第1話 『白銀の女』
帝暦2383年2月19日。
蒼国南西部。
紅国-蒼国境付近。
旧紅軍監視塔跡周辺地雷原。
ここは敵対する蒼国と紅国の国境付近。
数年前に廃棄された旧紅軍の監視塔がポツンと佇む平原だ。
そんな閑散としている平原には数多くの蒼軍の地雷が散りばめられ、紅軍はおろか蒼軍も立ち寄らない危険区域である。
そんな危険地帯に一人の女性の姿があった。
彼女は腰まである長い銀髪を風で仰がれながらゆっくりと歩く。
歩く様は美しく、そして何よりの美貌。
その凛々しい顔は全ての女性を惹き付けるだろう。
故に、彼女の胸の貧弱さなど気にもしない。
そんな女性は現在、危険である地雷原を平然と歩いているのだ。
その勇敢さもまた、美と為す。
彼女の耳に付けている通信機器を通じ、声が届く。
その声はとても幼いが、何処か大人びている。
『···どうじゃ?今お主が歩いているところ一帯は地雷原じゃ。充分に注意せい。···まぁ、礼に言っても無意味かの』
「ありがと美保。···それで、敵さんはどこら辺?」
『黄国からの情報じゃと、その監視塔廃墟の地下に男が数人出入りするところを確認したと』
「そう。地下だね。解った」
『充分に注意をするのじゃ』
「うん。解ってるよ」
『あ、あと、その廃墟、随分と主柱が脆くなっているみたいでの。暴れすぎると崩れるかもしれないから程々にするのじゃ』
「大丈夫だよ。どこかの貧乳みたいにはならないよ」
『ふふっ。まぁそうじゃな』
銀髪の女性は腰に差してあるハンドガンを手に取った。
そして慣れた手つきで安全装置を外す。
『···礼よ。目の前の廃墟に敵兵を確認したのじゃ』
「何人?」
『多分四人じゃ。恐らく地下にまだいるだろうの』
「はぁ。やっぱりこの世界のレーダー性能はゴミだね。地下にちょっとでも潜っちゃうとわからないし、距離だって短いし、それに服にちょっとした細工すればすぐ解らなくなるし···」
『礼がどんな世界に住んでたかはようわからんが、レーダー性能の低さには同意じゃ』
「そうだよね。私の電磁波レーダーの方が何倍も優秀」
『当たり前じゃ。お主の電磁波はずるいのじゃ』
「ははは。···まぁ、誰かさんの貧乳レーダーには勝てないけどね」
『あれは恐ろしいのじゃ···』
「ふと今も反応してたりして」
『ありそうじゃな。···というか雑談を交わしてる暇じゃないのじゃ!』
「あぁそうだったね」
『呑気じゃのぉ···』
「それで、どうする?相手さんは気づいてるかな?」
『恐らく余裕で気づいておるじゃろ』
「そうだね。敵の兵種は?」
『詳しい情報はないのじゃが、恐らく工作兵じゃ。何か悪巧みでもする予定なんじゃろ』
「なるほど。工作兵だからこんなに近づいても撃ってこないのか」
『そうじゃな。それに、こんな地雷原に来るとは想定してないのか、戦える一般兵も居ないと見た』
「ということは一方的に殴り放題だね」
『いや、敵は戦闘素人とはいえ、土地勘?建物勘?がある人間じゃ。それに、廃墟の地下におるしの。圧倒的に不利じゃ』
「土地勘がある兵士は相当手強いからね」
『こっちからいくより誘き出したらどうじゃ?』
「いや、ここらは地雷原だし敵も無闇に出たくないと思うよ」
『そうじゃったな』
「大丈夫だよ。私に銃弾は当てられないから。単身突入でも」
『あんまり無理するんじゃないぞ』
「わかってるわかってるって。じゃあ、ちょっと突入するから通信機器しまうね」
『了解じゃ』
美女は耳の通信機器を腰のポーチにしまった。
「さてと。お仕事しますかぁ!」