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天空舞花(旧)  作者: 藤色緋色
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第2話 協力者、暴走する感情(こころ)

 集合場所である街の小型飛行艇(ウィンドライド)の駐機場に行くと、既に調査団の飛行艇が到着していた。

 一口にウィンドライドと言っても、私たちのスターライトのように1人乗りのものから、10名程度が乗れるものもある。

 調査団一行のものはこの10名程度が乗れるもので、中からぞろぞろと降りてくる。どうやら向こうも今しがた到着したところだったようだ。


 「あら、ミウちゃん久しぶり。元気にしてた?」

 「あっ、ミウちゃんおひさ~!相変わらず小っちゃ可愛いねぇ~!いろんなところが!」


 その中の二人、腰まである銀髪の20代後半の女性と、同じ銀髪でポニーテールのやはり同じ年齢くらいの女性が声を掛けてきた。


 長い銀髪の人がキャンディの恐れるアカデミーの講師、ディエミー=アルスマグナ先生。大陸一の魔術師”銀髪の賢者”と称される女性である。

 この人が魔術を行使すると飛行戦艦の主砲でさえ防ぎきり、瀕死の人間を一瞬で全快出来るともっぱらのウワサだったりする。

 綺麗で優しく物腰も穏やかで、とてもキャンディが恐れるような人には見えない。私にもいつも優しく気さくに話しかけてくれる。


 ポニーテールの人はディエミー先生の双子の姉でチェイミーさん。やっぱりアカデミーの講師で、こちらは探索技術と魔工術を教えている。

 前はチェイミー先生と呼んでいたけれど、「わたし、先生って呼ばれるの好きじゃないから。」というので、アカデミー以外では”チェイミーさん”と呼んでいる。

 デリカシーの欠片もない発言をする、ちょっと困った人だけど。


 魔工術とは、大気中に含まれている魔素(エーテル)魔力(マナ)に変換して様々な事象を起こす機械、魔素魔力変換器エーテル・マナ・リアクターを利用する技術。

 飛行戦艦やウィンドライドはもちろん、家庭の調理用コンロにまで幅広くその技術が使われており、能力の高くないもの、もしくは能力が高くてもやたらと大型のものなら現在の技術力でも作成可能であるが、小型で高性能なリアクターは古代魔工文明遺跡でしか入手出来ず、この国の冒険者は遺跡探索が主な仕事の一つとなっている。


 「ご無沙汰してます、ディエミー先生。先生もお元気そうでなによりです。チェイミーさん、相変わらず一言多いです。まだ成長期ですので、私。」


 二人に挨拶を返す。と、ディエミー先生がふくれっ面になって私の両の二の腕をガシッと掴む。


 「もう!ミウちゃん!私はミウちゃんの事、妹のように思ってるから”ディエミーお姉ちゃん”と呼んでって言ってるのに!」


 あ~~~少し訂正。

 綺麗で優しく物腰も穏やかでいい人だけど、こういうところは少し苦手です。


 「えと、”ディエミーさん”で許してください、お願いします。」

 「まぁまぁ、先生、その辺で。一応仕事中ですし、他の方の目もありますから。」


 苦笑しながら雪華姉さんが助け船を出してくれる。さすが姉さん、頼りになります。


 「ところで先生、フォルクさんとチェイミーさんを同行されていて、私たちを直々にご指名いただいたという事は、もしかして・・・」


 少し声を潜めて雪華姉さんがディエミーさんに問いかける。ディエミーさんも、周りをちらりと確認してから声を潜めて応える。


 「そうよ。アーシア姉様からの情報。だから貴女たちはいつも通り少し先行して、必要なものがあれば上手く回収するのよ?こちらは、私とフォルク、チェイミー姉さんでどうとでもなるから、安心して探索なさいな。」


 そう言ってウィンクをする。


 ディエミーさんの家族は四姉妹。長女のアーシアさん、次女のビオネッタさん、三女のチェイミーさんはディエミーさんと双子で、ディエミーさんが四女。フォルクさんはディエミーさんの旦那さんだ。


 今、名前の出たアーシアさんはディエミーさん達のお姉さんで、自称考古学者兼魔工術研究家。いつも大陸の辺境にあるアルスマグナ家の実家の館で引きこもり・・・もとい、研究をしている。

 あの戦いの後、ディエミーさんを通じて知り合い、何かと私たちの面倒を見てくれていて、ウィスタリアがなくなった事でメンテナンスも出来ずに機能不全に陥っていたスターノヴァ本体の修復も手掛けてくれている。

