第5話 出撃、別れ、遺志を継いで
◆◆リィエ◆◆
「ミウ!!リィエ!!」
こちら側へと意識を戻した刹那、私達は脱力して横に倒れそうになった。それを透かさずコウが受け止めてくれる。
私とミウは、コウを見上げて言った。
「見つけた!見つけたわ!」
「これでコウと一緒にいられる!コウを死なせずにすむ!」
その言葉を聞いたコウが、その胸で私達を抱きしめてくれる。
「お前達は・・・無茶をするな。俺も大概だとは自分でも思うが、お前達のは心臓に悪すぎる・・・。」
そう言ってコウが、その両頬を私達の頬に重ねて更にしっかりと抱きしめてくれた。
私も、そして、精神の繋がっているミウも、その血の通っていない頬が、何よりも温かく感じた。
「なら、コウもこれから無茶しないで。私たちだって、コウが無茶すると、同じ気持ちになるんだからね?」
「ミウの言う通りね。分かったら出来るだけ自重して欲しいわ。」
「”出来るだけ”を付けてくれた以上は努力するよ。それで、二人の視た未来を教えてくれないか?」
私達は未来視で視たその内容をコウに告げた。
◇◇ミウ◇◇
「本当にディアンサスで出るの?コウだってジェネシス使えるんでしょ?二人でジェネシスを使った方が・・・」
私たちの話を聞いたコウが立てた作戦の為に、私たちはディアンサスとポラリス・クロッカス、ノヴァ・クロッカスの出撃準備をしている。
「それだと俺は480秒後に爆発するんだが、いいか?」
「それはダメ。でもどうしてそんな事に?」
「お前やリィエに渡したのは8つのCリアクターを完全に調整してリンクさせた、完成したジェネシスだ。だが、俺のは違う。義体の4つのCリアクターとユニットの4つのCリアクターを無理やりリンクさせて使うプロトジェネシスだからな。どうしても過負荷が起きやすいんだ。」
そうやって試行錯誤した結果が、私たちのルシファー・アザレアなのね。大切にしないと。
「コウのプロトジェネシスにも名前、あるんでしょ?どんなの?」
「プロトジェネシス・ダークマター・アクイレギア。それが名前だ。アクイレギアの花言葉は”断固たる勝利”。」
そう言ってユニットをリリースして見せてくれたんだけど・・・
「花言葉はぴったりだけど・・・名前も色も形も、すごくコウらしくない。」
暗黒騎士。一言で言うならその言葉がぴったりくる。どう見ても悪役。私たちの事をいつも想ってくれているコウには似つかわしくない姿かたち。
「仕方ないだろう。ユニット自体はやっつけ仕事だからな。色や形なんて気にしている暇はない。後、”ダークマター”は”視えないし感じられないがそこにある、世界の構成に不可欠な物質”だ。”例え姿は見えなくても、お前達を見守っている”っていう意味も込めているんだが、似合わないか?」
「そ、そう言われると、似合ってるとしか言えないじゃない。」
はい、言い負かされちゃいました。こういう言い合いでコウに勝てる気がしない。コウ、知識が半端ないから。
「ま、俺も似合ってないとは思ってるから。」
「ちょっ?!それなら言い返さなくてもいいんじゃない?!」
「お前の可愛い声が聞きたかったのさ。」
「うぅ~~~~~~!ご、ごまかされないんだからね!?」
「じゃあ、帰ってきたら美味しいスウィーツを作ってあげよう。」
「そ、それなら許す。」
あれ?私、食べ物でごまかされてる?ま、いいか♪
「(ボソッと)帰って来られたら、だけどな。」
「えっ?何か言った?」
「いや、何も?さあ、準備はいいな?」
「うん、大丈夫。雪華姉さんたちが来る前に・・・」
「私達が、何ですって?」
あらぁ~・・・雪華姉さん達が来ると説明に手間取りそうだから、その前にって言ってたんだけど、間に合わなかったかぁ~・・・。
「雪華、春華、千夜。時間がないから手短に説明する。三人はこのままアルストロメリアとブレティラ、そしてヘスペリデス達の回収に向かってくれ。俺達は”アイツ”の足留めをする。」
「”アイツ”って、まさか?!」
「そうだ。今、ジェンティアを傷付かせる訳にはいかない。だから三人はここから離脱してくれ。」
「嫌よ!!私達も戦うわ!!」
姉さんのその言葉に、コウはゆっくりと頭を振った。
「駄目だ。今の君達では足手纏いにしかならない。君達が力を得る為にも、ここは堪えて、行ってくれ。」
足手纏い。姉さんたちにはあまりにも厳しい言葉だけど、姉さんたちに傷付いて欲しくないし、戦力の回収も絶対に成功させてもらわないといけない。だからコウは・・・。
「・・・なら約束して。必ずまた会えると。」
「それはこの前言ったが・・・あぁ、必ずまた会える。だから、頼む。」
「分かったわ。私達は私達のやるべき事をやり遂げるから。」
「コウ様、ご武運を。」
「旦那様、どうかご無事で。それでその・・・戻られた暁には旦那様のご寵愛を頂きたく・・・」
「「ちょっと千夜(さん)!!抜け駆けズルい!!」」
気持ちは分かる。気持ちは分かるけど、このタイミングでそれは・・・。
「ふぅ・・・君はブレないな(苦笑)。分かった。全てが終わって、身体を取り戻したら、その時はよろしく頼む。」
「あぁ!!」「「えぇっ!?」」
え?コウ、受けちゃうの?!これって物語とかでよくあるアレよね!?
