第5話 雪華と春華、ヤーマットの女王陛下
振り下ろされる刀。それは姉さんを断ち割るかのように思えた。
「姉さんっ!!」
「雪華姉!!
「・・・Chrono-Connect、【Mystic-Drive】」
キンッ!!
カンッ!カラン・・・
姉さんに迫る刃が宙を舞い、床へと落ちた。
「なっ?!」
「「「えっ?!」」」
私の隣にいた筈のコウ。それが春華さんと姉さんの間に、剣を切り上げた態勢で立っていた。まるで、最初からそこにいたように・・・。
コウは剣を下ろし、姉さんの方に向き直った。
「雪華、君は何の為にここにいる?答えてくれ。」
「わ、私は、春華を、救うために・・・」
「なら君は、君が故郷を出て旅をし、今までに培ってきたものを彼女に見せなければならないんじゃないのか?」
「!!」
姉さんがはっとした表情になってコウを見る。やっぱり色々と思い詰めていたのだろう。
「ちょっと!!私の邪魔をした上に、私を差し置いて勝手に話してるんじゃないわよ!!」
手をかぎ爪のように変形させた春華さんが襲い掛かろうとするが、
「黙れ。相手はしてやる。少し待ってろ。」
振り向きもせずに言い放ったコウの言葉を聞いた瞬間、ばっ、と後ろに飛びずさった。春華さんの顔には、まるで触れてはいけないものに触れたような焦りが浮かんでいた。
「雪華、見せてくれないか?君の”舞”を。」
そう言ってコウが差し伸べた手を握り、立ち上がる姉さん。その顔にはもう、焦りや悲壮感は見られない。
そして、腰に佩いていた碧双月を2本とも抜いた。刀身に碧の燐光が宿る。右手に上弦、左手に下弦。左手の下弦は逆手持ちで胸の前、右手の上弦は横に開いて構えられ、それはまるで、舞を踊る前の礼のよう。
「雪華、春華の動きを止めてくれ。その後俺が彼女を元に戻す。」
「えぇ、分かったわ。見ていてね、コウ、私の舞を。さぁ、来なさい春華!私の全てを見せてあげる!!」
姉さんの表情に気圧された様子の春華さん。だけどそれも束の間、怒りと敵意を剥き出しにして叫ぶ。
「黙れ!黙れ!!黙れぇぇぇぇぇぇ!!私は”あの方”のお蔭で力を手に入れ、自由になった!!それを誰にも邪魔はさせない!!させないんだぁぁぁぁぁぁ!!」
腕を振り上げ、驚異的なスピードで姉さんに襲い掛かる春華さん。それを姉さんは一切の淀みのない流れるような体裁きで躱し、すれ違いざまに腕に斬りつけて右手を肘から斬り飛ばす。更に春華さんの背中側から回り込み、左の二の腕にも斬りつけるが、斬り落とすまでには至らない。
「ぐあああぁぁぁ!何故だ!何故躱せる!何故当たる!!」
身体を回転させて残った左腕で姉さんを捉えようとする春華さんだったが、姉さんの滑らかな動きに空を切り、その隙を突いて姉さんが春華さんの左脚を太ももから切断した。バランスを崩し倒れ込む春華さん。
「あああぁぁぁ!なぜだぁぁぁ!!なぜだぁぁぁ!!」
「どんなに力や速度に秀でていても、狙いが分かる直線的な動きなら躱せるわよ。師匠に教わったでしょう?」
無理やり身体を起こし、姉さんを睨みつける春華さん。だけど、片手片足では立ち上がる事さえ出来ない。
「殺してやる!殺してやる!!殺してやるぅぅぅぅぅっ!!!」
怨嗟の声と共に、春華さんの身体がボコボコと波うち始め、やがて青黒い肉が服を引き裂きながら膨れ上がる。
「心の滓がここまで酷いとはな。君が家を出た事が余程堪えていたんだろうな。」
「春華・・・私のせいで・・・」
「いや、家を出なければこうなっていたのは君だっただろう。雪華、後は俺に任せて少し離れていてくれないか?それと、これ、少し借りるぞ。」
そう言うとコウは春華さんに弾き飛ばされて落ちていた姉さんの十六夜・真打を拾い上げた。
「刀は使ってくれていいけど、離れるのは嫌!姉として最後まで責任を果たしたいの!!」
「・・・フッ、雪華ならそう言うんじゃないかと思ったよ。」
こうしてる間にも春華さんの身体は膨れ上がり、春華さんの体を成しているのは乳房から上の胴体と頭だけで、まるで青黒い泥人形に春華さんの身体が取り付けられてるような風体だ。
「なら雪華、みんなで援護はするから、春華をアレから切り離せるか?身体は再精製すれば元に戻せる。変異細胞も俺が何とかする。どうだ?やれるか?」
「やるわ。方法もある。でも、使うまでに時間が掛かるの。」
「どのくらいだ?」
「1分、いえ、40秒あれば・・・」
「分かった。それなら何とかなるだろう。ミウ、キャンディ、手を貸してくれ。」
「了解!何したらいい?」
「わたしも頑張るからね!」
コウの方から手助けを求められるなんて・・・えへへ、ちょっと嬉しい!
