激が強すぎた。否応なしに顔が熱くなってくる。
「ちょ、ちょっと! 前を隠してもらえますか! み、見えちゃう!」
「国のために戦っている。私に何も恥じるものはない」
イケメンは胸を張り、堂々とした様子で腕を組む。そんな彼に羞恥心は全くなさそうだ。
いや、わたしが恥ずかしいんですけど……。まぁ、せっかく見せていただけるなら、むしろ美尻をよく見たいと言うのが本音だったりします。えへっ。
「何か言ったか?」
「いえ、何も!」
危ない。欲望が口から出てしまいそうだった。
「ところで君は逃げてなかったのか。案外肝の据わった奴だな」
イケメンは感心した顔を浮かべると、落ち着いた様子でわたしに近づいて来る。
「君の声が聞こえたから助けにきたが、こんなところで何をやっていたんだ?」
そっか。わたしの声を聞いて、慌てて助けに来てくれたんだ。彼だってあんな大きな蜘蛛に追われてピンチだったのに。すごく勇敢な人だなぁ。
彼の長い金髪は後ろで束ねていた。頬に流れた後れ毛が風に揺れてたなびいている。残り僅かな西日に照らされて、煌びやかに輝いていた。
目鼻立ちがはっきりとした綺麗な二重の清潔感ある美形なだけあって、非常に絵になる姿だ。
幸いなことに長いマフラーが彼の大事なところを隠していて、さりげなく良い仕事をしている。
正面を向いているせいで美尻が見えない以外は、文句のつけようがない。
指の隙間から、ちゃっかり確認してしまった。
「あの、モンスターから助けてくれてありがとうございます。実は遭難していました」
「遭難だと? 魔物が現れるこんな場所で、物好きな奴だな」
イケメンがあきれた顔をする。
「あの、これには深い事情がありまして。それよりも、どうして裸なんですか? 寒くありませんか?」
わたしの指摘にイケメンは意外そうな表情を浮かべる。
「もしかして、着衣魔法を知らないのか?」
「着衣魔法……? もしかして、服を消費して魔法を使うやつですか?」
「そうだ。我が国で魔法といったら、着衣魔法のことだろう」
「じゃあ、下着を使ってモンスターを倒せなかったら、後はマフラーだけだったから危なかったんですね」
「ああ。それすらなくなった場合、残された手段は剣での応戦となるが、あのサイズの魔物が相手となるとかなりまずい状況だった」
「ひぇ!」
すごく物騒な世界すぎて、思わず悲鳴が漏れた。
でも、着衣魔法かぁ……。懐かしいなぁ。
中学生の頃、わたしはマニアックな乙女ゲームをプレイしたことがあった。その名も『クロスマジック! ~聖なる服は、世界を救う~』という微妙なものだった。
復活した魔王のせいで魔物が世界にはびこってしまったので、聖女として召喚された主人公がイケメンたちのために魔法を仕込んだ服を作って手伝いをするのだ。
思い出してみれば、そのシステムによく似た魔法だった。
「ああ。しかし、さきほど媒体にした下着は、あそこまで威力のある魔法は仕込まれていなかったんだがな。君が何かしたのか?」
彼にじろじろと綺麗な瞳で見つめられて、思わずわたしはたじろいだ。
「いえ、全然!」
「そうか」
イケメンはすぐに引き下がったが、わたしのことをまだ探るように観察してくる。その視線が気になるし、相手は裸で落ち着かなくなる。
「目のやり場に困るわ……」
顔を両手で覆い隠しながら、彼のことをチラ見する。
さすがにわたしは恋人でもない男性の裸を見て喜ぶほど変態ではない。
あっ、もう少し横にずれれば尻が見えそう。ズリズリ。
あ、見えた。
変態ではないってば。チラチラッ。
そういえば、あの『クロスマジック』のゲームをプレイしたとき、イケメンたちを裸にしようと、わざとライフポイントを減らしてギリギリ危険な状態まで追い込んでパンツ魔法を使わせていたんだよね。
パンツ魔法は必殺技だから、さっきみたいに大ダメージを与えられる反面、男キャラは裸になっちゃうのよ。裸になったら魔法が使えないからやばいんだけど、パンツ魔法を使うためには着衣魔法のスキルを最高レベルのクロスレーティング18まで鍛えなくてはならない鬼畜仕様だった。
時間をひたすら掛けてレベル上げしたら、今度はザコ敵では楽勝になっちゃって肝心のパンツを脱がずに戦闘が終わっちゃう始末。だから、死ぬか死なないかの瀬戸際の戦いに持っていかなくちゃならなかったんだよね。
ようやくそれが実現したのは、ラスボス魔王でのパンツ魔法だった。
あのイケメンの美尻イラストが画面に表示されたときの感動はひとしおだった。
それからラスボスを倒して振りかえるわたしの推しキャラ。あのときの興奮は今でもまざまざと思い出される。でも、すぐに前を向いて美尻は見えなくなったのよ! 前はいいのよ、尻よ、尻を見せて!
