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天空舞花(旧)  作者: 藤色緋色
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第5話 ”あの人”を捜して、不穏な手紙、悪夢(ナイトメア)

 クラッ・・・


 「ん・・・?」


 ディエミーさんの家からの帰り道、私はふらつく感じを覚える。今日はいろいろあったから少し疲れてるのかな?

 もう冬も近いからか、辺りはすっかり暗くなっていた。北通りから中央広場、そして”翠月”のある西通りへ。日が暮れたとはいえまだ夜の初め、お店の多い西通りは賑わっている。

 何を見るともなく、ふと西通りの先にある西門の方へと目を向け、そして私は歩みを止めた。


 「!! あれは?!」


 西門の方へと向かうあの後ろ姿。私が見間違える筈のない!あれは”あの人”の!!


 「ちょっと、ミウ?!」「ミウちゃん?!」


 次の瞬間、私は駈け出していた。人で混み合う大通りを、あの人影を見失わないように必死で。


 ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!


 「待って・・・!待って!!」


 その人影は私が辿り着く前に、西通りから南へと向かう路地へと消えた。遅れて私もその路地に飛び込んだけど、その時にはもう、その人影は見当たらなかった。

 

 「ハァ、ハァ、ハァ・・・。んぐ・・・。」


 それでも諦めきれない私は、そのまま真っ直ぐ路地を駆けた。王都とはいえ、治安の良くない場所もある。西門から南に向かった南西街区は歓楽街。その裏路地は、女性が夜に歩いていい場所じゃない。

 路地と路地が交叉する場所で数人の男たちがたむろっていた。


 「おやおやお嬢ちゃ~ん♪こんな時間にこんなトコロに入ってくると、いかがわしいオニイサンに攫われちゃうよぉ~?へっへっへ♪」


 いかがわしいオヂサンが何言ってるだか。もし”あの人”がここを通ってるなら、こんな奴らはたむろってない。


 「これでも冒険者なの。ちょっと人を捜しててね。こっちには来てなさそうだから戻るわ。」


 そう言って来た道を戻ろうとする私の腕を一人の男が掴んだ。


 「仕事なんかやめて、俺たちとヨロシクやろうぜぇ~?」

 「・・・離さないと痛い目みるわよ?」

 「へぇ~?どうやるってんだよぉ~?」


 いかがわしい上にバカなのは始末に負えないわね。それじゃ、痛い目に会ってもらいましょうか。


 「こうする。」


 ドゴォン!


