第4話 明けの明星(ルシファー)、未来を捜して
◇◇ミウ◇◇
「結局、みんな見に来た訳か。」
0番格納庫の前に集まったみんなを見て、苦笑交じりにコウが言う。確かに、解散になってないよね。
「だって気になるよ~!二人だけに渡すの、ズルくな~い?」
キャンディが口を尖らせて文句を言ってる。私もキャンディと同じ立場だったら同じ事言うかも。
「すまないが、そこは抑えてくれないか。二人分が精一杯だったんだ。主に俺の寿命が。それと、使用には条件があるしな。」
「うにゅ・・・そ、それじゃ仕方ないね・・・。」
その言葉にさすがのキャンディもわがままを引っこめた。
「条件?」
「ああ。条件の一つは”最低でも10倍強化の再精製体である事”。FSEもそうだが、武装と防御、機動性は強化しているが身体能力自体の強化は行っていない。普通の身体の者がこれを使うと、身体中の骨がバラバラになるだろうな。」
「うえぇ~・・・。あ、でも、ミウちゃんもリィエさんもわたしも5倍強化だよね?」
「まぁ、その辺りは出力バランスの調整で何とかな。機動出力を落として武装と防御出力に回す。だが、多少防御出力を上げたところで”アイツ”の攻撃は防ぎきれない。精々、一瞬だけ停滞させるのが関の山だ。本当は10倍強化に再精製したいところなんだが・・・ミウは次が最後の再精製になる。万が一を考えると、今、再精製はしたくはない。それに、再精製後の身体に慣れる時間もないしな。そして、問題はもう一つの条件だ。それは、”未来視が使える事”。正確には、未来視がなくても使える事は使えるが本領を発揮できない。それだと”アイツ”に後れを取る事になるだろう。」
条件があることは分かった。でも、それだと・・・
「コウ、それだと条件に当てはまるのはリィエだけにならない?」
「そうだな。だからそれを今夜中に解決するんだ。で、その前に、二人には衣装合わせをしておこうと思ってな。」
「「衣装合わせ?」」
「まぁ、見て貰えば分かるさ。」
そう言いながらコウが0番格納庫の操作パネルに手をかざし掛けて、ふと動きが止まる。
「どうしたの、コウ?」
「・・・ミウ、ちょっとこっちに来てくれ。」
「? いいよ。」
コウが私を呼んだ。なんだろう?
「ミウ、ここに手を触れて、『開け』と強く想ってみてくれ。」
「う、うん、分かった。」
コウの言葉を聞いて、パネルに手を当てる。・・・『開け』。
しばらく続けてみてもパネルの表示は”LOCKED”のまま。
「・・・流石にいきなりは無理か。」
「え、えと・・・ごめんなさい・・・。」
残念そうな顔になったコウを見て、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。この行為には何か大事な意図があったのだろう。コウの期待を裏切ってしまった自分が悲しくなった。
「いや、大丈夫だ、ミウ。これからずっと一緒なんだからな。二人で訓練していけばいい。」
「うん・・・。」
私の頭を撫でるコウの手がとっても温かく感じた。
「ねぇ、コウ。今の行為にどんな意味があったの?」
今の私たちのやりとりを見守っていたリィエが、改めてコウに問いかける。やってた私が分からないのだから、見ていたほうはもっと分からなかっただろう。
「あぁ、ミウが新たに目覚めさせたであろう能力が、ミウの意図的に使えるのかどうか確認していたんだ。」
「新たな能力?」
「”強制書換”。触れた物の機能を自分の望むように強制的に書き換える能力だ。」
「なっ?!」「「「「「??」」」」」
リィエはコウの言葉の意味が分かったのかとても驚いていたけど、リィエ以外の私たちは首を傾げるばかり。
「ええと、それは凄い事なのかしら?コウ。」
困った顔の雪華姉さんがコウに尋ねる。うん、私もよく分からないから教えて欲しい。
「凄い事だぞ。そうだな・・・例えば遺跡でロックの掛かった扉があって、自分達の持っている手段では開けられなかったとしよう。そういう事は、今までもよくあったんじゃないか?」
「「「「「うん。」」」」」
「で、だ、誰も開けられない筈のその扉に、ミウが『開いて』と思いながら触れると、開く訳だ。」
「「「「「!! 本当に?!」」」」」
「あぁ。それ以外にも・・・四年前に俺が特攻した時、みんなのスターノヴァはオートパイロットにロックを掛けてウィスタリアから退避してもらったが、あのロックも解除出来るな。後は・・・自動人形や殺戮人形に触れて『止まれ』と念じれば機能停止するな。」
「「「「「!! 確かにすごい!!」」」」」
「この能力を上手く使えば、”アイツ”にも対抗出来るだろう。”アイツ”の機体や装備に触れて『止まれ』と念じてやれば、機体や装備を無効化出来るんだからな。凄いどころじゃないぞ?決定的な能力と言ってもいい。」
私は自分の両手を持ち上げて見下ろした。
震えてる。
寒いわけでも怖いわけでもない。
嬉しい!!
コウの役に立てる!!コウの隣にいられる!!
