第四章 燃え上がる宇宙
船長席の遮蔽フードは下がったまま、船長会議はもう30分以上過ぎていた。
3隻の所属不明船は停船している船団を包囲するように散開している。
更に攻撃艇らしき小型の船を5隻ほど射出して、船団の周りを飛び回らせていた。
メイリンはデータベースを探っていた。
『ミサイル攻撃艇Aタイプ、帝国軍の搭載型攻撃艇、乗員3名。武装は反物質ミサイル2基、ニュートロンビーム砲1門、パルスレーザー砲2門。主に中・近距離戦闘用、すでに帝国軍では全艦退役済。』
「これも退役済の艦……」
コルベットもそうだが、退役済みとはいえ、現在でも相当な戦闘力をもつ艦艇なのは間違いない。
船長席のフードが開く音がし、メイリンははっとして振り向いた。
イーノス船長は顔を曇らせている。
「今、船長会議で出た結論を先にいう。総員退船し〈ファルコン〉に移動する。この船は彼らに接収されることになる」
「彼ら、とは何者ですか」
ショーンが尋ねた。
「マラケシュの反政府勢力を名乗っている連中だ。帝国からの独立をめざす武装勢力の一つだそうだ。『聖銀河解放戦線』というらしい。なんのことはない、宙賊と変わらない奴らだ。こんな離れたところまで出向いて、われわれの船と積み荷の一切を強奪するつもりだ」
イーノス船長は苦々しく言い捨てた。
コントロールルームを重苦しい沈黙が支配した。
〈ブラックキャット〉からの移動はシャトル二隻で行うこととなった。
「銀河大曲技団」の人々も一緒となると総勢120名を超える。
シャトル一隻では乗り切れない。
メイリンは二隻目のシャトルの操縦を託された。
もちろんティルミーも同じ船に乗っている。
「メイリン、一体私たちどうなってしまうの。動物たちはおいてきぼりで大丈夫かな」
「どうなるかはわからないね、あいつらがなにを目的としているかだけど。おそらく船ごとどこかに運んでから、貨物の確認をするのだろうけど……」
メイリンはその先を言えなかった。
動物たちが必要とされることはないだろう。
ケインの操縦する一号艇に続きメイリンの二号艇も格納庫を離れた。
ブラックキャットの円盤型の船体が遠ざかる。
数十分後〈ファルコン〉が見えてきた。
メイリンはその変わり果てた姿に息を飲んだ。
「ひどい!こんなに傷ついて……」
銀色に輝いていた円筒型の船体はあちこちが黒ずみ、船体の一部には明らかにビーム砲で撃たれた穴が開いていた。
航行不能なことは一目で見てとれる。
「こんな状態の船にみんな集めてどうしようというの」
メイリンは不安が沸き起こるのを感じていた。
〈ファルコン〉に到着したのはメイリン達が最後のグループだった。
他の船からのシャトルが並ぶ格納庫に着陸し、ぞろぞろと「銀河大曲技団」の人々が下船を始めてもメイリンはじっとスクリーンを見つめたまま動こうとはしなかった。
そこには、〈ファルコン〉を見張るように離れた空間に静止するミサイル艇の姿があった。
「メイリン降りないの」
ティルミーがパイロットシートの傍らによって囁いた。
「あの船さっきからずっと停船しているんだけどなんか気になってね」
画像を拡大したメイリンは、はっと息を飲んだ。
「ミサイル発射口が開いてる!ミサイルを撃とうとしてるんだ!」
メイリンが言い終わらないうちに発射口に閃光が輝き細長いミサイルが打ち出された。
「緊急事態!ミサイル接近中!後20秒で着弾!」
マルチブレスレットに向かって叫び、メイリンは傍らのティルミーを抱き寄せた。
二人は固まったままスクリーンを凝視する。
ミサイルは加速しながらみるみる接近してくる。
強力な反物質ミサイルだった命中すればこの船はひとたまりもないだろう。
突然、接近するミサイルの上方の星空が揺らめき何か黒い影が猛烈な勢いで飛び出し、ミサイルの進路と交差した。
次の瞬間まばゆい光がスクリーン一杯に溢れた。
「えっ!なに?」
メイリンは凍りついたようにまばゆい光が薄れるまでスクリーンを見つめていた。