「ミウは銃で援護だ。お前のだと6発しか撃てないからコレも使え。コレならFSEとリンクさせれば弾切れなして使える。弾頭を斥力場で加速させる銃だから反動が大きいが、お前なら使いこなせるだろう。キャンディは雪華の防御や回復を頼む。」
「「了解!!」」
コウから銃を受け取り、感触を確かめる。少し重いけど大丈夫そう。
『ォォォオオオァァァアアア!!』
春華さんだったものが言葉にならない雄叫びを上げた。
「さて、向こうも準備が整ったみたいだな。まず俺が引き付ける。みんなは必要な位置取りと準備をしてくれ。」
「「「了解!!」」」
コウの言葉と共に一斉に動き出す私たち。
私は右に走って相手の左側から回り込み、自分の銃を構える。
キャンディは左に少し移動して、相手の正面から外れた上で、コウと姉さんの援護が出来るように待機。
姉さんは相手の正面。両腕を下げて目を瞑り、意識を集中し始めた。
そしてコウは、姉さんを背にして相手の真正面に進み出る。両手の剣と刀は下ろしたままだ。
「さて春華、少し俺と話をしようか。」
『ォォォオオオ!!』
春華さんだったものが雄叫びを上げると、泥人形の腹部から触手のようなものがいくつも飛び出してコウに襲い掛かる。
咄嗟に銃を構えたがコウがこちらにちらりと制止の視線を向けたので引き金を引かなかった。
そしてそれは、コウに当たる直前で何かに弾かれたように方向を変える。でも、【シールド】とかで防いだ感じじゃない。
よく見ると、触手が方向を変える瞬間、コウの両腕が一瞬ブレたように思える。まさか全部剣と刀で弾いてるの?コウ、やっぱりすごい!!
「君は家や領主としての責務を雪華から押し付けられ自分の自由な時間さえ持てず苦しんだ。だから雪華を恨んだ。その気持ちはよく分かる。」
『ォォォオオオ!!』
コウの声が聞こえていないのか、雄叫びを上げると更に触手攻撃が激しくなる。さすがにコウの両手も激しく動くようになったけど、まだ全てを防ぎきっている。
「だけどな、嫌ならその時に言えば良かったんだ。こんな事をしなくても自由になる方法はあった筈だ。きちんとした手続きで領地を返上して、領主を辞退するとか、な。」
『ォォォオオオァァァアアア!!』
一層激しくなる攻撃。二つの刃でコウが触手を切り落とし始めた。なるべく傷を付けないようにしていたコウが攻撃に転じた。それが攻撃の激しさを物語る。
「君はアイツの口車に乗り、そのお蔭で自由になれたと思っているようだが、今度はアイツに呪縛されているだけで、自由なんて得ていないんだ。」
『アグォォォォォォオオオ!!』
触手攻撃が止む。だけどそれは攻撃の種類が変わっただけ。今度は泥人形の、その太い腕がコウに振り下ろされる。
ドゴォォォォォォン!!