 「ぐへぇ!」


 腕を掴まれたまま身体を回転させて、横の壁に叩きつけてあげた。


 「冒険者って、遺跡とかに潜って自動戦闘機械兵(オートマタ)とかと戦うんだから、小柄だからって舐めない方がいいと思うよ?オヂサンたち?」

 「「「ひいいいぃぃぃ!」」」


 叩きつけられて気絶した仲間に目もくれず逃げ去っていく男たち。


 「ミウ!」「ミウちゃん!」


 そこに姉さんとキャンディが駆けつけてきた。


 「ちょっと!いきなり走り出してこんな所に入り込んで、一体どうしたのよ?!通信にも返事しないで!」

 「ミウちゃん、急に駆けていっちゃうからビックリしたよ!」


 そういえばMISEの通信で姉さん達が何か叫んでたみたいだったけど、全然耳に入ってなかったや・・・。


 「うん・・・。こっちに”あの人”が入っていくのが見えて、それで追いかけてきたんだけど・・・。」

 「”あの人”が?!うーん・・・見間違いじゃないの?」

 「私が”あの人”を見間違う訳ないじゃない!!」

 「そうかもしれないけどさぁ、ミウちゃん。”あの人”が戻ってきてるなら、まっ先にベルキットでわたしたち捜すんじゃないかと思うんだけどなぁ・・・?」

 「う・・・確かに・・・。」


 キャンディの言う事ももっともだ。”あの人”が私たちから逃げ隠れする理由に心当たりはないから。


 「うぅん・・・見間違いだったのかなぁ・・・。」

 「とにかく、ここから出ましょう。またそんなのが湧いて出られても面倒だしね。」


 姉さんが、私が気絶させたオヂサンを一瞥してそう言った。確かに面倒だ。


 「うん、そだね。」


 クラッ・・・


 その時、また頭がふらつく感覚に襲われる。


 「ん・・・。」


 疲れてるところにまた走ったからかな?早く休んだ方がいいかも・・・。

 私たちは路地を出て”翠月”へと向かった。


◇◇◇


 「姉さん、これ、どう思う?」


 翠月に戻り夕食を済ませ部屋に戻った後、ディエミーさんから渡された封筒を開け手紙を読んで、私は眉を(ひそ)め、手紙を雪華姉さんやキャンディに見せる。

 その手紙には一言こう書かれていた。


 ―――アーシア姉様に気を付けて。


 確かに、アーシアさんからの情報で動いた時にはトラブルが多い。この前のように帝国関係者ともろに鉢合わせしたのは初めてだったけれど、私たちと入れ違いに去っていく不審な飛空艇を目撃した事はあるし、遺跡内部で自動戦闘機械兵(オートマタ)と遭遇して危うく全滅しそうになった事もある。それだけ未探索の”枯れていない”遺跡を教えてくれているとも言えるのだけど。


 雪華姉さんやキャンディも私と同じように眉を(ひそ)める。


 「忠告するにしても、先生らしくない方法ね。」

 「う~~~ん、先生が直接言わないのは珍しいね・・・。何か言えない事情でもあるのかな?」

 「”気を付けて”と言われても、何をどう気を付ければいいのかが分からないし、気を抜かない方がいいって事かな?でも、アーシアさん、悪い女性(ひと)には見えないんだけど・・・」

 「悪い女性(ひと)じゃないからといって、私達に害にならないとは限らない。もしアーシアさんが悪い女性(ひと)なら、いくら家族でもディエミーさんが私達を行かせるような事はしないと思うわ。私達に、というか、ミウにこの手紙を渡したところからすると、多分、”ミウに何かさせようとしているけどそれが何かは分からない。だから注意して。”と取るのが自然だと思う。」


 雪華姉さんの言葉に「はっ!」となる。アーシアさんが私に何かさせようとする、それはアーシアさんが”あの人”について何か知ってるって事になるんじゃ?!でないと、アーシアさんが私に何かさせる理由がない!

 

 「姉さん!キャンディ!今すぐアーシアさんのところへ行こう!!」


 居ても立っても居られなくなり荷造りを始める私。王都なんかでゆっくりしてる場合じゃない!!


