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天空舞花(旧)  作者: 藤色緋色
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第6話 想い出、遭遇

◆◆リィエ◆◆


 「ちょっとキャンディ!貴女ねぇ!年上相手に"ちゃん"付けしないって、何度言ったら分かるのよ!!あと、すぐ抱きつかない!!」


 キャンディにアイと呼ばれたその女性は、突撃してきたキャンディを上手く受け止めると、キャンディの行動を窘めた。

 勿論、キャンディも本気で突撃したりはしていない。5倍強化の再精製体で本気で突撃したら、普通の人間は大変な事になってしまう。


 「アイちゃん聞いてよ!コウさん死んじゃったの!ちゃんと戻るって約束したのに!うわあああぁぁぁ!!」

 「ちょっ?!何っ?!どうしたのよ急に!!」


 知った顔に出会えて気が緩んだのか、キャンディがまた泣きじゃくり始めた。事情の分からないアイさんは、急に泣き出したキャンディにオロオロしている。


 「廊下で騒がしいわね、って、キャンディ、どうしたの?アイ、何かしたの?」

 「してませんしてません!!私にも何が何だか・・・。『コウさんか死んじゃった』とか何とか言って・・・」

 「うわぁぁぁぁぁぁん!!せんせぇぇぇぇぇぇ!!せんせぇぇぇぇぇぇ!!」


 キャンディは、今度はディエミーさんに取りついて泣き続けた。アイさんの言葉で事情を察したディエミーさんの顔色が変わる。


 「アイ、ありがとう。助かったわ。今日はこれで終わりにしましょう。また後日来てもらう事になると思うけど、よろしくね。」

 「分かりました、師匠(せんせい)。ところで、キャンディがこれだけ取り乱すところは、私は見た事ありません。その、コウという方は・・・?」

 「キャンディがお世話になっているパーティーのリーダーさんで、4年前の事件の時に行方不明になっていたのだけれど・・・。フォルクと模擬戦をして完勝したくらいの腕前で、魔術にも造詣が深い人よ。」

 「えっ?!うそっ?!剣聖様に完勝?!しかも、師匠(せんせい)にそこまで言わせるくらい魔術も使える?!どんな超人なんですか、それ!!」


 アイさんの驚きようから察すると、コウ、この世界では敵なしなのかな?ミウと共有した記憶の中に、フォルクさんとの模擬戦のもあるけど、当時ミウ自身がそれほど興味がなかったのか、あまり鮮明ではないわね。


