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魔眼の少女と白猫の賢者  作者: 四季 畑
第1章
10/20

第9話

 学園は一日の授業日程はこのようになっている。

 午前に一時限目、休憩を挟み、二時限目。昼休憩を取ってから午後の授業に入り、午前と同じような流れで授業をし、その後は放課後となる。つまりは一日に四回授業を行う事になっている。

 準備を整えたアルテナは教室にやって来た。既に中には多くのクラスメイトが着席しており、殆どの者が会話によって時間を潰していた。

 アルテナが席に座ろうとしたところで、多くの視線が自分に集中するのを感じた。

 クラスメイトは期待しているのだ。自分たちよりも年下の、推薦者として選ばれた少女の実力がどれ程のものなのかを、試験を素通りできる程の能力があるのかを。

 そんな雰囲気を何となく察しながら着席し、一時限目の授業の準備に取り掛かろうとしたところで、

 

 「うーし、ホームルーム始めるぞー席着いてー……」


 やる気のない声と共に担任――クロウスが入室する。相変わらず眠たげな相貌を隠そうともせず、髪は荒れ、目の下に隈が刻まれたままで、暗い雰囲気を漂わせている。


 「あの、クロ先生大丈夫ですか?」

 「……何が?」

 「だってその……顔が……」

 「これがいつもの顔だから大丈夫……。ほれ席つけ」

 「は、はい。分かりました……」


 先生に促されて大人しく従う男子生徒。


 「まぁホームルームって言っても授業の確認位しかしないんだけどねぇ……。そこは各自でやっといて。後は……寝ないように頑張って……。こんなトコかな……、ハイ終わり」


 こうしてやる気のない先生によるやる気のないホームルームを終えた。

 ちなみに「アンタが寝ないよう頑張れ」という言葉を生徒一同が飲み込んだのは言うまでもない事だろう。




 一時限目。魔法薬の授業。

 主に魔法薬に関すること――制作、素材の種類、規則――について学ぶ時間となる。普段、実技は別教室で行われるのだが入学したばかりの一学年生は、他の教科にも言えることだが、座学が主に行われる事になる。


 「はい、魔法薬学の担当を務めさせて頂きます、クロウス先生でーす……。クロ先生って呼んでくださーい……」

 「改めての自己紹介は結構ですよクロ先生……」


 二度目……入学式の時も合わせて三度目の自己紹介をする担任教師に呆れた声が向けられた。

 魔法薬の担当がアルテナたちのクラスの担任、クロウスだった。


 「ま、俺も授業中は寝ないようにするよ……。だけどまあ、もし寝ちゃったら起こしてください……。えーと、いつも率先して突っ込みを入れてくれるそこの君……」

 「えっ!?俺ですか!?」

 「うん。名前何だっけ」

 

 指名された生徒は頭をかきながら立ち上がった。黄金色の髪に、中肉中背の体格を有する生徒はクロウスの質問に少々声をつまらせながら答えた。


 「えっと、ピーター、ピーター=ルービスです。(ていうか、また名前聞く位なら自己紹介のとき起きててくれよ……)」

 「じゃ、俺を起こす係よろしく……。ビーンズ君」

 「早速間違えないでください!俺は豆じゃありません!」


 いつも眠そうにしている教師と、その人物を起こす係に任命された、これから苦労の連続であろう哀れな生徒とのやり取りを見ながら再び生徒たちは、「早く授業進めてくれ……」という言葉を飲み込んだ。

 しばらくしてようやく授業に入り、前半はオリエンテーションに費やされ、現在は後半。

 クロウスが教科書を手に授業を進め、生徒たちは黒板に書かれた内容をノートに記録していく。が、睡眠を誘うような声で講義をする先生によって多くの者が睡魔との戦いに身を投じながら授業に参加していた。