「でもそれは、ミウを”アイツ”の目の前にやらないといけない。俺としては、そんな事はさせたくはない。それに、ミウが任意に使えないのでは、な。」
「あ、うん・・・。でも、使えるようになればいいだけだよね!!」
「お前、そんな簡単に・・・。まぁ、その通りだな。俺に無理難題吹っ掛けたんだ、ミウにも頑張ってもらうぞ?」
「分かってる!やってみせるから!!」
やれるかどうかなんて関係ない!やらなきゃダメなんだから!!
「それじゃ、扉を開けるぞ。」
ピピピピピピピピピピピピッ、ピッ。
ガコンッ!
クォーーーーーーーーーン!
ガコンッ!
コウが手早く暗証コードを入力すると、0番格納庫の扉がゆっくりと上へと開き、開き切ったところで止まる。そして、格納庫内に灯りが灯る。
そこに横たわるもの、それは・・・
「白い、戦闘機?」
「これがミウと私に渡したい物?」
輝く純白の機体。大きさはスターノヴァと同じくらい。でも、戦闘機にしては後ろ半分に上下に張り出している部分がある。
「これはスターラスター型高次元航行強襲輸送艇ディアンサス。ポラリスの同等の戦闘力を有しながら8名まで搭乗出来る輸送艇だ。人数を減らせばそれなりの量の物資も搭載出来る。だが、二人に渡すのはこれじゃない。これと共に運用する装備だ。」
カツ、カツ、カツ、カツ・・・
ガキンッ!
コゥーーーーーーン!
ガッ!
コウが機体の脇を歩いて機体後部に向かう。と同時にそちらからハッチの開く音が響き、機体後部が大きく上下に開いた。
その様子を見守っていた私たちに、コウがちょいちょいと手招きをした。
慌ててコウの元へと駆け寄る。
「そんなに慌てなくてもいいぞ?ミウ、リィエ、ここから入って左右の壁にある装備を身に着けてきてくれ。今はどちらも同じ装備だから、どちらを選んでも構わない。それと、専用のアンダーウェアを着てもらうんだが、下着も全て脱いでから着てくれ。理由は後で説明、というか実際にやってもらうから。」
「「うん、分かった。」」
言われた通り、リィエと一緒に開いたハッチから機体の中へと入っていく。
中は窓はないけど普通に明るく、天井もそれなりに高い。正面奥には扉。多分、操縦席に続いてる。その手前に壁を背にしてシートが四つ。この機体は8人乗りって言ってたから、操縦席に4人乗るのね。
そしてその手前、左右の壁にそれはあった。
「リィエ、これって、FSE、だよね?」
FSE装着ユニットのようなところに、まるで物語に出てくるような鎧が置いてあった。ディアンサスと同じ輝く純白の鎧。鎧といってもごつごつとしたものじゃなくて、丸みを帯びた柔らかい感じの女性的なフォルムを持った軽装の鎧。
「プロテクターの部分がしっかりしていて、FSEよりは軽装の鎧って感じね。意匠も凝らしてあって、物語に出てくる女性騎士や戦乙女が身に着けそうな感じ。でも、他には特別変わった感じはしないわね。」
そのFSE装着ユニットの横に、コウの言っていたアンダーウェアが用意されていた。両手で持ち上げて広げてみると、濃いグレーの上下ひと繋ぎでレザースーツのよう。前にジッパーが付いている。そのジッパー部分も後から覆われるようになっている。
「下着も着けないようにって言ってたけど、これも変わった感じがしないね。」
「FSEのより結構厚手なくらいね。ツナギだからおトイレが大変そうだけど。さぁ、あんまり待たせるのも何だし、着替えてしまいましょう。」
「うん。」
身に着けていた衣服をすべて脱いで、アンダーウェアに脚と腕を通す。外側の見た目や感触とは違い、裏地はサラッとしていて肌触りはいい。ジッパーを上げて前を閉じる。首までしっかり覆われているから息苦しいかと思いきや、意外にも着心地はすこぶるいい。気密性も高そうだけど、蒸れる感じもない。
緋色のロングヘアーは頭の後ろ側に髪留めでまとめた。これからヘルメット着けるのだから。
「これ、いいわね。動きやすいし、着心地もいいし。」
「うん。これの上から防具を着ければ、普通に冒険出来そう。」
「後は、この鎧ね。ねぇ、コウ、これは普通に”エクィップメント”すればいいの?」
「あぁ、そうだ。それを装着したらこっちに出て来てくれ。後はみんなの前で教えるから。」
「「了解。”エクィップメント”!」」
FSEの時と同じようにやってみる。声を掛けるとユニットが動き出し、ブーツ、膝当て、腰当て、籠手、肘当て、肩当、胸当て、そして背部ユニットを装着、そしてMISEを内蔵したヘルメットを装着していく。
程なくして装着は終わり、装着ユニットから解放された私たちは、一歩二歩と歩いてみる。さっきより重さは感じるけど、動きにくい感じはなさそう。
ここに姿見はないけど、お互いの正面に同じ姿をした者がいるのだから、見た目も分かる。ヘルメットは頬から後ろに向けて、羽のような意匠が伸びていて、本当に騎士のようだ。
「なんか、格好いい・・・。」
「騎士というより”戦乙女”って感じね。槍でも持っていたら完璧なんだけど。」
「リィエ、”戦乙女”って?」
「”戦乙女”は、私達の居た世界に伝わる神話に出てくる女神でね。勇敢に戦って死んだ戦士の魂を世界を治める神の元へと連れて行って、世界の最期の戦いに一緒に戦ってもらうの。勇敢な戦士と戦乙女が愛し合って子供が出来て、その子供が英雄になったという話もあったわ。」
「へぇ~!何か、コウと私たちみたい?」
「私達は女神じゃないけどね(苦笑)。さ、それじゃ行きましょうか。」
「うん!」
装着を終えた私たちは外で待つみんなの元へと向かった。
「「「「おぉーーーっ!!」」」」
ハッチを出た瞬間、コウ以外の四人から驚きと感嘆の声が上がった。その声にちょっと気恥ずかしくなった。
「えへへ、似合ってる?」
「うんうん♪ミウちゃんもリィエさんも、すっごく似合ってる♪かっこいいよ♪」
「そうね!どこかの国の騎士だと言っても通るわよ!」
「ありがとうキャンディ、雪華姉さん!」
べた褒めしてくれる二人。私はリィエと顔を見合せて微笑み合った。
「でも姉様、確かに素敵ですが、普通に鎧ですよね?」
「春華殿、拵え自体はかなりの物なのですから、普通ではないとは思いまする。が、旦那様が生命を削られてまで造られたようには見えませぬな。」
うっ・・・春華さんと千夜さんが辛口だ。
コノフタリシネバイイノニ
・・・はっ?!ダメよ私!暗黒面に堕ちては!!