 「そう。だからコウ様が亡くなられた事が信じられないし、もし本当なら、コウ様すら太刀打ち出来ない敵がいる事になるの。下手をすると世界存亡の危機よ。」


 そう言いつつ、ディエミーさんは私を見た。

 流石に"銀髪の賢者"と言うべきね。キャンディの一言だけでそこまで的確に分析してみせるなんて。

 私はその視線に頷いて応えた。


 「ともかく、キャンディを落ち着かせてくるから、ミウちゃんは客間で待っていてね。」

 「分かりました、ディエミーさん。」

 「師匠(せんせい)、私も一緒に行きます。」


 ディエミーさんとアイさんが奥の部屋にキャンティを連れて行くのを見送って、私は客間へと入っていった。


 コンコンコン


 「あ、はい!」

 「失礼致します。お茶をお持ちしました。」


 私が客間で待っていると、侍従さんがお茶とお菓子を乗せたワゴンを押して入ってきた。

 てきぱきと私の前にアップルパイの乗ったお皿とお茶用のカップを置き、カップにお茶を注いでいく。

 この香りは、アップルミントティーね。


 「失礼致します。」


 侍従さんが退出してから、アップルパイを添えられたフォークで切り、口へと運ぶ。甘酸っぱい味と香りが口いっぱいに広がる。


 そういえば、コウはフリアンディーズのアップルパイ、好きだったなぁ・・・。

 前世で私達が住んでいた街にあった、アップルパイが売りの洋菓子店。


 当時、生体工学(バイオテクノロジー)の最先端を行っていたあの街で、私達は大学の3年生の時に知り合った。

 コウはその時既に殆どの単位を取り終えていて、遺伝子(ゲノム)編集や再生医療の分野で論文も発表していた、世界的にも有名な天才たった。

 私も、母国の大学で生体工学(バイオテクノロジー)を専攻していたが、その天才の知識を学ぶべく留学。まだ大学生の身分で大学院の研究室に出入りしていたコウと出会った。

 それからの私の人生は、とても充実したものとなった。

 研究内容の議論で熱くなり、喧嘩する事もあったけど、仲直りして笑いあって、お互いが惹かれ合うのにそう時間は掛からなかった。

 4年生の夏休み。私が母国へ里帰りする2日前。コウは私に指輪を差し出して結婚を申し込んでくれた。

 勿論私は、それを一も二もなく受け入れて、私達は婚約者となった。

 私の里帰りにコウも同行し、私の両親に婚約の挨拶をした。

 私の母校の大学の教授である父と、元准教授で退職して家庭に入った母は、大いに喜び、私達を祝福してくれた。

 帰省からの帰り。コウは私に、大学を卒業したら大学院には進まず、世界的大手医療機器メーカーに就職し、そこの研究室に入る事を告げた。


 「自分の創ったものを世に出し、病気や怪我で苦しむ人逹を少しでも救ってあげたいんだ。」

 

 そのコウの言葉に私も賛成し、大学院の研究室に残るように必死で説得しに来た教授逹を振り切って、二人でそのメーカーに就職した。

 会社の研究室近くのマンションに部屋を借り、同棲しながら研究に勤しんだ。

 交代で家事をしながらの研究・開発の日々。

 RBSの開発も佳境に差し掛かったある晩秋の日、私は体調を崩した。

 思えばその時、きちんと医者やコウに診てもらっておけば、あんな事にはならなかっただろう。

 年を越して季節も変わって春になり、RBSの稼働試験の日。そして悲劇は起きた。


 涙が零れ落ちた。

 ぽた・・・ぽた・・・ぽたぼた、と、アップルパイの上に降り注いでいく。


 全てを終わらせるまで泣かないって決めたのに・・・。


 不意に、身体が温かい何かに押しつけられた。はっとして目を上げると、優しい眼差しで私を抱きしめているディエミーさんの顔があった。


 「ミウちゃん。我慢しないで、泣きたい時には思いっきり泣きなさい。貴女はコウ様の遺志を継いで、何かを成そうとしているのだろうけど、自分を押し殺したままでは、何かを成す前に貴女が潰れてしまうわ。だから、今は、思いっきり泣きなさい。」

 「ディエミーさん・・・う、うう、うわあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 抑えていたものが、堰を切って溢れ出した。本当は、あの人のいないこんな世界にいたくはない。出来るなら、後を追って死んでしまいたい。


 でも、あの人から私は託された。ミウを。キャンディを。雪華さん、春華さん、千夜さんを。そして、この世界を。

 だから、もしそうするとしても、それは全てを終えてから。それがあの人からの愛に応える事だと思ったから。

 そう思って気丈に振る舞ってきたけれど、溜まるものは溜まっていたみたい。昔を思い出したせいで堪えきれなくなってしまった。


 「うっ・・・ぐすっ・・・すみません、ディエミーさん。もう、大丈夫ですから。ありがとうございました。」


 ひとしきり泣いたら、気分も落ち着いて、そして少し楽になった。


 「そう、良かったわ。それじゃ、詳しい話を聞かせてくれるかしら。」

 「はい。私達がアーシアさんからイーセテラに行くように言われて・・・」


 私はこれまでの事をかい摘まんで話した。私とミウが別れて存在している事、コウの敵がコウである事は伏せておく。後、ジェネシスに関しても、只のFSEとして話しておく。クロノシステムやクロノリアクターの事は広めない方がいいと考えたからだ。


 「それで、姉様の所へ直接行かずにここに来たのは何故?」

 「乗っている機体が変わったからです。下手をすると攻撃されるのではないかと。なので、ディエミーさんからアーシアさんにその事を連絡していただこうかと思いました。それと、コウの未来視で、後1ヶ月程で帝国が攻めてくると分かったので、エルドミラ陛下に協力をお願いする為てす。アーシアさんへの報告の後、ヤーマット国のイヨ陛下にも協力をお願いしにいく予定です。」


