マッチ売りのオーク
オイラの名前は芽留加理八二雄。安く買い占めて高く売り捌くのがモットーのバイヤーをしている。
最近は中華系のネット通販から購入したものを、料金上乗せして横流しする作業で稼いでいる。
言語の壁は情弱達を日和らせる。同じようにネットで調べたら分かる事を調べようとしない連中から金を巻き上げるのは簡単だった。メールでのやり取りが主だが案外売り手側もちゃらんぽらんな文法で情報を寄越すことが度々ある。しかし意味さえわかればそれでいいので深くは聞かないし、彼方もまたそう思っている事だろう。
ところが、調べても分からない事はどうしようもない。オイラは暇つぶしついでにブラウジングして商材になるようなものを探していたら、なんだか怪しげなリンクを踏んでしまった。繋がった先は見たこともない暗号めいた言語がまかり通っていて、見る気が失せる程メチャクチャなレイアウトデザインのページでブラクラの様な有様だった。
試しに某掲示板にスレッドを立ててリンクを掲載してみると宣伝乙などと言われて誰にも踏まれなかったっぽいので、架空文字の解読を嗜む紳士が多いスレにスクショ燃料を投下したら直ぐに解析結果が上がってなんと無しオイラにも読める様になった。
謎サイトはなんか人身売買系のヤバいやつだった。サーバー位置とか証明とか色々解析してみたらオイラん家の座標が出てきてちょっとびびった。オイラ名義で懐に入ってこない謎通貨があずかり知らぬ間にやり取りされていて、なんか追跡逃れのプログラムかスケープゴートにされたっぽい気がして怖い。
そうか、今日はエイプリルフールなんだな、きっと。ならば毒を食らわば皿までいこう。オイラはいたずら目的で某童話の本に書かれていた少女の絵を写真に収め、試しに出品してみることにした。出品者登録も無しに簡単に出品できてしまった。
選んだ童話はマッチ売りの少女。彼女の来歴を本の中身丸写しで掲載すると、なんて可哀想な娘なんだ、哀れだ私が引き取って上げようとやたらとノリが良いロリコン達から反応があり、謎通貨での取引価格がどんどんつり上がっていった。
最終的に1,000,000謎通貨で落札されたのだが、当然おとぎ話の中を生きた少女なので現物はない。
困った事になった、そう思ったらいつの間にか本の表紙から少女が居なくなっていた。おやおや一体全体何が起きてこうなったのやら?
謎の技術でオカルト的に消されてしまった少女。彼女が書かれていた筈の本にはその生涯が消え去り、最期の結末だけが改変されて掲載されていた。彼女は死の間際心ない人攫いのオークに連れさらわれ人身売買にかけられた挙句脂ぎったロリコンのおじさんに引き取られ暑苦しいストーブの部屋で七面鳥などの高カロリー食を勧められるまま食べさせられクリスマスツリーを飾る作業などこきつわかれて給金をプレゼントだといって現物支給される酷い扱いをされてしまったらしい。うん、幸せそうで何よりだ。
一つ気がかりなのはこの世界から彼女が存在した記録や記憶がごっそり抜け落ちてしまった事だ。ネットを調べても、人に尋ねても、本屋を訪れても彼女の存在を知るものはオイラを除いで誰もこの世に存在せず、それを知って作者には悪い事をしてしまったかなと思いつつ他の童話もちゃっかり出品したらいつの間にかアンデルセンの名が歴史から姿を消していた。
まあ過ぎた事はしょうがないよな、世間一般では居なかった事になっている人物に敬意を払っても仕方がないし。
オイラはそれから性懲りも無く数々の童話から主人公を競りにかけ謎現象で世から消していった。
その度に小さな子供達の娯楽と笑顔を奪っていたが、オイラはネットバンクに振り込まれる使えもしない謎通貨が膨れ上がっていくのに夢中で気がつかなかった。
ある日、とうとう出品する童話のストックが尽きると、オイラは少し魔が差して実在するアイドルの写真を掲載してみる事にした。商品説明はホームページに書かれた自己紹介丸写しで、それがどういう訳が冷ややかな反応で大した価格にならなかった。
案の定、アイドルは世界から姿を消した。オイラは世間じゃちやほやされている彼女が二足三文で売り払われていったことに妙な興奮を覚えた。
その日からオイラはテレビやネットでチヤホヤされている連中を売りさばくのに夢中になった。出品物の画像の撮り方や商品説明で価格にどの様な影響が及ぶのかを調べて、オイラの好き嫌いでその人物の落札価格が上がったり下がったりして行くのがたまらなかった。世間じゃ最近のテレビやユーチューブがつまらないなどしょうもない事で盛り上がっていたがオイラは、オイラだけは最高に充実した人生を過ごしていたんだ。
そして、最後に試して見たくなった。このオイラは一体どれ程の値段がつけられるのかと、湧き出る興味を抑えきれなかった。
オイラはこれまでの経験から商品の値段が最大限釣り上がるように配慮して自信を出品した。いい加減、稼いだ謎通貨を使って見たくなったというのもある。落札された先にある謎世界では億万長者になれるかも知れない。オイラの胸は期待で鳴り止まなかった。
出品期間中は暇になるのでなんと無し、他の誰かが出品している商品を見てみる事にした。
前に出したアイドルや見覚えのある人物が再出品されているのを見てザマァと思ったオイラは気まぐれに一人買い戻してみようと思った。あれ?値段がつり上がっている?
