第3話 捜索、告白、再会の誓い
◆◆リィエ◆◆
四日目の朝、居住エリアの部屋で目覚めた私は、しばらくベッドの上で微睡んでから着替え、庭園へと足を運んだ。
庭園には先客がいた。私と同じ容姿の女の子が花壇を見てまわっている。
「おはよう、ミウ。」
「あ!おはようございます、リィエ先生!」
この娘は私の事を”先生”と呼ぶ。この娘が記憶を失くした時、私とコウが”医者”だと名乗ったから。
コウは何故そんな事をしたのか?
自分と関りが深い事でミウが生命の危険に晒されないようにとの配慮だろうか?
それとも、また別の意図でもあるのだろうか?
今コウの周りにいる人間の中で一番コウとの付き合いが長く、そして、一番付き合いの短くなってしまった少女。
どうして・・・どうして世界はこんなにも残酷なのだろう・・・。
私達のコウが追い続ける”世界の滅亡を望むコウ”の気持ちも分かる気がする。
私には、コウを一番最初に愛し、そして、愛された女性としての自負があった。私なら今のコウを支えられると。
でも結局、それは私の思い込みでしかなかった。コウを救ったのは私の生まれ変わりのミウであって私ではなかった。
そして彼女は、コウを救ったのと引き換えに、コウにとっても彼女にとっても大切なものを失ってしまった。
「あれ?リィエ先生、どこか具合でも悪いんですか?」
本当にこの娘は、よく気が付いて、優しくて、そしてコウの為に誰よりも勇敢で。
「大丈夫よ、大丈夫だから。心配してくれてありがとうね、ミウ。」
ミウを抱きしめて頭を撫でてあげる。コウがこの娘に”美優”の名前をあげたのも分かる。実際は名前を付けた時は感情らしい感情はなかったのだろうけど、あの人はきっとミウがこういう娘に育つ事を感じていたのだろう。
「先生~、くすぐったいです~♪」
「あ、おはよう、リィエにミウ。二人は今日も仲が良いわね。」
「おはようございます、リィエさん、ミウさん。」
「お早う御座います。リィエ殿、ミウ殿。」
私がミウとじゃれ合っていると、雪華さん達が顔を出した。皆、一様に疲れた顔をしている。連日のアムの毒舌口撃が効いているのは間違いないけれど、一番の理由は”無力感”だろう。
コウに受けた恩を返したい。でも、自分達の培ってきたものではコウの役には立てない。そして、どうすればいいのかがまだ見えない。
その気持ちは私にも痛い程分かる。私も役立たずの一人だから。
「おはよう・・・」
「みんなおはよ~!今日の朝ご飯はな~にかなぁ~?」
どう返事をしようか考えあぐねている私を遮る形でキャンディの挨拶が庭園に響く。ある意味、彼女に助けられたかもしれない。
今、私達の中で一番成長著しいのはキャンディだ。歳が近い事もあって仲の良かったミウがこんな事になり激しく落ち込んでいたけれど、現在はミウの分もコウに役に立つのだと息巻いている。
天才的な魔術の才能せいで不遇な目に合っていた彼女。その彼女を自然に受け入れてくれた初めての異性であるコウを信頼し、いつしか好意を抱くようになった彼女。
そして彼女はコウの隣に立つ為、惜しみない努力を続けている。
彼女の爪の垢でも飲めば、私も少しはマシになるのだろうか?
「本日の朝食はサンドイッチでございます。マスター・キャンディのお好きなフルーツサンドもございますよ。」
「うわぁ~い♪やったぁ~~~♪」
いつの間にかプレアデス達が朝食を載せたワゴンを伴って東屋にやって来ていた。彼女達が来ていた事にも気付かないなんて、私も相当疲れているみたい。
プレアデス達がテキパキと準備を整え、程なくして朝食が始まるが、いつもならいる筈の人がいない。
「マイアさん、コウ先生は?」
「マスターは既に作業に入られています。」
用意する物、私達が増やしてしまったものね・・・。コウを少しでも休ませてあげたいのに、私達が不甲斐ないせいで更に負担を増やして・・・。私と雪華さん達の空気が更に重くなる。
「ねぇねぇ、みんな今日はなにするの?」
その空気を知ってか知らずか、いつもの明るい調子でキャンディが尋ねてきた。そういえば、今日は自習か休みだと言ってたわね。
「そうね・・・私は医療室でやりたい事あるから、そちらをするわ。」
コウの生命が尽きる前に、何かコウを生き延びさせる方法を見つけないと。
「あたしは・・・どうしようかな・・・。」
珍しく雪華さんが言い淀む。何をすればいいのか分からなくて、何が出来るのか分からなくて、何が必要なのかも分からない。だから、何も決められない。自分がここに居ていいのか不安になっている。
「私は・・・お部屋で書物を読んでいようかと。武でお役に立てずとも、知を得て少しでもコウ様のお役に立って見せます。」
「某は・・・ケライノ殿と剣の訓練をしようと思いまする。敵首魁には敵わずとも、露払いとして旦那様のお役に立って見せれば良いと思いますが故。」
春華さんも千夜さんも、不安に思っている事は変わりないようだけど、少しでも何かしてコウの役に立ちたいと足掻いてる。そんな二人を見て、雪華さんが溜息をつく。
「はぁ・・・。ダメね、あたし・・・。年長者のあたしが頑張らないといけない時に・・・。そうね、二人の言う通りだわ。黒幕と直接戦えなくても、他にもやれる事はある筈。あたしも少し身体を動かそうかしら。ターユ、相手、お願い出来る?」
「イエス、マスター・雪華。朝食が終わりましたら、マスター・雪華のご都合の良い時にお声をお掛け下さい。」
「助かるわ。お願いね。」
まだ不安はあるものの同郷の二人の頑張りに雪華さんの気持ちも少しは上向きになったみたいだ。そうだ、沈んでなんかいられない。やれる事をやる、いや、やれない事でも出来るようにしなきゃ!
