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天空舞花(旧)  作者: 藤色緋色
4/27

第3話 遺跡探索、殺戮人形(マーダードール)、森のクマ(特大)さん

 「この先で奴らが何をしているかに因るわよね?」

 「普通なら遺跡の盗掘をしていると考えるのですけれど・・・。問題は相手の規模ですわね。」


 調査団と合流した私たちは、今後の対応について協議していた。

 流石に5000kmも離れたこちらまで来て何もしていない訳はないだろうし、たかだか1個分隊規模で来ているとも思えない。

 こちらには大陸最強とも云われる二人がいるけど、調査団には荒事に向かない人もいる。質では負けている気はしないけど、多勢に無勢という事になりかねないから、無茶はしない方がいい。

 と、さっき無茶した私が言っても、説得力のカケラもないんだけど・・・。


 「ま、ここで考えてたってラチが開かないし、私が偵察に出るわ。チェイミーさん、同行お願い出来ます?」

 「いいよ~!ちゃっちゃと行こう~!」

 「あ、あの、私も・・・」

 「あんたはダメ。ここで大人しく反省してなさい。」

 「はい・・・・・・。」


 ですよね・・・あれだけの事しておいて、連れて行くわけないですよね・・・。下の岩陰にいた数人も、私の起こした騒ぎに乗じていなくなってたし・・・。


 ず~~~ん・・・と落ち込んでいる私の目の前に、ひょいっと何かが差し出された。バームクーヘン?


 「ほなかふいへふと、ひふんほほひほんひゃうはら、はへへはへへ。ほはわひもはふほ。」


 通訳すると『お腹空いてると、気分も落ち込んじゃうから、食べて食べて。おかわりもあるよ。』かな?自分も頬張りながらキャンディが渡してくれる。キャンディなりの気の使い方なんだろうなぁ、と思う。こういう時は雪華姉さんやキャンディが傍にいてくれて本当に良かったと思う。

 実はこういう事は今回が初めてではない。あ、流石に帝国軍関係者ともろに鉢合わせしたのは初めてだけど、宿の食堂で他の冒険者から「『あの人』に捨てられた」とか揶揄された瞬間に相手の顔面を粉砕したりとかはあった。

 私が荒んでいかずに済んだのはひとえに二人のお蔭だと思う。

 差し出されたバームクーヘンをモグモグと食べていると気分も落ち着いてきた。


 しばらくして雪華姉さんとチェイミーさんが戻ってきて偵察の報告がされた。目的地周辺にはもういないようだとの事。ただ、遺跡に荒らされた形跡があったので、目的はやはり遺跡の盗掘だろうという事になった。


◇◇◇


 「チェイミー姉さん、罠等はなさそうですか?」

 「少なくても入り口付近はね~。もっとも、そんなわかりやすいとこに仕掛けるヤツなんていないけどね~♪」

 「それもそうですね。それでは雪華さん、ミウちゃん、キャンディ、先行で確認、お願い出来るかしら?」

 「分かりました。元々、それがアタシ達の仕事ですから。ミウ、キャンディ、準備してから行くわよ。」

 「了解、雪華姉さん。汚名()()しないと。」

 「ミウちゃん、それを言うなら”汚名()()”か”()()挽回”だよ?」

 「ワタシ コトバ ヨクワカラナイ・・・」

 「いきなり退化しないでよ、ミウちゃん。」

 「はいはい、遊んでないで、準備したした!」


 帝国の奴らにどんな嫌がらせされてるか分からないから気を付けないとね。

 準備を整えた私達は、遺跡へと向かった。


 遺跡の入り口は山の中腹の崖の途中にあった。

 入り口とは言っても、扉があるわけじゃない。多分、山の中に埋まっていた部分が山崩れか何かで露出して、そこに穴が開いたのだろう。

 悪い足場に気を付けながら、その穴から中に入る。

 中は当然、暗い。穴から差し込む外の光の当たる場所から奥は何も見えない。

 普通なら明かりの一つも用意するところだけど、私たちにはMISEがある。

 私たち顔を見合せて頷いたあと、MISEを暗視モードに切り替えた。

 熱・光学・電波・音波の複合センサーが暗闇の先を浮かび上がらせてくれる。でも、色味はなくて、緑色の濃淡だけで表示されている。

 穴の正面は壁で、左右に幅5mくらいの通路が続いている。右に行くと私たちが来た方向に戻る感じに、左に行くとより山の奥へ行く感じになる。


 「いつも思うけど、MISEさまさまよね。」

 「普通ならたいまつやカンテラか、灯り(ライト)の魔術が必要だもんね。なんにもしないでも視えるってお得よね♪」

 「姉さ~ん、キャンディ~、早く行こうよ~。」


 私は姉さん達を促しつつ、右へと歩みを進めた。

 私が迷わず右に進んだのには訳がある。他に外へと続くところがないか確認する為だ。脱出路を複数確認しておくのは遺跡探索の常識。不測の事態で穴が塞がってしまったら大変だからね。

