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第六章 マラケシュ・シティ

巨大な紋章が赤茶けた砂漠に白く立体模様のように描かれている。

それが自治領マラケシュの首都マラケシュ・シティだった。

太陽とそこから噴き出す8本のフレアをデザインした帝国自治領マラケシュの紋章。

マラケシュ・シティは巨大な紋章を象った都市で4000万人以上の人口を擁していた。

〈ファンタジー〉はその上空に優雅な船体を浮かべている。

立太子式の前日とあって、白い紋章都市のあちらこちらから、巨大な閃光花火が次々と打ち上げられ、七色の光輝を大気中に撒き散らしている。

お祝いモードは発火点寸前と言える。

「前日で、この騒ぎだからねえ、明日はどんな騒ぎになるんだか」

ラムファが語りかけてくる。

思念融合中なので、直接メイリンの頭の中に響く。

「それよりも、さっさと宇宙港に降ろしてしまうよ。誘導ビームが来てるし」

メイリンは操縦モードを誘導ビームに合わせて切り替えた。

着陸はAIがやってくれるので監視しているだけでいい。

メイリンは目をマラケシュ・シティの中心部に向けた。

太陽部分の中央には黄金色の巨大なドーム建築が鎮座している。

太守宮だった。

その周りはドーナッツみたいな幅広いベルト状の緑豊かな広場になっている。

その一角に大きな白いテント状の構造物が確認できた。

「銀河大曲技団」の公演用のテントだった。

「あそこで公演するんだね」

ラムファが語りかけるがメイリンは無言だった。


空港はマラケシュ・シティから少し離れた砂漠の中にあった。

一目で軍用とわかる流線型をした銀色の小型船が並んでいる。

パトロール艇なのだろう。

大きさは〈ファンタジー〉の三分の一程度で艦首にはパルス・レーザー砲が備え付けられている。

何百隻あるかわからない。

整然と模様のように並べられている。

「明日の式典の警備用なんだろうな。ずいぶん並べたもんだ」

ラムファが感心している。

「なにしろ政情不安定だからね、テロに備えるためだろうな」

メイリンもその銀色の小魚の群れのようなパトロール艇群を見て一抹の不安を感じていた。

〈ファンタジー〉はターミナルビルのすぐ傍らに着陸する。

すぐに通信が入った。

スクリーンには若い男が映し出される。

灰色の軍服を身に付けた細面の男である。

「G・ギルドの皆さん。ようこそマラケシュ・シティへ。私は式典担当のカリム中佐です。いまから打ち合わせに伺いたいのですが」

「私は船長代行のジョーン副船長です。お待ちしています」

船長席に座ったジョーンが答える。

その船長席は〈ブラック・キャット〉のそれよりもひとまわり大きくずっと豪華なしつらえだった。


「この二人がパイロットなのか」

カリム中佐はメイリンとラムファを見て目を丸くしている。

なにか場違いのものを見ているような態度である。

「本ギルドのエリートパイロットです。自信を持って推薦できる能力の持ち主です」

「それにしても……」

カリム中佐は依然として不安げな表情を崩さない。

「なにしろ、皇太子さまが御乗船あそばされるわけで……なにか不都合でもあれば……」

「腕前は心配いりません、それに思念融合中はずっとコクーン状態のパイロットシートについておりますので姿をご覧になることはないと思いますが」

ジョーンがたしなめるように言うとカリム中佐もうなずいた。

「まあ、そうだな、貴賓室にお入りになる訳であるからな。案内は船長代行がやってくれるということであるな」

「そうなりますね。ところで飛行コースですが、星系の再外縁惑星周回コースでよろしいのですね」ジョーンが念押しするように尋ねる。

カリム中佐の顔が曇る。

「実はな、皇太子さまが今日になって、銀河最速のスタードライブも体験なさりたいと仰せでな、急きょだがコース変更できまいか」

「短距離なら可能ですが」

ジョーンが答えると、カリム中佐はほっとした顔をした。

「ぜひにお願いしたい。変更したコース予定を送ってもらえるかな」

「一時間もあれば送れます。中佐あてに送ればよろしいのですか」

「ぜひにそう願う」

カリム中佐は嬉しそうに笑った。


「スタードライブ入れるとなると。このまえの、あそこしかないな」

カリム中佐が帰った後ジョーンは二人を見て言った。二人はうなずく。

「ところで、やっと船長から解除コードが来たので、今さらだが、武器システムをチェックする。コードは私が入れる」

二人はパイロットシートに着き思念融合する。

ジョーンが船長席から解除コードを入れるといままでブランクだった領域が二人の目の前に現れる。

かなり大規模なシステムだった。

「多重防御シールド異常なし、パルスレーザー砲4門、迎撃ミサイル発射管4基、ニュートロンビーム砲2門異常なし、ステルスフィールド投射装置異常なし、思念融合艦隊指揮システムリンク50基異常なし……」

メイリンが次々とチェックするに従って、ジョーンの顔つきが厳しくなる。

「チェック完了しました」

メイリンが報告する。

「この船は艦隊指揮機能も持っていたのか。しかも50隻まで指揮可能とは……。太子の御座船というのは実は艦隊指揮艦ということか。しかし、この小型船にこれほどの機能が詰め込んであるとは思ってもいなかったな」