平常心、平常心。すぅーーーはぁーーーすぅーーーはぁーーー。
「それはそうだろうな。現在の状態では、少し豪華にしたFSEだからな。それでも、今迄のヤツに比べたら段違いに強力だけどな。”これ”の本当の姿はここからさ。」
あ、なんだ、続きがあったんだ。辛口の二人も納得顔になってる。
「ミウ、リィエ、少し距離をとって、【Release Lucifer】と言うんだ。ちなみにこの言葉は今回だけでいい。二人の精神波形を登録し、二人がその姿を覚えたら、次からは意識するだけでその姿になれるからな。」
「だから”衣装合わせ”なのね。」
「うん、わかった。」
私とリィエは互いに、そしてみんなからも少し離れて、互いの顔を見合せて頷く。
「「【Release Lucifer】!!」」
その言葉を言った途端だった。
私たちの身体が浮き上がり、そして同時に、私たちの身体に眩い光の粒が纏わりついてきた。
「「きゃあ!!」」
「な、なに?!まぶしーーー!!」
「うわっ?!何が?!」
「姉様?!」
「うくっ?!見えませぬ?!」
あまりの眩しさに目を閉じる。まぶたを通してさえ分かる輝きがやがて落ち着くと、私はゆっくりと目を開けた。
私が見たのは、満足気に笑みを浮かべるコウと、驚きに固まっているキャンディや姉さんたち。
そして私は首を巡らせて隣を見る。
そこにいたのは・・・
「「天・・・使・・・?」」
光輝くベールに覆われた鎧を身に纏い、背中に大小6対12枚の純白の翼を持った、見紛う事なき天使の姿だった。
◆◆リィエ◆◆
「「天・・・使・・・?」」
隣に居るミウの姿を見た私は、そう呟く事しか出来なかった。それはミウも同じようで、私達の言葉が重なり合った。
「GENEral-purpose・Chrono-system-loading・Individual・Combat・Equipment(汎用クロノ・システム搭載型個人戦闘装備)、GENECICE・Lucifer。それがその装備の名前だ。」
「GENECICE・Lucifer・・・。」
ルシファーって確か、元の世界にあった神話で、神に歯向かって堕天使になった大天使の名前よね?何でそんな名前を・・・?
「ねぇ、コウ、ルシファーって・・・。」
「あぁ、リィエの思っている方とは違うぞ?このルシファーは星の名前だ。元の世界で、明け方、東の空に輝く明るい星。リィエも、仕事の徹夜明けで外に出た時に見た事がある筈だ。説明もした覚えもあるな。」
「えぇと、そうだった?よく覚えてない・・・。ごめんなさい・・・。」
私のその答えに、コウは少し寂しそうな顔をした。心が痛む。
「転生してるから仕方ないか。ルシファーはラテン語で”光齎すもの”の意味で、東の空に輝く時の金星を示している。俺達の住んでいた日本では”明けの明星”と呼ばれていた。GENECICEに付けたのも、俺達の未来に光を齎してくれるようにとの願いだよ。」
「そうなのね・・・。この装備に合ったいい名前だと思うわ。覚えていなくて本当にごめんなさい・・・。」
「そんなに気に病むな。大丈夫だから。それで、装備種別がGENECICE、機種名がルシファー、で、機体名だが、何がいい?」
「うーん、急に聞かれても・・・。」
「まぁ、それは後でいいとして、だ、説明の続きをしたいから降りてきてくれ。」
「うん!」「分かった!」
コウに言われて床に降り立つ私達。床に立つと同時に背中の翼も折り畳まれる。芸が細かい。
私達が目の前に降りた事で、ようやく驚愕に固まっていた雪華さん達やキャンディが我に返った。
「コ、コウ、これって?!」
「姉様!神様が降りられましたわ!!」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・」
雪華さんはともかく、春華さん、神様じゃないです!!ちょっと千夜さん拝まないで!!仏様でもないから!!