「それで、キャンディ、言い出しっぺのあんたは何するつもり?」
「わたしはぁ、エレクトラに頼んで、教えてもらいながらウィンドライドの整備を手伝うの♪」
「へぇ~、機械モノには興味なかったあんたがねぇ~。恋の力は偉大よねぇ~。」
雪華さんのその言葉に、人差し指をぴっと立てて左右に振るキャンディ。
「チッチッチ、雪華姉、そこは”恋”じゃなくて”愛”のチカラって言ってもらわないと♪」
「・・・あんた、よくそんな恥ずかしいセリフを恥ずかしげもなく言えるわね・・・。」
ちょっと呆れ顔でそう言われたキャンディは、胸を張ってニカッと笑った。
「だって、”家族”の前で恥ずかしがることじゃないもん♪」
「「「「!!」」」」
キャンディの一言が重かった空気を一気に霧散させた。もしかして、あの話の振りはこれを見越して?すごいわね、この娘。
「まったく・・・これじゃどっちが年上なのか分かんないわね・・・。姉貴分として負けてらんないわ!」
「そうですね、姉様。まずは出来る事から。そして弛まぬ努力を続ける。改めて教えられました。」
「某もまだまだ未熟と思い知りました。更なる精進をしませんと。」
キャンディのお蔭で皆の気持ちも落ち着いて、その後は楽しい朝食となった。
朝食の片付けを終えて、各々がそれぞれの場所で自分のやるべき事をしていると事件が起こった。
◆◆リィエ◆◆
「失礼致します。マスター・リィエ。」
「あら、マイア、どうしたの?ミウは?」
ミウのサポートに付いているマイアが一人でここ医療室に来るなんて珍しい。もっとも、四六時中一緒にいる訳じゃないから、単独行動自体がおかしい事はないんだけど、感情がない筈の彼女が慌てているようにも見える。
「それが、マスター・ミウの姿が見当たりません。『コウ先生にお弁当を作ってあげるんだ♪』と言われて食堂にて調理されていたのですが、私が部屋の掃除を終えて食堂に戻りましたところ、マスター・ミウの姿はありませんでした。」
「なら、生体反応で探せばいいんじゃないの?」
「確認しましたが、検知出来ませんでした。少なくとも港エリア、居住エリア、庭園エリアには反応がありません。研究エリア、倉庫エリアの検知は遮断されていますので不明です。」
ちょっと、それってマズいんじゃないの?!強化再精製体であるミウが検知する間もなく急死したか、研究エリアか倉庫エリアに迷い込んだって事でしょ?!研究エリアと倉庫エリアにはセキュリティから攻撃受けるかもしれないから近付くなって言われてたし!
「マイア、コウに連絡して!ミウがセキュリティから攻撃を受ける前に止めてもらわないと!」
「それも試みましたが、マスターとの通信も繋がりません。」
「なんですって?!マイア、研究エリアと倉庫エリアに案内して!セキュリティに警告を受けるまでは大丈夫なら、途中まででも捜しに行くわよ!ステローペとメロペーは念の為、港エリア、居住エリア、庭園エリアの確認を!急ぐわよ!」
「「「イエス、マスター・リィエ。」」」
私とプレアデス達四人、通路を開放されているハッチに向かって駆ける。小さい船ならともかく、ジェンティアくらいの大きさの船なら、居住区や医療室、船橋のある階層とハッチのある階層は離れている。これは、敵に侵入された時、重要な場所へ容易に辿り着けないようにする為。だけど今はそれがもどかしい。
ようやくハッチから外へ出た私達は二手に分かれる。
「それじゃ、さっき言った通りに。マイア、案内して。」
「「イエス、マスター・リィエ。」」
「イエス、マスター・リィエ。こちらになります。」
私はマイアと港エリアから施設の通路へ。そして右に曲がり円形に上がっていく通路を駆け上がる。程なくして居住エリアとの境、庭園エリア東出入口の扉が見えてきた。マイアがその扉の向かい側の壁のパネルに触れると、壁が扉のように開き、エレベーターが現れた。
「少々お待ちを。エレベーターの稼働ログを確認します。・・・確認出来ました。マスター・ミウはこのエレベーターで階下に向かわれたようです。」
「じゃあ、急いで私達も追いかけるわよ。操作よろしく、マイア。あと、ステローペとメロペーにも捜索中止を連絡しておいて。」
「イエス、マスター・リィエ。」
どこかで倒れてる可能性はなくなったけど、急ぐ必要は変わらない。マイアの操作でエレベーターが下へと動き出す。1階層降りるだけの筈なのに、結構な距離を動いたように感じた。
程なくしてエレベーターが止まり扉が開いた。外へ出て辺りを確認すると、通路は左方向へ真っ直ぐ続いていた。
「マイア、セキュリティはどの辺りからなの?」
「基本的に各エリアの入り口からです。研究エリアから倉庫エリアへの物資搬送中は両エリア間の通路もセキュリティで封鎖されます。」
「分かったわ。行きましょう。」
「イエス、マスター・リィエ。」
再び駆け出す私達。少し走ると右への曲がり角。一旦足を止めて曲がった先を確認する。少し向こうに開けた場所がある。恐らく自分達のいる通路と交差する研究エリア倉庫エリア間の物資搬送通路だろう。見える範囲に人影はない。
「ミウ!いるの?!いるなら返事して!!」
少し待つが返事はない。
「行きましょう!」
「イエス、マスター・リィエ。」
再び駆け出す私達。すぐに通路の交叉点に辿り着く。物資搬送通路。幅も広いし天井も高い。そして左右の通路の先には大きな扉があり、研究エリアの扉の向かって右下、倉庫エリアの向かって左下に人が通る為の通用口が見える。
「左が倉庫エリア、右が研究エリアです。プレアデス、ヒアデスには倉庫エリアへの進入許可が降りてますので確認して参ります。」
「分かったわ。私は研究エリアへの扉を確認してみる。セキュリティ警告があったら離れればいいのね?」
「イエス、マスター・リィエ。速やかに離れて下さい。」
「了解よ。そちらはお願いね、マイア。」
「イエス、マスター・リィエ。」
マイアが倉庫エリアへ向かったのを見送って、私は研究エリアへの扉へと足を進めた。扉の前に立ち、扉を開く為のパネルに目をやる。
ドクンドクンドクンドクン!