「他のみんなにも頼みたい。生活費を稼ぐのが大変そうだが、何とかするさ。あ、イヨにも謝って、頼まないとな。」
コウのその言葉に、コウに飛びつく千夜さんと、笑顔で顔を見合せる雪華姉さんと春華さん。
コウは千夜さんの頭を優しく撫でた。あ、ちょっと羨ましい。
「コウ、大丈夫なの?これって、いわゆる、”フラグ”、なんじゃ・・・。」
リィエも私と同じ事思ってたみたい。ポラリス・クロッカスから降りて、心配そうな顔で歩み寄ってきた。キャンディも一緒だけど、キャンディの顔には”フラグ?なにそれ?おいしいの?”と書いてあった。
「フラグくらいへし折らなきゃ、今迄生きていないさ。色々あったからな・・・。」
血の通わぬその瞳に揺れた光は果たして何だったのか。後で聞いてみよう。
「さて、出撃しよう。ミウ、リィエ、二人の視た未来の為に。」
◆◆リィエ◆◆
『リィエ、キャンディ。狙撃は持久戦だ。囮が危機に陥っていても、目標を撃つ時以外は絶対に引き金を引くな。間違っても、俺達を助けようと思うな。有効射程ギリギリの狙撃なんて大型艦船にしか当たらないからな。そして、一発撃ったら速やかに移動するんだ。ここに残してあった設備で、ポラリスとディアンサスには重力子砲を装備させた。これなら相手の母船の防御も貫ける。だが、重力子の縮退収束にはかなりの時間が必要になる。だから、撃って居場所が知れた後は必ず移動してくれ。』
「分かりたくない部分もあるけど、分かったわ。キャンディ、攻撃はお願いね。」
「りょ~かい!わたしに任せて!コウやミウちゃんが危なくなる前に決めちゃうんだから!」
『頼りにしてるからね、キャンディ。でもコウ、本当に私が操縦でいいの?』
『相手が相手だからな。生半可な攻撃の仕方では掠りもしないぞ。だから俺が攻撃を担当するしかない。操縦は頼むぞ、ミウ。』
『うん。分かった。頑張る。』
相手がコウと同じなら、現在の私は勿論、ミウやキャンディでも全く相手にならないだろう。歯痒いけど、これが私達の現実。なら、出来る事を最大限にやるしかない。
『よし、それじゃ、位置取りの確認だ。ディアンサスはここから距離120の海中に潜伏。水中から狙撃を試みた後、状況に合わせて近接攻撃に移る。ポラリス・クロッカスはここから北に距離40000の所から狙撃。ノヴァ・クロッカスは更に500離れて待機。ステローペ、エレクトラ、敵とポラリス・クロッカスの軸線上に入らないように注意しろ。』
「「『了解。』」」『『イエス、マスター。』』
『それと、状況がミウとリィエの視た未来と違い始めたら、直ちに離脱しろ。これは絶対だ。あぁ、俺が爆発するところを見たいなら別だけどな。』
「・・・了解。そうならないようにするしかないけど、ね。」
「コウさ・・・コウ、あんまりそゆこと言わないでほしいな~~~なんて。」
『きちんと言っておかないと、突っ込んできそうだからな、みんな。特に俺の隣のが。』
コウの隣で物凄く不満顔のミウが目に見えるよう。絶対に恨みがましい目でコウを見ているに違いない。
『・・・・・・了解。』
不承不承といった感じのミウの声が聞こえてきた。気持ちは物凄く分かるわよ、ミウ。
『マイア、アム、そちらは頼む。アム、あんまり雪華達を弄るなよ?精神疾患な妻なんて俺は勘弁だからな?』
『イエス、マスター。』『了解、マスター。なるべく善処します。』
『よし、みんな、出るぞ。』
「「『了解!』」」『『イエス!マスター!』』
開放したジェンティアの後部ハッチから私達が出た後、ジェンティアがハッチを閉めたのを確認して、アジュガの内部扉と外部扉を同時に開放。港エリアを水没させてから、ディアンサス、ポラリス・クロッカス、ノヴァ・クロッカス、ジェンティアの順で海中へと出航した。
みんな予定通りの場所へと向かっていく。
そしてジェンティアが出航して5分後、水中を衝撃波が伝わってきた。コウがアジュガを崩壊させたのだ。