 「えー、変身効果の魔法薬を『メタモルポーション』、縮めてメタポンなんていうのがあるんですけども……。これの材料、あと製作法分かる人ー……?」


 訪れるのは静寂。誰も手を挙げようとする者はいなかった。


 「はい」


 それを破ったのはこのクラスの中で最年少の少女。そう、アルテナだった。


 「ん。じゃ、答えて」

 「えっと、材料はスライムの体液を熱する事で取れるスライムの粉、カラーフルーツの果汁、声を真似するヴォミックプラントの根と変身する相手の体の一部を。製作法は沸騰させた水の中に果汁、根、粉、体の一部の順番に入れて、右に三十秒回すことで完成です」

 「はいよくできました……」


 正答したことに対し、起伏の少ない声と拍手で褒めるクロウスだが、それを向けられている本人はあまり嬉しいとは思えずに汗を流した。

 すぐにピタリと行為を中断し、今度は別の問いを投げた。


 「じゃあ分からなくてもいいんだけどさ……、メタポンと変化魔法の違いって答えられる?」

 「はい。メタモルポーションは肉体を対象に変化させ、時間が経たないと元に戻れません。魔法はイメージを具現化させるので、衝撃を受けたら元に戻ってしまう……とこんなところでしょうか?」

 「はい正解……。そう言えば俺の学生時代、女子寮に潜入しようとしてメタポン使おうとしてたチャレンジャーがいたから素材こっそりすり替えて……、ははは、あれは傑作だったなぁ……」

 

 当時の事を思い出してるのか天井を仰ぎながら不気味な表情で笑うクロウス。クロウス本人はギャグを取り入れて授業を面白くしようとしたのだが、女子は覗き魔という内容的にも、語り手が恐ろしい(生徒目線)表情を浮かべている点でも面白いと思うことは出来ず、全員が汗を流した。

 ちなみに男子の中には畏怖の感情を覚えていた者が存在した。




 二時限目。 ルーン文字学。

 別名、古代文字の授業。今よりずっと昔、古代と呼ばれた時代に使われていた文字のことで、現在の文化が発達した時代にはこの文字を頻繁に使っている人間はいないだろう。

 そんなものがこの学園のカリキュラムに組み込まれているのは、古代の人間が残した遺跡、その中の情報を解読するためにこの知識は必須だからだ。

 古代には今よりも優れた魔法技術が存在していたとされている。が、古代に起こった大戦により文明は崩壊し、殆どの魔法使いが死に絶えることとなった。

 そこで僅かに生き残った魔法使いたちが立ち上がり、後世に自分たちが培ってきた魔法技術を伝えるために遺跡を作り上げ、現在では「賢者」とまでに呼ばれることとなった魔法使いたちは永い眠りにつくこととなった。

 つまり遺跡の調査とは魔法の発展に大きく関わっているという事であり、マステイアだけでなく他国からも多くの魔法使いたちが調査団に志願しに来ているのが現状だ。

 遺跡に興味を示さないものにはこの授業は酷く退屈に感じてしまうのだろうが、それも少数。魔法大国というだけあって、多くの魔法使いたちが積極的に授業を受けに来る。


 「さあーて、初日はオリエンテーションだと?生ぬるい!抜き打ちテストを始める!さあさあさあ、道具をしまえ!」


 勿論、人気の授業というだけあってその内容はとても厳しいものとなる。よってクロウスのような教師が選ばれることはまずない。

 リネア=サリファ。クロウスと同じ一学年のクラスの担任を務める女性教師。

 紫紺の長髪、リーンとほぼ大差ない高身長。眼鏡から覗く吊り目は強気な性格を彷彿とさせる。

 生徒の間では鞭が似合いそうという、密かに変な噂が流れているのだが、本人は全く気付いていない。


 「えぇー!?」

 「マジかよぉー!」

 「心配することはない。ちゃんと入学前に渡した課題をキチンと取り組んでいれば答えられるものばかりだからな」

 

 生徒たちが慌てふためく姿を見て、リネアは挑発的な笑みを浮かべた。

 ルーン文字学が厳しいものとは彼らも知ってはいたが、いきなりテストとは思ってはおらず、多くが不安そうな表情を隠しきれてはいない。

 やり方に抗議出来るはずもなくテストに取り組み、やがて終了の時間となり、リネアに答え合わせを済ませた全ての答案用紙が返却され一通り確認し終えると、彼女は口を開いた。


