第1話 おりょうりはたのしい♪、海中の庭園
◆◆リィエ◆◆
キョウの都を発ってから二日。通常航行なら半日と掛からない距離だけど、隠蔽モードで故意にゆっくり移動している。コウや皆の体調回復を考えての事だ。
ラロトゥーニュ大陸イングリッド王国へ戻るジェンティアの船橋に、今は私とコウ、そしてマイアしかいない。
ミウ、キャンディ、雪華さん、春華さん、千夜さんは食堂に集まって何やらごそごそしている。多分、彼女達なりにミウの記憶を取り戻させようといろいろ頑張ってるのだろう。
マイアは相変わらず船長席、コウは火器管制席に座り、何やら点検作業をしていて、私は通信管制席に座ってモニターに映る外の様子を眺めていた。
ふとメインモニターに目を向けると、予定進路がイングリッド王国ベルキットではなく、もっと手前の場所に設定されているのに気付いた。
「ねえコウ、ベルキットの街に向かうんじゃなかったの?」
「ん?あぁ、リィエ、少し寄り道をしていく。現在、”アルンド島”と呼ばれている場所に俺が造ったある施設がある。そこに”残してきたもの”を回収したいんだ。」
自分で施設造ったとか、古代魔工文明パルテンシアではとても高い地位だったのだろうか?
「”残してきたもの”?」
「実は”星団の乙女”はプレアデス達だけではなくて、他にも何体かいるんだ。それを回収して、ジェンティアの運用要員に加える。プレアデス達は全員みんなのサポートに回ってもらうつもりだ。」
「へぇ~。その娘達にも名前あるの?」
「あるぞ。今回寄る施設には、”星団の乙女ヒアデス”。アムブロシア、エウドーラ、ペディーレ、コローニス、ポリュクソー、ピュート、テュオーネの7体がいる。」
プレアデスの次はヒアデス。相変わらずコウはロマンチストなのね。
「両方共”おうし座”の星団よね?」
「よく覚えているな。流石はリィエだ。もっとも、もう見る事は出来ないけどな。」
そう言って少し遠い目をするコウ。昔を懐かしむその眼差しに、また余計な事を言ってしまったと後悔する。
ぶにぃ!
「ひょっ!ひょっと!はにふふのっ?!」
いつの間にか私の傍まで来ていたコウが、突然、私の両頬をその両手のひらで押し潰し、そして私を覗き込むように見つめた。
「反省はしても後悔はするな。全く・・・済んでしまった事をいつまでも後悔してるんじゃない。前を向け、前を。」
そう言って顔を近付けてくる。ちょっと待って!この顔でするの?!せめて手を緩めて~!!
・・・そのままされてしまいました。
「う~~~・・・」
頬を膨らませ上目遣いの恨みがましい視線でコウを睨んでみるが、コウは涼しい顔で作業再開。と思ったら、
「ふっ、君はその方がいい。過去の事で悔やんだ顔しているくらいなら、笑ったり泣いたり怒ったりしてた方がな。」
「あっ・・・」
コウの背中越しの言葉。その言葉が私の心を闇の淵から救い上げてくれる。
コウが私達を救い上げてくれるなら、私達はどうすればコウを救う事が出来るだろうか?
私がそんな事を考えていると、船橋の扉が開き、給仕用のワゴンを押しミウとみんなが入ってきた。
「コウせんせい!おやつのじかんですよ~!みんなでたべよ?」
「あぁ、もうそんな時間か。お!美味しそうなチョコレートパウンドケーキだな!って、チョコレート、食材庫にあったか?」
「え・・・あ・・・その・・・・これ、ちょこれーとけーきじゃなくて・・・」
ん?ミウも他のみんなも微妙な笑顔、というか、苦笑を顔に貼りつけている。キャンディ以外は。
あ・・・もしかして?