それは、これから始まる戦いの合図、となる筈だった。
◇◇ミウ◇◇
「コウ、上手くいく、よね?」
うっすらと陽の光が照らす海の中。私とコウは息をひそめてその到来を待ち構えていた。
アジュガを自壊させてから10分。
でも私は、静けさと緊張が織りなす沈黙に息苦しさを覚えて、そう呟いていた。
「ミウ。今からでもお前はリィエ達の所に行くんだ。その方が俺も安心出来るし、狙撃の手数が増えれば、俺が生き残れる可能性も上がる。」
私の言葉を弱音と感じたのか、コウが諭すようにそう返してきた。
コウは私の事を案じてそう言ってくれてるのは分かる。でも、私だってコウの身を案じている。だから、こう返した。
「それなら最初からそうしてるよ。でも、私はどうしてもコウのそばにいたい。だから、行かない。」
私の言葉に、コウは深いため息をついた。
このやりとりの間も、コウは片時もセンサーの表示から目を離してはいない。一瞬の油断も出来ない相手だから。
そのコウがこちらを向いた。その眼差しはいつになく真剣なものだった。
「ミウ、出撃前に俺が言った事は覚えているな?」
「え~と、なんだったかしらぁ~?」
それでも私はとぼけてみせた。コウの言っているのは、「状況がミウとリィエの視た未来と違い始めたら、直ちに離脱しろ。」の事だろう。
でも私は、その指示だけは聞く気はなかった。例え死ぬことになっても、コウのそばにいると決めたから。
「ミウ。どうやらお前達の視た未来からは大きく外れたようだぞ?」
「えっ?!」
コウの指し示すセンサーに一つの反応が現れていた。
その反応は、ちょうどアジュガのあった場所の真上、水面から高さ100くらいのところ。
最初は、私たちが待ち構えている”アイツ”の母船、武装高次元航行船ウィスタリア2型一番船ウィスタリア2だと思った。私とリィエの未来視にもそうあったから。
でも、その表示に違和感を感じた私は、詳しく確認し、そして気付いた。
「・・・大きさが、小さい。」
その反応の大きさは人より少し大きいくらい。そう、それは・・・
「ジェネシスだな。俺が開発出来たんだ、”アイツ”が開発出来ない道理はない。これは”アイツ”からのメッセージだ。『出てこい。さもなければアルンド島を破壊する。』というな。そうでなければあそこに一人で留まっている必要はない。」
「そんな・・・」
「ミウ、ディアンサスを浮上させろ。そして、俺が出たら離脱するんだ。リィエ、キャンディ、ステローペ、エレクトラ、聞こえているな?お前達もだ。”アイツ”がジェネシスを纏っているなら、現在のお前達は全員足手纏いだ。俺が何とかする。お前達はお前達の出来る事を頼む。」
コウの冷静な声。覚悟を決めた者の落ち着いた、有無を言わせない声。
私以外のみんなは何も言えなかった。コウの言っている事が正しいと分かるから。
でも私は、そのコウの言葉に異を唱えた。
「イヤ!絶対にイヤ!!私も一緒に戦う!!」
「駄目だ!!今のお前じゃ、最初の一撃でで死ぬぞ!!そんな状態で連れていける訳がないだろう!!」
「それでも一緒に行く!!私言ったよ!!『例え死ぬ事になっても、私は貴方から離れたくない』って!!」
それだけは絶対に譲れない!!
「・・・・・・そうか。なら、こうするしかないな。」
「えっ?」
「【グラヴィトンエリア】」
コウのその言葉と共に身体がシートに強く押し付けられた。何とか手足を動かす事は出来たけど、立ち上がる事は出来なかった。まるで全身に重りを付けられたように。
「ディアンサスを中心に重力を10倍に増やした。お前の身体では手足を動かすのがやっとだろう。ディアンサスはオートパイロットでベルキット近郊まで行かせる。扉もハッチもロックしておく。」
「やめて・・・お願い!やめて!!」
「それが嫌なら、お前がそれを解除すればいい。自分で言った筈だな?『使えるようになればいいだけだよね』と。」
そうか、”強制書換”!!