 「ちょ!待ちなさい、ミウ!これはあくまで推測!ディエミーさんがはっきり言った訳じゃないでしょ?!第一、証拠も何もないのよ?!」

 「そうだよ、ミウちゃん!師匠、確証があるならこんな遠回しな事しないって!落ち着いて!」


 二人が慌てて止めに入る。確かに二人の言う通りだ。アーシアさんに詰め寄ったところで白を切られたらどうしようもない。


 「ごめん・・・ありがとう、二人共。落ち着いたわ。」

 「ふぅ・・・仕方ないわねぇ。ともかく、この件は一旦置いといて、明日はショッピングにでも行きましょう。」

 「うん。私、本屋とお花屋行きたい。」

 「いいわよ~、キャンディは何か希望ある?」

 「わたしは~スウィーツさえあればどこでも~♪」

 「ほんっと~に、色気より食い気娘よねあんたは!じゃあ、本屋行って、花屋見て、どこかでお昼食べて、私が服をみたいから服屋寄って、おやつにカフェに寄りましょうか。」

 「うん、いいよ、私は。キャンディもいいんでしょ?」

 「おっけ~だよ!」

 「じゃあ、早めに休んじゃいましょう!」

 「「は~い!」」


 今日も一日いろいろあったせいか、ベットに潜り込んですぐに私は眠りに落ちた。


◇◇◇


 村が燃えていた。

 アーシアさんの情報にあった遺跡に向かう途中に立ち寄った山間の村。

 私たちが向かっていた遺跡から出現と思われる自動戦闘機械兵(オートマタ)が3体、無慈悲な殺戮を行っていた。


 自動戦闘機械兵(オートマタ)もいろいろな種類があるけど、その3体はパワーとスピードが物凄く高い”殺戮人形(マーダードール)”というタイプだった。私たちが以前全滅しかかったのもこのタイプだ。

 普通、自動戦闘機械兵(オートマタ)はその場所の守護を命じられている為、特定の場所に踏み入った相手だけを攻撃する。

 しかし稀に、何らかの理由でその命令が働かなくなって暴走し、こうして遺跡から迷い出ては動くもの全てを殺戮または破壊するものが出る。


 私たちは、倒せないまでも村人たちが避難する時間を稼ごうと立ち向かうが、その考えが甘かった事を思い知らされる。

 敵はその3体だけはなかった。

 そして・・・


 「キャンディィィィっ!!」


 回り込まれた事に気付かなかったキャンディの背後から凶刃が振り下ろされようとしていた。咄嗟に飛び込んでキャンディを突き飛ばす。


 ザシュッ!!


 「あああぁぁぁぁぁぁ!!」

 「ミウちゃん!!」


 私の両脚が切り飛ばされ、鮮血をまき散らしながら地面を転がる。態勢を立て直そうともがく。しかし、両脚とも膝から下がないのではうつ伏せから仰向けになるのが精いっぱいだった。

 私にトドメを刺そうと殺戮人形(マーダードール)が迫る。


 「やらせない!!ミウだけは絶対やらせない!!ミウは大切な人を待ってるの!!だから!!!」


 キャンディの全力の防御魔術が殺戮人形(マーダードール)の攻撃を弾き返す。しかし、キャンディの体力も精神力も既に限界に達していた。防御魔術が破られ始め、凶刃がキャンディの腕や脚を切り裂き、自身の血で全身が真っ赤に染まる。


 「キャンディ・・・もういい・・・もういいよ・・・だから、逃げて・・・」


 涙が溢れる。家族の命が失われていく・・・それを目の当たりにしながら何も出来ない自分の無力さ。そんな自分を命に代えても守ろうとしてくれている家族の想いに。


 「馬鹿言ってんじゃない!!あんたがそんなだから!!”あの人”をちゃんと想ってないから!!”あの人”が帰って来られないんでしょうが!!本当に”あの人”と一緒に生きたいなら!!バラバラになるその瞬間まで!!”あの人”を!!”あの人”をちゃんと信じなさい!!!」


 ザシュッ!!


 キャンディの身体を踏み越えなおも迫る殺戮人形(マーダードール)。目の前で振り上げられる刃。そして・・・振り下ろされたその刃は自らの血が伝う赤き碧双月に受け止められる。


 「姉さん・・・もういい・・・もう・・・」

 「甘ったれるんじゃない!!勝手に希望を投げ捨てて、勝手にひとりで諦めるんじゃないの!!どんなにありえなくても奇跡と希望を信じなさい!!”あの人”に出会い救ってもらった、その奇跡を体験したのでしょ!!だったら今生きるのを諦めるのは只の甘ったれよ!!”あの人”のパートナーになるのなら、奇跡ぐらい自分で起こしてみせなさい!!!」


 ビキッ・・・ビキキッ・・・

 碧双月に亀裂が入り・・・

 バキィィィンッ!!


 ザシュッ!!