そしてキャンディはというと・・・
「コココココ、コウさん?!これわたしも欲しい!!ねぇねぇねぇねぇ!!」
我儘が再発していた。呼び方まで”さん”付けに戻ってしまうくらい興奮してるのね。まぁ、気持ちは分かるかな。私だって逆だったらそう言うかも。
「お願いお願いお願いお願い!!わたしコウさんのお願いガンバルから!!だからねぇ!!」
「あー分かった分かった。でも、今は材料がない。Cリアクターもな。だが、雪華達が上手くやってくれれば資材も補給出来る。だから、半年後、再会してから作るよ。設計自体はミウ達ので出来ているから、製造と衣装合わせだけなら五日もあれば出来る。それで勘弁して欲しい。」
「やったぁーーー!!約束だからね?!」
泣く子と我儘キャンディにはコウでも勝てませんか・・・。キャンディ、恐ろしい娘。
それにしても”ジェネシス”か。綴りは違うけど、確か”起源”という意味の言葉もあったわね。
えぇと、略する前がGENEral-purpose・Chrono-system-loading・Individual・・・え?
「ねぇ!コウ!ジェネシスの略前の言葉!もう一回教えて!!」
「ん?あぁ、GENEral-purpose・Chrono-system-loading・・・」
「そこ!”Chrono-system-loading”って!!クロノ・システム搭載型って?!」
「あぁ、搭載されてるぞ、クロノ・システム。だから、ミスティック・ドライヴやクロノ・リヴァースも使える。しかも、加速する副作用はCSクリスタルに肩代わりさせているから、使用者には一切の負担がない。但し、使い過ぎればリアクターが過負荷を起こして爆発する。そうならないように制限は掛けておくが、リミッターが働くとクロノ・システムは強制終了する。リミットまでの時間もMISEからの表示に出ているから気を付けておいてくれ。」
「でも、それが出来るなら貴方が生命を削らなくても良かったんじゃ?!あ・・・!」
「そういう事だ。俺達が前に生きていた世界で、医療薬や器具を創る時だってそうだっただろう?」
そうだ。科学技術や医療技術の発達の陰には尊い犠牲があった。新しい薬一つ創るにしても、動物実験から始まって、人を使った臨床試験を経て、初めて薬として世に出る。当然、臨床試験の患者になった者の中には、副作用で亡くなった人もいる。そして、私自身、RBSでの試験でそうなった。コウはジェネシスを創る為に自分自身の身体で研究していたのだ。
「さて、ジェネシスを運用するのに未来視が必要な理由だが、これで分かった筈だ。ミスティック・ドライヴを使用した場合、移動速度が光速を越える場合がある。そうなると、人間の五感では情報を得られない。視覚は光が物体に当たって反射してきたものを捉えている訳だが、自分が光速を越えてしまうと光が目に届かないか届いたとしても可視光域から外れているのだから視える訳がない。他の感覚にしても同じだ。だったらクロノ・システムを使わなければ、または光速を越えなければいいという話になるが、”アイツ”に対抗する為にはクロノ・システムを利用するしか手がない。しかも、”アイツ”だって自身に死の危険が迫ればデメリットを秤にかけてクロノ・システムを使うだろう。その前に勝負を決める必要がある。だから、”未来視がなくても使える事は使えるが本領を発揮できない。それだと”アイツ”に後れを取る事になる”んだ。」
「うーん・・・そうするとやっぱりコウか私しか充分に使えないという事よね?」
「だから、MISEに”ある機能”を搭載する。」
「”ある機能”?」
「MISEを通して互いの精神を繋げる。”Mind・Linker・System(精神接合装置)”、MLシステムだ。本来は精神をリンクさせる事で連携を取りやすくするものなんだが、相手の精神的な能力も借り受ける事が出来る。勿論、貸す方が同意してなければ使えない。あと、自分の中を別の人間に見られている訳だから、人に因ってはかなり気持ち悪いと感じるだろう。もっとも、ミウとリィエなら問題にならないんじゃないか?何せ、元々一人だったんだから。」
「なるほど。それなら上手く出来そうね。」
「うん!私もコウの役に立てるよ!」
ミウの中で私が喋ってたのと大差ないだろうしね。
「でた、下着を着けずにアンダーウェアを着るように言った理由だが、ミウ、右下に表示されている装備状況の“Unit Lucifer“をOffにしてから、ちょっと両腕を挙げてくれ。」
「ん?こう?」
光のヴェールと翼が一瞬で消えて、軽装の鎧姿となったミウの身体に、コウがバスタオルを巻き付けた。
あれ?バスタオル、いつの間に?
