第6話 想いそれぞれ
コンコンコン・・・
しばらく待っても返事がない。
コンコンコン・・・
・・・・・・
やっぱり返事がない。部屋にいないんじゃ?
『はい・・・』
あ、いた・・・。休んでたのかな?元気のない声・・・当たり前か。あんな事の後で元気な人いないよね。
「休んでいたところをすまない。フジイだけど・・・」
『えっ?!フジイ殿?!しょ、少々お待ちを!!』
なんか慌てたような声とともに扉の向こうでバタバタと動く気配がする。
しばらくして、ようやく扉が開いた。
「お待たせしました。どうぞ、お入りになって下さい。」
わぁ~!、綺麗な黒髪~!腰まである流れるような黒髪が目を引く綺麗な女性。年のころは春華さんと同じくらいかな?目じりが少し吊り上がっているから、意志の強いキツそうな印象の顔立ちだけど、今はあまり覇気が感じられない。きっと家族の事を想って、あまり休めなかったんだろうな・・・。
服装は黒が基調の和装だけど、覇気のなさと相まって喪服のようにも見える。
部屋の中は驚くほど物がない。あぁ、そうか。変異兵に襲われてたところを保護されたんだから、その時身に着けていたものくらいしかないわよね。
「どうぞお掛け下さい。お連れの方々は申し訳ございませんが・・・」
「あ、気になさらないでください。コウの付き添いで来ただけですから。」
ここは戦闘艦の一室であってホテルじゃない。テーブルとイスは二人掛けの簡素なものしかないから仕方ない。
「それで、此度はどのようなご用向きで?」
そう尋ねてきた刹那さんだったが、半ば予想はしているのだろう。覇気のない顔が更に沈んでいる。
「ミツルギ陛下と協議していたトウバの街の事だが、破壊措置が決まった。」
「・・・・・そうですか・・・。やはり・・・。」
刹那さんは顔を伏せ、何かに耐えるように肩を震わせている。
「それと、今回の事件の真相を君に伝えに来た。」
そのコウの言葉に刹那さんが顔を上げる。
コウはイヨ陛下に伝えた事と同じ内容を刹那さんにも伝えた。春華さんを唆した別の自分の事も。
話を聞くにつれ、膝の上にある両手が左手で右手を包み込むようにして強く握りしめられていく。
「以上が事の真相だ。・・・それでは、自分達は失礼する。」
「・・・・・・。」
コウは立ち上がり、私たちに退出するように促すと自分も扉の方へと歩き出した。
でも、扉を出る直前、立ち止まった。
「刹那殿、手を下したのは春華殿かもしれないが、そうさせたのは自分の生み出したアイツで、自分がアイツを止められていないせいだ。だから、恨むなら俺を恨んでくれ。」
「・・・刹那さん、失礼します。」
扉を閉めようとした時、刹那さんがすっと立ち上がるのが見えたが、私はそのまま静かに閉めた。
私たちはジェンティアに戻る為、ポラリスの置いてある格納庫へと向かって歩き出した。
「コウ、全部伝えてよかったの?」
「良いも悪いもないよ。彼女には聞く権利がある。下手に隠すくらいなら全て話す方が彼女の為だ。」
「でもコウさん、それでいいの?あの人が『家族のカタキ~~~!!』とか言って襲ってきたら・・・」
「その時は丁重に相手するまでだ。俺にも目的がある以上、殺されてやる訳にもいかないからな。」
「・・・つらいね、コウ。コウは私に出会う前からずっとこんな事を・・・?」
「・・・そうだな。幾つかの世界で同じような事があったな。慣れる事はないが、逃げる訳にもいかない。」
「コウさん、こんな旅やめたいって思ったことはないの?」
「あるよ。死んだ方が楽だろうと思った事もある。でも、それは無責任過ぎるだろう?・・・ふっ、自分でも損な性格だと思うよ。でも・・・」
コウが足を止め、言葉を切ってこちらを向いた。
「「??」」
「でも今は、責任以上に、アイツを止めたい理由と、生きたい理由があるからな・・・。」
「「コウ(さん)・・・」」
私たちを見つめるコウの優しい眼差し。私、絶対、この眼差しを護る!!