そのわたしの願いは虚しく、一瞬だけ映った後は、前しか出なかったわ。しかも、その前も謎の発光物体に邪魔されているし。
一体何がしたいんだってブチ切れたわ。何のために奴らを脱がしたと思っているのよって、ふつうは思うでしょ? だから、その不満を開発メーカーにぶつけようとソフトのパッケージを手に取ったら、見えちゃったわけよ。
全年齢対象っていう非情な文字が。
そりゃ、そうだよね。表示できるわけないよね。いや、むしろ尻が一瞬でも出てきただけでも奇跡だった。
ゲーム内でクロスレーティング18略してR18ってしつこいくらい出てきたから、ゲームがいつの間にかR18だと勘違いしていた。
ああ、思い出せば出すほど、中学生のわたしってバカだったなー。
このゲームにはまった後は、押しキャラ同士のBL二次創作にはまったんだよね。いやー、当時のわたし、どっぷり腐女子をしていたなぁ。今ではノーマルカプに戻ったけど、ほんと懐かしい。
まあ、そんなおかげでマニアックな性癖に目覚めた気がするけど、雑誌や写真集とかで新たな美尻との出会いがあるおかげで、ブラックな企業でも働き続けられた。今では感謝しかない。
だからというわけではないけど。
目の前に理想の美尻がいるからって、覗きたいわけじゃないんだけど。
やっぱり、つい視線が奪われちゃうわよね。美尻って、ふつうの女子を変態にしちゃうんだもの。ほんと罪深い。
ふとイケメンを見ると、彼はまだ注意深くわたしを見つめていた。
「……もしかして、君は、いやあなたは、そんな男みたいな髪や格好をしているけど女性なのか?」
「えっ、そうですけど……」
相手の言葉に密かにショックを受けたけど、わたしは正直にうなずく。彼のいうとおり、わたしの格好はパッと見では男の子に見えなくもなかった。髪は手入れが面倒くさくて短く、体型は小柄で食欲不振で痩せ気味だったし、もとから控えめだった胸の膨らみは、最近ではさらに目立たなくなっていた。服装だってシャツとズボンだ。分かりにくかったのは仕方がないよね。ぐすん。
「そうか。誤解してすまなかった。男の格好をしているのに、やたら可愛いからおかしいと思ったんだ」
あんな恐ろしいモンスターの前で堂々としていたアルバートさんだったけど、このときばかりは慌ててわたしに謝っていた。そんなギャップが可愛らしかったし、彼の慌てぶりを見ただけで、彼に対して何も不快感はわかなかった。それよりも、彼の口から可愛いってお世辞まで言われて、すっかりご機嫌になっていた。
「いえ、大丈夫ですよ」
「本当に申し訳ない。それなら女性の前では、この格好は流石に悪いな。何か羽織るものがあれば貸していただきたいのだが」
「ごめんなさい。ないです」
余分な上着を持っていなかったのは本当だし、寒いのは可哀そうだけど、せっかくの尻を隠すなんて、とんでもない。そんな気持ちが表れてしまったのか、思わず首をぶんぶんと勢いよく振ってしまった。
ふと、指の隙間からイケメンと視線が合った。若干彼が引き気味なのは気のせいだろうか。うん、気のせいだろう。
「……そ、そうか。では、仕方がない。このまま帰るか。ところで、あなたも一緒に行くか?」
「は、はい!」
渡りに船とは、このことだ。
最初はどうなるかと思ったけど、このイケメンと偶然出会えて本当に幸運だった。
凶悪なモンスター、いや彼は魔物と言っていたけど、こんなものが出る世界で、絶対一人きりにはなりたくない。
「実はこの首に巻かれているマフラーには、瞬間移動魔法が込められているんだ」
「へぇ、そうなんですか」
じゃあ、なんでさっさと使わなかったんだろう?