心臓が早鐘のように鳴る。
ドクンドクンドクンドクン!!
恐る恐る触れようとしたその時、
カシュウっ!
「うきゃあっ?!」
「うをっ?!何だっ?!って、リィエ?!」
「きゃあ!!びっくりした!!」
真ん中から右と左に別れて扉が開いた。
余りのタイミングの良さに驚いて、悲鳴を上げながら尻もちをついてしまう私。
と同時に、驚く男性と女性の声が。
「あ痛たたた・・・もう!お尻が縦に二つに割れちゃったじゃない!!って、あれ?!コウ?!それにミウ!!」
目的の人物、発見!!
「大丈夫か?ほら。」
「ありがと。ところで、どうなってるの?!マイアがミウの生命反応も見失ったって私に相談に来たから捜しに来たんだけど!セキュリティに攻撃されてたら大変だからって!コウにも連絡が繋がらないって言ってて!」
驚かされたのと安心したので、一気に捲し立てちゃった。
「そうか・・・すまなかったな。タイミングが悪かった。昨日から若干身体の調子が悪かったから、ポッドに入って再調整してたんだよ。それで、ポッドから出てみればミウが目の前にいるから俺も驚いた。幸い、経年劣化のせいか、セキュリティが機能不全だったみたいで事なきを得たが。」
「そう・・・無事で何よりだったわ。コウ、身体、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。ここの方が設備が大掛かりな分、精密な調整が出来たからな。それじゃ、そろそろお昼だし、上に行くか。」
「ああ、ちょっと待って、コウ。折角ここまで来たんだし、研究エリア、見せてもらっていい?」
ジェンティアの設備より大掛かりって、元研究者としては興味があるし♪
「・・・それなら昼を食べてから他のみんなも一緒に案内しようか。それに、戻らないと今度はお前まで行方不明にされかねないぞ?」
「う・・・そうかも。じゃあ、後でちゃんと案内してよね!」
「分かったから、ミウと先に行っててくれ。俺はヒアデス達を呼んで邪魔な荷物だけは片付けるように指示してから上がるから。」
「りょ~かい!さ、ミウ、行きましょ!」
「はい!リィエ!」
ん?リィエ?リィエ先生じゃなくて?
「ミウ、貴女もしかして、何か思い出したの?!」
「え?あ!えぇっと、さっきコウのところに行った時、頭が痛くなって、その時何か思い出したような・・・はっきりとは分からないんですけど。でも、コウやリィエに”先生”って付けるのがすごく変な気がして、コウに聞いたら『ミウが呼びたいように呼んでくれればいいから。』って言ってくれたからそうしたんです。あの、やっぱりダメでしたか?」
申し訳なさそうな顔をしたミウを私は抱きしめた。
「わっ?!あのっ?!」
「良かった・・・本当に・・・・・・」
回復の兆しがある。全てではなくても記憶が戻る可能性がある。それは何より嬉しい話だった。ミウを抱きしめた私の目から自然と涙が零れ落ちた。
「リィエ・・・苦しい・・・」
「あ、ごめんね、ミウ。あまりに嬉しくって。そうだ!雪華さん達にも知らせあげないと!」
特に雪華さんと春華さん、ずっと責任感じてたし。
「あ・・・それ、コウに言ったんですけど、『まだやめておいた方がいい』って。『具体的な何かを思い出していないなら、ぬか喜びさせるだけだから』って言ってました。」
ミウの顔が途端に暗くなる。あ~~~私のバカ!!少し考えれば分かる事なのに、余計な事言った!!
「・・・確かにそうかもしれないわね。ごめんね、ミウ。私、嬉しすぎて余計な事言っちゃって・・・。」
「ううん、大丈夫です。それより、リィエが自分の事のように喜んでくれて嬉しかった。」
「ミウ・・・」
私はもう一度ミウを抱きしめた。ついでに頬っぺたもスリスリしてみる。本当にいい娘。私の半身とは思えないくらいに。
「あぅ~~~、だから、リィエ、苦しいです・・・。」
ミウの目が不等号(><)になるくらい抱きしめてから離してあげる。これからもいっぱいしてあげるんだからね!
