第2話 訓練と毒舌侍従(メイド)、二人だけの秘密
◆◆リィエ◆◆
「う・・・ん・・・・・・」
カーテンの隙間から漏れ入ってくる朝の光で目を覚ます。
見慣れない天井が見えた。
「ここ、どこ・・・?あ、そうか・・・。」
気だるげに身体を起こし、しばしの間ベットの上で微睡む。
アジュガに来てから四日が過ぎた。初日こそ休暇気分だったけど、翌日から訓練と勉強の日々が始まった。
◆◆リィエ◆◆
「皆様、お初にお目にかかります。ヒアデスが一人、”アムブロシア”と申します。”アム”とお呼び下さい。ヒアデスを代表して、皆様にご挨拶申し上げます。どうぞ、よろしくお願い致します。」
初日の夕方、コウが新たな星団の乙女、ヒアデス達を連れてきた。マイアと同じく、流暢な言葉で挨拶するアム。
「よろしくね、アム。私はリーエロッテ。リィエでいいわ。この娘はミウ。」
「ミウです!よろしくおねがいします!」
「わたしはキャンディ、よろしく~♪ねぇねぇ、アムさん、趣味は?」
キャンディ?今起動してきたばかりなのに、趣味なんてある訳・・・
「趣味で御座いますか?そうですね・・・マスターに近付く不埒な雌の羽虫共を駆除する事で御座いましょうか。」
「「「「「え・・・・・・?」」」」」
気が付くと、アムの両手の指の股にナイフが6本握られていた。
ズザザザザッ!!
意味がよく分かってなさそうなミウを除いた五人が一斉にアムから離れた。そして、コウを一斉に見る。
「あ~・・・起動した直後に俺にも毒吐いてたな・・・何故こんな性格になったんだか俺にも分からん。アム流の冗談だからそんなに怯えなくても大丈夫だ。誰だよ、この娘造ったの・・・。」
「「コウ!」」「あんた!」「コウ様!」「旦那様!」
「「「「「でしょうがぁ~~~!!」」」」」
最後が見事にシンクロしてたわね。ミウだけがアムと私達をきょとんとした顔で交互に見ていたが、
「アムさんも、おねえさんたちも、なかよくしないとダメですよ?」
少し怒ったような顔で一言。
「・・・承知致しました、ミウ様。以後、注意致します。」
「「「「「・・・何でミウだけ態度が違うの?!」」」」」
「胸に栄養が偏っていらっしゃる方々は、ミウ様の純真さがお分かりにならないようですね?ミウ様こそマスターの伴侶に相応しいとお見受け致しました。不肖、アムブロシア、誠心誠意マスターとミウ様にお仕えしたいと存じます。」
「「「「「こ、このポンコツ人形・・・」」」」」
マイア達は感情を出さない、教育の行き届いた侍従のようだったのに・・・
「”感情回路”を取り入れてみたんだが・・・こんな自動機械人形に誰がした?」
「「「「「だから!!」」」」」
「「コウ!!」」「あんた!!」「コウ様!!」「旦那様!!」
「「「「「でしょうがぁ~~~!!!」」」」」
そんなやり取りの後、ヒアデス達がプレアデス達と引継ぎをして、私達の世話をする事になったプレアデス達が、アジュガの居住エリアの部屋を整えてくれた。
私のサポートをしてくれるのはステローペとメロペー。2体・・・二人とは普段から話す機会もあったので、私としてはありがたい。
ちなみに、ミウにはマイア、キャンディにはエレクトラ、雪華さんにはターユ、春華さんにはアルキュオネ、千夜さんにはケライノが付いてくれている。
それにしてもヒアデス達は個性豊かだ。アムは毒舌侍従長、ドーラことエウドーラは気風の良い姐御、ペディことペディーレは官能的なお姉さん、ニスことコローニスは機械大好きオタク少女、ポリュクソー、ピュート、テュオーネはアイドルグループのメンバー的な感じだ。
余りにも個性豊か過ぎて、実は彼女らは人間ではないかと疑った程だった。
「なら、明日にでも少し手合わせしてみるか?」
二日目午前中。仮想訓練装置でのポラリス操縦訓練を終えた後、ヒアデス達との模擬戦が行われた。
雪華さんがアムと、千夜さんはドーラと、春華さんはベティと、それぞれ対戦した。
結果は・・・
「「「うううぅぅぅ・・・。」」」
昼食の時、東屋のテーブルの上に突っ伏した三人が、涙の水たまりを作っていた。
雪華さんは三回戦って、三回共ほぼ瞬殺。何かする間もなく、喉元に訓練用小剣の切っ先が突き付けられていた。三戦目で何とか八重桜が掠ったくらいだった。
「羽虫にしてはよくやったと褒めておいてあげましょう。マスターやミウ様に叱られたくはありませんので。」
千夜さんは、まるで師匠に稽古をつけてもらっている弟子のようだった。
「お前の覚悟はその程度か?!そんな事でマスターのお役に立てると思っているのか?!」