 ディエミーさんは、しばらく顎に手を当てて

何かを考えている様子だった。


 「状況は分かったわ。ミウちゃん、陛下から身分証明のメダルを戴いていたわよね?」

 「はい。ここに持ってます。」


 緋色のレザージャケットの上から、胸の内ポケットを手で押さえてそう答える。ここには出撃前に預かった、ミウがエルドミラ陛下から貰ったメダルとコウがイヨ陛下から貰ったメダルが入っている。


 「それなら、私が明日の午前中に話を通しておくから、午後にでも一緒に行きましょう。内容が内容だけに、離宮での面会になると思うわ。機体の件は今晩中に姉様に連絡しておくから。」

 「分かりました。よろしくお願いします。」

 「えぇ、任せておいてね。ところで・・・」


 私を見つめるディエミーさんの目が、スッと細められた。


 「貴女、誰かしら?ミウちゃんじゃないわよね?」


 ギクリとした。大して話してもいないのに、もう見破られるなんて・・・。私の記憶にある、ミウがディエミーさんと話す時の態度を忠実に再現した筈なんだけどな・・・。


 「・・・よく、お分かりになられましたね。まさか、こんなに早く見破られるなんて・・・。」


 一瞬、(とぼ)けようかとも考えた。でも、銀髪の賢者相手に誤魔化し通せるとは思えなかったので、素直に正体を明かす事にした。


 「あの娘は最初に私の名前を呼ぶ時、必ず"ディエミー先生"と呼ぶのよ。それから言い直して"ディエミーさん"になるの。それで、貴女のお名前は?」

 「なるほど・・・。私はリーエロッテと申します。ミウの中で目覚めました、ミウの前世の人格です。イーセテラでの出来事の途中で、ミウと身体を分かたれました。以後、お見知りおきを。」


 目上に対する礼に則り自己紹介。こういうのはミウはやれないので、違いを分かってもらうには丁度いいだろう。

 何かを見定めるかのように私を見つめていたディエミーさんだったけど、私を挨拶を聞いて目を閉じ、小さく溜息を洩らした。


 「貴女が、姉様の言ってらした、あの娘の中のもう一人なのね。それで、どうしてわざわざミウちゃんの真似を?リーエロッテさん?」

 「リィエで結構ですよ、先生。理由としましては、説明の手間を省きたかったという事が一つ。会う人合う人に一々説明していては手間も時間も掛かりますので。そして、ミウの事で心配をお掛けしたくなかったというのが一つ。どちらも無駄に終わってしまいましたが。」


 そう言って肩を竦めて見せる私の態度に、あからさまな困惑を見せるディエミーさん。


 「ミウちゃんと同じ姿形だから、余計に違和感が凄いわね。それで、ミウちゃんは?」

 「ミウは、昏睡状態になっています。私やキャンディの呼び掛けにも反応がありません。あの人を失う原因になってしまった自分に絶望して、精神(こころ)を完全に閉ざしてしまっています。自然に目を覚ます事はもう・・・。」

 「そう・・・。ミウちゃんを診せてもらう事は出来るかしら?これでも治癒術士ですからね。何かしら役に立てるかもしれないし。」

 「お申し出はありがたいのですが、ミウは現在(いま)、この街から5キロ程離れた海岸沿いの岩場に隠してありますウィンドライドの中で眠らせています。世話役の自動人形(オートマタ)が2体いますから、安全上の問題はないのですが、何分(なにぶん)、機体が目立ちますので、この街に持ってくるのは少々・・・。」


 (輸送)ユニットのノヴァ2はともかく、ポラリスはいかにも"戦闘機"という雰囲気を(かも)し出しているから、王都に乗り付けるのは少々問題だ。正体不明の戦闘機が接近してきたら騒ぎになるだろう。隠蔽(ステルス)システムを使えば侵入出来るだろうけど、したとして、停める場所がなければどの道困る事になる。