 カツン、カツンと硬い床を踏む足音が響く。私、金属ブーツだからなぁ~・・・。

 この硬い壁や床は古代魔工文明遺跡ではお馴染みのもので、前に”あの人”が、「窒化ケイ素系の素材っぽいな。」と言ってた。なんでも、作り方によっては、強度を変えずに透明に出来るとか。私にはよく分からなかったけど。


 しばらく歩くと、私たちの行く手を阻む扉”のようなもの”、が現れた。

 ”のようなもの”というのは、暗視モードだとある程度段差があるものでないと見分けが付かないから。それが扉だったとしても、隙間がなくぴったり閉じられていると、壁と区別がつかない。

 この壁は右から四分の一のところと左から四分の一のところから中央に向かって一段くぼんでいる。そのくぼんでいる部分が扉なんじゃないかと思ったわけだ。

 これが扉だとすると、どこかに開閉する為のパネルがある筈。その壁を手分けして調べていると、キャンディが声を上げた。


 「雪華姉、ミウちゃん、ここにそれっぽいのがあるよ。」


 私と姉さんもキャンディの元へと集まり、改めて確かめてみる。

 扉と思われる壁に向かって右から1m、高さ1mと少しのところに、少しくぼんだように四角い枠のようなものが見える。


 「キャンディ、確定させたいから灯り(ライト)を点けて。アタシとミウは周囲警戒。」

 「おっけ~♪【ライト】。」


 キャンディが手のひらに明るく輝く光の球を生み出した。周囲の景色に色味が戻る・・・はずが、壁が暗い灰色なので、色味がないのは同じだった。

 姉さんの指示通り、明るくなった周りを確認する。さっきも言ったけど、段差がないと見つけられないから、途中にある扉を見落としている事もあるからだ。


 「キャンディ、どう?」

 「う~ん、扉を開くやつだと思うんだけど、死んでるっぽい。」


 あ~遺跡だもんね~~~。よくあるよね~~~。


 「魔術で抜けそう?」

 「抜けることは抜けるけど、やっていいの?」

 「あ~~~~~~反対の通路を調べてからにしましょうか。」


 確かにキャンディの魔術なら穴を開ける事は出来るだろうけど、前にそれで生き埋めになりかけたしね。キャンディ、もう少し加減を覚えて欲しい。

 穴から反対に伸びる通路を先に調べてみる事にしたその時だった。


 「!! 姉さん!!キャンディ!!前方30m、人間大の反応1!大きさは人だけど、熱分布が生き物じゃない!」

 「保安用の自動戦闘機械兵(オートマタ)ね!二人共、いつも通りに!」

 「了解!」「りょ~かい!」



 自動戦闘機械兵(オートマタ)。古代魔工文明遺跡でたまに見かける保安用の機械人形の事を私たちはそう呼んでいる。人形とは言っても、全然人型になってないものもあれば、かなり人型に近いものもあり、人型に近いほど戦闘力が高い事が多い。

 それは、人型に近いものの方が、重量や武器の積載量ではなく、もっと面倒なものを、”作戦”や”臨機応変”を使いこなすからだ。

 そして、私たちが向かっている相手は、かなり人型に近い。


 それぞれがそれぞれの得物を抜き、姉さんが通路の右端を、私が通路の左端を、相手に向かって駆ける。キャンディは真正面から動かない。

 姉さんは右手に魔力銃、左手に小太刀”碧双月・上弦”を構えて、私は右手はナックルガードを下ろして、左手は実弾銃を構えて接近する。

 普通の保安用自動戦闘機械兵(オートマタ)なら、接近中の姉さんか私を狙うはずだけど・・・


 ダダダダダダッ!!


 両方の前腕に取り付けられた銃口から放たれた弾丸が向かった先は、キャンディ。


 「そんなことだと思ったぁー!!」


 チュンチュンチュンチュンチュンチュンッ!!