「うふふ♪さ、上に行きましょう!」
「はい!」
◇◇ミウ◇◇
お昼ご飯を食べたあと、みんなで研究エリアの見学をした。私が行った時には暗くてよく分からなかったけど、明かりを点けてもらったらすごく広くて驚いた。
「それはまぁ、船体とかの部品もここで造っていたからな。部品をここで造って、港で組み立てていたんだ。」
他のみんなも驚いていたけど、キャンディお姉さんはすごくはしゃいでた。
「ねぇねぇコウ!これは何つくる機械?!あ!あれは?!」
苦笑いしながら付き合ってたコウ、お疲れさま。
◆◆リィエ◆◆
「みんなにこれからの事について話がある。聞いてもらえるか?」
見学が終わって、みんなで庭園の東屋に戻ってきた時、コウがそう話し出した。その真剣な声に、みんなの会話がピタッと止まった。
「あ、改まって何よ?びっくりするじゃない・・・。」
「すまないな、雪華。だが、気軽に話せることでもないからな。未来視で”アイツ”の動向が視えた。」
再び静まるみんな。とうとうこの日が来た・・・。コウを死地に追いやらねばならない日が。まだ私達はコウを手助け出来るだけの力を得ていないというのに・・・。
「・・・それで、”アイツ”はどう動くというの?」
努めて平静を装いコウに尋ねる。今の私に出来るのは、外見を装う事だけ・・・。
「”アイツ”は現在、クラド帝国にいる。どうやらそれなりの地位にいるようだ。一か月後、帝国軍を率いてラロトゥーニュ大陸、イーセテラ大陸へと侵攻し、その混乱を利用して世界に破滅をもたらすつもりのようだ。」
一か月・・・何かを身に着けるにしても付け焼刃にしかならない・・・。コウの告白に、誰も声が出ない。
「流石に一か月ではまともな準備も出来ない。そこでだ、みんなに”お願い”がある。」
「お願い?指示とか命令とかじゃなく?」
コウの言い回しに違和感を覚え、私は聞き直した。”お願い”という事は、拒否も出来るという事だ。
「ああ、”お願い”だ。俺はこれから帝国に渡り、侵攻を遅らせる為の妨害工作を行うつもりだ。みんなにはその間、やってもらいたい事がある。でもそれを強制する気はない。だから、”お願い”だ。」
「ちょっと待って!!また自分一人で行くつもり?!4年前、ミウがどれだけ苦しんだと思っってるの?!」
私はその時いなかった。でも、ミウと記憶を共有して、その時の事は分かるし、その時のミウの想いも感じられる。だから、私は立ち上がってコウに詰め寄った。その時のミウの想いをコウに分かって欲しかった。
「ああ、よく分かってるよ。俺だって皆と別れたくはない。だが、お前達の能力はまだ連れて行くに心許ない。それは、自分達が一番よく分かっている筈だな?だから、皆には別の事で手を貸してもらおうと思った。それでも駄目か?」
「「「「「「・・・・・・。」」」」」」
何も・・・何も言い返せない・・・。私も含めて皆、俯くしかなかった・・・。頭ではコウが正しいと理解している。でも、感情がそれを許してくれない。
能力が・・・能力が欲しい・・・。
「分かってくれたなら話を聞いて欲しい。そして、聞いた上で、手を貸してくれるか、教えて欲しい。」
「・・・分かった。でも、これだけは約束して。私達の所へ必ず帰って来るって!絶対帰って来るって!!」
「ああ、勿論だ。俺の帰る場所はみんなの傍しかないんだからな。必ず、帰ってくるよ。」
コウは私達を見回しながら、はっきりとそう言った。その眼差しを私達は信じる事に決めた。
「それで、あたし達に”お願い”したい事って何?あんたの為なら何だってやってあげるわ。」
雪華さんの決意に満ちた声。他のみんなもその言葉に頷く。
「”お願い”したい事は二つ。一つはラロトゥーニュ大陸の北15000kmにある氷に閉ざされた大陸”ユースオン”にある施設”コルチカム”に動態保存されているジェンティアの姉妹船、3番船”アルストロメリア”と、同様にラロトゥーニュ大陸の南10000kmにある灼熱の大陸”ウスアス”にある施設”アスター”に保存されている2番船”ブレティラ”及びその専属のメイデンである”黄昏の乙女ヘスペリデス”の回収を頼みたい。戦力の増強という訳だ。ちなみにヒアデス達は本来、アルストロメリアの専属だったんだが、ヒアデス達をコルチカムに移す前にパルテンシアを離れる事になってしまって、ここに収容されていたんだ。」
「えっ?!ジェンティアのような船があと2隻もあるの?!それだったら、帝国軍なんてちょちょいのちょいだね♪」
言ったのはキャンディだけど、私達も同じく思った。ジェンティアのような船が後2隻もあるなら戦いも随分楽になるだろう。
でも、コウは難しい顔をしていた。
「だといいんだがな・・・。恐らく、クラド大陸の施設に保存されている筈の1番船は”アイツ”に発見されているだろう。だから、簡単にはいかないだろうな。」
「うげ・・・マジですか・・・。で、でも、1対3なら・・・」
「無数の帝国軍艦艇がいる事も忘れるなよ?ウィスタリア一隻だけの時よりは遥かにマシだが、1番船を相手にしながら3隻だけで帝国軍を1隻も突破させないなんてほぼ無理だ。そこで二つ目のお願いだ。ラロトゥーニュ選王国とヤーマット国の協力を取り付けて欲しい。ラロトゥーニュの親衛第一艦隊とヤーマットの近衛第一艦隊なら帝国軍と渡り合える。」
コウの言っている事は分かる。でも、その言葉に激しい違和感を覚えた。
戦力の質と数は、戦力としての種類が違う。物量を質で補う事は、多少の差なら出来るかもしれない。でも、その差が余りに大きい場合はほぼ不可能。多勢に無勢という事になる。4年前、それは分かっていてもコウは犠牲が増えるのを嫌って、ウィスタリアと、そして、ミウの心の傷、それらと引き換えにしてこの大陸を守った。
それなのに今のコウは、犠牲を覚悟で両国に手を貸してもらうと言うのだから、違和感を覚えるには十分過ぎる。
「ねぇ、コウ。貴方はそれでいいの?前は犠牲が増えるのを嫌ったから、あんな事をしたんでしょ?」
「犠牲を増やしたくないのは今でも同じだ。だが、今の俺にはそれをやっているだけの余裕がない。それと、あの時はもう一つ理由があった。」
「もう一つの理由?」
「”この世界の過去へ飛ばされる事”さ。」
「「「「「!!」」」」」
あ、あれは承知の上だったという事?!