春華さんは、何かいけない方向に行かされかけていた。
「その程度のテクニックでは、マスターを喜ばせるなんて出来ないわよ?お姉さんが優しく手解きしてあげるわ♪」
意外と善戦していたのはキャンディ。アム相手にかなり粘っていた。強化された身体と卓越した魔術能力を生かしてアムの攻撃を防ぎ、かつ、隙を突いてのアムへの攻撃。結局は負けたけど、キャンディに対するアムの態度が一変したところを見ると、戦いに負けて勝負に勝ったというところか。
「まだまだ粗削りですが、彼我の差を見極めた上での的確な行動が見受けられます。経験を積めばマスターの支えとなって頂けるでしょう。キャンディ様もマスターの伴侶候補として認めさせていただきます。これから良しなに。」
「やったぁ~!!これからもよろしくね、アムさん♪」
ちなみに私は・・・頭脳労働専門です。強化再精製体ですけれども・・・。
二日目午後。今日の座学は”時流変換器|(長いのでCリアクターと呼称)”の構造と整備について。
ポラリスやFSE、そして星団の乙女達の動力源はCリアクター。時の流れをエネルギーに変換し、強大な力を発生させる装置。当然、それを搭載する物にはその力に耐え、十分に発揮する事の出来る構造と強度が必要になり、整備も難しくなる。
ウィスタリアに搭載されていたCリアクターは全部で3機。主機が2機で補機が1機。この内、どれか1機でも稼働していれば次元遷移により時と世界の境界を越えられるけど、補機1機だけでは越えるのが精一杯で、他に回す余裕がない。
また、そのサイズも非常に大きく、全長350mはあったウィスタリアの船体でも船内はかなり狭くなっていたようだ。
それをコウが古代パルテンシア王国時代に研究・開発・改良し、小型・軽量・高出力化したのがジェンティアやポラリス、FSEに搭載されているCリアクターだ。
ウィスタリアの主機と同等の出力でサイズは27分の1。ジェンティアはそれを8機搭載していて、更に全てのリアクターが相互接続され、互いに増幅器としての役割を果たしている。その増幅率は2の7乗、つまり128倍。補機も同様だから、次元遷移中でも、多数の武器や強力な障壁、高速な移動、隠蔽機構、そして特装砲などが同時使用可能になっている。
ポラリスも同じで、スターノヴァのノヴァユニットに搭載されていた魔素魔力変換器(これも長いのでEMリアクター)の8倍の出力があるCリアクターを3機搭載していて、これも相互増幅により4倍に増幅されている為、ポラリスはスターノヴァの32倍の出力がある。
FSEや星団の乙女達のCリアクターは人間の握り拳大の物で、それぞれ2機搭載されている。
星団の乙女の、その出力を最大限発揮できる身体は、5倍の強化再精製体と同等で、並みの人間では瞬殺されるのがオチ。プレアデス達の経験を引き継いだ為、雪華さんのような手練れでも未強化の人間では太刀打ち出来なくなっている。
「さて、Cリアクターの構造だが、時流停滞場結晶を時流凝結鋼で出来た装置に格納しているのが基本だ。時流凝結鋼は時空間の歪みの強い場所で金属元素が変質して出来る物だから、どの世界でも採取する事は可能だ。だが、時流停滞場結晶、長いからCSクリスタルと略すが、CSクリスタルは”Chrono-System”で創り出すしかない。」
「じゃあ、コウの寿命が極端に減っていたのは・・・」
「リィエ、正解だ。Cリアクターを多数造ったからだ。”アイツ”は、元は俺と同じだが、決定的に違う所がある。”アイツ”には”躊躇う”という感情がない。自分以外のものがどんなに悲惨な事になろうが躊躇わずに実行出来る。それは、同じレベルの力同士の戦いの中では生死を分ける差になるだろう。だから俺は、自分の生命と引き換えにして、”アイツ”より優位に立つために装備や兵器の研究・開発をしてきた。そして、”アイツ”を倒す為の装備と方法の目処は立った。だけどそれはほぼ不可能になってしまった。」
「えっ?メドは立ったんだよね?」
声を上げたのはキャンディだけど、皆同様に思っただろう。
コウの考えが実行出来なくなった要因。私はそれに思い至り、ミウの方を見た。
「流石に頭の回転は速いな、リィエは。そう、装備はほぼ完成しているが、肝心のそれを使う者が戦えなくなった。」
コウの考えた方法には、未来視を使えて、かつ、戦闘能力自体も高い、コウと共に戦える者が必要なのだ。未来視は私に移り、私は戦闘能力が低い。身体は強化されていても、戦う為の技術が皆無だから。
まただ。また私はコウを苦しめて・・・
ぶにぃ!