普通の人間なら絶命するような一撃。コウはそれを武器を交差させて受け切った。後ろに姉さんがいるから避ける訳にもいかないけど、コウは元から避けるつもりはないみたい。
「春華!君は自分には何も残ってないと思っているかもしれない!でも、それは違う!少なくとも危険を承知でここに来た俺達と、ミツルギ陛下は君を助けたいと思ってる!君は一人じゃない!だから戻ってくるんだ!身体の事は俺が何とかする!」
まだ春華さんの形が残っているその顔の、その目から一筋の涙が零れ落ちる。でもその間も泥人形の身体の方は執拗にコウを攻撃している。もう春華さんの意思に関係なく身体が動いているのだろう。
「春華!今から君を助ける!痛いだろうが我慢してくれ!ミウ、左の肩口を狙え!キャンディは雪華の防御だ!」
「「了解!!」」
「いくぞ!Chrono-Connect!【Mystic-Drive】!!」
えっ?!その言葉と共にコウが消えた!そして次の瞬間、泥人形の右腕の肩口から先が細切れになって飛び散る!!
「ミウ!!」
コウの叫びに、はっ!として我に返った。いけない!惚けてる場合じゃない!!
ドゥンドゥンドゥンドゥンドゥンドゥン!!
ドシュンドシュンドシュンドシュンドシュンドシュン!!
自分の銃とコウから借りた銃、それを両手に持って相手の左肩にありったけの弾丸を叩きこむ!!
反動で腕を持っていかれそうになるけど懸命に堪える!!
相手の左腕が力を失ってだらんと垂れ下がる。
『グゥガゴォォォォォォ!!』
「今だ!行け!雪華っ!!」
「みんな!ありがと!!春華、見せてあげる!!私が旅の間に得た全てを込めて!!【舞踏・百華繚乱】!!」
雪華姉さんが舞う!!その舞から放たれる碧色の燐光を纏った斬撃が泥人形の部分を切り刻んでいく!!その様はまるで、碧色の花びらが春華さんを包み込み、浄化しているかのようだ。
後から姉さんに教えてもらった話だけど、【舞踏・百華繚乱】は事前に身体強化魔術を掛けてから攻撃している。でも、身体能力を一律に引き上げる普通の身体強化とは違い、刀での連続攻撃に適した特殊な強化を施す為、どうしても使用前に時間を取らなければならないそうだ。
その代わりに剣先が音速を超える速さを出せる為、刃が届かないところからでも真空の刃で相手を切り刻めると言ってた。
やがて姉さんが礼をするように動きを止めた。そしてそこには春華さんの上半身だけが残されていた。
「春華ぁ!!」
姉さんが駆け寄ろうとするけど、それをコウが止める。
「ここからは俺の仕事だ。近くに居ると君にまで影響が出る。少し離れていてくれ。」
「・・・分かったわ。コウ、お願い・・・春華を助けて・・・。」
「あぁ、勿論だ。キャンディ、俺が合図をしたら、君が使える最大級の治癒魔術を春華に掛けてくれ。」
「わかった!わたしに任せて!!」
コウは春華さんの傍で跪くと、春華さんの胸に手を当てた。
「よし、行くぞ。Chrono-Connect、【Chrono-Reverse】」
コウの声と共にコウの身体が薄紫の燐光に包まれ、それが手を伝って春華さんも同じ燐光に包まれる。
するとどうした事か、春華さんの身体の青黒く変色した部分が、まるでコウの手に吸い取られるかのように元の肌色に戻っていく。
「うっ・・・ぐっ・・・、キャンディ!頼む!!」
「うん!!『大気に満ちる魔素よ!我が元に集え!その身を魔力へと変え、我が意思に従いかの者に大いなる生命の癒しを与えたまえ!!』【リザレクト・ヒール】!!」
斬り飛ばされた部分の色が元に戻った瞬間、大量の血が噴き出した。そのタイミングでコウがキャンディに合図を送り、傷口を塞いだ。
それにしても、キャンディが呪文詠唱なんて久しぶりに見た。それほどに強力な治癒魔術なのね。
やがて青黒い部分が見えなくなると、コウは手を離した。
「よし・・・これで・・・再精製・・・すれば・・・春華・・・は・・・助かる・・・ぐっ・・・。」
「「「コウっ?!」」」
コウが跪いたまま、苦しそうに胸を押えている。どうしたの?!コウ?!