「俺の施したルシファーのリミッターも解除して、【フィジカルブースト】で身体強化すれば、本来のルシファーの力が発揮出来る。俺と共に来たいなら、それくらいやってみせろ。」
そうだ。コウと一緒にいるためには、それに相応しい能力が必要。コウの隣に立つために、もうコウに甘えてたらダメなんだ。
「分かった!私が戻るまでに死んだら承知しないんだからね!!」
「それはお前次第だ。我が伴侶殿?」
コウの顔に浮かぶ悪戯っぽい笑み。いつも私を励ましてくれたあの笑みだ。
「聞こえたな?リィエ、キャンディ、ステローペ、エレクトラ。みんなもベルキットに向かってくれ。リィエ、後を頼む。」
『分かったわ。くれぐれも気を付けて、コウ。』
『コウ、わたし、信じてるからね!また会えるって!!』
そしてコウは貨物室へと消えた。それと同時にディアンサスがオートパイロットで浮上を開始。蒼海から蒼穹へと舞い上がる。
『コウ=フジイ、アクイレギア、出る!!』
その数瞬後、方向を変えて動き出したディアンサスから暗黒騎士が飛翔していくのが見えた。彼方の敵に向かって。
コウの生命の時間、残り480秒。
◇◇ミウ◇◇
「ねぇキャンディ!【フィジカルブースト】の使い方教えて!早く!!」
『えぇ?!あれ結構魔力の制御が難しいよ?』
「難しくてもやらなきゃコウを助けられないの!だから早く!!」
『えーと、まず魔素を魔力に変換して身体に浸透させるまでは練習した通りね。その魔力を、まずは身体じゅうの骨に付与するの。』
「えぇと、えんちゃんと?」
『あの本、ちゃんと読んだ?ミウちゃん?』
「え~と、【シールド】の後から読んでない・・・。イーセテラに渡ってからはバタバタしてたし・・・。」
『はぁ・・・・・・』
キャンディに思いっきりため息つかれた・・・。でも、バタバタしてたのはキャンディも知ってるよね?!
『エンチャントっていうのは、魔力を目標にまとい付かせて強くする事。って、そういえばミウちゃん、雪華姉からもらった短刀にエンチャしてなかったっけ?』
「あれは小太刀を壊さないように【シールド】してただけだよ?」
『それがエンチャントなんだってば。それを自分の骨全部にやるの。』
「骨全部って・・・確か結構たくさんあったよね?コウにこの身体もらった時に教えてもらった覚えがあるよ。『骨が折れると痛いし動けなくなるから注意しろ。』って言ってた。」
『そうそう。それ全部にエンチャするの。でないと、このあと筋力をあげた時にボッキボキに骨が折れちゃうからね。』
「うえぇ・・・。でも私、骨なんて大まかにしか分かんない・・・。」
コウに簡単には教えてもらったけど、詳しい話なんて聞かなかった。コウも、『詳しい話は、お前がもう少し人の身体について分かってからだな。』って言ってたし。
『ミウ、MLSでリンクして。私はそういうのの専門家なんだから、私と繋がれば共有出来るわ。それに、私もそれを覚えられれば、二人で助けに行けるでしょ?さ、早く!』
「そっか!分かった!」
急いでMLSの”Azalea-Rielotte”を選ぶ。直後、視界の片隅に、”Connection permission from Azalea-Rielotte OK/NG ?”が表示された。リィエからの接続要請だ。それもすぐに”OK”を選んだ。
―――ミウ、聞こえる?
―――うん、大丈夫だよ、リィエ。
―――いい?人間の骨は乳児で約305個、成人で約206個あるわ。再精製体は成人体を基準に再精製しているから、骨の数は約206個よ。でも、今必要なのは魔術に使うイメージだから、私がイメージしたものを貴女が読み取ってちょうだい。
―――分かった。
―――じゃあ、右腕を上げて自分の手を見て。出来る?