 そして、何の障害もなくなった殺戮人形(マーダードール)が私の前に立ち、私目掛けて刃を振り下ろした・・・。


◇◇◇


 そこは真っ暗な場所だった。何も見えない・・・何も聞こえない・・・自分の身体すら見えない漆黒の空間・・・。


 「私、死んだんだ・・・。」


 ポツリと呟く。その呟きすら闇へと吸い込まれていく。


 ―――勝手に死なれては困るわね。


 突如、声が聞こえ、というよりは頭の中に響く。


 「誰?」


 ―――私は貴女。貴女の中の私。


 「死んだ私に何の用?」


 ―――だから貴女は死んでないから。勝手に死なないでくれる?


 「死んでないならここはどこ?」


 ―――意識の挟間、といでも言っておきましょうか。厳密には違うけど。


 「それで私に何の用?」


 ―――不甲斐ない貴女に消えてもらう為に出てきたの。貴女の心は弱すぎる。貴女は”あの人”に相応しくない。あの程度で生を諦めるなど言語道断よ。


 「じゃあ、さっきのは・・・」


 ―――幻ではないわよ?あれは貴女が今のまま進むと訪れる未来。それを垣間見せただけ。


 「未来?垣間見せる?”未来視(フューチャーサイト)”?!」


 ―――自身に宿る能力(ちから)すら分からない貴女は”あの人”のパートナーにはなりえない。先程、生を諦めた如く諦めて、その身体を私に明け渡しなさい。


 「嫌!!!」


 ―――なら、自分の弱さのせいで貴女の大切な人達の、そして”あの人”の死を見る事になるわね。


 「それも嫌!!!絶対に嫌!!!」


 ―――嫌なら強くなる事ね。”あの人”も待ってるの。貴女の想いが導いてくれるのを。


 「本当に貴女は誰?」


 ―――私は貴女。貴女の中の私。かつて”あの人”と共にある事を誓い、果たせず、”あの人”に大き過ぎる罪を背負わせてしまった。貴女は私の生まれ変わり。だから、私は貴女。貴女の中の私。


 「”あの人”の罪?」


 ―――それは”あの人”に直接聞く事ね。それより貴女の大切な人達が呼んでるわ。今、貴女、仮死状態だから、早く目を覚ましてあげないと大変な事になるわね。


 「えぇっ?!ど、どうしたら?!」


 ―――声の聞こえる方向に近付く感じよ。


 「あ、ありがとう・・・。」


 ―――礼はいらないわ。でも、


 「でも?」


 ―――貴女に強くなる見込みがないと感じたら、今度は問答無用で身体を貰う。


 「!!」


 ―――貴女が”あの人”に助けられた意味を、”あの人”と生きる覚悟を、よく考える事ね。私は常に貴女を見ているわ。


 「・・・・・・わかった。」


 ―――なら早く行きなさい。


 「あ、あの、」


 ―――何?


 「名前、教えてくれない、かな?」


 ―――私はリーエロッテ。リィエでいいわ。ほら、早く!


◇◇◇


 私が目を開けると、大粒の涙を流しながら治癒魔術を掛けてくれているキャンディと、私の右手を祈るように握りしめている雪華姉さんの姿が飛び込んできた。


 「姉さん・・・キャンディ・・・」

 「ミウ!!」

 「ミウちゃん!!」

 「ごめん、二人共。心配掛けて・・・。」

 「驚いたわよもう!!朝になって起こそうとしたら、身体が冷たいし息してないし!!」

 「ミウちゃん・・・よかったぁ~~~よかったよぅ~~~・・・」

 「一体何があったの?!」

 「えと、多分、夢見が悪すぎてショック死しそうになった、かな?」


 私はリィエの見せた未来視(フューチャーサイト)の内容を夢として二人に話した。リィエの事は伏せて。リィエとの事を話しても医者に連れて行かれるだけだろうし。

 話を聞いた二人は呆れ返ってはいたが、目の前で大切な人が殺されればショック死もするだろうと一応は納得してくれていた。

 結局、今日は一日養生する事となった。私も、呑気に買い物なんて気分にはなれなかったし。


 「強く・・・強くならないと!!」

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