ジョーンは驚きを隠せない。

初めて〈ファンタジー〉の正体を知って唖然としているようだ。

「思念融合艦隊指揮システムというのは、初めて知りました」

メイリンが尋ねる。

「βのアカデミァに思念融合艦隊指揮コースがあるの、そこの最新システムがこれだよ」

ラムファが教える。

「思念融合パイロットの適性に艦隊指揮の適性を併せ持たないと入れないコースか」

ジョーンが思い出したようにつぶやく。

「たしか帝国軍からの留学生がほとんどと聞くが」

「私の知っている限りでは、学生は100人ぐらいだと思います。パイロットコースと同じ実習もあるので顔見知りもいました」

ラムファが答える。

「マラケシュからの留学生もいたのか」

「どうだっかな……」

ラムファは考え込んだ。

「そんなコースがあるなんて聞いたことなかった」

メイリンは驚いていた。

「αに比べるとβは変わったコースが多いの、研究施設がβに集中しているせいもあるんだろうけど」

ラムファが説明する。

その時、メイリンは何か巨大なものが上空から降りてくるのに気付いた。

「大型船探知、軌道から着陸態勢に入るところです」

メイリンが報告する。

ホログラフィスクリーンに巨大な虹色の花が映し出される。

直径は500メートル以上ありそうだ。

「えーっ!これって船なの」

ラムファの驚きの声がメイリンの頭に響きメイリンは顔をしかめる。

「これは、聖アシン教団の船だ。この大きさだと、よほどの高位の神僧の御座船だな。立太子式の祝福に来たのだろうな」

花弁を何枚も重ね合わせたようなその船はしずしずと宇宙港に着陸する。

それに向かって、ターミナルビルから何十台ものシャトルが発進していく。

「すごいお出迎えだ、いったい何様が来たんだ」

ラムファがつぶやく。

神聖銀河帝国の国教である聖アシン教については知識として知っているが、その実際のあり様は無宗教のG・ギルドに所属する二人には知りようがなかった。

「さて、明日のコースを検討するか」

ジョーンの声に二人は融合を解除しコクーン状態のシートを通常に戻す。


さすがに太守の御座船として作られただけあって〈ファンタジー〉の乗員用の居室も狭いながら、かなり贅沢なしつらえであった。

例によって、メイリンの部屋にラムファが押し掛けていた。

二人掛けのソファが置いてあるので二人はそろって備え付けの大型ホログラフィディスプレイに映しだされるマラケシュの放送局のニュース番組を見ていた。

もちろんコーヒーカップは離せない。

「しっかし、どの放送局も同じような番組だね。明日の立太子式の話題ばっかだ」

ラムファは指先でチャンネルを変えながらぼやく。

指先を上下に振るだけでチャンネルが次々と変わっていく。

ラムファの指先が止まる。

「〈ファンタジー〉!」

メイリンがディスプレイを見て声を上げる。

画面では〈ファンタジー〉をバックにキャスターらしい金髪の美女がやや興奮した様子で話している。生中継らしい。

「これが、明日皇太子殿下がお乗り遊ばす。銀河最速船〈ファンタジー〉です。G・ギルドの技術力の全てがそそぎこまれたこの船は実に最高速度8000光速を誇ります」

「最高6000光速なんだけど、かなりオーバーだよね」