「もしかして、ミウが作ったのかい?すごいな!頑張ったじゃないか!」
「あ、うん!キャンディおねえさんやセツカおねえさん、シュンカおねえさん、チヤおねえさんにてつだってもらってつくった!」
「そうそう!わたしたちも頑張ったんだからね♪」
キャンディは得意げに胸を張った。
「ま、まぁ、あんまり上手く出来なかったけど・・・。」
「料理とか・・・あまりしてませんでしたし・・・。」
「旦那様にお出し出来る程ではないのですが・・・。」
雪華さん、春華さん、千夜さんは自身なげにしている。
「よし、それじゃ、みんなで食べるか!」
コウが手際よく切り分けて全員分をお皿に盛り、カップにお茶を注いでくれる。
「どれどれ、それじゃ、いただきます。」
雪華さん、春華さん、千夜さんが止めたそうな顔をしていたが、知ってか知らずかコウはフォークで切ったケーキの欠片を口に運ぶ。
「・・・材料の配合や混ぜ方はいいけど、ちょっと焼き過ぎ、かな?(苦笑)」
コウの言葉にあからさまに落胆するミウ、胸を張ったまま固まるキャンディ、苦笑したまま顔を見合わせる雪華さん、春華さん、千夜さんの三人。
「ふむ、でも・・・。ちょっと待っててくれるかな?」
何かを思いついたように言うと、コウは船橋を出て行き、少ししてから手にソースポットを持って戻ってきた。
そして、焦げたケーキの上から何やら茶色のソースを掛ける。
「これでどうかな?っと。・・・うん、中々いけるな。みんなも食べてみなよ。」
コウは残りの皿のケーキにもそのソースを掛けてみんなに勧めた。
私を含めてみんな怪訝そうに皿を取り、フォークでケーキを切って口に運ぶ。すると・・・
「えっ?!何これ?!美味しい!!」
「ほんとだ!おいしい~!」
「焼くの失敗したって思えないほどおいしーね!!」
「これ、ココアのソース?甘く香ばしいだけじゃなくて、焦げた苦みが逆にアクセントになって美味しいじゃないの!」
「姉様!私、こんな美味しいもの初めて食べました!!」
「流石は旦那様!見事な挽回です!」
私、ミウ、キャンディ、雪華さん、春華さん、千夜さん、みんな大絶賛!コウって、こういう機転がいつも凄いのよね!
「元が良かったからな。少し手を加えるだけで美味しくなった。ミウ、それにみんな、ありがとう。」
そう言ってコウが一人一人頭を撫でていった。ミウとキャンディは嬉しそうな、私と年上の三人は気恥ずかしそうな笑顔をコウに向けていた。
「ところで、リィエって、これ作るのに何かしてたっけ?」
キャンディさん?後でゆっくりお話ししましょうね?
◇◇ミウ◇◇
「さて、この辺りだが・・・随分地形も変わってるな。造った当初は陸地のすぐ近くだったんだけどな。五千年も経てばそうなるか。」
ひろいうみのまんなかで、このおふねだけがうかんでる。
「ねぇ、コウせんせい。ここにコウせんせいのおうちがあるの?」
いま、このおへやには、わたしとコウせんせいだけじゃなくて、リィエせんせいや、ほかのおねえさんたちもいっしょにいる。
「そうだよ、ミウ。マイア、探査の方はどうだ?」
「イエス・マスター。各種センサーに反応ありません。」
「コウせんせい、おうち、なくなっちゃった?」
しんぱいになって、コウせんせいをみた。でも、コウせんせい、わらってた。
「大丈夫だ。マイア、探査マップを出してくれ。」
「イエス・マスター。探査マップをメインモニターに投影。」
いちばんおおきながめんに、なにかうつった。
「・・・ちょっと行き過ぎてたな。マイア、相対方位195-358、相対距離2800、相対深度85のポイントに向かう。水中航行準備。船内水密チェック。チェック完了後潜航開始。ポイントから距離100手前で停止しろ。」
「イエス・マスター。水中航行準備。船内水密チェック・・・確認。相対方位195-358、相対距離2800、相対深度85に向けて潜航開始します。」
「外像を船橋に全周投影。折角だから海中観光と洒落こもうか。」
「イエス・マスター。外像全周投影開始。」
なにこれー!うみにしずんでくのがみえるー!
「こういうのはリィエも見た事なかっただろう?大した時間じゃないが、みんな楽しむといい。」
「「「「「わぁ~~~♪」」」」」
すご~い!うみのなかって、こんなだったんだぁ~!