 次の瞬間、キャンディを穴だらけにするはずだった弾丸は、オートマタの胸部に火花を散らした。

 キャンディは私たちが駆け出した瞬間に、既に強化防壁【リインフォース・プロテクション】と反射防壁【リフレクション】を二重に展開していた。しかも、反射した弾丸が胸部に集中するように調整までして。

 普通の魔術士なら魔術は一度に1つしか行使出来ない。発動に多大な集中力が必要な為だけど、キャンディは2つの魔術を、綿密に調整しながらの同時行使を難なくやってのける。伊達に「天才」と呼ばれていない。

 これで加減さえ覚えてくれれば言う事のない天才なのにね。


 「姉さん!こいつ!!」

 「えぇ!殺戮人形(マーダードール)ね!!」


 殺戮人形(マーダードール)自動戦闘機械兵(オートマタ)の中でも極めて戦闘力の高い個体。状況判断能力が高く、しかも素早い。装甲(アーマー)骨格(フレーム)魔素魔力変換器エーテル・マナ・リアクターから供給されている魔力(マナ)によって強化されている為、普通の武器では傷付かない程の防御力も備えている。

 普通の冒険者なら、手も足も出ない相手だけど・・・


 「昔なら逃げ出してるところだけど、今は”あの人”に貰ったこれがあるからね!!」


 姉さんの”碧双月・上弦”がエメラルドグリーンの光刃を纏い、そしてその光刃が太刀程の長さに伸びる。 

 ”碧双月”は柄に超小型のエーテル・マナ・リアクターを内蔵している小太刀。魔力をチャージする事で切れ味、強度が大幅に強化され、更にイメージする事で光の刀身を構築して太刀並みのリーチを得る事が出来る。

 これを造ったのは”あの人”で、私たちが出会った仕事の最中、姉さんがそれまで使っていた刀を折ってしまい、見かねた”あの人”が同じ仕組みの小剣を貸したところいたく気に入ったようで、執拗にねだる姉さんに根負けした形で、私の面倒を見る事を条件に”あの人”が贈ったものだ。

 これを受け取った時の姉さんの顔は今でも覚えている。瞳を輝かせ頬を上気させて、その時の私より年下に錯覚してしまうくらい喜んでいた。

 ちなみに”碧双月”は二刀小太刀なので”碧双月・上弦”の他に”碧双月・下弦”という刀がある。


 その光を見た殺戮人形(マーダードール)が姉さんの方へ向きを変えた。姉さんを最も脅威だと認識したようだ。

 だけど、それも想定の内だ。姉さんの方に向きを変えた事で、私の進路が大きく開く。

 待ってましたと言わんばかりに、姉さんの速度に合わせて走っていた私は、全力で加速した。そして、その隙間を抜けて相手の後ろに回り込むと銃を連射した。その後頭部に向けて。


 ガゥン!ガゥン!ガゥン!

 カン!カン!ガッ! バチッ!!


 屋内だからかなりうるさい!3発撃った弾丸は、2発は弾かれたものの、1発が頭の装甲を抜き、中のセンサーをショートさせた。

 そして殺戮人形(マーダードール)の動きが一瞬鈍る。正面から迫る脅威と、背後にいる実際に損害を与えてきた脅威。その対応優先度で混乱したのだろう。


 「はぁぁぁあああっ!はっ!はっ!はっ!せぃっ!!」


 そんな隙を見逃す姉さんじゃない。裂帛の気合を吐くと同時に、すれ違いざまに左腕を肘から斬り落とし、するりと背後に回り込んで身体を回しながら、左ひざ、右ひざの順にひざ裏から斬り飛ばす。そして最後に右脇の下から上に切り上げ右肩を落とした。その流れるような動きは”碧刃の舞姫”の呼び名に相応しい美しさだ。


 ドガシャアアアン!!


 手足の殆どを失いうつ伏せに崩れ落ちる殺戮人形(マーダードール)。残った左の二の腕と両腿だけでバタバタともがいている。


 「は~い、それじゃ、大人しくしなさいね!っと!」


 その背中に姉さんが四回刃を突き立てると、殺戮人形(マーダードール)は動かなくなった。内蔵されているリアクターの位置はMISEの熱センサーで分かっている。ならその周囲を寸断してやれば、動力供給を止められる。

 そして、動作が確認出来た殺戮人形(マーダードール)に使われるような高品質のリアクターが無傷でまるまる1個手に入る。美味しい。

 でもこれはこのまま残しておいて私たちは予定通り入り口の穴へと戻り、壁に殺戮人形(マーダードール)の残骸がある事をマーキングしてから反対の通路へ向かう。

 あの残骸は調査隊への囮にする訳だ。殺戮人形(マーダードール)の残骸、それも無傷のリアクターなんてそうそう手に入るものじゃないから、喜んで調査してくれるだろう。時間を掛けて。それ一つ持って帰っただけでも今回の調査隊は成功と評価されるくらいのものだから。

