第4話 春華救出作戦
コウが通信を絶ってから1日が過ぎた。連絡はまだない。ジェンティアは北東に移動してイーセテラ大陸から一旦離れ、大陸面より下を時計回りに大陸南側に向かってゆっくり航行している。
コウの懸念していた通り、トウバの街を発った中型の飛行戦艦が何隻かこちらに向かってきた。隠蔽性能と探査性能はジェンティアの方が桁違いに上なので見つかる事はなかったが、いざ動く時に近くにいられるのは都合が悪いのでその場を離れたかったのと、入れ違いで発進させたウィンドライド・プレアデス・ステローペがトウバの街から西に離脱したのが確認出来たから、合流する為に移動している。
ゆっくり移動しているのは、私たちの身体の回復時間を稼ぐのと、あまり移動にエネルギーを使ってしまうと隠蔽性能が落ちてしまうから。
早くコウと合流したい私たちにしてみれば何とも歯痒いけど、ここで焦ってしまってはコウの配慮を台無しにしてしまう。我慢しないと。
あ、そうそう、ウィンドライド・プレアデス・ステローペだと長いので、みんなで相談した結果、ウィンドライドの方には頭に”WP”と付ける事になった。なので今後は”WPステローペ”という風に呼ぶ事にする。
救出された親方さんはというと、無事、再精製が完了し、今はベッドで休んでもらっている。
雪華姉さんから事情を説明されると、「面目ねぇ・・・」と何度も謝っていた。雪華姉さんの大切な人を自分のせいで危険に晒してしまった事を悔いているようだった。
姉さんは自分がコウに言われた言葉を親方さんに言った。
「親方。あの人は私の心も護りたいと言ってくれてそうしたの。だから親方が悔やまないで。それに、あの人はどうやら無事街を出られたみたいだから。それに、これ、大切に使わせてもらうわ。」
そう言って、親方に一振りの刀を見せた。コウが親方さんをWPマイアに乗せた時に一緒に乗せた刀。コウが親方さんから預かったものだ。もう一振りは多分、コウが春華さんに渡しに行ったのだろう。挨拶に行くって言ってたし。
私たちは今、格納庫で出撃の準備をしている。私はエレクトラとアネモネの、姉さんとキャンディはアンジェリカ・ペリカリスをそれぞれ整備中だ。リィエはステローペと一緒に親方さんに付いてもらっている。
なぜ出撃準備中なのかと言うと、センサーが二つの艦隊を捉えたからだ。
一つはトウバの街を発った艦隊。反応からのマイアの推定によると、例の私たちが墜とした飛行戦艦型機械兵と通常の飛行戦艦を改修したものの混合艦隊。
「アレが混じってるって事は、殺戮人形の大量出現自体が自作自演だった訳ね・・・。」
姉さんは沈んだ顔で呟いた。トウバが艦隊を発進させた以上、それはヤーマット国への謀反に他ならない。どんな事情があっても、首謀者は死罪だろうし、柊家は取り潰しになる。
もう一つはヤーマット国の都(この国では首都や王都の事を”都”と呼ぶと姉さんに教えてもらった)から発ったと思われる艦隊。
トウバの街からの艦隊は飛行戦艦十数隻を含む一個艦隊規模。
対して、都からの艦隊は三個艦隊規模。
普通なら都からの艦隊の方が戦力が上だけど、トウバ艦隊は飛行戦艦型機械兵が混じっているから楽観は出来ない。
『船橋より緊急連絡。都艦隊からこちらに向けて小型機が接近中。機種照合。WPステローペです。』
「「「!!」」」
格納庫内の空気が一気に明るくなった。姉さんなんか胸の前で手を握りしめて涙を浮かべている。大丈夫だろうと分かってはいても不安に思っていたんだろうな。
あ、でも、何でこっちに向かってるんだろう?ジェンティアは今、隠蔽状態な筈。
「マイア、コウはこっちの居場所、分かるの?」
『WPステローペ及びWPメロペーは早期警戒管制装備を搭載しており、探査性能はジェンティアの隠蔽性能を超えます。従いまして、WPステローペからはこちらが探知出来ていると考えられます。余談ですが、WPマイアは探知機能に加えて通信機能も強化されており、指揮管制能力が高くなっています。』
なるほど、マイアが指揮管制機、ステローペとメロペーが情報支援機、残りが戦闘攻撃機なのね。
『発着船デッキのハッチを開放。・・・WPステローペ、着船確認。ハッチ閉鎖。WPステローペを格納庫に搬送します。駐機位置周辺の方は注意願います。』
程なくして格納庫内へリフトでWPステローペが運ばれてきて、駐機場所へと移動して止まる。そしてコクピットハッチが開いてコウが降りてきた。
「ただいま、みんな。心配掛けてすまなかった。」
「コウ!!」
真っ先に姉さんがコウの胸に飛び込んだ。
「コウ・・・良かった、無事で・・・。」
胸の中で涙を流してる姉さんを抱きしめるコウ。その眼差しは優しい。コウの手が姉さんの髪を優しく撫でる。