ラムファが呆れている。

「なんでもいいのさ、人目をひきつけるネタがあれば……ちょっと、皇太子ってあの子なの」

メイリンは画面に映し出された皇太子の顔を指さした。

「なんかどこかで見たようなぱっとしない感じだねぇ」

ラムファががっかりしている。

「同じくらいの歳?」

「立太子ってのは、15の歳にやるそうだから一つ下だよ」

「ふーん、15歳か……」

「なに考えこんでるの」

「15歳でもう将来決まってるんだなって、どうなんだろ」

「てっいうか生まれた時からでしょ。いいじゃない、将来はマラケシュ太守だ。なんでも好きなことできるじゃないの」

「好きなことか……」

メイリンはなぜか言葉少なげに、画面をじっと見つめている。


 立太子式の日、朝からすさまじい轟音とともに、マラケシュ上空に閃光花火が打ち上げられている。

メイリンとラムファはパイロットルームのホログラフィプロジェクターで立太子式の式典の実況中継を見守っていた。

デモ飛行は午後の予定なので、今のところはスタンバイの状況である、二人はパイロットシートに着き、映し出される式の進行を見守る。

船長席ではジョーンが同じように立太子式を見守っている。

映像は王宮内の広間のようで広大なホール内には王族・貴族・高官なのだろうか、何千人いるかわからないほどの人々が立ったまま整列している、

中央の紫のカーペットの上を豪華な衣装を身に纏った太守はじめとするお歴々が列を作って歩み、上座にある豪華な椅子に腰をかけた人物に次々と拝礼していた。

その人物は紫の衣を身に着け手には銀色の杖を持っていた。

人々は次々に拝礼し地に伏し、身を震わせ涙を流しながら下がってくる。

「あれって演技なの、ずいぶんとオーバーじゃない」

メイリンは拝礼者が感動の涙を流し顔を覆いながら、紫の衣の人物のもとから下がってくるのを不思議に思ってラムファに尋ねる。

「でもみんな同じように感動してるね、よっぽどうれしいのかね」

ラムファも不思議そうに答える。

「あれが、聖アシン教団の神僧だ。紫の枢機卿アーダムという方だよ。聖アシン教団では上から20番目の序列の神僧で、この星域の総司教の立場にいる方だ。昨日の船に乗って来られたのだな」

ジョーンが教えてくれる。

「そんなに偉い方なので、みんな感動して泣いてるんですか」

メイリンが尋ねる。

「あれは、ウェーブを授かっているのだ。神僧のウェーブを受けると。普通の人間はみなああなるのだ、人の感情をコントロールする力がウェーブにはあるらしい」

「みんな、ああなるのですか」

ラムファが尋ねる。

「意識してブロックしない限りはな。われわれのような思念融合パイロットは意識ブロックがあるのでそう影響を受けないはずだ」

「どんな感じなんだろ、あんなに簡単に感動できるなんて」

ラムファがつぶやく。

「聖アシン教団はこのウェーブの力を持って、神聖銀河帝国を支配しているといって過言ではない」

「帝国を支配しているのは、大皇帝ではないのですか」

メイリンが尋ねる。

「聖と俗のそれぞれの支配者が大教主と大皇帝なのだ、片や聖アシン大神殿に片や大銀河宮に、両者がそれぞれ強大な権限を有しているのだ。もっとも、現在は大教主は不在だがな」