「それじゃ、ミウ、全てをOffにしてみてくれ。」
「うん、わかった。」
次の瞬間、そこにはバスタオル1枚だけを巻き付けた裸のミウの姿が。
「きゃあ!なにこれ?!」
「それが下着を着けないように言った理由だ。ジェネシスは全てを量子化して収容出来る。アンダーウェアもジェネシスの一部だからな。だから普段はアンダーウェアの上に何か羽織るかアンダーアーマーの状態でいて、必要に応じてルシファーユニットをリリースすればいい。」
「つまり、その、”ジェネシス”なら、武装を全て取り上げられたとしても、丸腰にはならないって訳?」
「正解だ、雪華。例えシャワー中に襲われたとしても、瞬時にルシファーになれる。」
イーセテラ組三人から「おぉ~!!」という声が上がる。それなりの立場だった三人にしてみれば、これは正しく夢の装備に違いない。
「用を足す時とかも、その部分だけ消す事が出来る。後、ジェネシスに含まれない装備を着けた状態でリリースした場合、その装備品は分解されてしまうから注意してくれ。分解されたくない装備は、装備した状態で装備状況の”Registration”を選択すると登録出来、”Elimination”で登録解除出来るから。それと、損傷や汚れも収容とリリースを繰り返せば取り除ける。リリースは登録してある情報から再構築するからな。洗濯要らず修理要らずという訳だ。」
「「「「「「・・・・・・。」」」」」」
もう、凄すぎて誰も声が出ない。何その夢装備。
「あああ、あのね、コウ。アアア、アタシもそれ、欲しいなぁ~~~なんて・・・。」
「姉様!わたくし達は既に返しきれない恩を受けているのですよ?!これ以上我儘を・・・でも、わたくしも、少々興味が・・・。」
「だ、旦那様!某も、より旦那様のお役に立つ為に、あの、その・・・」
我儘娘、増殖?!
その三人を見て、困った顔で後頭部をぽりぽりと掻くコウ。
「三人共分かってるか?身体を強化していない君らがジェネシスなんか着けたら即死するぞ?」
「「「でもぉ~~~・・・」」」
「あ~~~分かった分かった。じゃあ、それぞれに専用のFSE作って、量子化機能だけを付けるって事でどうだ?でも、作るのはキャンディのと同じで帰ってからだぞ。」
「「「ありがとう!コウ!愛してるわ!!」」」
「ま、想定の範囲内だったけどな。(ボソ)」
みんなちゃっかりしてるんだから、もう・・・。
◇◇ミウ◇◇
「ねぇ、リィエ。この部分って何だかお花みたいだよね?」
コウと雪華姉さんたちのやりとりを、困った顔で眺めているリィエの腰の辺りを指差してそう言った。
「ん?確かに。」
両腿の左右にはプロテクターがあるけど、前垂れと後ろ垂れの部分は下に向かって細くなる光のヴェールで、前垂れのヴェールとプロテクターの間にも先に向かって細くなるヴェールが降りている。
それはさながら、多弁の花を伏せて腰に履いたよう。
「確か、入口からすぐの植え込みに咲いてた花に似てると思う。」
「入口の植え込み?何だったかしら?」
二人してしばらく考え込む。
最初にコウに案内された時、確かこう言ってた。
―――こっちにある緑掛かった花が”シュンラン”、その向こうに何色か咲いている同じ形の花が”アネモネ”、植え込みになっているところに咲いているのは”アザレア”だ。
「「アザレアだっ!!」」
「うぉう?!びっくりした!!どうした二人共?」
「あのね、機体名だけどね、”アザレア”がいい!ほら、スカートのところ、そっくりでしょ?」
「アザレアか。なるほど、いいな。白いアザレアの花言葉も、二人にぴったりだし。」
「花言葉?どんなの?」
「白アザレアの花言葉は・・・折角だから自分達で調べてみな?」
そう言ってウィンクしたコウの顔には、いつもの悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。そんな顔されたら、花言葉、気になるじゃないの!
「それじゃ二人共、ディアンサスに戻ってアンダーアーマーを外してきてくれ。今夜中に仕上げておくから。アンダーウェアはそのまま着ていてもらっていいからな。」
「うん!」「分かった。」
私たちは再びディアンサスの中へと向かった。
◆◆リィエ◆◆
「よし、それじゃ、解散。明日は朝6時にプレアデス達が起こしに行くから、着替えてジェンティアに乗船。忘れ物をしないようにな。」
私達が着替えを終えて出てくると、コウが解散を宣言した。朝6時か。今が夕食とミーティングを終えて夜の8時くらいだから、ゆっくりは眠れそうね。
「ねぇコウ、庭園の花って、鉢植えにして持って行ってはダメかしら?」
雪華さんが庭園の花を幾つか持って行きたいと言い出した。確かに、ここと一緒に廃棄されるなら、幾つかだけでも助けてあげたいわよね。
「構わないが・・・明朝は余裕がないから、プレアデス達に手伝ってもらって、今からやっておくといい。鉢は居住エリアの倉庫にあるから。あぁ、やるのは部屋に入れられるものにしてくれ。植え込みごっそりというのは勘弁な。」
「流石にしないわよ、そんな事(苦笑)、ターユ、手伝ってもらえる?」
「イエス、マスター雪華。」
「あ、それでしたら私も。アルキュオネ、お願い出来ますか?」
「イエス、マスター春華。」
「某も、あの黒い薔薇だけでも!うふっ♪うふふふふっ♪」
「鉢をお持ちします、マスター千夜。」
「感謝いたす、ケライノ殿。」
雪華さん達ノリノリだ。特に千夜さん、変なオーラが溢れてますよぉ~・・・。
「三人はいいのか?ミウなんか、持って行きたい花、沢山あるんじゃないのか?」
盛り上がっている雪華さん達を横目に、コウが私達に尋ねてくる。そういえば、ミウが大人しいわね。
「私、それどころじゃない。やらないといけない事いっぱいあるし。それに、コウと一緒にみんなと離れるなら、お花の世話も出来ないから。」
「そうだよね。ミウちゃんだけじゃなくって、わたしたちも余分な荷物は持ってく余裕ないだろうし。」
「私も同意見ね。これからは物見遊山という訳にはいかない。コウは、『半年は持たせる』と言ってたけど、不測の事態が起こらないとも限らないし、迅速に行動する上でも、余分な荷物は避けたいから。」
そう、やるべき事は沢山あり、状況も予断を許さない。素早く、そして的確に行動しないと。
「そうか。頼りにしてるぞ、みんな。」
そう言ってコウが私達の頭を順番に撫でてくれる。血の通っていないその手。でも、私はそれを温かいと感じた。きっと私達の事を想ってくれているコウの心の温かさだろう。
パンパン!