そう疑問に思ったとき、イケメンは苦笑した。
「でも、少々問題があるんだ。一つ目は、この魔法自体が非常に貴重であること。二つ目は、マフラーに付与されている魔法の性能の問題だ。これは機能がいまいちで、対象者の装備や荷物までは一緒に転送してくれないんだ」
「ということは服もダメってこと?」
イケメンはわたしの問いにすぐにうなずく。
「そうだ。もうすぐ暗くなるし、私の着衣魔法もすっからかんだ。だから、別の魔物と遭遇する前に戻りたい。私と一緒に来るなら、申し訳ないが現在あなたが着ている服は諦めてもらうことになる」
「えええっ!?」
イケメンから提示された究極の提案にわたしは度肝を抜かれるが、よくよく考えれば、彼が最後まで瞬間移動魔法のマフラーを使わなかった理由にも納得がいった。
「わ、わかったわ。突然見知らぬ世界に来てしまって、このままあなたと別れたら、路頭に迷うことになるから」
「突然見知らぬ世界に来た? まあ、事情は後々聞かせてもらうことにしよう。よし、じゃあ私のそばに来るがいい。一緒にマフラーを巻こう」
促されて彼の真横に近付くと、長いマフラーがわたしの首にも掛けられた。
はっ! この状態で下を見たら、彼の前を隠すものがなくてやばくない!?
尻に惹かれて下は見ない、見ないわ!
わたしは理性を総動員させた。
「えーと、そうだ、失礼。まだ名乗っていなかったな。私はアルバート。第三騎士団の団長を任されている。あなたの名前は?」
彼が名乗ったのは名前だけで、苗字はなかった。なら、わたしも同じほうがいいかな。
「わたしは、水月よ」
「よろしく」
イケメン改めアルバートさんが手をわたしの顔の前に差し出してきたので、友好の印かと思って、わたしは彼の手を握り返した。
すると、彼のにこやかだった顔つきが突然真面目なものに変わった。しかも、わたしの手は、なぜか力強く握られたままだ。離してくれない。まるで逃さないと言わんばかりだ。
どうしたんだろう?
「アルバートさん……?」
「やはり、あなたは」
彼が息を呑むのを感じた。
わたしを見つめる顔は真剣で、しかも近かった。彼のエメラルドの瞳が、夕陽に照らされて輝いている。長い金色の睫毛も装飾のように目の縁を彩っている。
どうしよう。美しすぎて、それ以外に言葉が浮かばない。胸が苦しくなるほど、心臓が激しくドキドキしてる。
イケメンの側にある空気って薄いのかな。息を吸っているはずなのに頭がクラクラしてくる。
ヤバイ。このままだと、わたし死ぬかも。
「……あの、どうしたの?」
わたしが耐えきれなくなって声をかけると、彼はハッと我に返ったように目を瞬いた。
「ああ、すまない。クロスレーティング15・転移魔法発動。クレフォード砦へ移動」
アルバートさんは魔法の呪文を呟いた。
すると、突然目の前が光ったと思うと、景色が変わった。同時にエレベーターで急に移動したような重力の変化を全身で感じた。
一瞬で周囲の植物はなくなっていた。その代わり、ごつごつとした急斜面な岩場が目に入った。
アルバートさんはちゃんと一緒で目の前にいる。わたしの目が先ほどの光でチカチカしている間に握っていた手を離してくれた。
それから、すぐに感じた寒気。全身がスースーする!
見下ろせば、今までわたしが着ていた服は言われたとおりなくなっていた。
「きゃあ!」
わたしは慌ててしゃがみ込んだ。