「不在ってどこにいってるのですか」

「12年前に先の大教主は120歳で遷化され、現在転生者がまだ見つかっていない状況なのだ」

「転生者……」

メイリンとラムファが口をそろえる。

「大教主はこの世に転生を繰り返すと言われている。遷化すると10年以内に大教主にふさわしい精神属性をもった少年が見つけ出され転生者として大教主の地位に着く。以後100年以上聖アシン教団のトップに君臨するわけだ、今までは10年以内に見つかっていたのだが、今回はまだのようだ」

「10歳ぐらいで大教主になってしまうなんて」

メイリンはつぶやく。

「15歳で皇太子もすごい騒ぎだと思ってたら、10歳で大教主か、見つかったらどんな騒ぎになるんだか」

ラムファが例によって軽口をたたく。

その間にも映像は皇太子の登場を映し出していた。

深紅の衣装に金の冠を身に着け手には黄金の剣を携えている。

皇太子は紫の枢機卿の前に歩みだすと膝をついて拝礼する。

紫の枢機卿は片手をあげる。

皇太子の体が震えだしその場にひれ伏す。

ウェーブを授かっている様子である。

しばらくして皇太子はゆっくり立ち上がり。

枢機卿の傍らの椅子に腰をおろす。

紫の枢機卿が立ち上がる。

何かしゃべるらしい。

「音声入れます」

メイリンが言う。

放送の解説がやたらに煽りたててやかましいので音声を切っていたのだった。

「ここに、マラケシュ自治領太守の皇太子の立太子を大教主に代わり、紫の枢機卿アーダムが承認する」アーダムがそう言って両手を掲げた。

風が稲穂をそよがせるようにホールの人々は一斉に地に伏し身を震わせている。

「アーダム様のウェーブが今式場全ての人々に授けられました」

実況解説が厳かに告げる。

ホールにいる何千もの人々がたった一人の神僧のウェーブにより一斉に地に伏し身を震わせる光景。

それこそが聖アシン教の威光といえる。

「すごい……」

メイリンとラムファもその光景に息をのんでいる。

やがて、人々が立ち上がりもとのように並び終わる。

それを待つかのように、アーダムは椅子から立ち上がり皇太子に手を差し伸べる、その手を取り皇太子も席を立つと、アーダムは椅子の後ろへと皇太子を誘っていく。

椅子の後ろの広間の壁部分が大きく左右に開き始める。

それは巨大な扉だった。

人の背丈の20倍以上ある扉はしずしずと開きその奥に続く空間を明らかにしていく。

「奥の間があったんだ。二人だけで入るのか」

ラムファがつぶやく。

メイリンはじっと映像に映し出される光景に見入っている。

扉が完全に開きその奥にあるものが明らかになる。

それは巨大な虹色に輝く柱だった。

扉の上辺よりもさらに上に伸びているようである。

二人はゆっくりと手を携えて扉の奥へと進む。

「あれが、御柱(おはしら)ですか」

メイリンが尋ねる。御柱については以前アカデミァで資料を見たことがあった。

「そうだ、聖アシン教の唯一の礼拝対象物といえる。御神体というわけだ」

ジョーンが答える。

「それにしてもでかいな、ここのは50メートル級と聞くが」

「50メートル級の御神体って、珍しいんですか」

ラムファが尋ねる。

「いわゆる、聖地と呼ばれる場所には、100メートルを越えるのは珍しくないが、ここのように王宮内にこれだけのサイズのものがあるのは珍しいな」

 映像が切り替わり奥の間のクリスタルタワーを映し出していた。

先細りのオベリスクのようなそれは、照明を反射し虹色の光輝を撒き散らしている。

その基壇部分に黒い石で造られた階段状の祭壇があり。

二人はその祭壇を上っていく。

最上段に立ちアーダムは両手をかかげる。

「色が変わる……」

メイリンが声をあげた。

「きれい……」

ラムファのつぶやきが響く。

目の前に映し出された、クリスタルタワーは赤から黄、緑と色合いを目まぐるしく変化させていく。