「水族館とは違うわね!どこまでも海が続いている!」
「ねぇ、リィエ、水族館ってなに?」
「え?あぁ、ここでは一般的ではないのね。水族館は水中や水辺の動植物を透明な水槽で飼育して、それを展示している施設なの。その動植物が生きている状態で観察出来るという訳ね。見ての通り綺麗だから、デートスポット、イーセテラ風に言うと逢引き場所として人気があったわ。」
「デート・・・」「「「あ、逢引き・・・」」」
「「「「いいなぁ~~~!!」」」」
リィエせんせいも、ほかのおねえさんたちも、すごくたのしそう♪
「マスター。後学の為に、どうしてこのポイントを指定したのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないぞ。海底地形のこことここに崖があるが・・・」
コウせんせいとマイアさんが、なにかむずかしいおはなししてる。でも、よくわかんないから、わたしはうみのなかみてることにした。
◆◆リィエ◆◆
「マスター、指定のポイントに到達しました。」
「よし、量子通信チャンネルC105でシステムリンク。リンクコードは”CRS004GNT”だ。」
「イエス・マスター。システムリンク開始。・・・応答確認、リンク確立。」
「マイア、システムの誘導に従って乾式港に進入し、ジェンティアを係留。後は任せる。」
「イエス・マスター。中間水圧調整エリアの水圧調整開始。・・・・・・調整完了を確認。外部扉、開放。」
数瞬後、メインモニターに映る海中の断崖に縦と横の亀裂が入り、その部分が大きく上に持ち上がった。そしてその奥からジェンティアを一度に3隻くらいは入る事の出来そうな空間が姿を現した。
私は言うまでもなく、ミウ達他の面々も唖然としてモニターを見つめていた。
「中間水圧調整エリアに進入。外部扉、閉鎖。・・・・・・閉鎖確認。水圧を調整。・・・・・・調整完了を確認。内部扉、開放。乾式港1番に進入、係留位置まで進行。・・・係留位置にて停止。係留固定腕にて船体固定。・・・固定完了。内部扉、1番港扉、閉鎖。1番港内、排水開始。・・・・・・排水完了。ジェンティア、係留完了しました。」
「よし。施設内に異常がないか確認。」
「イエス・マスター。・・・施設内大気組成、問題なし。港エリア、居住エリア、庭園エリア、研究エリア、倉庫エリア、問題なし。但し、陸上側出入口は水没の為、水中呼吸器具がないと使用不能です。」
「それはそうだろうな。通路は浸水していないな?よし、陸上側出入口への通路は隔壁閉鎖。」
「イエス・マスター。陸上側出入口通路の隔壁閉鎖・・・完了。」
入港を始めてからコウとマイアの遣り取りが終わるまでの間、私達はただただ圧倒されているだけだった。地下にこんな大掛かりな施設があるなんて・・・。
港も、全長300m程あるジェンティと同じ大きさの船が3隻係留出来るように作られている。
「さて、みんなにはこれからの予定を話しておく。ここ”アジュガ”に五日程滞在して、ジェンティアのオーバーホールと”ヒアデス”達の起動と調整、保管されている物資や装備の積み込みを行う。その間、みんなには仮想訓練装置によるポラリスやFSEの訓練と、それらに関する知識の学習を行ってもらう。無論、ここで得た知識や技術は他言無用だ。現在のこの世界では超越技術過ぎるからな。」
コウの真剣な面持ちに皆の顔も引き締まる。そうだ。少しでも早く、少しでも多く、コウの助けにならないと。
「具体的な予定はアジュガ内を案内してから伝える。案内とは言っても。港エリア、居住エリア、庭園エリアくらいだけどな。研究エリア、倉庫エリアには登録者以外は入れない。ここを作った時点でみんなはいなかったのだから、当然、登録されてはいない。近付けばシステムから警告を受け、無視すると攻撃を受けるから注意してくれ。」
「コウ、登録は出来ないの?」
「出来なくはない。だけど、用が済んだらここは放棄して処分する。手間を掛けて登録する必要もないだろう。俺があちらに居る時に用があるなら、ジェンティアから通信してもらえばいい。」
「え?!コウ、ここ壊しちゃうの?!さすがにもったいなくない?!」