「それじゃ、今度こそ解散だ。みんな、やる事やったら休んでくれよ?俺はこれからアザレアの改修・調整作業に入るからな。みんな、おやすみ。」
「「「「「「はい!おやすみなさい!」」」」」」
手を叩きながらコウがみんなに解散を促す。それを機に動き出す私達。物資搬入用に開けられたハッチから居住エリアに向かって歩き出す。
ふと私が振り返ると、私達を見送っていたコウが、踵を返してディアンサスに入っていくところだった。
「ミウ、キャンディ、ごめん、先に行ってて。」
二人にそう告げて、私も小走りにディアンサスへ向かう。
「コウ!」
「ん?どうした?何か忘れ物か?」
作業しているコウの背中に呼び掛ける。
「ううん・・・。あのね、コウ。コウも無理しないでね?身体の方は私が必ず何とかするから、だから・・・」
コウの手の動きが止まる。しばらくの間。そして、
「・・・リィエ、リィエは未来視の事をどう思う?」
「えっ?」
「未来視は無制限に全ての未来を視せてくれる訳じゃない。自分の知り得ない事は視えない。今迄自分が得た情報から、起こり得る可能性のある未来を視せている。つまり、超常的な能力ではなく、あくまで高速で推論しているだけ。だから、不測の事態も起こる。」
「・・・何が言いたいの?」
「それを踏まえた上で、リィエ。リーエロッテ=ユーミット=フジイ。みんなを頼む。」
「っ!!」
その言葉に息を飲む私。コウには、私には見えない未来が視えていて、その未来は、こういう事を言わなければならない程の事なのだろうか?
「すまない。こんな言葉を聞きたくはないのはよく分かってるし、俺も言いたくはない。だが、現在視えている未来で、俺が生き残れるのは半々くらいだ。その可能性をもっと生き残れる側に増やす為に、リーエロッテ、頼む。」
「コウ・・・。」
コウの言葉は私の予想以上に重かった。義体になってすら半々。でもコウはその後のコウの言葉で少し安堵した。『可能性をもっと生き残れる側に増やす為に』。コウは、厳しくても生き残るという意志を示してくれた。なら、私は私の出来る事でコウを支えるだけ。
「コウ、私は何をすればいい?」
「そうだな・・・、リィエ、明日、みんなより30分だけ早く起きてここに来てくれ。俺の視た未来を話す。」
「? 今じゃなくて?まぁ、いいけど。」
「そして、そこで立ち聞きしている誰かさん達もな。」
「えっ?!」
コウの言葉に私が思わず振り返ると、バツの悪そうな顔でミウと、そしてキャンディ入ってきた。
あ~、私も悪かったかも。あんな別れ方したら気になるわよね。
「あの、ごめんなさい、コウ。」
「悪いとは思ったんだけど、気になっちゃって・・・ごめんなさい。」
「行儀は良くないが、まぁ、いいだろう。詳しい話は明日しよう。それじゃ、三人共、寝坊しないようにしっかり休んでくれ?」
「「「うん。おやすみなさい、コウ。」」」
コウに促されて、今度こそ居住エリアへと向かう。
「・・・どんな話なんだろう・・・。」
歩きながらミウがポツリと呟いた。不安なのだろう。
「・・・さっきのコウの言葉からしても、楽しい話ではないでしょうね。でも、コウが生き残れる可能性を少しでも上げる為に、私達みんなでコウを支えるのよ。」
「うん、分かってるよ、リィエさん。それで、みんなで、家族で幸せに暮らすんでしょ?がんばるよ、わたしも。」
「うん、そうだね。どんな話でも、私、コウの為に頑張る。」
決意を新たに、私達はそれぞれの部屋で眠りについた。
◇◇ミウ◇◇
「う・・・ん・・・・・・」
私は目を覚ました。
ここ数日で見慣れた天井が見えた。
窓の方を見ても、カーテンから漏れる朝の光はない。
部屋にある時計に目をやる。
AM5:03
少し早く目が覚めたみたいだ。
早朝だけど、部屋は寒くない。
下着姿で眠っていた私は、いつもの黒のアンダーシャツとスパッツを身に着け、それから洗面所へと向かい顔を洗う。
洗面所から戻った私は、赤いジャケットとキュロットスカートを着る。
着替えを終えた私は、窓のカーテンをザッっと開ける。
窓の向こうの庭園は、まだ薄闇の中。
わずかに見える花々のシルエットが、空調の風に揺らめいているのが見える。
私は部屋の冷蔵庫からお水のボトルを取り出すと、コップに注ぎ、ゆっくりと飲み干した。
「ふぅ・・・。」
時計を見た。
AM5:12
まだ少し早いかなと思っていると、扉の外からの呼び出し音が鳴った。
「ミウ、起きてる?」
リィエの声だ。彼女も早く目が覚めたのだろう。
扉のそばまで行き、その声に応える。
「起きてるよ。今、開けるね。」
開閉パネルに手をやり、扉を開くと、その向こうには、リィエだけでなく、キャンディも立っていた。
「おっはよー、ミウちゃん。ちょっと早く目が覚めちゃって、リィエさんの部屋に行ったらリィエさんも起きてたから、少し早いけどミウちゃんを起こして、コウのところに行こうって話になったんだ。」
「うん。私もどうしようかなって思ってたところだったから、ちょうど良かったかも。」
「それじゃ、コウのところに行きましょうか。」
「「うん。」」
雪華姉さん達を起こさないように、静かに歩いてジェンティアへと、その0番格納庫のディアンサスのところへと向かう。
昨日と何ら変わりなく佇むディアンサスの脇を回り込み、開いたままの後部ハッチから中へと入る。
「コウ?」
そこにコウの姿はなかった。
「あれ?コウ、いないよ?」
「どこ行ったんだろうね?」
途方に暮れてもう一度辺りを見回す私たち。
左右の装着ユニットには二つのアザレアが鎮座している。もう改修は終わったのだろうか?