私たちが駆け寄ると、苦しそうながらも手を上げて応えた。
「大丈夫・・・だ・・・。ちょっと・・・身体に・・・負担・・・の・・・掛かる・・・力を・・・使ったから・・・な・・・。」
「コウさん!今、治癒を!!」
「いや・・・この・・・ダメージは・・・治癒では・・・治せない・・・んだ。それより・・・いくぞ。春華を・・・治して・・・やらなと・・・な。」
そう言って立ち上がろうとするコウ。でも、身体に力が入らないのか、崩れ落ちそうになる。
「コウ、私につかまって。姉さんは春華さんを。キャンディは姉さんに付いていって、アンジェリア・ペリカリスのドライバーをお願い。」
「ええ。」
「わかった!」
「すまないな、ミウ。」
「コウ、落ち着いてからちゃんと話してね?それじゃ、急いで脱出しよう。」
私とコウはアネモネへ、姉さんとキャンディはアンジェリカ・ペリカリスへと戻り、戦艦を脱出した。外にはもう敵はいなかった。ジェンティアとプレアデス達が既に掃討を完了していたのだろう。
ガンナーシートのコウの容態も少し落ち着いてきた。良かった・・・。
「全員の脱出を確認。マイア、最後の仕上げをお願い。」
『イエス、マスター・ミウ。主砲斉射。』
相手旗艦にジェンティアからの光弾が突き刺さり、浮かぶ力を失った飛行戦艦が墜ちて行った。
◇◇◇
戦いから半日。私たちはヤーマット近衛第一艦隊と合流していた。ミツルギ女王陛下に事態の報告をするためだ。
コウの容態もどうにか持ち直してきた。本当は休んでいて欲しいけど、「俺が行かない訳にもいくまい?」と言われたら頷くしかない。
私とコウ、キャンディが近衛第一艦隊旗艦”皇”に移乗し、陛下に拝謁を賜った。
私たちはそれ程広くはないけど、内装は綺麗で品の良い部屋に通されて陛下を待っていた。
しばらくすると、私たちが入ってきたのとは別の扉から衛視二人を伴った妙齢の女性が入ってきた。
イヨ=ミツルギ女王。姉さんからの情報だと、もう40近いお年だけど、どう見ても20代にしか見えない。すごくお綺麗で、ヤーマットの人たちにとって象徴でもあり憧れでもあるんだって。本人目の前にしてヤーマットの人たちの気持ちがよく分かった。
ミツルギ陛下は衛視の二人に手で合図して退出を命じ、部屋の中は陛下と私たちだけになった。
「フジイ殿、よくやってくれた。汝は約束を守った。なれば汝の望みを叶えぬ訳にはいくまい。此度の騒動の下手人、柊 春華は、本来ならば死罪であるが、約束通り生命だけは助けよう。」
「陛下の恩情に感謝いたします。」
「だが、これ程の事をしでかして無罪放免という訳にもいかぬのも事実。追って沙汰は出す故、今は汝預りとする。それまでは都に滞在するように。」
「承知いたしました。監視を付けた上で養生させます。」
「うむ、よろしく頼む。見たところ汝にも養生が必要なようだしの。さて、堅い話はこのくらいにして・・・さっすがコウお兄ちゃん!あっという間に解決しちゃうなんて、昔と変わらず頼りになるね♪」
「「えっ・・・?」」
私とキャンディの目が点になった・・・。コウお兄ちゃん?昔?
「「コウ(さん)?説明を求めます・・・。」」
「イヨ陛下とは30年程前に会っているんだ。時を越えて戻る途中にな。その時に色々あって、先王のヒミコ陛下と共に助けた事で親しくなったんだ。確かその時、イヨ陛下は9歳だった。だから”コウお兄ちゃん”と呼ばれていたんだが・・・イヨ陛下、流石に自分も居心地が良くないのでやめていただけますか?」
「”イヨ陛下”じゃなくて”イヨ”って呼んでくれたらやめてあげる♪」
「・・・イヨ、頼むよ・・・。」
「良く出来ました♪コウ様は私とお母様を助けてくれただけでなく、ヤーマットの平和の為に色々力を尽くしてくれたの。この旗艦”皇”とその護衛艦”鳳”もコウの設計・建造なのよ。」
イヨ陛下、絶世の美女なのに・・・でも、気さくな感じもとても魅力的だ。もしかして、こういうのを”ギャップ萌え”って言うのかしら?