 その間に私たちはもう一つの通路へと足を進めた。


 「アレが出てきたという事は、この遺跡は当たりって事ね。」

 「でも姉さん、向こうの扉の動力は死んでたよね?」

 「あの穴でルートが壊れたとかじゃないかな、ミウちゃん。」

 「なるほど。」


 周囲を警戒しながら進み、反対側の扉までと比べて倍以上の距離を歩いて辿り着いた先は・・・


 「「「おぉう・・・。」」」


 派手に爆破された扉の残骸だった。帝国って魔術嫌ってるから、扉を抜こうと思うとこうなるのだろうけど。

 MISEで扉の周囲を確認して見ると、通路は扉の向こう側、正面と右に続いている。床には壁材や扉、保安用の自動戦闘機械兵(オートマタ)の残骸、そして自動戦闘機械兵(オートマタ)との戦闘で生命を落としたであろう人間の遺体。でも、センサーの範囲にはそれ以外の反応はない。


 「・・・殺戮人形(マーダードール)がいたんじゃ、慣れてない人には荷が重かったでしょうね。さっきのもピンピンしてたし。」

 「・・・姉さん、私、今、嫌な予感がしてるんだけど・・・。」

 「奇遇ねミウ、アタシもよ。!! キャンディ!!」

 「【リインフォース・プロテクション】×2!!」


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!

 チュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュンッ!!


 次の瞬間、無数の弾丸がキャンディの強化防壁に弾かれ、跳弾となって天井や壁、床に火花を散らせた。

 殺戮人形(マーダードール)に守らせるような場所に配備されている殺戮人形(マーダードール)が1体な訳ないよね。帝国の奴らに面倒な後処理押し付けられた!!

 こちらのセンサーの範囲外からの攻撃って事は、さっき倒したヤツにデータを送られた?!

 キャンディの防壁で耐えつつ、対策を練る。


 「拙いわね。撤退するにしても何らかの足留めはしないとすぐに追い付かれるし、外に出したら大惨事よ。」

 「雪華姉!正面の通路の天井落とそう!まだ右にも通路あるし!このままじゃジリ貧になっちゃうよ~!!」

 「それしかないか。キャンディ、今回はアタシが先生に謝ってあげるから、やっちゃいな・・・」

 「その必要ないよ~♪」

 「「「えっ?!」」」


 天井崩落作戦を実行に移そうとしたその時、突然、背後から能天気な声が掛かった。MISEで映し出されたシルエットを見る間でもなく分かる声。チェイミーさんだ。


 「キャンちゃん、ちょっと足元、開けてもらっていい?」

 「は、はいっ!!」

 「ありがと♪えいっ♪」


 チェイミーさんが握りこぶしより大きいボールみたいなものを防壁の隙間から3つ程勢いよく転がした。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ・・・ボンッ!!


 右通路との交差点を越してしばらく転がったそれは、突然破裂して通路に煙を充満させた。その煙は、MISEのセンサーでさえも、その向こう側を見通せなくした。相手の銃撃が止んだ。


 「フォルくん♪あとよろしくね♪」

 「フォルくんはやめろ。」

 「キャンディ、防壁を解除して。私達が出たら張り直すのよ?跳弾が危ないから。」


 いつの間にか杖を携えたディエミー先生と、普通なら両手で持つような大剣を片手持ちしたフォルクさんもやってきていた。きっと、調査隊を残骸の方に向かわせて周囲警戒していたら、さっきの一斉射の音が聞こえて駆けつけてくれたんだ。


 「3つで解除するね。3、2、1、解除(リリース)。」


 防壁の解除と同時に駆け出す先生方。と、チェイミーさんだけが右の通路へと駆け込んでいく。


 「(せっ)ちゃん、キャンちゃん、ミウちゃん、足留めしとくから、前が落ち着いたらこっちきて♪フォルくんの活躍、ちゃんと見てないとディーちゃんが怖いからね♪」

 「「「は、はい!」」」


 そう言うとチェイミーさんは正面の時と同じように煙幕を焚いて、その向こうに消えた。直後、銃声や跳弾の音と、チェイミーさんの楽しそうな声が聞こえてきた。


 「ほらほら♪もっと頑張らないと当たらないぞ♪」


 殺戮人形(マーダードール)がちょっと気の毒になった。

 正面の二人はというと、フォルクさんが前、ディエミー先生が後ろの単縦列で通路の奥へと向かっていく。銃弾の雨が降り注ぐが、全て上下左右に逸れて跳弾の火花を散らし、一部がこちらまで飛んできた。