「ひゃに?!」
またいつの間にか私の傍までコウが来ていて両頬を潰された。
「同じ事を何度も言わせない。後悔したところで何も変わらない。まだ方法はあるから心配するな。アジュガに来たのはその為でもある。」
「・・・また、生命を削ってとかじゃないわよね?」
「どちらかと言うと、削れにくくはなるな。俺が不本意なだけで。”アイツ”と戦うならどの道生命の危険はあるから、それは忘れるなよ?」
「・・・分かった。貴方を信じるわ。」
コウが不本意?でも、生命のリスクが少しでも減るのなら、それに越した事はない。そう思って、敢えて”不本意”の部分を問い詰めなかった。それがまた、後に後悔を生む事も知らずに・・・。
三日目。午前中は仮想訓練装置でFSEでの戦闘訓練。空を飛ぶ訳だから、基本的には射撃武器での戦闘になるけど、近接戦闘の必要があった場合、空中では足を踏ん張れない為、地上とは違ったコツが必要になる。
「私だって射撃くらいなら!!」
頭脳労働専門とか言って逃げてる場合じゃない!少しでもコウの役に立たないと!
FSEに標準装備の斥力場加速銃剣|(長いので今後RGブレードと呼称)で標的を狙い撃つ!
「「「「うううぅぅぅ・・・。」」」」
昼食時、水たまりが四つに増えた。
斥力場加速銃|(やっぱり長いのでRガン)の反動は大きい。強化再精製体なら片手でも射撃は出来るけど、反動で空中姿勢が乱れて標的に当たらない。
模擬戦では私と同じ見学組だったミウもこの訓練は参加していたが、やっぱり反動に振り回されていた。でも、少しすると多少は当たるようになってきていた。
「難しいけど、コウ先生のお手伝いが出来るなら頑張る!!」
その決意のお蔭か、口調も以前のミウらしさが戻りつつあった。記憶は失くしても、心の奥底にはコウへの想いが宿っているのだろう。その想いがコウを護ってくれる事を切に願ってやまない。
ここでも優秀だったのはキャンディだ。最初は反動に四苦八苦していたが、訓練するにつれ、命中精度がぐんぐん良くなっていった。訓練終盤では、その反動をも空中の機動に利用して、飛び回る標的を的確に捉えていた。
「へっへ~ん♪狙い撃つのは得意なんだからね♪慣れればどうってことないよ♪」
雪華さん、春華さん、千夜さんのイーセテラ三人娘は、片手では撃てず、両手で抱え込むようにして銃を支えて撃っていたが、やはり反動で姿勢が乱れて標的に当たらない。
更に近接戦闘でもRGブレードのバランスが刀とは違うせいか、良いところなしな状態だった。
「いきなりはRGブレードは難しかったか?威力は落ちるが、扱いやすさ重視のRガンと碧双月と同じ光子剣|(同じく以後Pブレード)を用意しておくか。碧双月もEMリアクターをCリアクターに換装しておくから預かるぞ。」
「ねぇねぇ、コウ。わたしも剣と銃、別々の方がいいな♪それでぇ~銃は長くて強いのがいいの♪わたしは撃つの得意だから♪」
「それなら、キャンディの得意な魔術を併用してみたらどうだ?弾頭に【シールド】を掛けて打ち出してやれば相手の【シールド】を相殺出来るし、【エクスプロード】を掛ければ着弾と同時に爆発を起こせる。わざわざ銃の威力を上げて扱いにくくしなくてもいいだろう。Cリアクターは魔術に干渉しないから、自分の利点を生かしていくといいと思うぞ。」
「なるほどぉ!さっすがコウ!あ、でも、それならもう少し小さくて振り回しやすいほうがいいなぁ~!」
「ふむ、なら、小剣タイプのRGブレードを作るか。」
そして訓練後、私、雪華さん、春華さん、千夜さんの四人は、毒舌侍従長の餌食となった。
「武器を振り回す筈が武器に振り回されているとは。所詮は羽虫ですか。そういえば、ブンブン飛んでましたね。」
「「「「・・・・・・。」」」」
三日目の午後。本来は座学だけど、私、雪華さん、春華さん、千夜さんの四人は引き続きFSEでの戦闘訓練を行った。自らの余りの不甲斐なさに、自分達から申し出た。
流石にお昼抜きでコウに武器を用意してもらう訳にもいかず、RGブレードでの訓練だけど、コウが威力を落として反動を抑える調整をしてくれたから、午前中よりはマシな結果になった。