「もうみんなはアリシアから聞いてるとは思うが、俺が提供した技術がこの世界の過去を創っている。あそこであの行動をしないとこの世界は因果律崩壊を起こしていた。それを未来視で視たんだ。だからあれが『みんなが生き残れる可能性がある未来』に辿り着く事だった。」
ああしなかったら、世界自体がなくなっていたのね。”あの時”と同じように・・・。
あれ?そうすると・・・?
「コウ、そうすると、あの侵攻は、”アイツ”の企みじゃないという事?」
同じ疑問を雪華さんがコウに尋ねる。
「そうだ。”アイツ”が行った事じゃない。元々、帝国軍があのタイミングで侵攻するつもりだっただけだ。恐らく、”世界の自浄作用”。”世界”が自らを存続させる為にそうさせたのだろう。”世界”だって、むざむざ消されたくはないだろうしな。それで俺に、”とっとと過去に行け”と示してきた訳だ。」
「”世界の意志”。そんなものがあるんだ・・・。コウ、今までもそんなことあったの?」
世界に意志があるとか、簡単には信じられないわよね。キャンディの問いももっともだわ。
「あったよ。どちらかというと自分に敵対的だったけどな。」
「「「「「「えっ?!」」」」」」
「て、敵対的?!敵対的って、どういう事なのですか?!世界がコウ様の敵になったという事ですか?!」
「旦那様は世界の為に戦ってこられた筈!それが、どうして?!」
春華さんと千夜さんが思わず立ち上がってコウを問い詰める。生命を削ってまで護ろうとした世界がコウに敵対するなんてそんな!!
「簡単な話さ。世界を壊す程の能力を持つ者を、世界がその内に留めておきたいと思うかい?所詮、俺は世界にとって異物でしかない。だから、世界は俺に敵対するんだ。これは、世界を渡ると決めた時から分かっていた。これは俺の贖罪。世界を滅ぼしてしまった俺の。」
誰も、何も、言葉が出ない。幾つ世界を渡ろうとも、コウの居場所は何処にもない。報われる事のない旅路。それでもコウはその身を削って世界を救い、そして、また世界を渡って・・・。余りにも・・・余りにも過酷過ぎる・・・。
「今もこの世界の意志は俺に敵対している。俺の生命が削れるように仕向けているのは世界の意志だ。俺を程よく弱らせて、”アイツ”と共倒れさせようとしているのさ。それが一番、世界にとって楽だからな。だからな、雪華、春華。二人は気に病む必要はない。逆に俺の方が謝らなければならない立場だ。俺が君らに関わらなければ、君らも千夜も、大切なものを失わずに済んだ筈だ。すまない・・・。」
「コウ、あんた・・・」「コウ様・・・」
コウは三人に深々と頭を下げた。返事をするだけで精一杯の雪華さんと春華さん。
でもそこに、二人とは違う行動に出た人物がいた。
立ち上がったままだった千夜さんがテーブルを回り込み、コウの元へとやってきた。そして、コウの胸倉を掴み、引きずり上げるように立たせた。
「ちょっと千夜?!」「千夜さん?!」
私達もこれには驚き、止めに入ろうとしたけど、コウが手で制した。
「旦那様!!いえ、敢えて呼ばせていただきます!!宏!!自惚れるのも大概にしていただきたい!!ご自身が言ったではありませんか、『人は神にはなれない。例えどんなに強大な力を有していたとしても。』と。神ならざる貴方様が全てを救う事など無理な事。貴方様と関わらなければ、某も、そこもとの二人も、あの人外の兵士となり果てていた筈。それを貴方様はお救いになられたのです。もっと胸を張りなさいませ。」
「・・・・・・そうだな、その通りだ。俺が自分を卑下するという事は、俺が助けた人達をも卑下している事に他ならない。自惚れていると言われても仕方ないな。千夜、ありがとう・・・。」
「い、いえ、某こそ無礼な物言い、ご容赦いただきたく・・・。あわわわ・・・」
コウが千夜さんの背中に手を回してそっと抱きしめる。千夜さん、ありがとう・・・。私も心の中で礼を述べた。
「ねぇ、姉様。」
「何?春華。」
「私達最近、随分出遅れてますわね。」
「そうね。出遅れてるわね。」
「何とかしませんとね・・・。」
「そうね、何とかしないと・・・。」
雪華さんと春華さんの二人が、何やらこそこそ内緒話してるけど、突っ込まないのが優しさよね。