―――それは何とか出来るよ。
―――まずは自分が見られるところからイメージをして、順に他の部分のイメージを伝えるわ。
―――了解。お願い、リィエ。
何とか自分の腕を持ち上げ右手を見る。重い。自分の腕がこんなに重く感じるなんて・・・。
その右手を見ていると、それに重なるようにいくつもの白い芯のようなものが見えた。これが私の手の骨なのね。手だけでもたくさんある。
―――手だけで27個の骨があるわ。それぞれを筋肉と腱が繋いでいて、その筋肉が縮んだり戻ったりする事で動くの。他の関節部分も基本的に同じなのよ。
―――骨の周りに筋肉があって、それが身体を動かしてるのは姉さんから教えてもらったけど、こんなに骨が細かいなんて思わなかった。
―――そうでないと細かく動かす事が出来ないからね。さ、時間がないから残りもイメージしてしまうわよ。自分で見えないところは私の姿を思い浮かべて当てはめて。私と貴女の身体は同じなのだし。
―――うん。
リィエから次々とイメージ伝わってくる。姉さんたちのと冒険の途中で狩りをして解体した獲物を見たことはあるから、知らない訳じゃないけど、人の骨はやっぱり少し怖い。でも、そうも言ってられない。
『ミウちゃん、どう?いけそう?』
私がイメージし終わる頃合いを見計らって、キャンディが声を掛けてくれる。
「大丈夫。何とかするから続きを教えて。」
『わかった。イメージ出来たら、短刀にしたように、骨の周りを覆うようにすればいいよ。骨を強化出来たら、今度は骨のまわりにある筋肉を強化するんだけど、筋肉は強くするのといっしょに動く力を増やすイメージを追加するの。強くするだけだと固まって動かなくなっちゃうから注意してね。最初は手で試して、上手くいったら他の場所もって感じでやってみて。』
「分かった。やってみる。」
魔素を集めようとして、はたと気付いた。そういえば私、うまく魔術が使えなくなってた筈。
試しにやってみる。あれ?うまく集まってきているような感じがする。更に魔力に変換。これも出来てる感じがする。ならばと、さっきもらったイメージに合わせて、全身の骨に強化魔術を掛けてみると、これも上手くいっった感じだ。
―――今、私と繋がってるからじゃない?未来視やイメージが共有出来るのなら、魔術が使えてもおかしくないでしょ?
―――なるほど。骨には上手くいったみたいだけど、筋肉かぁ・・・力を込めながら動かす感じでいいのかな?
―――筋肉のイメージもしてあげるからやってみましょう。急がないといけないし。
再び右手を見てみる。骨のイメージの上から、今度は筋肉のイメージが重ねられる。うえぇ・・・。前にコウの動画ライブラリで見たのに出てきたやつみたい。60メートルくらいの大きいやつ。
その筋肉のイメージ見ながら、力を込めながら動かす感じをイメージして魔力をまとい付かせてみる。
そして手を握ったり開いたりしてみると、さっきまでより楽に指が動く。
それならばと、強化の範囲を肩まで拡げて、腕を上下させてみる。さっきまでのような重さは感じない。
「肩までやってみたけど、上手く出来たみたい。全身でやってみるね。」
『ああ、待って。全身にやるなら内臓も強化しないと大変なことになるから気をつけてね。やり方は筋肉と同じでいいから。』
「分かった。やってみる。」
―――はいはい、内臓のイメージね。グロいけど頑張りなさい。
うえぇ・・・。でも大事なことだし、頑張る。
全身に強化を行き渡らせ、そしてゆっくりと立ち上がってみる。
「やった!出来たよ!キャンディ、リィエ!」
『ミウちゃんすごい!!アカデミーでも、すぐ出来る人なんてほとんどいなかったんだからね!これはもう、あれよね?』
「うん!あれだね!」
「『愛のちから!!』」
『はいはい、そういう事はコウの前で言ってあげなさい。』
立ち上がることに成功した私は、貨物室へと続く扉に手をかけた。開閉パネルには"LOCKED"の文字が表示され、ボタンを押しても開かない。
―――ミウ、今度は貴女の番よ。私に"強制書換"のイメージを教えてちょうだい。
―――うん。やってみせるから。
パネルに手を当て、"開け"と念じてみる。
・・・・・・。
表示は"LOCKED"のままだ。
あの時、私はどうやってコウのところに行ったのか?
道に迷って不安だった。早く先生の、コウのところに行きたかった。
扉の前で何を思ったのか?開いて欲しいと願い、そして、開いた姿を思った。
そうか!これもイメージだ!
どうしたいのか?どうなって欲しいのかをはっきりとイメージする。
"開きなさい"
扉が開いた状態の明確なイメージと共に念じながらパネルに手を触れる。
ピッ!カシュッ!
パネルの表示が"UNLOCKED"に変わり、扉が開いた。
「やった!出来たよ!リィエ!キャンディ!」
『すご~い!!やったね、ミウちゃん!!』
『よくやったわ、ミウ!!さぁ、行きましょう!コウの所へ!!』
「うん!!」
◆◆リィエ◆◆
「キャンディ、後はお願いね。もし私達が・・・」
「リィエさん、"もし"はなしだよ。みんなで戻ってくるの!」
「そうね、貴女の言う通りだわ、キャンディ。すぐ戻ってくるから待ってて。」
「りょ~かい!待ってるからね!」
ハッチを開けると、昇ったばかりの朝日が世界を照らしていた。まだ冷たい早春の風が操縦席を吹き抜ける。
―――ミウ、準備はいい?
―――うん、いけるよ!