「明日は自習、又は休みとする。継続は大事だが、根を詰めても上達はしないからな。俺は一日、研究エリアにいるから。」
皆で夕食を摂っている時、コウがそう告げた。今日の夕食はコウ特製のカレーライス。スパイスの香りが疲れた頭と身体に心地いい。
「コウも、あまり無理をしないでね?」
「あぁ、ありがとう。気を付けるよ。」
◇◇ミウ◇◇
「あれ?ここ、どこだろう?」
コウ先生を捜していたら、場所、分からなくなっちゃった・・・。
「先生~!コウ先生~!」
朝起きて、着替えて、お庭のお花たちにおはようをしていると、マイアさんたちが朝ご飯を運んできてくれる。
お庭の真ん中でみんなとご飯食べるのはとっても楽しい♪
でも、今日はコウ先生がいない。
「マイアさん、コウ先生は?」
「マスターは既に作業に入られています。」
よし!後でコウ先生にお弁当持っていってあげよう!サンドイッチくらいしか作れないけど・・・。
私は船の食堂にいってサンドイッチを作りはじめた。
「ふんふんふん♪ふふふんふん♪パンにバターとマヨネーズぬって♪ハっム~とチィ~ズとレタスをはさんで♪サンドイッチのでっきあがりぃ~♪」
出来たサンドイッチをお弁当箱に入れて、コウ先生のところへいくために歩き出した。
でも私は大事なことを忘れていた。それに気づいたのは、迷子になってからだった。
うす暗い通路をとぼとぼと歩く私。
「先生~~~!コウ先生~~~~!」
どこをどう歩いたのかも分からず、戻る道も分からない私のまえに十字路があらわれた。
まっすぐの道は今までと同じ広さ。右と左の道は今までのよりずっと広くて、どちらも行き止まり。
あ、でも、よく見ると、行き止まりの真ん中に扉がある。右と左、どちらにも。
う~ん・・・どっちだろう・・・?
私は何かを感じるように目をつむる。そして、しばらくそうしてから目を開いた。
「・・・こっち。」
私は右の扉にむかって歩き出した。そして、扉の前に立つ。
扉を開くためのパネルに手をふれようとして手が止まる。確か入ってはいけないところがあるとコウ先生が言ってた・・・。パネルには”LOCK”の文字が赤く光っている。
しばらく迷ってから、私はパネルに手をふれた。すると、しばらくピーピーピーと音が鳴ったあと、文字が”UNLOCK”になり緑色に変わる。そして真ん中から右と左に別れて扉が開いた。
中はすごく広い部屋だった。明かりが少なくて端っこまでよく見えない。
おそるおそる中に入ってみる。暗いからちょっとこわい。お弁当箱の包みをぎゅっと胸に抱きしめる。
よく見てみると、まっすぐ奥に向かって床に点々と光が続いている。私はその光の道をたどって奥にすすむ。
コツン、コツン、コツン、
「なんだろう、ここ?大きな機械がたくさんあるみたいだけど・・・」
コツン、コツン、コツン、
足音だけが広いこの部屋に響く。
どのくらい歩いただろう。私は部屋の一番奥、小さな扉の前にたどり着いた。
さっきと同じようにパネルに手をふれると、やはりピーピーピーと音が鳴ったあと、文字が”UNLOCK”に変わり、扉がスタイドして開いた。
「先生・・・コウ先生・・・」
中に向かって声を掛けたけど、返事はない・・・。私は気持ちを奮い立たせて中へと入る。
部屋の中は薄ら明るい。明かりを出しているものは直接見えないけど、暗いこともない。
その部屋には円柱を半分に切った棺のような箱が壁に立てかけるようにして並んでいた。右側に七つ、左側に七つ。そして、正面の奥に三つ。
似たようなものを私は見たことがあった。船の医療室。でもあれはフタが透明で中が見えけど、ここにあるのは全部、中は見えない。
ううん、一つだけ中の見えるものがあった。
奥の三つの箱の前に、一つだけ中の見えるものが床に置かれていた。船にあったのと同じもの。
その中に、何かが入っているのが見えた。
ドクン!
その時、私の胸が跳ねた。頭の中の冷静な部分が、『近付いてはいけない。見てはいけない。ここから出なければいけない。』、そう告げていた。
ドクンっ!