お前にはこの程度の価値しか与えられない筈だと、あえて説明文を適当に書いた微妙なネットアイドルが高値で取引されている。しょうもない価格で売れた筈の彼女が成り上がるかのように再出品された現実にオイラは少し怒りを覚えた。
ふざけるな、買い戻して二度と市場に流通しない様に管理してやる。そう思ったオイラは即決価格で落札した。そう言えばここで商品を購入するのは初めてだ、どうやって届くのだろう。
ポン。後ろの方で何か落ちる音がしたので振り返って見たら、一冊の本がいつの間にかそこにあった。
は?なんだこれは?? そう思ったらオイラは中身を確認すると、先ほど落札したアイドルのプロフィールと来歴、それからグラビア写真が載っているのを見た。
おいおい、オイラは本人を落札したんじゃないのか、これは詐欺じゃないか。
オイラの憤りは高まった。が、説明文をよく読んでいなかったのはこちらの落ち度だ。今度は同じ轍は踏まない。
次は元人気スポーツ選手だ! 説明は、勇者だって?!バカバカしい、舐めるのも大概にしろ。
ポン。またも本が顕られた。オイラ、怒り心頭。
本の中身は異世界に召喚されたスポーツ選手が元いた世界で趣味にしていた古武術の経験を活かし道場を開いたらいつの間にか世界最先端の技を磨ける場所として有名になり、やがて復活した魔王相手に門下生を率いて無双するというしょうもない代物だった。扉絵の媚びる様なカッコイイポーズが余計に癪に触る。こんなものがマッチ売りの少女と同等の価格で取引されたなんてオイラは認めない。
オーケー。オイラが本物ってやつを見せてやるよ。だから君達は早く消え去るが良い。
購入した商品をマッチで燃やしたオイラは取引終了時間を今か今かと待ち望んだ。しかし終了まであと十数分だというのに、なかなか買い手はつかない。おかしい、この取引終了間際のデットヒートが最高に盛り上がる瞬間だというのに、一体どうしたというのだろう?
その時、ふと思い出した。そう言えばここに来たとき、オイラ名義で勝手にやり取りされていた物品はどうなったのだろうと。
オイラは思い出せる範囲で過去の落札商品の情報を時間の許す限り調べた。最初は……中学受験のススメで、落札されなかった。
次は高校受験、落札はされたが出品者都合でキャンセル。最初の恋人作りは落札、しかし代金は振り込まれず落札者都合で終了のまま。婚約編もいつまでたっても落札されないまま、それからも幾たびも取引に失敗して、悪い評価が溜まる一方のアカウントは、いつしか出品を取りやめていた。
なんだこれは、一体なんなんだんだ?
いつの間にか、オイラの取引は終了していた。落札者ゼロ。自動で再出品。多分このままずっと買い手はつかないのだろう。童話が消えた? 読んだ記憶もないものが消える訳がない。そんなものは最初から自分の中に存在しなかったのだ。誰かの栄光も人望も、自分の知らないものが自分の知らないところで消えたり現れたりしてもオイラは気にもしない。オイラが勝手に稼いだと思っているポイントも、最初から絵に描いた餅でしかなく、そいつが人生の糧としてオイラを満たしてくれるなんて幻想も、ありはしない。
そんなはずはない!オイラが、オイラこそが本物なんだ!それを思い知らせてやる。
グラビアも、実用書も、漫画も小説も雑誌もコンテ集もイラストも全て偽物だ!燃え上がれ、本物のオイラを早く引き立ててくれよ。
ほーら、見てろよ世界。本物の自殺を見せてやるよ、タイトルはそうだな。マッチ売りのオーク。家で焚き火してみたおデブさんが焼き豚に成長する迄を余すことなく動画にしてやるよ、これは見ものだぜ!
4月某日、自宅を何者かに放火されたとして涙ながらに取材班に語っていた男が、実は自分で家に火をつけていたとして、放火の罪で起訴されていたことが明らかになった。男は誰かの注目を集めたかったと供述しており、今回のことが発覚するきっかけとなった、本人が動画サイトに投稿したビデオを受け弁護士は、彼は統合失調症の疑いがあるとして情状酌量の余地を求めている。