「ヒミコさんもそうだけど、この親子には勝てる気がしない・・・。それはともかく、今後の事を相談したい。まずトウバの街だが、雪華や春華には申し訳ないが、丸ごと消滅させるしかないと思う。置き土産を仕掛けられているかもしれないし、別の領主が治めるにしてもあの街を使いたいとは思わないだろう。」
「私もその考えには賛同するけど・・・柊姉妹やトウバ出身の者達の心情を考えると胸が痛むわ・・・。」
「イヨに負担を強いて申し訳ないと思う。大元を正せば俺のせいだからな。」
そう言ってコウはイヨ様に頭を下げた。でも”大元は自分のせい”とはどういう事だろう?
そういえば、コウと春華さんのやりとりで、春華さんを唆したのは”コウと同じ顔の人”って言ってた・・・。
「・・・・・・ねぇコウ、コウは春華さんの件に何か心当たりがあるんだよね?」
聞こうかどうか迷った挙句、私はコウに聞いた。何も知らなくても、コウを信じてコウを助けていければいいとも思った。だけど、本当にコウのパートナーとして生きるのなら、どんな真実を知ったとしてもコウを信じぬく覚悟が必要で、私にはそれがあると思ったから。
「・・・出来ればリィエや雪華、春華さん、みんなが揃ってから話したかったんだけどな・・・。」
コウは何かを考えるように間を置いた後、そう言った。
「春華さんの件、裏で暗躍しているのは、俺の旅の目的である”ある人物を殺す事”の”ある人物”だ。」
一旦言葉を切るコウ。私たちは固唾を飲んでコウの言葉を待つ。
「そして、”ある人物”、その名前は・・・”コウ=フジイ”。」
「「え・・・・・・?」」
その言葉の意味が理解出来ない。コウがこの事件の黒幕で、それをコウが殺そうとしている?
戸惑った顔を見合わせる私とキャンディ。
「そうだな・・・ミウ、お前は未来視を使えるようになったようだが?」
「うん。リィエのお蔭で何とか。まだそんなに先は視られないけど・・・。」
「未来視では一度にいくつもの未来が視えるよな?その中から望む未来を見つけて、その未来に至る道筋をなぞる訳だが・・・選ばなかった未来はどうなったと思う?」
そういえば前にリィエから同じ事聞かれたような・・・確か、アーシアさんの部屋に向かう途中に・・・
「確か、”世界が崩壊してない限り続いてる”。だから”いくつもの世界”がある。そうリィエが言ってたの。」
「その通りだ。そこまで分かってるなら話は早い。なら、”皆や世界を護りたい俺”がいた世界があるなら、”運命と世界を憎み全ての世界を滅ぼそうとしている俺”がいた世界があってもおかしくないよな?そして、その俺は”世界を滅ぼせる方法”を知っている訳だ。何せ、”俺”だからな。」
「「!!!」」
「そして俺は”ある人”、”人”かどうかは分からないが、により、時を操る力”Chrono-System”と、世界を渡る術”時流変換器”を教えてもらって、その”全てを滅ぼそうとする俺”を捜して旅を続けてきたという訳だ。そして、”全てを滅ぼそうとする俺”は一人じゃない。無数に分岐して無数に存在する世界にたった一人だけなんてありえないだろう?勿論、”全てを滅ぼそうとする俺を捜す俺”も一人じゃないが、相手に負ける事だってある。だから俺は旅を止める事が出来ない。”全てを滅ぼそうとする俺”が全て死ぬか、世界が全て滅びるか、自分が死ぬまで、な。」
死ぬまで永遠に続く自分を殺す旅・・・。それがかつて世界を滅ぼしてしまったコウへの罰・・・。
コウはただただ、愛する人を失いたくなかっただけなのに・・・。
「ミウ、キャンディ、俺の話を聞いて船を・・・」
何かを言いかけたコウの唇に、私はそっと人差し指を当て、
「そこから先は言わなくてもいいからね?聞いても聞かなくても答えは変わらないもの。」