また胸が跳ねた。そして私は、その棺のようなものに向かって歩き出した。
コツン、コツン、コツン、
響く足音がやけに大きく聞こえた。
ドクンっ!!
そして私はそこにたどり着いた。
ドクンっ!!!
透明な棺のような箱。その中にいるのは・・・
ズキィっ!!!
「あぐぅ!!!」
それを見た時、私の頭を強烈な痛みが襲った。
その時、何かが見えた。私とコウ先生が何か話してる。
―――『ミウ、120点だ。』
『え?何?』
『いつかお前に出した宿題。覚えてるか?』
『あぁ!『離したくなくなるくらい魅力的になれ』ね?』
『そう。それの点数、120点だ。もう、離してやらないからな?』
『うふふ!コウが嫌だって言っても離れてあげませんよ~だ!』
『あははは!・・・ミウ、愛してる・・・。』
『私もよ、コウ・・・。』―――
何だろう?もしかして、忘れてた私の記憶?でも、これって・・・プ、プロポーズ?!
あぁっ!そうだっ!!それよりも!!
「先っ・・・!!コウっ!!!」
そこに横たわっていたのは紛れもなくコウだった。目を閉じ、ピクリとも動かないコウ。
「コウっ!!!」
箱に縋り付き叫ぶ!!でもやはり、コウの反応はない。
「マイアや雪華姉さん達に知らせないと!!」
私が慌てて立ち上がったその時だった。
ガシュウウウゥゥゥ!!ガコンッ!!
「ひゃっ?!」
奥の三つの箱の内の一つが大きな音を立てた。音に驚いて目を閉じ、立ちすくむ私。
「各Cリアクター定常出力状態。四重結合増幅状態、問題なし。各部駆動素子の負荷率、骨格歪曲率、正常範囲内。外装皮膚形成、問題なし。」
「えっ・・・?」
声が聞こえた。私の知っている声。恐る恐る目を開けるとそこには・・・
「平衡器官稼働率、定常範囲内。各種感覚器、起動。周囲状況の把握開始・・・」
「きゃあっ?!」
「うぉあっ?!」
服を着ていないコウ先生の姿があった・・・。
◇◇ミウ◇◇
「ミウ、どうしてここにいるんだ?研究エリアと倉庫エリアには近付かないように言った筈だが?というか、よく保安装置を抜けてこられたな?」
「ごめんなさい・・・。朝ご飯の時にいなかったから、お弁当作って持っていってあげようと思って・・・。扉、普通に開いたよ?」
「経年劣化で上手く稼働してないのか?まぁ、お蔭でミウが酷い目に合わなくて良かったんだが。ん?どうした、ミウ?」
コウ・・・先生・・・?何だろう?先生と付けるのがおかしく感じる・・・。
さっき見えたあれのせいかな?
「えっと、”先生”って付けるのが変な気がして・・・。」
「ミウ、何か思い出したのか?!」
「あ?え?えぇと、よく、分かんない。でも、コウ・・・先生と、ずっと前から一緒にいて、凄く大切な人ような気がして・・・。」
思わず誤魔化しちゃった(汗)でも!私の思い違いだったら恥ずかしすぎるし!!
「そうか・・・。ミウ、焦らなくていい。ゆっくりでいいからな?ミウが呼びたいように呼んでくれればいいから。」
「うん。じゃあ、”コウ”って呼んでもいい?雪華お姉さんやキャンディお姉さんもそうだから。」
「あぁ、いいとも。寧ろその方が俺も嬉しい。」
そう言うと、先生・・・コウは私の頭を優しく撫でてくれた。やっぱり、ずっと前からこうしてもらってたような気がする・・・。
「ねぇ、コウ、どうして二人いるの?あの箱の中のは?」
私がそう聞くと、コウは少し考えてから言った。
「ミウ、これから言う事を二人だけの秘密に出来るか?リィエや雪華、キャンディ達にもだ。」
「お姉さん達にも?う~ん・・・分かった。秘密にする。コウと私の、二人だけの秘密。」
”二人だけの秘密”。その言葉に言いようのない嬉しさを感じている自分がいた。
「よし、じゃあ話そう。あの箱に入っているのが本当の俺の身体だ。でも、あの身体はもうすぐ死んでしまう。だから、死んでしまう前に死なないように箱にしまったんだ。でも、しまうだけでは話す事も動く事も出来なくなってしまうだろう?だから、心だけマイア達と同じような身体に移したんだ。」
「そっか。でも、何でお姉さん達には秘密なの?」
「それを教えると、みんなが悲しい顔になってしまうからな。だから、”二人だけの秘密”だ。」
「うん、分かった!”二人だけの秘密”だね♪」