 本人曰く、「私はその機体に使われている技術が知りたい。貴女達はその機体を修復したい。利害の一致したWIN-WINの関係ということね。」だそうで。

 勿論、知り得た技術は王国とかに漏らさない事は条件として了承してくれている。

 ただ、現在のこの国で流通している部品や資材ではスターノヴァに使える程の精度がない為、アーシアさんが部品や資材の入手出来そうな遺跡の情報を調べ、私たちがその情報を元に探索して入手してくるという事になっている。


 フォルクさんもディエミーさん達と同じようにアカデミーの講師をしていて、武器全般及び格闘技術を教えている。

 フォルクさんも先生と呼ばれるのが嫌なようで、私たちは「フォルクさん」と呼んでいる。

 ディエミー先生が大陸一の魔術師なら、フォルクさんは大陸一の戦士、特に大剣での戦闘が得意で、その全身黒づくめ服装から”黒衣の剣聖”と称されている。

 とても口数が少なくあまり感情も表に出さない人で、ともすると怖い人のように思われるが、常にディエミーさんの傍にいて先生を護っている優しい人だ。

 今も、いつの間にかディエミーさんの傍に控えていた。


 でも、ディエミーさんとフォルクさんを見ていると少し胸が痛む・・・。

 ”あの人”に会いたいな・・・。


◇◇◇


 午前中を調査団の補給と休憩に充て、午後一番にベルキットの街を出発した。

 調査団一行の前側には私とキャンディのスターライト・プリムラとスターライト・オキシペタルム、後ろ側には雪華姉さんのスターライト・シュンランが位置取り、調査団の3台のウィンドライドを間に挟みこむようにして護衛している。

 3台とは言っても調査団の人員はディエミーさん達を含めて10名程度。要するに、1台が人員用、もう1台が調査や野営用機材の運搬用、残りの1台が調査の収穫物の運搬用という事。

 目的地はウィンドライドの足でベルキットの街から3時間程山の中に入った所。ラロトゥーニュ大陸は西側の標高が高く、東側の標高が低い地形の為、どんどん山を登っていく感じになる。

 スターライトなら山を越えていけるのだけれど、ディエミーさんたちのは運搬能力に重きを置いているタイプの為、あまり高くは飛べない。なので歩いて登るのと同様に山道に沿って上がっていく。


 ふと道端を見ると、白くて小さい花がたくさん咲いている。


 「ねぇ、姉さん、道端に咲いている白くて可愛い花って、何て名前かな?」

 『ん?どれどれ?あれはカスミソウね。よく大きな街のお花屋さんで花束とかに使われているわね。』

 「そっか。ありがと姉さん。私、お花を見るのは好きなんだけどあんまり詳しくなくて・・・」

 『んっふっふ。ミウも女の子らしくなってきたわね。花が好きだって言ってあげたら”あの人”も喜ぶわよ、きっと。だって、私達の機体に花の名前付けてるくらいだから、きっと花が好きなんでしょ?』

 「うん、そう言ってた。『やがては枯れてしまうと分かっていても、今精一杯咲き誇ってる花を見ていると、自分も今を精一杯生きないとと思えるから。』って。」

 『そう・・・。”あの人”らしい、とってもいい言葉ね。そうだ、ミウ、”花言葉”って知ってる?』

 「うん。”あの人”から聞いた事ある。人がその花に想いを託して付けた言葉だって。」

 『そうね。私もあまり詳しくはないけど、確かカスミソウの花言葉は”清い心”だったかしら。』

 「へぇ~、姉さんよく知ってるね~。私も帰ったら調べてみようかな?」

 『そうなさいな。無理に詰め込まなくてもいいから、気になった花を見つけたら調べてみるっていうのがいいと思うわよ?』

 「うん。そうする。」


 「ねぇねぇ、雪華姉~、ミウ~、前方にだれかいるよ~?12人かな~?」


 しばらく山道を進んでいるとキャンディから通信が入る。こちらのスターライトにリンクさせたMISEにも熱源探知の情報が表示された。距離は約2800メートル。熱源の大きさは人間大。数は・・・ええと、11?、12かな?山道の近くの崖の上に4つ、山道から少し離れた山肌の蔭に7つか8つ。

 あ~これは、いわゆるひとつの山賊というヤツかな?いつもこんな辺鄙な場所で待ち伏せしているとは思えないから、きっと街で調査団を見かけて、行く方向を見極めた上で先回りしたのだろう。

 だとすると、今は襲ってこない筈。どうせ襲うなら調査後を狙った方が発掘品とかも強奪出来る訳だから。

 でも、調査で疲れてから対応するのも面倒だし、一応確認してから排除しちゃおうかな。

 基本、面倒は先に片付ける派です、私。


 「雪華姉さん、ちょっと確認してくるね。」

 「はいはい、いってらっしゃ~い。気を付けるのよ?」

 「了~解!いってきます!」


 曲がりくねった視界の悪い山道を逆に利用してスッと隊列から離れ、崖上から死角になるように注意しながら回り込む。

 相手より更に高い位置にある崖上に位置取り、相手の方をそっと覗き込んでみる。


 「ん・・・?何か様子が・・・・・・」


 センサーの索敵通り、人数は4人。だけど、装備が妙に整っている。全員野戦服を着ていて、狙撃銃2丁に、あの大きな箱は無線機?ただの山賊ごときが無線機なんて持っている筈がない。

 王国軍の演習?こんな辺境で?