「『我が願いと共に、その力、解き放て、ルシファー・アザレア!!』」
言葉と共に操縦席から飛び出す。
ちらりとディアンサスの方を見ると、ミウも同じように後部ハッチから飛び出していた。
眩い光に包まれた私達。
そして、二人の真白き天使が蒼空へと飛び立つ。
コウのいる場所までもう100km以上離れてしまっている。音速で飛んでも5分は掛かってしまうけど、アザレアに搭載されたChrono-Systemの力を利用すれば・・・
「『Chrono-Connect!【Leap-Drive】!!』」
Chrono-Systemの力によって次元遷移フィールドを周囲に展開して空間を切り離し、その切り離された空間を丸ごと、時間の流れを元の空間より相対的に速くする事で、元の空間から見ると私達は瞬間移動したように見える。先程強制書換した時にシステムの情報も把握出来たから使用してみる。これなら場所さえ把握していれば、距離なんて関係なく一瞬で到達出来る。
でも・・・
『あぁっ!行き過ぎた!!』
情報を把握したとしても、実際の制御がままならない。訓練すらしていないのだから当然かもしれないけど、だからといって状況がそれを許してくれる訳じゃない。
「ミウ、この距離なら普通に飛んだ方が早いわ。」
『そうだね。行こう。』
周りの音を置き去りにしてコウの元へと翔ぶ。
『ミウ、それにリィエまで。どうやら上手く出来たみたいだな。だか、それ以上ここに近付くな。システムの制御がままならないお前達では、この空域に飛び込んだら身体がバラバラになるぞ。重力波センサーで視てみろ。』
コウから通信で戦闘空域をセンサーで確認してみると、あちらこちらに次元断層や空間位相の異常か見られる。あれに触れたら空間ごと身体を引き裂かれるか、時空の狭間に飛ばされる事は容易に推察出来た。
互いが使用している重力子兵装が世界を切り裂く中、二人は激しい戦いを繰り広げていた。
片方は天翔ける暗黒騎士。そしてもう片方は、白をベースに薄紫をあしらった機体。皮肉にもそちらの方がコウらしい見た目だった。
コウのグラヴィトンライフルから2発連続で重力子弾が撃ち出され、一瞬遅れて背中のポッドから光子魚雷が何発も発射される。
相手は、重力子弾を避けた。でもそれは空間破砕効果を利用した牽制で、逃げ場を制限したとこに光子魚雷が殺到する。
それを相手のグラヴィトンランチャーの高圧縮重力子弾がまとめて迎撃した。
でもそれもコウの想定内で、大きく空間が歪んだのを目眩ましにして急速接近、右前腕に展開した漆黒の刃、グラヴィトンブレードで斬りかかる。
相手も同じブレードを展開して受け、一瞬鍔迫り合いになった後、離れ際に両者共光子魚雷を乱射。でもそれはほとんど互いに相殺されて、相手には届かなかった。
その余りの戦いの激しさに、私達は手をこまねいているしかなかった。下手な掩護射撃はコウに当たってしまうかもしれないし、近付く事も出来ない。
時間だけが刻々と過ぎてゆく。
『ねぇ、リィエ!私が飛び込んで"アイツ"の装備を強制書換で無効化するからサポートして!もう時間がない!!MLSを通して私の身体強化と次元遷移フィールドの維持をお願い!!』
「無茶よ!!"アイツ"だって未来視を使えるんだから、読まれて避けられるのがオチよ!!」
『でもやらなきゃコウが死んじゃう!!だったら私はやるわ!!どんなに危険でも!例え死ぬ事になっても!!』
「・・・分かったわ。全力でサポートするから、必ず成功させて帰ってきなさい。コウと一緒に。」
『ありがと、リィエ。』
◇◇ミウ◇◇
「ありがと、リィエ。」
私はそう答えると、目を閉じて未来視の見せる未来に精神を集中させた。鍔迫り合いで動きの止まる瞬間を探す。
あった!このタイミングしかない!!
「【Leap-Drive】!!」
『馬鹿っ!!止せっ!!』
果たして、空間跳躍した私の目に映ったのは、重力子のブレードを突き込もうと構えた"アイツ"の機体だった。
リィエの言うとおり、完全に動きを読まれた。もう、防ぐ事も避ける事も出来ない。
私、死ぬんだ。そう思った。
ドンッ!!