 「私が街の外に出ようと思うと、手続きとかで2、3日は掛かるのよね・・・。貴女の話からすると、早急にイーセテラにも行かなければならないでしょうし・・・。」

 「ミウの事は私が何とかしますから。一応、考えもありますので。」

 「・・・分かったわ。ミウちゃんの半身である貴女に言うのも変だけど、ミウちゃんの事、お願いね。でも、貴女も無理はしないように。ミウちゃんの半身なら、貴女も私の妹のようなものなのだから。」


 ミウに向けるものと同じ優しい眼差し。温かいな・・・。


 「はい、ありがとうございます、ディエミー()()()()()♪(笑み)。」

 「はい、よく出来ました♪(笑み)。ミウちゃんにもちゃんと躾ておいてもらえると、お姉ちゃん嬉しいわ♪うふふふ♪」


 ミウの記憶に、"お姉ちゃんと呼んで"というのがあったから、茶化し半分で呼んでみたけど、ディエミーさ・・・お姉ちゃんには勝てそうにないわね(苦笑)。


 「ところで、キャンディはどうしてます?まだ泣いてます?」

 「泣き疲れて寝ちゃったわ。でも、コウ様が亡くなって、ミウちゃんもそんな状態じゃ無理もないわね。今日はキャンディはここで預かるわ。貴女も良ければ泊まっていったら?」

 「ありがとうございます。でも、やる事がありますので、一旦戻ります。」

 「分かったわ。それじゃあ、明日の昼過ぎに来て頂戴ね。」

 「分かりました。キャンディの事、お願いします。それでは失礼します。」

 「玄関まで送るわ。」


 私がソファーから腰をあげると、ディエミーさんも立ち上がり、そう言って玄関まで見送りに来てくれた。


 「帰り道、気を付けてね、リィエちゃん♪」

 「リィエちゃんて・・・私、中身、コウと同じ26・・・まぁ、いいですけど。ありがとう、ディエミーお姉ちゃん♪」

 「うふふふ♪」「あははは♪」


 そんなやり取りをしてから、一人アルスマグナ邸を後にする私。北通りを抜けて中央広場、そして西通りへ。

 日も傾いてきたこの時間。ようやく王都に辿り着いて宿を探す冒険者や、夕食前に必要な買い物を済ませようとする人々で賑わいを見せているこの場所を、私が足早に抜けていこうとしたその時だった。


◆◆リィエ◆◆


 西通りの、西門に程近い路地。偶々(たまたま)そちらに目をやった時に見つけた、その路地に入っていく人の姿。その横顔は・・・


 「?! コウ?!」


 確かにコウの顔だった。私が見間違えよう筈もない。

 でも、コウは死んだ。私の見ている、その前で。漆黒に呑まれて消えた。

 なら、今見たコウは当然、"アイツ"しかいない。

 "アイツ"が物見遊山でこんな所を彷徨(うろつ)いている訳もない。トウバの街のように、また何か企んでいるに違いない。

 私は全速力で駆ける。強化された身体能力と知覚をフルに使って混みあう通りを流れるように駆け抜け、路地の入り口へと辿り着く。

 路地にも幾つかの人影がある。そしてその遥か向こう、川側の出口を左に折れる"アイツ"の姿。このまま追い掛けても、路地に(たむろ)している人逹が邪魔で追いつけないだろう。

 私は空を見上げた。建物の屋根まての高さは10メートル程。強化されているとはいえ、私のジャンプ力だけでは届かない。

 それなら!

 私はアンダーアーマーをリリースした。ミウに見せかける為の全身緋色の装いから、純白の軽装鎧を纏う姿へと変わる。

 路地からこちらを窺っていた幾人かは、私の姿の変わり様を見てぎょっとしていたが、今は構ってなどいられない。

 すぐさま地を蹴り屋根へと飛び上がる。

 二階建ての屋根の上に立ち、テーズ川の方を見やる。中々の眺めだけど、それを楽しんでいる余裕は今はない。

 路地の出口から普通に歩くとして、あの辺りか?