ミサイルは消滅していた。
「なにが起きたの、ミサイルは」
ティルミーが狐につままれたように尋ねた。
スクリーンの光輝が収まると加速して遠ざかっていくミサイル艇とそれに追いすがる黒い影がスクリーンに映っていた。
甲虫のようなその影はみるみるミサイル艇に追いつき追い越しざまに何本もの光の矢を射かけ、追い抜くやいなや何かに打ち返されるように方向をかえ再びミサイル艇に向かい光の矢を放った。
ミサイル艇は何筋もの光の矢に貫かれ、船体のあちこちから閃光を発しながらしばらくの間よたよたと動いていたが、やがて大爆発をおこし消滅した。
「あれはシーカのファイタービー……まさか……」
メイリンが言い終わらないうちに、まさしく蜂の大群のように無数のファイタービーが何もなかった空間から続々と出現した。
何十機ものファイタービーは瞬く間に残りのミサイル艇を破壊し、3隻のコルベットへと向かっていった。
コルベットはシールドと砲火で抵抗したが所詮は時間の問題だった。
5機ごとに編隊を組んだファイタービーはコルベットのシールドに連続集中砲火をかけた。
シールドの一か所だけを集中攻撃で撃ち破り、むき出しになった船体に無数の光の矢を突き立てる。
コルベットは残骸と化した。
「あんな近くに〈玄天〉……」
メイリンはシーカの戦闘母艦〈玄天〉がいつの間にか近くの空間にその巨体で星々の光を遮って浮かんでいるのを発見した。
その空間には先ほどまでは何もなかったはずだ。
「ステルスフィールドか……なんて高性能な……まったく探知できないなんて」
メイリンが驚く間もなく〈玄天〉はゆっくりと艦首を回頭し〈ファルコン〉に接近してきた。
〈玄天〉から円盤型のシャトルが一隻、〈ファルコン〉目指して飛来した。
その船は、メイリンのシャトルのすぐ横に着陸する。
メイリンは自分のシャトルを降り、着陸したシャトルの傍らに歩み寄った。
シャトルのハッチが開きタラップが降り、3人の制服姿の男女と一群の軽装歩兵がそこから降りてきた。軽装歩兵は8名いた。
全員、黒色のフルフェイスアーマーを着用し、手に長い黒色の杖のようなものを持っている。
制服組の一人は栗色の髪をショートカットにした女性で後の二人はがっしりした体格の男性だった。
3人とも臙脂色の制服を身にまとっている。
メイリンはその制服がシーカの将官以上が着用する制服だと知っていた。
かなり高い階級の武官のようだった。
栗色の髪の女性将官はメイリンが立っているのを見つけると、歩み寄ってきた。
メイリンは右手の掌を胸に持ち上げ敬礼した。
「G・ギルドの方ね。私はアリス・クレイノ准将。シーカ七星連邦戦闘母艦〈玄天〉艦長です。あなたがたの代表者とお話したいの、取り次いでくださる。この船の通信系統が遮断されていたみたいなので直接来てみました」
アリスは緊張した面持ちのメイリンににっこりほほ笑んだ。
バラの花が咲きこぼれるような華やかな笑顔だった。
「はい……。了解しました」
メイリンはあわててマルチブレスレットに呼びかけた。
「メイリンか、無事だったか。シーカの艦長が見えられたとのことだな、今すぐ行きたいところだが。最終防壁が降りてしまったので、解除にもうしばらくかかる。解除次第大至急そちらに向かう、シーカの艦長にそのように伝えてくれ」
イーノスのややかすれた声がマルチブレスレットから流れた。
メイリンはアリス艦長にその旨を伝えた。
「そうでしたか、最終防壁の解除は結構手間ですからね。私たちはここで待つこととします。ところで、ここにいる他の方々は、G・ギルドの方ではないようですね」
アリスはメイリンの後ろに立っているティルミーや遠巻きに不安げな面持ちで見つめている「銀河大曲技団」のメンバーを見まわした。
「この人たちは「銀河大曲技団」の方々です。マラケシュまで乗せていく途中でした」
「マラケシュへ……そう」
アリスは何か考える様子だったが、再びメイリンを見た。