そんな話をしていたその時、私たちの来た方向から、ガチャリ、と扉を開ける音がした。
気にして振り返った私の目に入ってきたのは、長短二振りの刀を携えた刹那さんの姿だった。
刹那さんは私たちに気付くとこちらに歩み寄ってきた。少し俯いているせいか前髪が目に掛かり表情が伺えない。
「フジイ殿、お話しがあります。」
只ならぬ雰囲気に、私は思わずコウを庇おうと前に出た。でもコウが私の肩に手を置いて下がるように促された。
「コウ?」
「大丈夫だ。何でしょうか?刹那殿。」
コウの問いかけに、刹那さんは携えた刀を持ち上げ、コウの目の前に突き出した。
「お館様・・・いえ、柊 春華と手合わせをさせていただきたい!!」
前髪の隙間から覗く刹那さんの眼差しに憎しみの光は見えない。だけど、先に進む為に、心にけじめを付けたい。そういった意志が強く感じられる。
「・・・申し訳ないが今は許可出来ない。彼女はまだ病み上がりだ。身体も、そして心も、な。」
「なれど!!」
コウが手を挙げて制止する。その無言の圧力で刹那さんの言葉が止まる。
「慌てるな。”今は”と言っただろう?貴女にも春華殿にも、つけるべきけじめというものがあるのは分かる。そこで刹那殿に提案がある。自分達に同行しないか?どの道春華殿も雪華も国外追放になるだろう。そうなったら追いかけるのも大変になる。一緒に居れば逃げないように監視する事も出来るしな。」
コウの言葉が余程意外だったのか、気の抜けたように刹那さんの顔が呆ける。吊り目の目じりが下がってますよ、刹那さん?
「え・・・?あの・・・?良いのですか?」
「良くないのならそもそも提案しないと思うが?あぁ、衣食住も用意はする。ただ、船内の移動はそれなりに制限はさせてもらうが。」
刹那さんは顎に手を当てて考えている。そりゃね、私も驚いたくらいだから、言われた本人はもっと信じられないわよね。
「コウ、本当にそれでいいの?」
「あぁ。彼女をここで拒否すると、今度は春華さんの代わりに彼女が唆されかねない。それならばいっその事、手元に居てくれた方が対応がし易い。それに、春華さんと話す機会が増えれば互いの心情も分かりあえるかもしれない。」
「なるほど~、さっすがコウさん。この人のガス抜きを行うって事ですね?」
「そういう事だ。ミウ、納得したか?」
「うん!さすがコウ!」
で、ガス抜きされる予定の当人はというと・・・まだ、悩んでいた。
「刹那殿、自分達は陛下に言に従ってトウバに行った後、都に逗留する。時間はあるからゆっくりと考えるといい。陛下にこの件は伝えておく。近くの衛士を捕まえて、”陛下の客人のフジイに連絡を取りたい”と言えば連絡してくれるだろう。」
「えっ?あ、承知しました・・・。」
「それでは、自分達は失礼する。」
そう言って私たちを促して踵を返した。
「あ・・・、フジイ殿!もう一つ、もう一つだけお聞きしたい!」
「何か?」
「貴方は、どうしてそこまで強くいられるのですか?!」
コウの足がピタリと止まる。
「・・・・・・俺は強くなどない。強くないから、こんな事態を招いてしまっている。だが、強くないからと言って放り出す事は出来ない。だから、死ぬ程もがき苦しんでも、やるべき事はやる。それだけだ。」
「・・・・・・。フジイ殿、人はそれを”強い”と言うのです。」
そして私たちは、刹那さんの件を伝える為にイヨ陛下の元へと向かった。
◇◇◇
「コウお兄ちゃんは、す~ぐ誰にでも優しくしちゃうんだから・・・。だけどまぁ、そこがお兄ちゃんの良いところでもあるから、しょうがないかぁ~・・・。」
「イヨ、また戻ってるぞ?」
神秘的な美女が、その言葉遣いは反則です・・・。
「でも確かに、コウ兄様が保護しておく方が安全には違いないでしょうし、柊姉妹との確執も、より接触がある方が解消し易いでしょう。刹那千夜の件はコウ兄様にお任せいたします。」
「すまないな、イヨ。それじゃ、ジェンティアに戻るよ。」
「兄様、きちんと休むようにして下さいね?あと、都に着いたらお母様にもお顔を見せてあげて下さい。」
「あぁ。近くまで来ておいて顔見せなかったら後が怖いし、何より俺もミウ達を紹介したいからな。」
「母様、大喜びしますよ。ミウさん、キャンディさん、覚悟しておいて下さいね?お母様に揉みくちゃにされますから。うふふふふ♪」
そう言ってコロコロと笑うイヨ様。うわぁ~~~、その笑顔こわい~~~・・・。
コンコンコン。あ、誰かきた。ノックと同時にイヨ様の顔が女王のそれに戻る。切り替え早っ!