イタズラっぽい笑みを浮かべてウィンクしながらそう言った。
「そうそう!そのつもりじゃなかったら、ミウちゃんと同じにしてもらってないからね、わたしも!」
キャンディも右手の人差し指をぴっ!と伸ばして、えへへ~と笑いながら言った。
コウは少し驚いた表情で私たちの顔を見た後、私たちの肩に手をやり、私たちをそっと抱き寄せてくれた。コウの頬が私の頬に当たる。コウの温かさが私の心も温かくしてくれる。
「二人共、ありがとう・・・。」
いつにも増して優しいコウの言葉。とても幸せな気分♪
「なるほどね~♪私が『お兄ちゃん、いっちゃヤダーーー!!』って言っても行っちゃう訳ね♪こんないい娘達が待ってるなら、帰らない訳にはいかないものね♪」
イヨ様の眼差しも優しい。正に”慈母神のような”という言葉がピッタリくる笑顔。言葉は砕けてるけどね(苦笑)
しばらくそうしてから私たちはそっと離れ、居ずまいを正した。
「話の腰を折ってすまない。トウバの街はジェンティアの”エクスプロージョン・ブラスト”で消滅させる。イヨには俺の提案を承認して欲しい。あくまでも、提案し、引き金を引いたのは俺という事にしてくれ。どの道春華さんは国外追放になるのだろうし。」
コウは非難の矛先を自分に向けさせて、イヨ様の負担を減らすつもりなんだ。春華さんが国外追放になったら雪華姉さんも付き添うだろうし、そうなると私たちはイーセテラに来る事も少なくなるだろうから、自分達にはそんなに実害はないって事ね。
「う~ん、そう言ってくれるのはありがたいんだけど、私としてはこれを利用して王家に対する不満分子の炙り出しをしようと考えてるの。だからこの艦の”素戔嗚”を使うつもりよ。」
「・・・なるほどな。分かった。そういう事なら俺も協力するよ。今後の為にも素戔嗚の扱いに慣れてもらった方がいいだろうしな。」
素戔嗚?なにそれ?おいしいの?
「素戔嗚は皇に搭載されている特装砲だ。ジェンティアの特装砲と同じで”時流変換器”が動力源だが、ジェンティアのよりは随分性能を抑えたタイプだ。確か素戔嗚は戦いの神の名前だった筈。」
へぇ~、そうなんだ~・・・。
「それはそうとコウお兄ちゃん、あの力、使ったでしょ?お母様にも『もう使わないように!!』ってキツく言われてたのに。」
「イヨ、戻ってるぞ・・・。使わずに済めば良かったんだけどな。春華さんを救うには他に方法がなかったんだ。」
「もう・・・こんなにいい娘達を早々に未亡人にしたら許しませんからね?」
「イヨ、ヒミコさんにソックリになったな・・・。分かった、肝に銘じておく。」
「それでコウ兄様、お身体は大丈夫ですか?あの時は一週間程意識不明でしたよね?」
「あの時よりは短時間だったからな。本調子には程遠いが、大丈夫だ。」
あ、イヨ様はコウの力の事、知っているんだ。一週間も意識不明・・・もう使わせないようにしないと!
「分かりました。では、ジェンティアには同行を要請します。よろしいですね?」
「了解だ。ところで、彼女はどうしてる?」
ん?彼女?じぃー・・・・・・。
「ん?あぁ、トウバから脱出する時に保護した人がいるんだ。どうやら柊家の家臣の家族らしいが、出掛けていて戻った際に事件に巻き込まれたみたいでな。変異兵に囲まれているところを助けて、艦隊に合流した時に引き渡したんだ。」
「柊家家臣、刹那家の長女、刹那 千夜ね。用意した部屋で塞ぎ込んでいるみたい。無理もないけど・・・。」
「そうか・・・イヨ、彼女に会わせてもらってもいいか?」
「・・・分かったわ。手配しておくわね。」
どんな人なんだろう・・・。
Special Thanks
キャラクター原案:悠香さん/刹那 千夜