 「さすが師匠。防壁を前に向かって円錐形に展開してる。あれなら受ける力を逸らせるから進みやすい。わたしも覚えておこっと。」


 チェイミーさんに言われたから、私たちもディエミー先生たちを追って正面の通路へ。そうするとようやくMISEのセンサーに殺戮人形(マーダードール)の反応が。全部で6体が3体ずつ前後2列に並んで通路いっぱいに弾幕を張っている。


 「フォルク、いくわよ。【フラッシュバレット】。」

 「・・・!!」


 ディエミー先生がフォルクさんの両斜め後ろに閃光弾を放つ。それに合わせてフォルクさんが今までとは比べ物にならない速さで殺戮人形(マーダードール)の群れに迫り、次の瞬間には前列真ん中の1体を、胴を残してバラバラにした。そしてそのまま群れの中に飛び込み、後列真ん中の1体も屠る。

 真ん中に飛び込まれてしまった殺戮人形(マーダードール)たちは、同士討ちを避ける為に銃が撃てず隙が生じた。そこを逃さず、更に後列2体をバラバラにした。

 ようやく近接用ブレードを展開した殺戮人形(マーダードール)だけど、既に残り2体。人形ごときが”黒衣の剣聖”に剣で敵う筈もなく、間も置かずにバラバラになった。

 フォルクさんの腕が凄まじい事もあるけど、ここまで殺戮人形(マーダードール)をなます斬りに出来る理由は、フォルクさんの持っている大剣。確か”アンスェラー”という名前だったと以前に教えてもらった。漆黒の刀身を持つその剣は恐らく、碧双月と同じリアクター内蔵型の武器。

 でも、碧双月のように光ったりはしていない。纏わせている光が人間には見えないものなのだろう。この王国で十数年前に起きたある事件の時に王家から下賜され、それ以来フォルクさんが使っているという事だ。


 「今回は大漁ね。あ、貴女達はチェイミー姉さんの手伝いをお願いね。楽勝でしょうけど、手伝ってあけないとうるさいから。」

 「「「わ、分かりました!」」」


 そそくさと戻り、チェイミーさんを手伝って殺戮人形(マーダードール)を倒したあと、探索を続けた。

 結局のところ、殺戮人形(マーダードール)の残骸以上の収穫はなかった。重要度の高そうな研究施設のようだったけど、価値のありそうな物は運び出されてから閉鎖されたのだろうとチェイミーさんが結論付けた。


 「雪華さん、ミウちゃん、キャンディ、みんなご苦労様。貴女達の倒した殺戮人形(マーダードール)の残骸は、いつも通りこちらが適正価格で引き取るわ。(小声で)アレに使えそうなものが見つからなかったのは残念だけれど。」

 「いえ、先生もお疲れ様でした。また地道に探してみますから。」


 こうして仕事を終えた私たちは、ベルキットへの帰路についた。


◇◇◇


 「明日、王都に行くわよ!」

 「いきなり何ですか、姉さん?」

 「先生のとこ寄らないならいく~~~♪」

 「寄るに決まってるでしょう!お呼びなんだから!次の遺跡の話なんじゃないかしら。」

 「き、キャンセルは・・・・・・ダメ?」

 「ダ~~~メ!ま、骨休めも兼ねてるから、話が終わったら美味しいものでも食べ歩きするつもりだけど・・・行かないの?じゃあ、しょうがないからあたしとミウで美味し~~~いスウィーツを食べてくるわね?」

 「スウィーツ?!うぅん・・・・・・な、なら行こうかな・・・・・・」


 前の仕事から10日ほど経ったある日の夕食、雪華姉さんが唐突に言い出した。続く会話の内容からすると、手紙で呼び出されたのかな?珍しいな、ディエミーさん、あまりそういう事しない人なのに・・・。


 ラロトゥーニュ大陸には4つの王国があり、他の大陸の国との外交や防衛の為に連合を組んでいる。

 私たちが今いるのは、大陸の西寄りにある南北約850km程の島「グレーテン島」の中央部にある「イングリッド王国」で、「王都レンデン」は連合王国の首都でもある。


 ベルキットからレンデンまでは直線距離で約200km。一般的なウィンドライドの足だと街道沿いに休憩しながらで半日程度掛かる。私たちのスターライトの全速力なら10分程度で行ける距離だけど、そんなスピードで飛ばしまくっていたら目立ってしょうがないので、6、7時間掛けて行く事になる。