キャンディが驚きのあまり声を上げた。私や雪華さん達も同じ思いだ。港を見ただけでも莫大な労力と資材や資金が掛かっているのは分かる。そんな場所を、コウはあっさり処分すると言っているのだから。
「だからそれは知識や技術の漏洩を防ぐ為だ。未来に絶対はない。ここのセキュリティが機能している内はいいが、何かの理由で機能が止まる事もありえる。維持に必要な機能のみ動かして、半分封印されていた状態ならまだしも、今回、俺達が立ち寄った事で施設が起動した以上、見つけられる人間が出てくるかもしれない。なら、立ち去る時に処分してしまうのが一番確実だ。」
「・・・確かにコウの言う通りね。変に色気を出すとロクな事にならないから、いっそキッパリと処分した方があたしもいいと思うわ。」
コウの言う事は間違ってないし、そもそも持ち主が決めた事なのだから、私達が異を唱えるのは筋違いだ。雪華さんの言葉もその思いから出たものだろう。
「よし、納得してもらったところで、施設を案内しよう。マイア、プレアデス達はジェンティアの船内の清掃と点検を。」
「イエス・マスター。船内の清掃及び点検を開始します。」
私達はコウに連れられてジェンティアを降りた。港は映像で見えていた通り、何の飾り気もない武骨な感じだ。
係留固定腕で持ち上げられたジェンティアの前部物資搬入用ハッチ前には物資搬送用と思われる大型昇降機が見て取れる。という事は、倉庫エリアは地下、というか、階下なのだろう。
港から施設に入る扉はエアロックになっていて、港が水没しても簡単には浸水しないようになっている。
施設に入るとそこは左右に緩やかに登ってカーブして続く通路だった。カーブの感じから、上から見ると通路は円形になっていると推測出来る。
正面には大きな両開きの扉。幅、高さ共に3mくらいはある。
「ここは庭園エリアに続く扉だ。庭園エリアは円形になっていて、東西南北四方向に扉がある。」
コウが扉に付いているタッチパネルに触れると扉が左右にスライドして開いた。その向こうは奥行き20mくらいの登り通路が続いている。
コウが入っていったので、私達もそれに続く。通路に、床を蹴るカツカツという事が響く。
「さて、ここからが庭園エリアだが・・・驚いて、息、し忘れるなよ?」
コウの悪戯っぽい笑み。久しぶりに見た気がする。
そう言ってコウが開いた扉の向こう、そこに広がっていたのは・・・
「・・・わたしたち、死んじゃった?」
「こらこら、勝手に天国に行くんじゃない。」
キャンディがそうつぶやくのも無理はない。扉の向こうに広がっていたのは、色とりどり花の咲き乱れる庭園だった。皆、あまりの美しさに声もない。
赤、緑、青、白、黒、紫・・・幾つかの花壇に別れてたくさんの種類の花が咲いている。庭園の中央には東屋があり、テーブルと椅子も用意されている。ここでお茶や食事をしたら、さぞかし楽しいだろう。
この庭園は上から見ると、東屋を中心とした大きさの違う二つの半円を合わせた形をしている。私達から見て、手前の半円が小さく、奥の半円が大きい。合わさった部分の壁の長さから、半径が10m程違うようだ。
「花に詳しい者が見れば分かるが、花壇ごとに開花時期の近い花が植えられている。それぞれの花壇が植えられている花に見合った環境にする為に自動で管理されているんだ。」
そう言うとコウは一つの花壇に近付き、しゃがみ込んだ。
「ここは春先に開花するものの花壇だ。例えばこれ、何の花だか分かるかい?」
赤い花びらの小さな花が沢山。綺麗というよりは可愛い感じ。
「これは”サクラソウ”。別名を”プリムラ”というんだ。」
「「「プリムラ?!」」」
ミウのスターノヴァに付けられていた名前。そうか、こんな可愛らしい花だったんだ・・・。ミウにぴったりね。
「こっちにある緑掛かった花が”シュンラン”、その向こうに何色か咲いている同じ形の花が”アネモネ”、植え込みになっているところに咲いているのは”アザレア”だ。」
「ねぇねぇ、コウ、”オキシペタルム”や”ペリカリス”は?」