「陛下、失礼いたします。保護しております刹那千夜が、お客人のフジイ殿とのご連絡を求めております。」
「おや、思ったより早かったのう。フジイ殿はまだ居られるから、こちらに案内なさい。」
「承知いたしました。」
側付きの人が部屋を出て行くと、また神秘的だけど人の好いお姉さんに戻った。ある意味面白いかも。
「なるほどね~、コウ兄様が気に掛けるだけあって優秀そうね。決断力も行動力もあるみたいだし。」
「だから逆に心配になるんだよ。優秀な人間程利用された時が怖いんだ。春華もそうだったし。もっとも、アイツが無能な輩を手駒にしようとした事ないけどな。」
「闇に堕ちようが腐ろうが、コウ兄様はコウ兄様という事ですね。難儀な話です。」
く、腐るって・・・イヨ様、もう少し言い方が・・・。ほら、コウも苦笑してますよ?
「アイツが堕ちて腐ってるのは事実だからな。そして、そういう部分は少なからず此処に居る俺にも、というか、全ての人間にそれはある。それを理性で制御出来てこそまともな人間という事だ。感情に任せて相手を殺したりとかしていると、心が人間から離れていってしまうからな。ミウは優しいから大丈夫だろう?」
ギクッ!!前に雪華姉さんに”感情に任せて人を殺すような娘を『あの人』が抱きしめてくれると思う?!”って叱られたけど、姉さんの言う通りだった・・・。どうしよう?!コウに嫌われちゃう!!
「えと・・・あの・・・・・・。ふ、ふえええぇぇぇぇぇぇん!!」
そう思ったら涙が溢れてきてしまった・・・。どうしよう?!嫌われたらどうしよう!!
その時、私は温かいものに包まれた。顔を上げると、すぐ近くに私を見つめるコウの顔があった。
「お前だって”人間”だものな。そういう事だってあるだろうさ。大事なのは、その事から逃げない事。次にそんな事をしないで済むようにするにはどうしたらいいか考える事だ。だから、もう泣かなくてもいい。もう傍には俺がいるからな。」
「コウ・・・、コウ・・・!!」
コウは誰よりも重い宿命を背負ってる。なのに、それでも自分よりも私たちを支えてくれている。もしかしたらそれはコウ自身の贖罪の為かもしれないけれど、私はそれでもいい。そうだとしても私がコウを愛していて、コウが私を愛してくれてる事に変わりはないから。
ひとしきり泣いた後、私は身体をコウから離した。くしゃくしゃになった私の顔をコウがハンカチで優しく拭いてくれる。
ふと他の二人に目をやると、キャンディはもらい泣きしていて、イヨ様も目を潤ませながら微笑んでくれていた。
コンコンコン。もらい泣きしたキャンディをコウが慰めていると、部屋の扉がノックされる。
「陛下、失礼いたします。刹那千夜を連れて参りました。」
「ご苦労。入ってもらって。」
「承知いたしました。」
扉が開くと、身支度を整えた刹那さんが入ってきた。そして手と片膝を床に付き、臣下の礼を取る。
「陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう。此度は某めをお助けいただき感謝の念に堪えません。」
「そう固くならずともよい。今、フジイ殿からそちについて聞いておった。フジイ殿に同行する決心がついたという事じゃな?」
「はい。此度が事、某の眼にて見定めたいと思いましてございます。」
「うむ。フジイ殿、手間を掛けるが、この者の事、よろしく頼みたい。」