 なので、ついでに数日滞在して王都観光も楽しんでこようというのが姉さんの考えだろう。


 ちなみに、イングリッド王国の北には「コランド王国」、南には「エルズ王国」、エルズ王国から東に海を渡った所にグレーテン島の3分の1程の大きさ島「アルンド島」があり、そこに「アルンド王国」がある。


 柱状大陸はどこでも中央部に断面積で1%くらいの大きな穴が開いていて、そこから水が溢れ出している。

 ラロトゥーニュ大陸の場合は直径が約1000kmなので、直径約100kmの穴が開いていている。

 溢れ出す勢いや表面の地形によって海を形造り大陸の外へと流れ落ちていくのだけれど、この大陸は溢れる勢いが強いようで、陸地より海が大きく、西側の標高が高い為、陸地は大陸中央より西に多く存在している。


 翌朝、まだ暗い内から出発。お昼過ぎに王都に着いて、宿を決めて、お昼ご飯食べて、ディエミーさんの仕事が終わって帰宅する頃にお邪魔する事にする。

 ベルキットはイングリッド王国内でも最大の鉱山都市でベルキット―レンデン間の街道はしっかり整備されていて王国軍も定期的に巡回しているので比較的安全だけど、魔物や不逞の輩が出没しない訳ではないので、装備はいつものように身に着けている。


 冬が間近に迫った晩秋、山の木々は赤や黄色に色付いている。

 ”あの人”が居なくなってからこの景色を見るのももう5回目。来年こそは”あの人”と・・・と毎年思うけど、未だその思いは叶っていない。


 「あとふた月足らずで年が変わるね・・・来年こそは戻ってきてくれるかな・・・」

 『ミウ、あんたが信じないでどうするの?きっと”あの人”も戻りたくて必死に頑張ってると思うわよ?』

 『そうだよぉ~!ミウちゃん、そんな事言ってると、”あの人”が帰ってきたらわたしがもらっちゃうからねぇ~?』

 「ちょ、ちょっと!それは、あの、やめて欲しい・・・ん・・・だけど?」

 『あ、あれ?いつもなら、『ちょっと!!冗談やめてよーーー!!』って言うところだよね?』

 『そうね・・・。ミウ、あなたまさか・・・』

 「ち、違うの!!信じてる!!信じてるの!!でも、姉さんとキャンディとなら一緒でも・・・って・・・」

 『『えっ?』』


 ベルキットから出発して3分の1ほど行程を進み、山がちだった道が次第に平坦になってきたところでセンサーに反応が。人間サイズが15、6で半円形に並んでる。その周りにかなり大きい反応が4つ。これはもしかして、誰か魔物に襲われている?


 「姉さん!!」

 『分かってる!みんな!急ぐわよ!!』


 木々の隙間から空へと舞い上がる。反応のあった方へ機首を向け光学望遠で確認すると、森の近くの街道で隊商らしきウィンドライドが数台とそれを護る冒険者らしき人影、そしてそれを取り囲むように大型のクマのような姿が遠くに見える。


 「あれは、破壊熊(デストベア)!それも4頭も!あいつら、街道沿いに出るような魔物じゃないし、群れるなんんてありえない。という事は・・・」


 破壊熊(デストベア)森林熊(フォレスベア)が何らかの理由で体内に魔素(エーテル)を大量に取り込んでしまい巨大化した魔物で、森林熊(フォレスベア)が全高2m程度に対し破壊熊(デストベア)は倍の4mにもなる。性格も凶暴で力も強いが縄張り意識が強く、他の破壊熊(デストベア)と群れたりはしない。というか、出会ったら最後どちらかが死ぬまで戦う。だからこの状況、明らかにおかしい。

 という事は・・・


 『詮索は後よ!ミウ!キャンディ!助太刀するわよ!』

 「『了解!!』」


 一直線に向かい、戦場の上空へと差し掛かる。スピード緩めつつ、腰の銃を抜き、護衛の冒険者に攻撃しようと前屈みになっているクマの真上から飛び降りる。


 「姉さん、先に行くわ!たあああぁぁぁっ!!」


 ドゥン!ドゥン!ドゥン!


 真下のクマに向けて3連射。


 ゴォアアアァァァ!!