 「姉さん、全員に物蔭で止まるように言って。様子がおかしいの。妙に装備が充実してる。無線機らしいものも見えるわ。」

 『・・・なんかきな臭いわね。了解よ。一応、先生に軍が出張(でば)ってないか聞いてみるわ。あなたも見つからないように戻ってきて。』

 「了解。MISEの光学望遠で画像を記録してから・・・って、あれは、帝国の?!」

 『なんですって?!ちょっとミウ!早まっちゃダメ!!あぁもぅ!!私が行くまでバカな真似しないで!!キャンディ!あなたはここに残って護衛よ!』


 MISEの光学センサーで画像を記録しようとズームを掛けた時、見えた。見えてしまった。相手の腰に装着された拳銃。そのグリップに刻まれていた紋章。クラド帝国の。

 許せない!私から”あの人”を引き離した帝国軍の人間!!あなた達が侵攻して来なければ!!!


 怒り、憎しみ、負の感情が私を支配していき・・・世界から色彩がなくなる。


 「一人残らず、わたしが叩き潰してあげる。」


 右手で自分の銃を抜きざま、崖から飛び出る。そのまま崖を滑り降りる途中で更に相手に向かって跳躍。

 突然の事に4人の動きが一瞬止まる。


 ドゥン!ドゥン!ドゥン!


 すかさず銃を3射。3発とも大きな箱に命中。射撃の反動で跳躍の勢いを殺して両脚で着地。


 ドゥン!ドゥン!  ドゥン!


 そのまま狙撃銃持ちの2人に射撃。1人は肩と胸に、もう1人は頭に命中。わたしの銃の弾は火薬を増やして威力を増した強装弾。命中部位が吹き飛び血飛沫が舞う。

 弾切れの銃を右手に持ったまま姿勢を低くして地を蹴る。


 パン!パン!パン!


 流石に帝国から遠く離れたこんな所まで来るだけの事はある、残る2人は銃を抜き応戦してきた。

 二の腕や肩を銃弾が掠めて血が滲むが構わず全速力で駆ける。片方に向かうように見せて、2人の間を抜け、振り向きざまに右手側の相手の頭に銃床を叩きつける。


 グシャッ!


 骨の砕ける鈍い感触。そのまま回転し、左腕のガントレットで自分の頭を庇う。


 カン!カンッ!


 左腕を翳したまま地を蹴り肉薄、左腕のガントレットを相手の顎に叩きつけるように体当たり。


 ゴキィッ!


 顎を砕かれ仰向けに倒れる相手。更に追い打ちで銃を持つ側の二の腕を踏み砕く。


 ボキィッ!


 「よく訓練された動きと射撃ね。でも、それだけに読みやすい。」


 誰に聞かせるともなく呟きながら自分の銃に弾を装填し、顎を砕いた相手の頭に向ける。


 「さようなら。」


 引き金を引こうとした瞬間、


 「ミウ!!」


 パンッ!


 雪華姉さんのシュンランが私の頭上スレスレに飛来、咄嗟に頭を下げた直後に銃声。

 身を起こして振り向くと、さっき頭を砕いた相手が雪華姉さんに腕を切り飛ばされていた。

 そのまま頸に小太刀を突き立て止めを指してから息を吐き立ち上がると私に歩みより、


 バシィッ!!


 私の頬に平手打ちした。

 世界が色を取り戻していく・・・


 「何やってるの?!こんな事して”あの人”が喜ぶと思ってんの?!感情に任せて人を殺すような娘を”あの人”が抱きしめてくれると思う?!」


 その時、視界の片隅に赤い小さな花が見えた。私が殺した相手の血で染まったカスミソウ。


 「ごめ・・・ん・・・なさい・・・・・・・・・」


 涙が溢れた・・・。何やってるんだろう、私・・・・・・。

 雪華姉さんの腕が私の頭を包み込み、そっと抱き寄せてくれた。


 「仕方のない娘ね・・・。さ、みんなの所へ戻りましょ。」

 「うん・・・・・・」

 

 私たちはそれぞれのスターライトをMISEで呼び寄せ、みんなの元へ戻った。

 風に揺れる、真っ赤なカスミソウを残して。

Special Thanks

文章校正:エリザベスさん

キャラクター原案:EGHさん/フォルク=アルスマグナ

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