「お?みんな予定より早いな。」
「「「うわぁ!?」」」
急に後ろから声を掛けられて、思わす声を上げてしまった私たち。慌てて振り向くと、そこにはバスケットを携えたコウの姿があった。
「コウ?!びっくりしたぁ~・・・。」
「何処に行ってたの、コウ?」
「あぁ、折角だから朝食を作りにな。とは言っても、サンドイッチと飲み物くらいだが。」
そう言ってバスケットを軽く掲げてみせるコウ。さすがコウ。気遣い上手な旦那様♪
「向こうの乗員スペースで食べようか。」
「「「うん♪」」」
コウに続いて扉をくぐると、一番奥に横並びで2席の操縦席が見えた。そしてその手前、扉のすぐ脇の壁際に、左右2席ずつのシートがあった。
なるほど。操縦席が2席に乗員席が2席×2で4席、後部貨物室にも2席分あったから、全部で8人乗れるのね。
「席の横の壁のロックを外せば簡易テーブルが下せるから。」
「「「は~い!」」」
言われた通りにロックを外してテーブルをパタンと下ろす。するとつかさずコウが除菌ウェットシートでささっと拭いてくれる。よく出来た旦那さんを持って、私は幸せです♪
テーブルを拭き終わると、それぞれにマグカップとミニバスケットに入ったサンドイッチが置かれ、マグカップに湯気の立つ温かい飲み物が注がれる。あ、この匂いは!
「コウ、これ、コーンポタージュ?」
「正解。朝は身体を温めると動き出し易いからな。」
「そういえば、昔もそう言って、温かい飲み物出してくれてたわよね。」
「ねぇねぇ!コウ!もしかしてわたしのにフルーツサンド入れてくれた!?」
「お、気が付いたか。4つのサンドイッチの内、1つはそれぞれの好みに合わせて変えてあるぞ。ミウはベーコンレタス、リィエはツナマヨ、キャンディはフルーツだ。」
「「「わぁ~い♪ありがと~♪」」」
「さ、スープが冷めない内に食べてくれ。その間に俺は、アザレアの最終確認しておくから。」
「「「は~い!いっただっきま~す!!」」」
私たちが食べ始めるのを見届けて、コウは貨物室へと入っていった。
◆◆リィエ◆◆
程なくして食べ終わった私達はマグカップとミニバスケットをコウの持ってきたバスケットに片付けてから貨物室へと向かった。
「ありがとう、コウ。美味しかったわ。」
「ごちそうさま、コウ。」
「うんうん♪毎日食べたい♪」
「ん、そうか。この身体だと味見が出来ないから、気に入ってもらえてよかったよ。」
私達の言葉に優しい笑顔を返してくれるコウ。そうか。コウはもう、そんな普通の楽しみすら分からない身体なんだ。私が、早く何とかしてあげないと!