「話が少し脱線したが、ともかく、”アイツ”に好き勝手させない為に、戦力と多くの人達の協力が必要だ。だからお願いだ。俺に力を貸して欲しい。」
深々と頭を下げるコウに、みんなは微笑みを返した。一人を除いて。
「さっきも言ったけど、あんたの為なら何だってやってあげるわ。」
「そうそう♪わたし、がんばっちゃうからね♪」
「微力ながらコウ様の為、全力を尽くさせていただきます。」
「某達は某達の出来る事で旦那様のお役に立ってみせまする。」
「私もやれる事をやって、貴方の身体の事も何とかしてみせるから!」
「嫌・・・。」
「「「「「「え・・・?」」」」」」
ただ一人、笑みを返さなかったミウの呟きに静まり返る。
「やっぱり嫌!一緒にいたいよ!!コウは私に言った!『もう、離してやらないからな?』って!そして私はコウに言った!『コウが嫌だって言っても離れてあげませんよ~だ!』って!だからもう絶対に離れない!!」
立ち上がって叫んだミウ。その瞳からは涙が舞い散った。
「?! ミウお前、記憶が?!」
他の誰よりも早くコウがミウの元へ駆けより、ミウの二の腕を掴む。
「あっ!コウ、ちょっと痛い!もっと優しく!」
「あ、す、すまない。それで、記憶が戻ったのか?!」
「う、ううん・・。思い出せたのは、それだけ・・・。さっき下でコウを見た時、頭が痛くなって、その時に少しだけ見えて・・・。」
「でも、あの時はそんな事言ってなかったじゃないか。」
「だ、だって、もし思い違いだったら、は、恥ずかしすぎるから・・・。」
『もう、離してやらないからな?』に『嫌だって言っても離れてあげませんよ~だ!』か。プロポーズよね、どう聞いても。
「「「「「いいなぁ~~~。そんな事言われてたんだ。いいなぁ~~~。」」」」」
みんなで二人を見つめてあげると、コウは少し照れたように、ミウは顔を真っ赤にして、お互いの顔を見合わせた。
でもそれも束の間、コウは真剣な表情に戻り、ミウを見つめた。
「ミウ、俺はもう、お前に傷付いて欲しくはない。だから・・・」
「コウ、それは私も同じなの。コウに傷付いて欲しくない。でも、それは無理なんでしょう?それなら、私はコウと一緒に傷付きたい。例え死ぬ事になっても、私は貴方から離れたくないから。だから、連れていって。」
「ミウ・・・・・・。」
コウが苦悩の表情を浮かべる。コウが人前でそんな顔を見せるのは前世でも見た事がない。研究に行き詰っても、悩むのは自分の部屋でだった。部屋のシャワールームで倒れていた時も、私が踏み込まなかったら誰にも知られる事なく、そのまま一人で喘いでいただろう。自分の弱みを決して他人に見せないコウが、その表情をミウにだけは見せている。正直、羨ましかった。
「・・・・・・ミウの気持ちは分かった。だが、連れて行くとなればそれなりの準備が必要だ。それが間に合うかどうか確認をさせてくれ。もし間に合わない時は・・・その時は俺も帝国には行かない。ただ、そうなるとこの世界を護る事が難しくなる。戦いは受け身では勝てない。受け身で勝てるのは確実な援軍が分かっていて、その時間稼ぎをしている時だけだ。お前は自分の我儘でこの世界が消えるところを見る覚悟はあるか?」
「・・・だったら、コウが準備を間に合わせてくれればいい。そうでしょう?」
ちょっ、何言ってるのこの娘?!コウはただでさえ身体が厳しい状態なのに!!
「ミウ!!貴女何言ってるの!!コウの身体の事も考えて・・・」
「ぷっ!あっはっはっはっは!!」
言われたコウが突然笑い出した。本当に、心から可笑しそうに。コウのこんな笑顔、いつ以来だろう・・・。
「確かに、確かにそうだな!やる前から出来なかった時の事を考えていてはダメだな!分かった、何とかしてみせるよ。リィエ、大丈夫だ。今のこの身体ならな。」
今の身体なら?再調整、余程上手くいったのかしら?
「あとコウ、その身体の事、今言っておいた方がいいと思う。確かにみんなにはショックかもしれないけど、後で分かる方がもっとショックが大きいと思うから。」
ミウの言葉に考え込むコウと怪訝な顔する私達。みんなにショック?どういう事?