 「さて、あらかた目を通したが殆どがギリギリの点数、しかも合格ラインを下回る者が現れるとは正直私も予想外だった。これからも抜き打ちはするので全員常に準備しておくように!」


 冷たい表情と声音に生徒たちが萎縮し、発言に含まれていた合格ラインギリギリ、或いはそれを下回ってしまった者は特に心に大きなダメージを受けてしまった。


 「だがあと一つ、私も予想外の事が起こった。それはこの中に満点を取った生徒が現れたことだ」


 直ぐに表情を一転させるリネアと彼女の言葉により教室内はざわめきに包まれた。

 そしてリネアが指を指した方向に生徒たちが顔を向けた。教師の指と生徒の視線の先にいたのは、この学年で最年少の少女、アルテナだった。


 「アルテナ=ルーツ!少なくとも、今日この授業ではお前がこのクラスのトップに立った!他の者、特に成績が低かった生徒は彼女を見習い、少しでも改善するように!以上!!」


 最後の言葉と共に終業のチャイムが鳴り、リネアは退室した。

 アルテナもクラスメイトから浴びせられる視線に居心地を悪くし、荷物をさっさとまとめて急ぎ気味に食堂へ向かっていった。


  


 そして昼休憩に突入し、食堂でパンを手に入れて中庭で昼食を済ませようとする生徒も現れて、朝食や夕食の時より席は空いている。

 中央の席も空いているが、アルテナは敢えて隅の席に陣取っていた。目立つ事が苦手というのもあるがで居心地が悪いというのが本音だった。

 

 「おい知ってるか?」

 「何を?」

 「馬鹿、例の推薦者だよ。ルーン文字学の抜き打ちテストで満点取ったんだと」

 「マジ!?あれ課題で出されてない問題あったよな?」

 「先輩から後で聞いたんだが、満点取ったやつって歴代でもほんの数人らしいぞ」

 「うわー。流石推薦者様ってところか」


 チラホラと周囲から聞こえる自分の話。食堂だけでなく学園中この話で持ちきりだった。一人で顔を赤く染め、恥ずかしがっているところに、ようやく友人たちがやって来た。

 

 「よお、優等生」

 「いや、そもそも推薦者って優等生ばかりだと思うんだけど。まあ確かに驚いたわ」

 「凄いね、アルテナちゃん」

 「誉められるのは嬉しいんですけど……、少し落ち着きませんね」


 少女たちからの称賛の声にアルテナは赤面し、俯きながら頬を指で掻いた。


 「でもさ、最後の問題とかどうやって解いたの?あれ課題に出てなかった問題あったよね?」

 「あれは予習の成果ですよ。暇だったときに気が向いた事が幸いして……」

 「ふーん。ねえ、今度ルーン文字学教えてよ。調査団に入るために知っておいた方が有利になるし」

 「は、はい。私で良ければ……」 


 身を乗り出して指導を頼み込むミリアにたじろぎながら了承するアルテナ。正直上手く教えられる自信はないが、彼女の夢を直接聞いたことで友人の力になりたいという気持ちが芽生え、断るという選択肢は浮かんでこなかった。


 「そう言えば次の授業は何だっけ?」

 「魔道具の授業。だけど担当が体調崩してるらしいから他の教師が代わりに説明だけするんだとさ」

 「それじゃあ……」

 「まあ四限の実技だけじゃないかい?気を付けるべきなのは」


 ミリアが次の予定を尋ねるとリーンが質問に答えた。

 話を聞いていたサウラはアルテナの方に向き直る。


 「アルテナちゃんはどんな魔法が得意だったりするの?」

 「……」

 「アルテナちゃん?」

 「あっ!ご、ごめんなさい。少し、考え事を……」

 