 「遠慮はいらないから、全弾持っていきなさい!!」


 ドゥン!ドゥン!ドゥン!


 痛みに雄叫びを上げ仰け反ったクマの頭にさらに3発。


 グガアアアァァァ!! ズズゥゥゥゥゥゥン・・・


 断末摩の叫びを上げ、仰向け倒れるクマ。撃った反動で落下の勢いを殺して着地。すかさず排莢して再装填。更に隣のクマの頭に目掛けて全弾叩きこむ。

 今度は距離があった為倒すには至らなかったが、痛みでバランスを崩したところをそれと戦っていた冒険者さん達がトドメを刺す。


 「大丈夫ですか?通りがかった冒険者ですが手助けに来ました!」

 「ありがたい!感謝する!」

 「あと2頭は雪華姉さんが片付けてくれますから大丈夫です!キャンディ!姉さんにいつものやつと冒険者さん達に回復お願い!」

 「了解~♪雪華姉に【アクセラレート】!冒険者さんたちに【マルチロック・メガヒール】!」


 スターライトで上空から回り込んでいたキャンディが同時に二つの、しかも片方は複数目標への魔術を行使する。


 一方、雪華姉さんはというと、私が飛び降りるのと同じタイミングで別のクマの後方から低空で侵入、地面に飛び降り、右手に魔力銃、左手に小太刀「碧双月・上弦」を構えて地を駆ける。


 「ク~マさんこちら!手~の鳴る方~へ!ってね!!」


 バシュン!!バシュン!!


 私が攻撃したのとは別のクマ2頭の後頭部に銃撃が突き刺さる。


 ゴォアアアァァァ!!


 雄叫びを上げ攻撃してきた相手を捜すクマ達。雪華姉さんを見つけると怒りに任せて突進してゆく。

 姉さんに接近した1頭が攻撃しようと左手を振り上げたタイミングでキャンディの【アクセラレート】が発動、次の瞬間腕が振り降ろされるが、【アクセラレート】によって倍化された身体能力と思考速度で躱すと同時に腕、肩へと跳躍、更に肩から後頭部目掛けて跳躍する。


 「はい!ざ~んねん!!」


 クマの頭とすれ違いざまに刀身からエメラルドグリーンの光刃を纏った”碧双月・上弦”を一閃!!クマの頭が切り飛ばされて宙を舞う。


1頭を切り捨て地面に降り立つともう1頭の正面からワザと速度を落として接近する。

 クマが攻撃しようと腕を振り下ろしたところを舞うように躱して懐に潜り込み、身体を捻るようにして切り上げ、その腕を切り落とす。

 痛みで吠えながら仰け反ったクマの脇をすり抜けて後ろに回り、両脚を切り飛ばしてから崩れ落ちるクマに巻き込まれないように一旦距離を取る。

 片腕と両脚を失ったクマは必死にもがくが、


 「あっと、大人しくしてなさい。でないと頭が綺麗に切り飛ばせないでしょ。」


 姉さんのトドメの一撃で絶命する。


 「はい、お終いっと。ミウ~、キャンディ~、そっちはどう?」

 「問題なしよ、姉さん。幸い死んだ人もいないし怪我人もキャンディが治したし。」


 互いの無事を確認していると、隊商の護衛をしていた冒険者さん達が笑顔で集まってくる。


 「いや、本当に助かった!感謝するよ!それにしても強いなあんた達!」

 「凄かったよね~!特にそっちのお姉さん!破壊熊(デストベア)2頭を相手にまるで踊るかのように華麗に倒しちゃって!わたし、ファンになっちゃった!!」

 「いや、赤毛の娘も負けてないよ!あれだけ動きながら反動のキツイ実弾銃を一発も外してないんだぜ?なぁなぁ、良かったら俺たちのパーティに入ってくれない?」


 口々に賞賛してくれる冒険者さん達。街道での隊商の護衛の仕事は比較的難易度も低いから、まだあまり経験を積んでない冒険者も多い。今回は熟練者が上手く指揮していたから間に合った感じだ。