 相手の動きを予測して、先回りする為に空を翔ける。高く跳び過ぎると目立つので、屋根スレスレを飛ぶ。

 川べりの建物の屋根に着地した私は、足元を東西に走る道を見下ろした。

 ここはもう繁華街ではなく倉庫街になっている。東の港や船着き場からの荷物を運ぶ道の為、人通りはそれほど多くはない。というか、今日は仕事は終わっているのか、人通りはない。

 その道を、西から歩いてくる人影。”アイツ”だ。

 コウとの戦いで自ら切り落とした右腕も、既に治っているようだ。

 相手の姿を確認出来た私は、姿を見られないように少し後ろに下がり、センサーでの監視に切り替えた。相手の生体反応などの情報は既に登録した。これでアンダーアーマーの状態でもある程度は追跡出来る。

 まずは"アイツ"が何処に向かっているのか確かめないと。

 私が倉庫の屋根に潜んでセンサーの反応を見守っていると、その反応の動きが止まった。私の潜んでいる倉庫の前で。


 「上から覗き見とは、中々いい趣味だな。飛行する程リアクターの出力を上げれば、数キロ先からでも分かるぞ?」


 コウと同じ声が通りに響く。私は自分の失策に溜め息をつくと、自分の身体に【フィジカルブースト】を使ってからアザレアとRGブレードを展開して、屋根から飛び降りた。


 「おいおい。こんな所で、そんなモノで戦えば、街がどうなるか分かっているのか?」


 相手はまだユニットどころか武器すら展開していない。攻撃の好機にも思えるけど、侮っていい相手じゃないから、RGブレードを構え、相手の動きを注視しつつ話し掛ける。


 「こんな所で何をしているの?今度は何をしようとしているの?」

 「・・・その装備、あの時後から来た、警告もなく重力子兵装(G・ウェポン)で攻撃を仕掛けてきた黒い馬鹿の仲間か。場所も考えずに襲撃とは、奴も奴なら、仲間も仲間だな。」


 冷たい蔑みの視線。違うコウだと分かっていても、私の心にグサリと突き刺さる。


 「世界を壊そうとしている貴方なんかに言われたくはないわね。さぁ、質問に答えなさい。」


 RGブレードの狙いを目の前のコウに定める。だけどそのコウは、それを意にも介さず何か考えるような仕草をみせる。


 「"世界を壊そうとしている"?あぁ、なるほど、そういう事か。」


 そして独りごちながら納得するように頷いた。


 「どうやら俺は、お前逹が待ち伏せしているところに運悪く侵入してしまったようだな。俺も破壊者の俺を追ってきた方だ。世界に降りて直ぐに、Cリアクターが崩壊した時の反応を検知して確認に行ったところで黒いのに襲われたんだ。」

 「ちょっと待って!それじゃ、あれは私達の勘違いだったって事!?」

 「勘違いというより、思い込みと確認不足だな。それで反撃されて死んでいれば世話はない。馬鹿としか言いようがないな。」

 「そんな・・・そんな事って・・・・・・」


 あまりの事に言葉が続かないなる私。勿論、目の前のコウが嘘をついている可能性もある。だけどそれなら、あの時私をミウを倒しておけば事足りた筈。わざわざ後から現れて、説明をする手間を取る必要はない。


 「話はそれだけか?なら俺は行かせてもらう。後、ジェネシスを気軽に使うな。その力を間違って使えば、それこそ世界が崩壊するぞ。」


 茫然自失となっている私にそう言うと、コウは踵を返して港の方へ向かっていく。忠告までしてくれるところを見ると、やっぱり"アイツ"ではないようだ。


 「ま、待って!貴方も"アイツ"を追っているなら、私達と目的は同じよね?だったら・・・」

 「断る。」

 「っ?!」


 私が全て言い終わる前に、振り向きもせずに拒否の言葉を返してくるコウ。そして、二の句の継げない私を肩越しに見やり、言い放った。


 「馬鹿と足手纏いは必要ない。一人で十分だ。」

 「・・・・・・。」


 容赦ない一言に、何も言えなくなる私。そしてコウは、今度こそ振り返る事なく港の方へと消えていった。

 残されたのは、膝から崩れ落ちて座り込んで、茫然とそちらを眺め続ける私だけだった。

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