 すぐに返事をできなかったことに頭を下げるアルテに対し、話を振ったサウラは「気にしないで」と微笑んだ。


 「別に心配する必要はないんじゃないの?」

 「ミリアちゃん?」

 「だって推薦者だよ?魔法だって私たちより使えるに決まってるじゃん。むしろ嫉妬しないように私たちが気を付けないと思うけど」

 「何にしろ、お手並み拝見ってところだね」

 「あ、あの!」


 友人たちが自分の魔法の腕前に期待を膨らませる会話に、アルテナが割り込む。

 急な出来事に少々驚いた三人と、彼女たちの会話に耳を傾けていた何人かの生徒たちからの怪訝な視線を浴び、硬直するアルテナ。

 他の生徒たちのざわめきだけが彼女たちを包み込む中、絞り出すようにアルテナがポツリと呟いた。


 「あまり、期待しないでください……」

 「アルテナ?どうしたんだい?」

 「……お先に、失礼します……」


 リーンが心配するように声をかけるのを他所にアルテナは食器を返却し、食堂を後にする。

 先程まで楽しく会話をしていたのに急なアルテナの変化に微妙になった空気の中で、三人は彼女が去った後、顔を見合わせていた。




 三限目。魔道具の授業。

 食堂でリーンが口に出していたように、担当の教師は体調を崩して欠席し、代わりに他の教師が壇上に上がり説明した。

 魔道具製作の基礎を一通り学んだ後で実際に制作中心の授業に切り替わる。そのような説明を聞き終えたら、生徒たちは残された時間を教科書を眺める事で消費した。

 そして本日最後の授業となる四限目の授業。ローブに着替え、担当するのは学園長、ヴェレッタだった。


 「学園長先生!アナタが担当の先生なのですか!?」

 「ごめんなさいね。本来の先生は急な用事が出来てしまい、私が代わりに授業を見ることになりました」


 一人の生徒の質問に微笑を崩さず答えるヴェレッタ。その笑顔が生徒たちにとっては慈愛に満ちているものとは思えず、むしろ悪魔の微笑にさえ思えた。

 魔法使いの実力は実技の成績が重んじられる。もしこの授業で低評価をもらってしまえば魔法の才能がないと見なされ、周りからは冷たい目を頂戴することになり、悪い場合苛められることもある。

 つまりは重要な科目であり、他の授業より失敗を恐れるべきものなのだが、彼女の登場により生徒たちはより重いプレッシャーに苛まれる事となった。


 「……どうやら皆さん緊張しているようですが、別に無理難題を課すわけではありませんよ。今日やることは入学試験でやった事と同じ、自分の中で一番得意だと思う魔法を的にぶつける、これだけですよ」


 微笑みを崩さず授業内容を告げるヴェレッタに安堵の息をつく生徒たち。

 そして用意された人形の的から離れた場所に並び、順番を決めて――押し付けあいのようなもので――一番手は一限目で苦労人となったピーターとなった。


 「ったく、なんで俺が……」

 「よっ!頑張れ苦労人!」

 「ありがとよ苦労人!」

 「落ち着いていけよ苦労人!」

 「苦労人苦労人うるせえんだよお前らぁ!!」


 男子生徒たちがトップバッターを押し付けた、もとい引き受けてくれたピーターに声援を送るが本人はそれを声を荒げてはねのける。深呼吸をし、心を落ち着かせて魔法の詠唱に移る。


 「【炎よ、真紅の輝きを纏い、焼き尽くせ】、ファイアボール!」


 ピーターが魔法を形作るための詠唱を終えると、掌から火球が生まれたかと思えば、的までの距離を速い速度で縮めそのまま吸い込まれるように衝突した。的は着弾した火球によって燃やされる――ことはなく、そのまま吸収した。

 的の中心には「吸魔石」という魔力を吸い取る性質の希少な鉱石が埋め込まれていて、吸い取った魔力量や衝撃などから魔法の力を計測する仕組みとなっている。 

 的の後ろに設置されていたパネルが魔法の威力を測定する。浮かび上がった数値は、60。


 「これってどうなんですかね?」

 「最大の数値が100となるので、そこから判断していただければ」

 「ってことは60点ってことか〜。まあまあなのかな?」


 ピーターが首を傾げながら列の最後尾に歩いていくと、順番待ちの男子生徒が声をかけようとするが、


 「よっ!お疲れ苦労――」

 「【炎よ、真紅の輝きを――」

 「わ、悪かったから!それはマジで洒落にならねえから!やめてくださいお願いします!」

 「ったく……」

 