「・・・コウ?」
「・・・そうか。ミウもそう思ったか。俺も正直迷っていた。そうだな、それがいいかもな。」
私の呼び掛けに答えず、コウはそう呟いた。そして、服を脱ぐように左腕を袖から抜いて・・・ふと、何か思い付いたのか、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「【Left Shoulder Joint Lock Off】。あ、そうそう、キャンディ。」
「え?なに?コウ?」
「ほら、これ。」
キャンディに呼び掛けると、何気ない動きで、何か太い棒のようなものをキャンディに放り投げた。
咄嗟の事で、慌ててそれを両手で抱きかかえるようにして受け取ったキャンディ。
ワキワキワキワキ
「え・・・?これ・・・?え・・・?うきゃあーーーーーーっ?!て、て、手ーーーっ?!」
太い棒、それは人の腕。その腕の先で5本の指がワキワキと動いている。
「うきゃーーーっ!!うきゃーーーっ!!うきゃーーーっ!!雪華姉!!パスっ!!」
「ちょっ?!わわわわっ?!春華っ!!はいこれっ!!」
「姉様っ?!きゃーーーっ!!千夜さんっ!はいっ!!」
「某っ?!おおおおおおっ!!だ、旦那様っ!!」
キャンディから雪華さん、春華さんと渡り千夜さんへ。そしてコウの元へと戻ってくる。それを受け取ったコウはシャツの裾から中へと差し込んで【Left Shoulder Joint Lock On】と呟くと、シャツの左袖からコウの腕が現れた。
「と、いう事なんだな、これが。」
「・・・コウ、趣味悪いよ?」
「一応、これでも気は使ったんだぞ?最初は、首、投げてやろうかと思ったからな。」
「・・・そんな事したら、私が正座させて1時間みっちり説教してあげる。」
「それは困るからやめておくよ。」
茫然としてそのやりとりを見つめていた私は、ミウがジト目でコウに突っ込み入れている会話で我に返り、ようやく一言発する事が出来た。
「義・・・体・・・?」
「その通りだ、リィエ。メイデン達で培った技術で作り上げた戦闘用の義体だ。」
「・・・どうして・・・?」
「身体が限界だった。あと数か月持つかどうか。機能的には既にかなり落ち込んでいた。”アイツ”の足留めすら難しいくらいにな。」
「そんな・・・後15年位はって・・・。あっ・・・。」
「あれからどれだけ能力を使ったと思ってるんだ?」
そうだ。私はコウの身体がボロボロなのを知っていた筈だ。部屋で倒れるくらいに。あの能力のダメージは治療や治癒魔術を受け付けないと言われて、寿命とは関係ないものだと思い込んでいた。いや、思い込もうとした。
その後も、装備の作成や修理。Cリアクターを創ればそれだけコウの生命が縮むのを先日聞いたばかりではないか。
そして、その時にコウが言っていたではないか。
『どちらかと言うと、削れにくくはなるな。俺が不本意なだけで。』と。
私はその衝撃と後悔の念で、膝から崩れ落ちた・・・。
◇◇ミウ◇◇
コウから身体の事を聞いたリィエは、膝から崩れ落ちそうになった。コウはそれを分かっていたように抱き留める。
「そうだよな。そうなるよな。俺も甚だ不本意だったが・・・時間は待ってはくれないからな。幾ら時間を操れるといってもそれは相対的なものだけだ。絶対的な時流を弄る事なんて神にでもならない限り、いや、神でも無理かもしれないな。」
その言葉はリィエを諭すようにも、自身に言い聞かせるようにも聞こえた。
でも、リィエにはその言葉は聞こえていないみたいだった。
「みんな、すまないが続きは夕食の後にしよう。リィエをジェンティアの自室に寝かせてくるよ。ミウ、一緒に来てくれ。」
「はい・・・。」
コウはリィエを抱きかかえたまま立ち上がりジェンティアに向かう。私はその少し後ろを付いていく。
コウに抱かれているリィエの目は開いている。でも、その瞳には何も映っていないみたい。
「・・・コウ、ごめんなさい・・・。私があんな事言わなかったら・・・。」
「ミウのせいじゃない。リィエも、他のみんなも、そしてお前も、自分の存在と向き合わなければならない時が来る。リィエは、それが今だった。」
「じゃあ、私は?」
「お前はもう乗り越えたさ。自分で決めたんだろう?『例え死ぬ事になっても、私は貴方から離れたくないから。』ってさ。」
「・・・うん。」
コウの歩みが止まる。そして、コウは私の顔を見た。
「ならミウ、お前には別のお願いがある。聞いてくれるか?」
「どんなお願い?」
「もし、俺の行動や言動が明らかに異常だと感じたら・・・」
「感じたら?」
「俺を殺してくれ。」
「!!」
その言葉に私は固まった。
ビクッ!