「承知いたしました、陛下。それでは、艦隊に先んじまして、トウバの街の確認をいたしたいと思います。刹那殿のように、他から戻ってきた者等が巻き込まれてはいけません故。」
「なるほど、もっともじゃ。フジイ殿、よろしく頼む。」
「承知いたしました。それでは我々は失礼いたします。」
コウが立ち上がり深々と礼をしたので、私たちもそれに倣う。コウに続いて部屋を出る時、ふとイヨ様の方を見やるとイヨ様と目が合った。イヨ様は笑顔で手を小さく振り、口元が少し動いたあとウィンクしてくれた。
”また会いましょう。”イヨ様の唇はそう言っていたように見えた。私は笑顔でおじぎをして部屋を後にした。
◇◇◇
「さて、それじゃジェンティアに戻るか。ミウ、アネモネにキャンディを乗せてやってくれ。俺は刹那殿を乗せるから。」
「分かったわ。刹那さん、碧と蒼の機体の方にお願いします。」
「承知しました。それと、某はご厄介になる身ですので、どうぞ”千夜”とお呼び下さい。」
「分かった。千夜殿は後部座席の方へ。」
私とキャンディは慣れた感じで手早くアネモネに乗り込む。内壁に外像投影してアンジェリカ・ペリカリスの方を見ると、ちょうど二人が機首下に降りてきていたシートに座り、コクピットへと引き上げられるところだった。慣れると上面のコクピットハッチを開いて乗り込む方が早いんだけどね。
準備が整ったところで皇の管制官に連絡し発艦の為の誘導をお願いする。指示に従って格納庫から発着艦デッキへと移動し皇から飛び立った。
蒼空に浮かぶヤーマットの大艦隊。いつかの帝国艦隊ほどじゃないけど、すごい数。壮観な眺めね~。大型艦同士は少し離れて配置されてるけど、これはエーテルマナリアクターの相互干渉を避ける為。あまり近過ぎるとお互いにエーテルを奪い合ってしまって能力が落ちてしまうからね。
周囲を見回すと、MISEがジェンティアの位置を示してくれるのでそちらへと向かう。
「マイア、戻ったから着船誘導をお願い。」
『イエス、マスター・ミウ。マイアは現在メンテナンス中の為、代わってメロペーが誘導いたします。』
あ、マイアも働き詰めだったもんね。しっかり休んでもらわないと。
「了解よ、よろしくお願いね、メロペー。ところで、マイアと交代できるのはメロペーだけ?」
『ノー、マスター・ミウ。マイアの交代要員は私とステローペです。』
あ、そういえばコウが言ってたっけ、”マイア、ステローペ、メロペーはジェンティアの運用管理”って。
そうこうしてるうちにジェンティアに着船し、格納庫の1番駐機整備台へ搬送される。続けて着船したアンジェリカ・ペリカリスは2番駐機整備台へ。
そういえばジェンティアはウィスタリアに比べて格納庫がすごく広い。ウィスタリアより一回り小さくてシャープなのに駐機整備台は全部で20機分もある。
ポラリスやスターノヴァが駐機出来る大型の駐機整備台が1番から6番までの6機分、プレアデスやスターライトを駐機する小型の駐機整備台が7番から19番までの13機分。
そして、”0”と表示された大型駐機整備台。そこだけは扉が常に施錠さてていて、中にどんな機体があるのか分からない。コウに聞けば教えてくれるだろうか?
「おぉーーー!!フジイ殿!これは凄い船ですな!!」
アンジェリカ・ペリカリスから降りた千夜さんが辺りを見回して感嘆してる。千夜さん、口、開いてますよ~?