 命の危機が去った安堵感からか、わいのわいの騒ぐ人たちを半笑いで眺めながら、それにしても、と一抹の不安が拭えない。ありえない状況の原因がまだ見えていない。


 いや、その原因が現れた。センサーが捉えた熱源が急速に接近中。大きさは・・・約10m。まさかとは思ったけど・・・。


 「姉さん。」

 「あ~やっぱりかぁ・・・。ちょっとみんな!急いで退避して!早く!!あと2、3分で特大のが来るわよ!!」


 姉さんの剣幕に再び緊張が走る。熟練の冒険者が指示を飛ばし、隊商のウィンドライドが次々と発進していく。

 と、遠くからバキバキ、ズズーーンと木々がへし折られなぎ倒されていく音が聞こえてくる。


 「まさかこんなところで?!急いでここから離れるぞ!あんた達も早く!!って、まさか?!」

 「いや~このまま放っておく訳にもいかないでしょ?あたし達が倒すから、あんた達は行って。次の街で王国軍に連絡しておいてくれると助かるわ。」

 「いや、流石に無茶だろ!!破壊熊(デストベア)よりデカいって、災厄熊(カラミティベア)って事だろ?!あんなの軍が束になって倒す魔獣じゃないか!!」


 自分達のウィンドライドに乗り込んだ熟練冒険者さん達が心配して声を掛けてくれる。まぁ、普通ならそうなんだけどね。


 「あぁ、あたし達、何度か狩ってるから大丈夫よ。それより行った行った。あんた達の仕事は護衛でしょ?ここはあたし達に任せて?」

 「・・・わ、わかった。あんた達も気を付けてな・・・。」


 隊商の後を追い去っていく冒険者さん達。ちょっと引かれてたな・・・。

 さて、そろそろかな?


 ドガアアアァァァッ!!


 森を破壊しながら飛び出す巨体。赤や黄色の葉が辺りに舞い散る。そして、周囲を見回して自分の眷属が屠られた事を知ると轟然と吠える。


 ルグオオオォォォォォォ!!


 そして私たちを見つけると猛然と突進してくる。


 「キャンディ、いつもの様によろしく!でも、やり過ぎないでね?」

 「了~解、雪華姉♪ひっさしぶりに腕輪の出番ね~♪」


 キャンディが左腕を高く掲げる。すると手首に装着した腕輪をサファイアブルーの光が包み、彼女の周りに膨大な魔素(エーテル)が集まる。

 そして更に右腕を掲げると、やはり手首の腕輪がサファイアブルーの光を放ち、その魔素(エーテル)のほぼ全てが魔力(マナ)へと変換される。

 人の身ではあり得ない程の膨大な魔力を纏うキャンディ。眼前に災厄熊(カラミティベア)の巨体が迫る!


 「いっちゃえーーー!!【デストラクション・レイ】!!」


 災厄熊(カラミティベア)に向けたキャンディの右手から放たれた蒼光が災厄熊(カラミティベア)を丸ごとを消滅させ・・・その向こうの山の頂まで吹き飛ばす。


 「あ~・・・やっちまったなぁ~・・・」

 「『やっちまったなぁ~・・・』じゃな~~~い!!加減をしなさい加減を!!先生に言いつけるわよ!!」

 「あああぁぁぁ!!やめてぇぇぇ!!それだけはやめてぇぇぇぇぇぇ!!」

 「大丈夫よキャンディ。姉さんが言いつけなくても、あの先生ならきっと知ってるから。」

 「全然フォローになってないよ、それ!!」


 凄まじい威力。今のキャンディなら帝国軍艦隊が攻めてきても、今ので薙ぎ払ってくれるに違いない。

 前にキャンディは「彼女は特に防御系と治癒系の魔術が得意」と紹介したけど、それはこの加減のなさが理由で攻撃魔術の使用を制限されているから。

 なんでも、アカデミー時代に魔術実習棟(当然、強力な防護魔術が施されている)を半壊させて大騒ぎになったとかで、ディエミーさんが使用を禁止したとか。

 冒険者になった現在でも、雪華姉さんが許可するまでは使用禁止だ。前にそれで生き埋めになりかけたしね。


 キャンディの腕輪も”あの人”作だ。エーテル・マナ・リアクターのエーテル凝集能力とマナ変換能力を二つに分けて腕輪の形にし、人が魔術を使う時の補助をするものだけど、元々その能力が高いキャンディが使うとこういう事になる。加減して使えば済む話なのだけど。

 こういう事をたまにするので、彼女は一部の人から”天災魔術士”だの”怪獣”だのと呼ばれてたりする。


 何はともあれ、これで王都に向かう事が出来る。

 私たちはスターライトを呼び寄せ、再び王都へと向かった。


 あ、途中の村で王国軍に連絡してもらって、倒したクマたちの処理をお願いしないとね。

 ちらっと見ると、クマたちの亡骸の上に先程舞い散った色とりどりの葉が降り積もっていた。

 

 

Special Thanks

文章校正:エリザベスさん

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