それと同時に、コウの腕の中のリィエの身体が一瞬強張ったように動いた・・・気がした。
「・・・・・・どうして?」
「人の精神は機械の身体に入られるようには出来ていない。無理に入れると、五感、見たり聞いたり、触ったり味わったり、匂いを嗅いだりする感覚が自分のものでないように感じてしまう。精神を無理やり閉じ込められた感覚になるんだ。それが長く続くと、段々精神が壊れていく。そして、自分に大切なものさえ分からなくなり、最後には自分さえ分からなくなって暴れまわり始める。」
「・・・・・・。」
「だから、そうなる前に、俺にその兆しが見えたら、お前が俺を殺してくれ。」
「・・・その身体から元に戻る事は出来ないの?」
「現時点では、ないな。再精製体には戻れない。その辺に精神が空の肉体が転がっている訳もない。よしんば転がっていたとしても、元の身体と半分は同じでないと精神が閉じ込められている感覚になるから、そんな肉体を使っても無意味だ。」
コウの言葉に、私は目を伏せる。そして、
「・・・そう。分かった。その時が来たら・・・」
真剣なコウの顔。私を愛してると言ってくれた人の、その顔を真っ直ぐ見上げながら言葉を続ける。
「私がコウを殺して、そして、私も死ぬわ。でも、」
「でも?」
「コウがそうなる前に何か方法を見つければいい。そうでしょう?」
そして私は、笑ってそう告げた。
コウは呆気にとられ顔をした。そして目をつむり、そして、晴れやかな笑顔を私に向けた。
この時のコウの顔は一生絶対忘れないだろう。
「あぁ、その通り!その通りだな!!なら、お願いを変えよう!!」
「何?」
「”アイツ”との戦いに決着が付いたら、この世界を出て、別の世界で、俺とずっと一緒に暮らして、子供を育てて、年老いて、そして一緒に死んで欲しい。どうだ?」
「この世界で、みんなで、じゃダメなの?」
「この世界から俺は既に敵として認識されてしまっているからな。周りにも迷惑が掛かる事になる。」
「そう。分かった。そのお願い、私と・・・」
私はコウに抱かれているリィエの顔を見る。コウを見上げるその瞳には意志の光が戻っていた。
「私も、そのお願い、聞いてあげる!いいわよね、コウ?!」
「・・・あぁ、よろしく頼む、二人共。」
リィエがコウの首に手を回し、顔を引き寄せて左の頬のキスをする。
「あ!ちょっとズルい!私も!」
負けじと私も駆け寄り、コウの右頬にキスをした。
「ちょっとぉ~!な~に三人でいい事してるのよぉ~!わたしたちも混ぜてよぉ~!」
後ろからキャンディの声が響いたと思ったら、コウの背中に飛びついてきた。その後ろから雪華姉さんや春華さん、千夜さんもやってくる。
「姉様、私達の取り付くところがありませんわ。」
「大丈夫よ春華。後でたっぷりおねだりすればいいんだから。ね、コウ?」
「あ、旦那様。そ、某も、後ほど、し、していただけると・・・。」
正体明かしても変わらないみんなの態度に、コウは戸惑いの表情を浮かべた。
「いいのか?みんな。もう俺は、生き物ですらないんだぞ?」
「でも、コウはコウだよね?その身体も、”アイツ”をやっつけるまでなんでしょ?だったら、わたしはな~~~んにも問題ないよ♪」
「そうそう。それくらいしぶとい方があんたらしいわ、コウ。」
「どんな姿でも、コウ様はコウ様ですから。」
「旦・・・いえ、宏様、某は宏様の、その強くお優しい心根をお慕い申しておりますれば、一時のお姿で心変わりなどございませぬ。」
その言葉に、コウはさっき私に向けた笑顔をみんなに返した。
「・・・みんな、ありがとう。」
◆◆リィエ◆◆
夕食の後、私達は昼間の話の続きをした。
「各国への協力要請にはリィエ、キャンディの二人にステローペとエレクトラを付けて4人で行ってもらいたい。機体はポラリス3号機にリィエとキャンディ、スターノヴァ2タイプCにステローペとエレクトラ。リィエ、キャンディ、3号機の色と名前を決めておいてくれ。スターノヴァ2のN2Cユニットには、リィエの要望通り、俺の前の身体とRBSを1機搭載しておく。研究してくれるのはありがたいが、無理をして身体を壊さないようにな?」
「分かってるわ。色と名前は・・・キャンディ、いい?」
「うん!せ~の!」
「「紫のクロッカス!!」」
夕食を待っている間、私はキャンディと相談し、ミウに花の本を借りて決めた。動き易さと整備性を考えるとそういう編成だと二人で予想していたけど、大正解。
「私は赤が好きで、キャンディは青が好き。二つ混ぜると紫。コウの色。クロッカスの花言葉は”嬉しい知らせ”。ピッタリでしょ?」
「ポラリスもノヴァ2も両方共か?」
「うん!ポラリス・クロッカス、ノヴァ・クロッカスって言えばいいよね♪」
「分かった、それでいこう。ブレティラとヘリペリデス、アルストロメリアの回収には雪華、春華、千夜の三人とプレアデスの残り五人、ヒアデス達にジェンティアで行ってもらう。回収後はブレティラのマスターに雪華、アルストロメリアのマスターに春華を登録、千夜はジェンティアでマスター代理を頼む。再会までに各船の戦闘指揮を訓練しておいてくれ。三人も、決して無理はしないようにな。回収する事より、無事に再会する事を優先して欲しい。」
「了~解!」
「承りました。」
「承知致しました。」
三人の返事に頷くコウ。みんな元気に再会する事。それが一番大事。
「俺とミウは0番格納庫の機体で帝国へと向かい、現地の抵抗組織と協力して帝国軍の足留めを行う。最低でも半年は持たせて見せる。みんなは半年後、ラロトゥーニュに戻って、各国と連携して迎撃態勢を整えてくれ。」
「「「「「「了解!」」」」」」
一斉に頷く私達。コウの為に、やり遂げてみせる。その決意を胸に。
「よし、それじゃ、解散しよう。明日は早くから動くから、しっかり休んで欲しい。あぁ、それと、ミウは当然として、リィエ、今から一緒に0番格納庫に来て欲しい。渡しておきたいものがある。」
「渡しておきたいもの?分かったわ。」