「きゃあ!!」
その時、予想外の方向から衝撃を受け、悲鳴とともに弾き飛ばされた。
思わす閉じた目を開いた、そこに映ったのは・・・
漆黒の刃に胸を貫かれた暗黒騎士の姿。
「あ・・・あ・・・」
私の脳裏にコウの言葉が甦る。
―――俺を助けになど出てくるな。もしそんな事をすれば、俺は確実に死ぬ。
◆◆リィエ◆◆
「コウっ!!!」
堪らずコウ達の元へと向かう。空間の異常箇所を避けながら必死に翔ぶ。
『ミウ。リィエ。約束を果たせなくてすまない。ここでお別れだ。俺の最後の願いを聞いて欲しい。生きろ!どんなに辛くても苦しくても生きろ!!それが、俺が俺らしく生きた証になる。だから・・・』
『い、や・・・いや・・・』
左手を伸ばし、コウ達に近付こうとするミウ。でも、精神的に混乱しているせいか、よろよろしか動けていない。
『リィエ!ミウを連れて早く離れろ!!時間切れだ!!さぁ、"俺"!!一緒に消えてもらうぞ!!』
ブレードを突き刺していた相手の右腕に自分の左手の指を食い込ませるコウ。
だけど相手は焦る素振りすら見せず、空いている左手にブレードを展開させると、自身のジェネシスの装甲ごと、掴まれている自分の右腕を肩口から切り落とし、コウを目下の海へと蹴り落とした。
『いやぁぁぁ!!いやあああああああああっ!!』
『はは・・・生命と引き換えにしても腕一本か。安い生命だな。』
コウの後を追おうとするミウを力の限り抱き止める。ミウの絶叫が響く中、水柱を上げて海へと消えるコウ。
『ミウ、リィエ、キャンディ、雪華、春華、千夜、イヨ、アリシア。みんな、生きてくれ。愛してい・・・』
そして・・・
海中から、いつか見た黒き閃光が拡がり、その内に入ったものを無に返していく。
それが消えると、そこに海水が流れ込み、渦と波涛が激しい音を立てた。
『ああぁぁぁ・・・あぁぁ・・・・・・』
私の縛めを解こうと激しく暴れていたミウが力を失い、そして、気を失った。
それに伴い、ジェネシスが解除され、アンダーウェアの姿になったミウ。
そのミウを抱きかかえ、私は"アイツ"と対峙する。
勝ち目など欠片もない。せめてミウだけでも離脱させてあげたい。でも、それすらも難しい。
いくら考えても絶望しか見えない。
後ろから撃たれるのを覚悟で、全力でこの場から離脱する決意をしたその時、"アイツ"は私の思ってもみない行動に出た。
コウの消滅を確認した"アイツ"は、こちらを一瞥しただけで、飛び去っていった。まるで、私達は相手をする価値もないというように。
◇◇ミウ◇◇
ここは、何もない場所。
真っ暗で、何も見えない場所。
静かで、何も聞こえない場所。
でも、それでいい。
私は、目を閉じ、耳を塞ぎ、ただうずくまっているだけだから。
このまま、何も見えない、何も聞こえない闇の中にいれば、見ずに、聞かずにすむから。
刃に貫かれたあの人の姿を、あの人のいない世界を、私を責める私の声を。
見ずに、聞かずに、すむから。
いつか私が消えるまで。
ずっと・・・ずっと・・・・・・
◆◆リィエ◆◆
「リィエ、ミウちゃん、どう?」
キャンディの問いに私は頭を振った。
あれから二日。私達はラロトゥーニュ選王国はイングリッド王国王都レンデンへと来ていた。
3機の内、ディアンサスは以前スターノヴァを隠していた廃坑に置いてきて、今はポラリス、ノヴァ2のクロッカス2機でここに来ている。
もっとも、まだ王都には着いていない。ポラリスならまだしも、ノヴァ2は全長20mはあるから、直接王都に行くと中大型の駐機場に停める羽目になり、手続きも面倒なので、トウバの時と同様に街からも街道からも見えない海岸の岩場に隠してスターライト2で向かう事にしたのだ。
ミウはあの時からずっと目を覚ましていない。私達の呼び掛けにも応答しない。
瞳孔反射や腱反射はあるから死んではいない。今は身体の消耗を抑える為にRBSの中で眠らせている。
自らの失敗の代償はあの人の生命。
それに耐え切れず、ミウは精神を閉ざした。
そのミウの眠るRBSの隣には、精神のないあの人の身体が安置されている。
皮肉が過ぎる。もしこれが、あの人の言っていた世界の意志なのだとしたら、”アイツ”が世界を滅ぼして回る理由も理解出来る。出来てしまう。
だけど私は託された。あの人から。みんなを。この世界を。
だから王都に来た。ミウと世界、その両方を助ける為に。
「さぁ、キャンディ、レンデンに向かうわよ。まずはディエミー先生のところ。気が進まないのは分かっているけど、一緒にお願いね。」
「うん。ミウちゃん助けるためだもんね。苦手とか言ってらんないよ。」
「ありがとう。ステローペ、エレクトラ、二人と機体をお願い。」
「「イエス、マスター。」」
◆◆リィエ◆◆