やがて紫の光芒を最後に虹色の輝きに戻る。

「ウェーブに反応しているのだ。神僧のウェーブだけに御柱は反応すると言われている」

「人だけではないのですね、影響を及ぼせるのは」

メイリンは次々と見せられる神僧のウェーブの力に感嘆していた。

これこそ、まさに超能力と言えるのではないか。

 皇太子はその間ずっとひざまずき、拝礼の姿勢を崩さない。

やがてアーダムは皇太子の肩に手を置き再びウェーブを授ける。

皇太子の身が震えだしその場にひれ伏す。

アーダムは両手を掲げる。

「今、聖アシンより皇太子はその忠実なる従僕として認められた。今後は使徒アマガネと名乗ることになる」

アーダムは厳かに宣言する。

そして皇太子の手を取ると足元がおぼつかない皇太子を誘って祭壇を降りる。

「どうやら、これでメインのイベントは終わりだ、あとは祝典行事となる。予定では後2時間後にここを発進し、王宮上空で待機に入る」

「了解」

二人は口をそろえて返事する。


 シティの空は光輝に満たされている。

閃光花火はもとより、巨大で色とりどりのホログラフィボールが空のあちこちに浮かび出されている。

地上からプロジェクターで投影されているであろうそれは、皇太子のプロフィールをまとめた映像や、マラケシュの歴史を振り返るもの、また音楽番組など、多分放送局ごとに趣向を凝らしてこの日のために用意したものらしい。

〈ファンタジー〉は巨大な皇太子の顔の投影像を避けて王宮上空に停船している。

周囲には、昨日空港で見たパトロール艇が浮かんで監視している。

〈ファンタジー〉の周りだけで10隻位浮かんでいる。

「シティ上空だけで200隻も浮かんでるよ。すごい警備体制だ」

ラムファがため息交じりにつぶやく。

「地上もすごい警備みたいだ、軍隊を総動員してるみたいだね」

メイリンも地上のにぎわいを見ながら答える。

王宮の周りの広場は色とりどりの服装の人で溢れかえっている。

それに混じって灰色の軍服を着た者もかなり目につく。

「軌道上にも多数の艦船」

ラムファが報告する。

メイリンが軌道上を見ると。かなりの数の軍艦が確認できた。

「クルーザー級が12隻、コルベット級が24隻、ミサイル艇が50隻か。全軍総動員のようだな」

「どの艦もまだ帝国軍の現役モデルです。あの反政府勢力の艦よりも強力です」

ラムファがデータベースで確認した。

「一自治領が保有する艦隊にしては結構強力だな」

ジョーンがつぶやく。

「この〈ファンタジー〉のシステムで主力部隊を指揮できる訳か」

〈ファンタジー〉の艦隊指揮能力が加わればかなり強力な艦隊になるだろう。

反政府勢力を一掃することも可能かもしれない。

「さすがに、戦闘母艦はないみたいだ……」

メイリンはシーカの戦闘母艦〈玄天〉の瞬く間に3隻のコルベットを葬り去った攻撃力を思い起こしていた。あの〈玄天〉なら一隻でこの兵力すべてが相手だとしても勝ちを収めるに違いない。

「時間だな」

ジョーンが告げる。

〈ファンタジー〉は王宮の丸いドーム目指してゆっくりと降下をはじめる。

王宮のドームは一部がベランダのように張り出していた。

ファンタジーはそこに降下していく。

「エンジン停止、反重力フィールド展開。着陸します」

メイリンが報告する。

ファンタジーは張り出したベランダ状の部分にふわりと着陸する。

みると着陸地点から王宮へと続く通路部分には紫色のカーペットが敷き詰められている。

「なんか、こっちへきます……」

ラムファが絶句している。

メイリンもその方向を見て唖然とする。

 行列だった。

黒づくめの甲冑をきた兵士の一群が先頭にそのあとに真っ赤な衣装をきた女たちが続く、三番目に黄金の輿を4人の上半身裸の屈強な男たちが担いでいるその上には金の玉座に皇太子が座っている。