「”オキシペタルム”と”アンジェリカ”は夏の花だから、向こうの花壇だ。”ペリカリス”、別名”シネラリア”は”アザレア”の向こうに咲いてるな。春華にはこの花、”エリスロニウム”、”カタクリ”の花が似合いそうだ。千夜には・・・そうだな・・・この黒い”ビオラ”、”ブラックオパール”はどうだ?見掛けはインパクトがあるが、花言葉は”誠実”だし。黒い花といえば黒薔薇もあったな。”ブラックバッカラ”。花言葉は確か、”永遠の愛”、だったかな。」
「え、永遠の愛?!あ、あの、旦那様!某、そちらの方が!」
「訓練や学習は明日からにするから、今日は楽しむといい。後で弁当でも届けさせよう。」
みんな、思い思いに庭園を見て回っている。ミウはキャンディと夏の花の花壇で二人して座り込んで話しているし、雪華さんと春華さんは二人で順に花壇を巡っていて、千夜さんは黒バラをうっとり見つめながら
物思いに耽っている。
「さて、みんな、上に注目!」
コウの声を聞いてみんなが上を見上げる。
「コマンド、【ルーフ・オープン】。」
コウの命令で天井が左右に開き始め、透明な天井が現れ始める。その天井の向こうは海。蒼き水底に降り注ぐゆらめく日差しが、花たちを一層煌めかせる。
「「「「「「!! わぁーーーーーーっ!!」」」」」」
一斉に感嘆の声を上げる私達。それを見て、コウは穏やかな笑みを浮かべていた。
でも、私は気が付いた。確かにコウの表情は穏やかだ。しかしその瞳に悲しみと決意の光が過ったのを。
「コウ?」
「・・・ん?どうした?」
『何考えていたの?』と聞こうとして、言葉が続かなかった。返される言葉が怖かった。未来視を使っても、聞いた後に視えるのは望まない未来ばかりだった。
実はここ二日、コウは時折その様子を見せていた。とは言っても、気付いていたのは私くらいのものだっただろう。
正直、不安だ。コウが何をしようとしているのか。また、自分の身を省みない事をするのではないかと。
でも、藪蛇となるのが分かっていて聞く勇気は私にはなかった。だから、私は誤魔化すしかなかった。
「コウ、ここって五千年前に作られたのよね?花とか、どうやって?」
「外に漏れない程度の出力で自動管理装置や自動機械人形を使って管理させていた。勿論、設計の時点で耐用年数は考えてある。が、それでも劣化は免れない。そういう意味でもこの施設は破棄する必要があるんだ。」
「こんな施設でもあっさり捨てるとか・・・。豪気というか・・・ある意味、貴方らしい・・・。」
そういえば昔もそんな感じだったのを思い出した。やるまでは慎重に、やり始めたら一気に、必要なくなったら即処分。部屋はいつも片付いていた。
「さて、後は居住エリアだが・・・数日しかいないが、どうする?室内はジェンティアのとそれ程変わらないが、全ての部屋の窓から庭園が見えるぞ。」
「あっ!もしかして半円の大きい方の側?」
「正解。向こう側の壁に沿って部屋があるんだ。勿論、庭園側からは室内が見えないようになっている。」
「朝、カーテンを開けると一面に花の咲き誇る庭園が・・・素敵ね♪」
「なになに?なにが素敵なの?リィエ?」
一頻り楽しんだのか、みんなが私達の元へ集まってきていた。キャンディの問いに、居住エリアの部屋からこの庭園が望める事を教えると、
「コウせんせい、わたし、おはな、だいすきです!」
「いいね!コウ!ここに泊まっていいよね?!」
「素敵じゃないの!ねぇ、春華!」
「ええ、姉様!」
「素晴らしいです、旦那様!」
みんなノリノリでした。
「そうか。なら、準備をしようか。プレアデス達は作業後メンテナンスに入るから、ヒアデス達を起こして対応させるよ。夜までには起動して部屋の清掃も出来るだろう。それじゃ、俺はヒアデス達を起こしてくる。さっきも言ったが、研究エリア、倉庫エリアには登録者以外は入れない。みんなはここかジェンティアにいるようにしてくれ。」
「「「「「やったぁ~♪」」」」」
「ステローペ、メロペー、済まないがみんなの食事の用意を頼む。マイア、作業完了後、プレアデス全員、メンテナンスへ。」
『『『イエス・マスター。』』』
マイア達に指示を出した後、庭園を出る為に歩き出したコウの足がふと止まった。
そして肩越しに振り返り、私を見た。
「リィエ、みんなを頼む。」
「えっ・・・?」
云い知れない不安が私の心を覆っていく・・・。
「ちょっ!コウ?!」
私が言葉を続けるのを待たずに、コウは庭園を後にした・・・。