「そういえば、以前高速艇に乗っていたのはあなたですね。〈ファイアー・ビー〉からの報告であなたのお顔を拝見していました。とても素敵な船に乗っていらしたわね」
「マラケシュの太守に納める船です。デモ飛行の練習をしていました。〈ファイアー・ビー〉って、リサ・クルスのことですか?」
「そう、彼女のことをみんな〈ファイアー・ビー〉と呼んでるの、本艦の戦闘機部隊のエースパイロットなのよ。そう……太守に納める船だったの……」アリスはまた少し考える様子を見せた。
「あなた、お名前はたしかメイリン……」
「メイリン・ロータストです。パイロット研修生です」
「お年はいくつ」
「16才です」
「リサと同い年ね」
「彼女はすごいですね。さっきのミサイルを撃ち落としたのも彼女だと思うのですが」
アリスはちょっと驚いたようにメイリンを見て少しほほ笑んだ。
「よくおわかりになりましたね。ギリギリのタイミングで間に合いました。ミサイルがまだ加速途中でなかったら撃墜するのはリサでも無理だったでしょう」
「すごい操縦でびっくりしました。なんであんな動きができるかわかりません。まるで生き物みたいな動きでした」
「こんな状況なのに、よく観察しているのね。あなたも優秀なパイロットになれるでしょうね」
アリスは再びにっこりほほ笑んだ。
その時船倉のハッチが開き、キニスンを先頭に船団の首脳陣があわただしく駆けつけてきた。
「メイリンすごいじゃない。シーカの艦長と話したなんて。あの人すごくきれいだよね」
ラムファが目を輝かせている。
〈グッドホープ〉の船員ラウンジには、親善の宴に参加する各船の幹部を送迎してきたパイロット連中があちこちで油を売っていた。
二三人ずつ固まって宴の終了までの時間つぶしの雑談の花が咲いている。
その片隅でラムファは例によって根掘り葉掘り尋ね始めた。
「アリス艦長。本当に素敵だった。ジョーンより若いぐらいなのにあんなすごい艦の艦長なんてね。リサのこと聞いたよ。あたしたちと同い年だけど、戦闘機パイロットのエースなんだって。〈ファイアー・ビー〉って呼ばれてるみたい」
「へーすごいね、根っからの戦士なんだな。ミサイル撃ち落としてからミサイル艇に攻撃仕掛けるまでの早かったこと。まるで野獣が獲物に襲い掛かるみたいだった」
ラムファは夢中で戦闘の様子を再現していた。
「でも、なんの躊躇もなく攻撃してたな……。戦いってそうなんだと思うけど」
「ミサイルを撃ったのはあのテロ組織の連中だから、しかも無防備の私たちを明らかに皆殺しにしようとしてた。情け無用だと思うな」
「でも、捕虜になったのは数名で、あとは全滅したんだよね」
「自業自得だよ。あいつらは、以前シーカの鉱物運搬船を襲って、乗員を殺害しているそうよ。それで、自国の通商ルートを守るために〈玄天〉が派遣されてきたわけ。だから、職務を全うしただけじゃないの」
「まあ、そうだよね……」
ラムファの言葉にうなづきながらもメイリンは初めて遭遇した宇宙戦に心のどこかが痛むのを覚えていた。
損傷した〈ファルコン〉が応急修理を終えたのは5日後だった。
船団だけでは、到底、修理は難しいと思われ、破棄することも考えたほどだったが、〈玄天〉から派遣された修理スタッフや提供された資材のおかげで、なんとかスタードライブ可能な状態まで回復できたのである。
修理中ずっとつきそっていた〈玄天〉は再びパトロール行動に戻っていった。
船団はスタードライブに移行した。
予定の距離を航行し、『ポジティブ』という星系にある補給ステーションに着いてから、〈ファルコン〉がドックでさらなる修理を終えるのに3日かかった。
当初の航行予定よりすでに10日ほど遅れていた。
「航行計画を見直す必要が生じた。今後は1回のスタードライブの到達距離を2倍にする。『墜ちる』危険性も増すわけだが、なんとしても期限を守る必要がある」
イーノスは冷静に告げた。
1回のスタードライブの距離が延びれば、中継ぎの準光速飛行の回数も減り大幅な時間短縮になる。