その後には高官達なのだろう、豪華な衣装を纏った男女の列がぞろぞろと続く。

何人いるか後続が見えない。

「これが全部乗るわけじゃないですよね」

ラムファが尋ねる。

「予定では、皇太子入れて14人のはずだ。これは、出立の儀式のための行列だ。ハッチを開けてスロープを降ろせ」

ジョーンが指示を出す。

 それから30分以上かけて儀式を終え、皇太子とそのお付きの者たちがようやく〈ファンタジー〉に乗り込んできた。

ジョーンは貴賓室へと出掛けて行き、メイリンとラムファは貴賓室の様子を見ている。

まだ、セキュリティロックしていないので、二人は貴賓室のやり取りをその場にいるように見ることができる。

 軍服姿のカリム中佐が皇太子にジョーンを引き合わせている。

皇太子は二人の屈強な男に付き添われて貴賓室の玉座に座っていた。

部屋には他に高官らしき年配の男が一人と侍女らしい女が三人いた。他の付き人たちは、一般の船室にいるようだった。

 カリム中佐が皇太子にジョーンを引き合わせている。

ジョーンは普段よりもにこやかな表情で皇太子にあいさつしている。

「早速飛ばしてもらいたいものだ。楽しみにしている」

皇太子がぼそぼそと言葉を発している。

「どこかでみたような、覇気のない感じだねぇ」

ラムファが愚痴っている。

どうも好みのタイプではなさそうだ。

メイリンは皇太子の表情があまり楽しくなさそうなのが気になった。

〈ファンタジー〉への乗船もコース変更も皇太子の意志だということならもっと、この飛行を楽しみにしているはずだと思っていたのに。

皇太子のつまらなそうな態度が意外に思えたのだ。

「船長。皇太子殿下の下命である。早速この船を発進させよ」

傍らの高官風の男が命令調に言う。

「かしこまりました」

カリム中佐が丁寧にお辞儀する。

ジョーンも敬礼して貴賓室から退出する。

その途端、貴賓室にセキュリティロックが降り。

メイリン達のアクセスは遮断される。

「なんか、船の中で見えない部分があると気になるね」

ラムファがつぶやく。

メイリンも急に降りたセキュリティが気になったが、もともとの仕様なのでなんともしょうがない。ジョーンがパイロットルームに戻り船長席につく。

「発進」

ジョーンの命令が降り、二人は離陸作業に集中する。


「軌道面離脱します。メインエンジン出力15パーセント」

「コルベット二隻、ついてきますけど」

「護衛のつもりなのだろう。予定どおりに航行する。星系の最外縁までいったら短距離スタードライブにはいる。目標は『タラ星系』」

「了解」

二人は口をそろえる。

〈ファンタジー〉は加速を始める。

後続のコルベットも必死についてくる。

「一応、護衛艦が追いつけるギリギリまでにしておけ」

「了解、最高加速の三分の二で押さえておきます」

「前方にも、何隻かコースに沿って護衛の艦艇がいます。ドライブインポイントまで配備されているようです」

ラムファが報告する。

「主星系内だというのに、ずいぶん厳重な護衛体制だな……」

ジョーンが眉をひそめている。

反政府勢力のテロが頻発している辺境地帯ならまだしも。

首都マラケシュ星系といえどもこの状況とは、反政府勢力もかなり力を増しているようだ。

 お供のコルベット二隻を従えたまま、〈ファンタジー〉はつつがなく星系外縁部に達した。

これから『タラ星系』に向けての短距離スタードライブに入るため、〈ファンタジー〉は準光速に移行する。

「後続艦が遅れてますけど」

ラムファが報告する。

「どうせ、スタードライブには着いてこない。護衛は『タラ星系』にすでに配備済みだ。あの二隻はドライブインポイントまでだ」

「準光速移行完了、MOフィールド展開完了。コース設定します。目標『タラ星系』速度5000光速。了承願います」

メイリンが報告する。

「了承」

ラムファがすぐさま答える。

この前と同じコース設定だった。

「速度をMAXに設定する。皇太子の要望だ」

ジョーンが訂正を入れる。

「6000光速ですね」メイリンが確認する。

「そうだ」

「皇太子がMAX8000光速だと思ってなきゃいいけどね」

ラムファがつぶやく。

〈ファンタジー〉は虹色の空間へと移行する。


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