「俺の名前はこちらの言葉で”藤井 宏”と書くから、”宏”と呼んでもらって構わない。あと、そんなに畏まらなくてもいいから。」
「分かり申した、宏殿。して、これからどちらに?」
「まず、部屋に案内するから荷物を置いて、それから食堂に案内する。そこで仲間の紹介と、今後について話をしようと思っている。」
「承知しました。よろしくお願い申す。」
「ミウとキャンディも一旦自室に戻って着替えてから食堂に集合な。まぁ、途中までは一緒に行くんだが。」
「「了解!」」
みんなで連れ立って居住フロアへと向かう。部屋の扉が左右の壁に並ぶ廊下。この廊下を真っ直ぐ進んだ突き当りに階段があり、ジェンティアの船橋へと続いている。
一番格納庫寄りの右手の扉はプレアデスのみんなのメンテナンスルームだ。
そういえば、その真向いに同じような扉があるけど、そこが何の部屋かは聞いていない。
そこから先は左右の壁に5つずつ、計10個の扉があり、そこに私たちが使っている部屋がある。さっきの部屋の扉と違い、こちらの扉は左の扉と右の扉が向い合せにならないように配置されてる。
これは、急いで飛び出した時に、向かいの部屋の人とぶつかったりしないように配慮したとコウが言ってた。
コウの部屋は一番船橋に近い扉で、私はその隣、更にその隣がリィエの部屋。
コウの部屋の向かいが、前は雪華姉さんの部屋だったけど、今日からその隣のキャンディと入れ替わってキャンディの部屋になる。
そして、前のキャンディの部屋に雪華姉さんが入り、その隣、リィエの部屋の向かいが春華さんの部屋になる。
コウは、春華さんの部屋のその隣の扉で立ち止まる。
「千夜殿はこちらの部屋を使って欲しい。そこのパネルに手を当ててもらえるか?」
「こう、で、よろしいか?」
「マスター権限により使用者登録開始。ゲスト登録。”ルーム8”/刹那 千夜。」
『マスターコマンド受領。ゲスト使用者登録。”ルーム8”/刹那 千夜。生体パターン・脳波パターン登録完了。』
パネルから登録完了の音声が流れてくる。と同時に、扉がシュッっと開いた。
「ここを好きに使ってくれて構わない。ステローペ、彼女に部屋の設備の説明と、衣服用の採寸を頼む。」
「イエス、マスター。刹那千夜様、私はステローペ。マスターに作られし星団の乙女プレアデスの一人にて、同じくプレアデスのメロペーと共に船内でのお世話を担当しております。御用は私かメロペーにお申し付け下さい。」
「忝い。よろしくお頼み申す。」
「それでは室内の説明と刹那様の衣服用採寸をいたしますので、どうぞお部屋の中へ。」
「それでは、後はステローペに従ってくれるか。俺達も自室で着替えてくるから。」
千夜さんとステローペが部屋に入るのを見送ってから、私たちはそれぞれの部屋へと向かった。
「ミウ、キャンディ、俺は着替えたら医療室に行ってるから、着替えたらきてくれるか?」
「うん、分かった。」
「は~い、了解です!」
◇◇◇
着替えて医療室に向かうと、すでにキャンディも着替えを終えて来ていた。雪華姉さんとリィエはずっと付き添っていたので、千夜さんを除いた全員がここにいる事になる。
RBSのポッドには再精製を終えた春華さんがガウンを着せられた状態で寝かされていた。
「コウ、春華さんの様子はどう?」
「再精製は問題なく終えている。だが、問題は精神の方だな。こればかりは時間を掛けて解決していくしかない。」
「そうね・・・。ねえ、コウ。コウから何かアドバイスとかしてあげられないの?コウが立ち直った方法とか。」
リィエがコウに尋ねてるけど、コウは難しい顔をしたままだ。
「俺の場合、”あの人”にアイツの存在を聞かされたお蔭で生きる目的が出来た。春華さんにも何か生きる目的になるものが見つかればいいんだが・・・。」
そうよね。私だって4年前のあの日、コウから”宿題”を示されてなかったら、今まで生きてこれてたかわからない。春華さんにも、そんな目標や目的を見つけてあげられればいいんだけど・・・。
「お館・・・いや、柊春華。痛々しい姿ね。」
いつの間にかステローペに連れられた千夜さんも医療室に来ていた。その顔には表情はない。心の内にある様々な感情を出さない為にそうなっているのは私にもわかった。
「千夜殿、見ての通り、今の春華殿は貴女と立ち会える状態じゃない。分かってもらえたかな?」
「それは分かり申した。なれど、某の気持ちが収まらぬのも事実。そこで・・・」
千夜さんは言葉を切り、そして雪華姉さんを睨みつける。
「柊雪華。貴女に”果し合い”を申し込む。よもや逃げはすまいな?」
「・・・そうね。受けて立つわ。あたしにも逃げられない理由があるしね。コウ、立会人をお願い出来る?」
「分かった。」