反面「墜ちた」場合はその後の位置確定やら航行ルートの再設定やらで、時間の大幅なロスにつながる。船団は苦渋の選択を強いられていた。
期限に遅れれば運賃の減額はもとよりだが、G・ギルド輸送船団の信用問題になりかねないのだった。
準備を整えた船団は『ポジティブ』星系を出港した。
次の寄港地は悪魔の懐星団の入り口に当たる『アシュロン』という惑星で『悪魔の懐の口』と言われていた。
当初は12回のスタードライブで到着する予定だったが、ここを船団は6回のスタードライブでこなそうとしていた。
メイリンは2回目のスタードライブの時にメインパイロットを担当した。
水先案内は〈ドントレス〉だった。
メインパイロットはジェフというベテランと言っていいぐらいの年かさの男だった。
メイリンは彼が先日〈グッドホープ〉のラウンジで大声で話しているのを聞くとはなしに聞いていた。
なんでも、以前は帝国の巡礼船にパイロットとして勤務していたことがあったとのことだった。
帝国の首星にも何度か言っており、それが自慢となっていた。
特に「聖アシン大神殿」の壮麗さを語るときの熱っぽい語り口はメイリンの記憶に残っていた。
「コース提示、了承願う」
ジェフからの連絡でメイリンはコースの確認をした。
ごく無難な選択に見えた。
次々と各船から了承する返事が来ていた。
メイリンは眉根を寄せていた、何かがメイリンに了承するのをためらわせていた。
特に問題は見受けられないのに何かがメイリンに躊躇させていた。
メイリンは再考のサインを送った。
「メイリン、なにがまずいの」
ジョーンが呼びかけた。
「わかりませんが、何かが引っ掛かるのです」
メイリンは答えた。
結局、再考はメイリンだけで、他の全員が了承だった。
メインパイロットの内の一人でも了承が得られない場合は再考となる。
二度目にジェフの提示したコースはドライブアウトポイントを少し近くしたもので、前回とほぼ同じと言っていいものだった。
再考はやはりメイリンだけだった。
判断は船団長に委ねられた。
キニスンの判断はGOだった。
船団は加速し虹色の空間に移行した。
「メイリン、どうしても気に入らなかったみたいね。万が一あなたの勘が当たった場合に備えていてね」ジョーンは軽くメイリンの肩を叩いて言った。
スタードライブは何事もなく時を稼いでいた。
当初の予定距離の85パーセントほどをクリアしたころにはメイリンは自分の勘が杞憂に終わりそうだと感じ始めていた。
それでも、メイリンは極力パイロットシートから離れず、万が一に備えていた。
そして、それは突然やってきた。
けたたましい警報音が鳴りメイリンが思念融合を完了して見ると、スクリーンの虹色の世界の中央に巨大な黒い渦巻が広がっていた。
その黒い渦巻はみるみる広がり、全てが真っ暗になり、次の瞬間目の前のスクリーン一杯に巨大な火の玉が輝いていた。
「これは……赤色超巨星!こんな近くに墜ちるなんて!気をつけて!重力圏内よ」
ジョーンが叫んだ。
「メインエンジン出力10パーセント、反転します」
メイリンはメインエンジンを起動させると船首を転回させた。
目の前の赤色超巨星の重力圏から一刻も早く脱出しなければならない。
なにしろ直径が通常タイプの恒星の2000倍位ある代物だった。
「出力25パーセント、加速します」
メイリンは赤色超巨星の重力圏が巨大な範囲に及ぶのを見た。
直径比ほどではないがそれでも通常タイプの恒星の100倍近く大きい。
それが触手のように〈ブラックキャット〉引き寄せようとする。
シールドで遮断しているが相当な熱も撒き散らしているはずだ。
フレアがかすめそうな近さである。
シールドもそう長くは持たないだろう。
「出力40パーセント、脱出速度に達しました」
メイリンは重力圏が徐々に後方に遠ざかるのを感じた。どうやら脱出は成功したようだ。
「出力55パーセント、安全圏です」
メイリンはほっとしたが、他の船の様子が気になった。