「さて、それじゃ、本題に入ろうか。先に行っておくが、みんなが聞きたくない話で、俺も言いたくはない話なのは覚悟してくれ。」
「「「・・・。」」」
私達は無言で頷いた。予想はしていたとはいえ、コウの口から聞くとやはり緊張してしまう。
「もうすぐ、”アイツ”がここに攻撃を仕掛けてくる。」
「「「!?」」」
そんな・・・私達はまだ、何も対抗する手立てが用意出来ていないというのに・・・。
「その時、俺がアイツらを足留めしている間に、みんなはジェンティアで大陸の北東方向に、最悪、この世界から一度脱出してくれ。間違っても、俺を助けになど出てくるな。もしそんな事をすれば・・」
「そんな事をすれば?」
「確実に俺は死ぬ。少なくとも、俺の未来視では、生き残る未来は視えなかった。」
「「「・・・・・・。」」」
「俺一人なら、倒された振りをして逃げる方法もある。だが、お前達が出てくればそれを庇わなくてはならなくなる。いくらアザレアを装備したところで、今のお前達ではアイツの足元にも及ばないし、訓練している時間もないのだからな。」
コウの顔は厳しい。苦渋の決断だった事が容易に伺える。私とキャンディは何も言えなかった。それが最善というなら、受け入れるしかないから。
だけど、それに異を唱える者が一人だけいた。
「コウ、違うと思う。昨日、寝る前にコウがリィエに言ってたよね?コウだって全ての未来が視える訳じゃないって。だったら、コウだけが危険な事をしなくても、みんなで戦う方法だってあるはず。だからお願い!私とリィエに少しだけ時間をちょうだい!!」
「ミウ、お前・・・分かってるか?希望のない未来を視る事は途轍もない苦痛だ。最悪、精神が壊れるぞ?」
「分かってる。春華さんのところでの事を思い出したから。でも、それをしないとコウと一緒にいられないんでしょ?」
「そうだが・・・俺はミウやみんなに・・・」
「それは私たちも同じなの。それに私たちはコウのいない世界で生きていく気はないの。そんな世界はいっそのこと滅んでしまえばいい。そうだよね?リィエ、キャンディ?」
いやいや!言い方過激過ぎ!!けど、間違ってないか。コウのいない世界なんて、私もいらないわ。
「ミウ、もう少し言い方を・・・でも、言いたい事は分かるわ。私も同じ想いだしね。」
「ミウちゃ~ん、言い方過激すぎるよぉ~(汗)でも、言ってることは合ってるね。わたしも、コウさんのいない世界なんていらな~い。」
私達の言い草に深く深く溜息をつくコウ。でもその後、唇の端が少し上がった。
「全く・・・ウチの嫁共は旦那の話を聞きぁあしない。ま、でも、そこが可愛いところか。分かった、やってみてくれ。アザレアのMLシステムの確認にもなるしな。」
「分かった!ありがとう、コウ!リィエ!!」
「えぇ!!」
ミウ。凄い娘。この娘に生まれ変われて、私は本当に誇らしい。貴女とならずっと、コウの力になってあげられるわ。
私達は急いで装備ユニットに乗る。
「「エクィップメント!!」」
アンダーウェアは既に着てるから、そのままアンダーアーマーが装着されていく。装着されたヘルメットのMISEから網膜投影で情報が表示された。
「よし、右下の装備状況の”Helm”から”MISE”と進んで”MLS”を選択、接続先が表示されるから、”Azalea-Miu”または”Azalea-Rielotte”を選択してくれ。」
「分かったわ。」
「うん。」
言われた通りに思考操作すると、”Connection permission from Azalea-Miu OK/NG ?”と表示された。
「コウ、接続確認の表示が出たけど、”OK”を選べばいいのよね?」
「あぁ、そうだ。だけど、いきなり接続されるから、驚いたり慌てたりしないようにな?」
「分かった。いいわね、ミウ?」
「うん。」
そして”OK”を選択する。
―――あれ?もう繋がってるのかな?
頭の中にミウの声、というか意識が響いた。
―――ミウ?
―――わっ!?もう繋がってたんだ?!
―――うふふふ、懐かしいわね、この感覚。覚えてる?
―――うーん・・・ずいぶん忘れちゃってるけど、薄っすらとは。
―――春華さんのお屋敷で、二人で未来を捜した事は?
―――それは覚えてる。自分がなくなっていくような痛み。でも、その中で未来を捜した。二人で。
―――なら大丈夫ね。でも、今度は前よりずっと苦しいわよ?
―――そんなの分かってる。コウが見つけられなかった未来を捜さなきゃならないんだから。
―――覚悟は出来てるって訳ね。なら見つけるわよ、二人で!!
―――うん!!
私達は同時にコウへと顔を向け、そして同時に頷いた。コウもそれに応じて静かに頷き返してくれた。
コウの横ではキャンディが心配そうに見つめている。私達はキャンディにも同じように頷いた。
そして私達は向き合い、両手を握り合って跪いた。
目を閉じ、心の奥にある未来を視せる扉へと手を掛けた。
◇◇ミウ◇◇
うっ・・・くっ・・・
前に春華さんのところで受けたのとは比べ物にならない刻の奔流が私たちに襲いかかってくる。一瞬でも気を緩めれば、精神はバラバラになってしまうだろう。
その刻の流れの中を、私たちは二人手を取り合って、あるかどうかも分からない希望を捜す。
でも、見つかるのは視たくもない未来ばかり。コウが死ぬ。私が死ぬ。リィエが死ぬ。キャンディが、雪華姉さんが、春華さんが、そして千夜さんが死ぬ。コウの言っていた通り、みんなが生き残る可能性のあるのはコウが一人で囮になった時くらいだった。
どこ?!どこなの?!
焦りばかりが募り、それで揺らいだ精神を、奔流が容赦なく削り取っていく。
―――ミウ、焦らないで!精神を揺らせば、それだけ探せなくなる。
―――でも!!
―――探し物が見つからない時は、何か大切な事を見落としてる。私とコウが仕事で煮詰まった時もそうだったわ。そういう時は、前提から見直すの。ねぇ、現在の私達の目的は何?
―――目的は・・・”アイツ”を倒す事?
―――違うわ。それは現在じゃない。現在の目的は、時間を稼いで”アイツ”を倒す為の態勢を作る事よ。つまり、現在は無理に”アイツ”と戦う事はないの。”アイツ”の足を引っ張って、動きを遅らせるだけでいい。
―――・・・そうか!”アイツ”の船を多少でも壊してやれば!
―――それよ!その方向性で捜せば、きっと見つかるわ!
そして私たちは見つけた。その未来を。