王都レンデン。自分の足で来るのは初めてだ。でも、ミウの中にいた時の記憶から、行くべき場所は分かる。
スターライト2を小型駐機場に預け、西通りを足早に抜けて中央広場へ。そして、アルスマグナ邸のある北通りへ向かう。
いつもならスウィーツスウィーツとうるさいキャンディも、今は露店やお店に見向きもせず黙って歩いている。
キャンディもまた、合流直後は酷く取り乱して泣きじゃくっていた。
『コウさん!!絶対帰って来るってみんなと約束したじゃない!!わたしにもジェネシス作ってくれるっていったじゃない!!わああああああぁぁぁ!!』
ひとしきり泣いた後、キャンディは私の隣に来て、応急処置の終わったミウを心配そうにのぞき込んだ。
『ミウちゃんまでいなくなったりしないよね?』
私はキャンディに伝えた。RBSで寝かせておけば身体は維持出来ると。でも、意識、精神を完全に閉ざしてしまっている為、このままではずっと眠り続ける事になる。昏々と眠り続けるだけでは生きていると言えるのか、と。
『ねぇ、ミウちゃん。おきてよ、ミウちゃん。ねぇ・・・』
キャンディが呼び掛けて、身体を揺さぶっても、ミウが起きる気配はなかった。私はキャンディの肩にそっと手を置き、首を横に振り、そして言った。普通の方法で今のミウを起こす事は出来ない。ミウを起こす為には、精神に直接語り掛ける必要がある。でも、それをする為の方法が今はないと。
『ジェネシスで精神を繋げれば、出来るんじゃない?』
キャンディの言った方法が使えるなら、私もそうしていただろう。でも、MLSで繋げる為には相手の承認が必要で、その承認する意識がないのだから、結局は堂々巡りだ。
『そんな・・・。ミウちゃん・・・ミウちゃん・・・。』
キャンディはミウに縋り付いて泣き始めた。その彼女を見て、私は唯一私が思い付いた方法を実行する決意をした。
でも、それにはRBSがもう1機必要になる。
ジェンティアが近くにいれば話は早かったけど、既に大陸を出てしまっていては、この広い蒼空ではジェンティアを見つけるのは困難を極める。WPステローペやメロペーのように超高精度のセンサーを搭載しているならまだしも、ポラリスやノヴァ2のセンサーで隠蔽モードのジェンティアを見つけるのは難しい。
そうなると、私が知る限り、向かうべき場所は一つしかない。
アルスマグナの館。アーシアさんのところだ。
でも、直接向かっても辿り着けないかもしれない。
なぜなら、機体が変わっているから。
向こうに登録されているのはスターライトとスターノヴァだけだろう。ポラリスやノヴァ2で行っても、誘導してもらえないどころか、下手をすれば迎撃されるかもしれない。
だから、私達は王都に来た。ディエミーさんに相談すれば、機体が変わった事をアーシアさんに知らせる何かしらの方法があると考えて。
それに、どの道王都には来る必要があった。あの人のお願い、エルドミラ陛下への協力要請もしなければならないから。
程なくしてディエミーさんの館に辿り着いた。ノッカーを鳴らしてしばらく待つ。
「どちら様でしょうか?」
ここで働いている侍従の声。私とキャンディは目を合わせ、そして小さく頷きあう。
「ミウとキャンディです。事前の連絡なく来ました事ご容赦ください。ディエミー先・・・さんに急ぎ相談したい事があります。お取り次ぎ願います。」
「承知いたしました。少々お待ち下さい。」
私とキャンディはここに来る前に打ち合わせをして、私はミウとして通す事にしたのだ。
理由は、私がリーエロッテとして訪れると、イーセテラでの出来事を事細かに説明する必要が出てきてしまい、その手間と時間を省きたかったから。
私にはミウと別れる前のミウの記憶もあるから、そうは見破られないだろう。
「お待たせいたしました。ご案内いたします。」
しばらく待つと、再び侍従さんが
現れ、私達を客間へと案内してくれる。
「ディエミー様は只今別のお客様の応対をされておりますので、こちらでお待ち・・・」
案内された部屋に入ろうとしたその時、二つ奥のドアが開き誰かが出てきた。
ディエミーさんかと思い目を向けると、私の、ミウの記憶にもない女性だった。
如何にも”制服”といった出で立ちだったので、きっとアカデミーの関係者だろう。見た目は20歳を越えたくらいだろうか。鴨の羽色のスカーフを巻いていて、落ち着いた大人びた印象を受ける。
そう思って見ていると、その女性と目が合ったので軽く会釈する。向こうも少し慌てた様子で私に会釈した後、私の隣を見て、ぎょっとした顔になった。
「あっ!アイちゃんだぁ~!!」
私の隣の人物=キャンディが、喜声を上げてその人物に突撃していった。
Special Thanks
キャラクター原案:瞳さん/アイ=ロスチャイルド