「〈グッドホープ〉どうした……〈ドントレス〉が引き寄せられてる!〈グッドホープ〉が牽引してるんだ!」
メイリンは叫んだ。ジョーンが息を飲む。
明らかにエンジンが停止したままの〈ドントレス〉の葉巻型の船体に緑色の紐のような牽引ビームの光束が巻きついている。
〈グッドホープ〉は船団では最も大きく、馬力もある船である。
他の船ではできない芸当だった。
赤色超巨星の重力と〈グッドホープ〉の綱引きはしばらく続いた、やがて〈ドントレス〉のメインエンジンが起動し、2隻はようやく重力圏を脱出した。
「危ないところだった。〈ドントレス〉のエンジン起動が遅すぎた。〈グッドホープ〉が傍にいなければ飲みこまれていたな」
ジョーンがかすれた声で呟いた。危機一髪の状況だったことは、コントロールルームの皆が実感していた。
「メイリン、堅実な操作だったぞ」
イーノス船長の声がメイリンの耳に静かに響いた。
「星図の更新データが意図的に変更されていたようだ。あの赤色超巨星『地獄のかまど』は本来なら12光年以上離れているはずだ。他にも数百か所以上の恒星データが間違ったデータに直されていた。あやうく赤色超巨星に突っ込むところだった。パイロットのミスという訳ではない。データが間違っていたのだからな。前の補給地『ポジティブ』で星図を最新データに更新したときに何者かに改ざんされたデータを入れられたらしい。あそこは一般の商用ステーションだったのでチェック体制が甘かったのだろう」
イーノス船長が説明した。
「いったいだれが、明らかに悪意的なものですね。なんの目的があって」
ジョーンが問うた。
「いまのところは見当もつかない」
「今後のコース設定はどうするのですか」
メインパイロットシートのケインが心配そうに尋ねる。
パイロットにとって、コース設定のための星図データは生命線と言えるものである。
「バックアップデータを使う。最新ではないが、改ざんされたものよりは信頼できる」
イーノスは答えた。
メイリンはサブパイロットシートでその会話を聞きながら前途に暗雲が漂うのを感じていた。
たしかに『悪魔の懐星団』が研修では難コースだとは言え、今回の連続する出来事は通常の航行の想定を遥かに超えていて、そうそう出くわすことがないようなことばかりだった。
位置確認には一日かかった。
船団は再びスタードライブに入った。
残り4回のスタードライブは何事もなく過ぎ。
船団は『悪魔の懐の口』と呼ばれる『アシュロン』に到着した。
ここにはG・ギルド直営のステーションがあり、船団は正確な星図データを手に入れることができた。
「いよいよ『悪魔の懐星団』か、水先案内でわたしたちの出番はあるのかな。だいぶ予定から遅れているので強行軍になってるんだけどね」
ラムファがコーヒーをすすりながらつぶやいた。
『アシュロン』軌道上に浮かぶ円筒型の補給ステーションの展望ラウンジからは、これから一行が向かう『悪魔の懐星団』が凝集した光の固まりとなって全天のほとんどを占めているのが見渡せた。
「この星団の中ではそんなには長距離ドライブはできない筈だから、もしかして一回ぐらいはありかな」メイリンは『悪魔の懐星団』の光の固まりを見上げてつぶやく。
『墜ちた』影響もあって、まだ3日ほど予定より遅れていた。
「それにしても、イレギュラーな事件が多すぎるね。『悪魔の懐街道』って毎回こんな感じなのかな」
メイリンの問いにラムファは激しくかぶりを振った。
「うちの船の乗組員に聞いても、こんなトラブル続きの行程は初めてだって。よっぽどついてないのよ、あたしたちは」
「でも、いろんな人と出会えて、私はよかったな。この旅に出なければ、きっと一生出会えなかった人たちに……」
「それはあたしもそうだけど、この研修が無事に終わったらそういう気分になれるかも。まだ三分の一ぐらいしか終わってないんだから」
ラムファには珍しくしんみりした口調だった。
メイリンは黙ってうなずくと満天に輝く『悪魔の懐星団』の光輝を見上げた。