 再び苦労人コールをしようとしたクラスメイトが先程放った魔法の詠唱を聞くや否や、直ぐ様頭を下げる。ピーターは溜め息と共に最後尾へ足を向けた。

 その後も計測は続いていった。様々な魔法が的へと放たれていき、次はリーンの番となった。

 しかし彼女には怪訝な視線が集まる。なぜなら彼女の手には見た限り何の変哲もない、道端に落ちてそうな小石が握られていたから。

 一体何を……、とクラスメイトが思う中で、リーンだけは顔に笑みを張り付けていた。そのまま石に手を添えて詠唱を開始する。

 

 「【守人よ、脆き器に静の加護を】……ハードメタル」


 詠唱し終えると、手の上の小石が淡い光を帯びる。

 リーンは魔法を掛けた光る石を握りしめ、ダンッと足を踏み込み、


 「はああああああああああああああああああああ!!」


 腕を振るい、的に全力投球した。

 弾丸の如く投げられた小石は、これまでクラスメイトが放ってきた魔法のどれよりも速く的に向かっていき、的に命中し甲高い音を響かせる。そして地面に落ちた途端、石は魔法の輝きを失い、その身を砕かせた。

 魔法使いらしからぬ行動に多くの生徒が口を開いたままの状態になるなか、パネルが示した数値は、92。これまでの中で最高記録を叩き出した。 


 「しゃあ!」


 満足のいく結果にリーンは喜びの声を上げるが、誰も祝うものも非難するものも現れず、静寂が訪れる。そんな事には目もくれずにリーンは下がっていった。

 リーンが使用した魔法の種類は強化魔法。対象の能力を高めるタイプの魔法だ。例えば先程のハードメタルは小石の硬度を鉄並にまで高めた結果、的の衝突と同時に砕けるはずの石は罅一つ入ることはなかった。

 欠点として、強化魔法の使用後はその身に負担がのしかかる。鉄の硬度を手に入れた小石は魔法の効力が切れると同時に負荷に耐えきれずに砕ける結果となった。

 実は強化魔法はあまり人気がない。

 理由は色々あるが、例えば欠点である時間切れの後の反動だ。肉体を鍛えていれば負荷にも耐えられるのだが、魔法使いはそもそも身体を鍛えている暇があるなら魔法の研究を進める方が有意義だと考える生き物なので、強化魔法を使おうとする魔法使いはいないのだ。

 あとはリーンがしたように魔法使いらしくないから。


 「コホン。で、では次の方……と、もう最後なのですね」


 咳払いをし、気を取り直して授業を進めようとするが、とうとう最後の生徒なのだと気付いた。

 最後に残されたのはアルテナ、朝から生徒に期待されていた生徒の番がきた。 

 学園長の言葉に我に帰った生徒たち。いよいよ待ちに待った人物の出番なのだと全員が注目する。

 アルテナは指定の場所に立ち、魔法の詠唱を開始した。


 「【風よ、邪なる者共を、吹き飛ばせ】……エアロボム」


 詠唱し終えたアルテナの手には風の球体が出来上がっていた。それを他の生徒たちを倣うように的へと放る。

 一直線に的へ向かう球体は何かに遮られることはなく的へ衝突し掻き消える。

 そしてパネルが表した魔法の力は――。


 「……え?」


 一人の生徒が呟いた。

 その生徒だけでなく、その場の誰もが予想していなかった、信じられないと言いたげな表情を浮かべている。


 「……」

 

 ただ一人、魔法を放った本人を除いて。

 パネルに示された数値は……3。

 クラスの中だけでなく、学年で最小の記録を、推薦者の彼女は出したのだった。



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