「まぁ、あの程度なら大丈夫だ。ただ、君の妹の事で問題がある。話をしたいが、もう大丈夫か?」
「え、えぇ、ごめんなさい、ありがとう、大丈夫よ。」
春華さんの事で問題・・・。コウがわざわざそう言うのだから結構大事なのだろう。
「コウ、もしかして、春華さん、治せない、とか?」
おそるおそるコウに聞いてみる。
「いや、身体の方は何とかする。単純に再精製するだけではもう駄目だが、”春華一人だけなら再精製が手遅れでも助ける方法はある”と言っただろう?問題なのは、春華の、心の事だ。」
「「「心?」」」
私たち三人同時に聞き返す。
「そう。身体は助けられたとして、我に返った彼女が自分のした事に耐えられると思うか?唆されたとはいえ、守るべき領民をまとめて生贄にしたんだ。」
「・・・そうね。真面目なあの娘の事だから、死んで詫びると言うでしょうね・・・。」
「それも問題だが、更に問題なのが、彼女を唆した奴が”過去に戻ってやり直したくはないか?”と言ったらどうなると思う?」
「「「!!」」」
私たちはハッっとした。春華さんじゃなくても、過去の過ちをやり直したいと思う気持ちは分かる。だけど、それをすれば世界を滅ぼす事になる。かつてコウがしてしまったように・・・。
「そうさせない為には、彼女が付け込まれた心の闇を分かった上で支えてやる必要がある。そして、その心の闇の原因は・・・雪華、君にあるんだ。だから雪華、俺は君を彼女の元に連れて行く。いいな?」
「えぇ、望むところよ。姉として、けじめはちゃんと付けるわ。」
「それと、トウバに向かっていたヤーマット艦隊、近衛第1艦隊、第2艦隊、第3艦隊だったから、ミツルギ陛下に直訴して、こちらで解決すれば生命だけは助けてくれるとの言質は取ったからな。」
「!! 女王陛下自らご出陣だったのね!コウ、何から何まで本当にありがとう・・・。」
「『俺の全力を持って君を幸せにするように努力する。』と言ったからな。さて、ジェンティアだけでトウバ艦隊の相手をする為の作戦会議をするぞ。」
「「「了解!!」」」
◇◇◇
作戦会議を終えた私たちはそれぞれのポラリス、プレアデスに搭乗していた。
アネモネには私とキャンディ、アンジェリカ・ペリカリスには姉さんとコウが搭乗している。
『ごめんね、ミウ。コウ、借りちゃって。』
「いいよ!私だって春華さん助けたいし!」
『ありがと、ミウ。みんなであの娘を助けましょう。』
「うん!」
「わたしも頑張るからね!雪華姉!」
『頼りにしてるわよ、キャンディ。』
『よし、準備はいいな、みんな。マイア、作戦開始。』
『イエス、マスター。ミッション、スタート。ジェンティア、隠蔽解除。トウバ艦隊に向けて前進。特装砲のエネルギー充填開始。』
コウの号令で春華さん救出作戦が開始された。ジェンティアがトウバ艦隊に向かって進みだした。ただし、ゆっくりと。わざと相手に見つけてもらうためだ。
『WPエレクトラ、ターユ、アルキュオネ、ケライノ、メロペー、発進。所定の配置に着きます。』
次々とプレアデス達が発進していく。彼女らはジェンティアの直衛だ。私たちはまだ発進しない。
こちらに気付いた相手艦隊がジェンティアに向かってきた。こちらを包囲するために全体が大きく広がる。だけどジェンティアはそのまま前進を続ける。
ドウゥン!ドウゥン!ドウゥン!
相手からの砲撃が始まった。何発かジェンティアに命中したみたいだけど、防御フィールドで防ぎきっている。プレアデス達はジェンティアの陰で攻撃を凌いでいる。
やがてお互いの距離が近くなると、相手艦隊も小型攻撃機を発進させてきた。物量差で追い詰めるつもりなのだろう。包囲も既に真横くらいまで完成している。このままだと押し切られる。
でも、これも作戦通りの展開だった。その作戦とは・・・
『よし!ポラリス各機、射出!防御フィールドを進行方向に向けて円錐形に!何があっても相手旗艦まで一直線に突っ切れ!!ジェンティアはポラリス射出後全速後退。相手艦隊のど真ん中に”エーテル・アニヒレイター”発射!相手を行動不能にしてからプレアデスと共に掃討しろ!』
『「「了解!!」」』
『『『『『『イエス、マスター!!』』』』』』
ジェンティアを囮にして相手を引きつけ、のこのこ近付いてきたところを私たち4人が春華さんのいる相手旗艦まで乗り込んで救出。残りの相手はジェンティアの特装砲、その一形態である”エーテル・アニヒレイター”とプレアデス達で掃討する。”エーテル・アニヒレイター”は範囲空間内のエーテルを消滅させる。エーテルがなくなればエーテル・マナ・リアクターを動力源としているものは機能を停止するから、その間に一方的に攻撃出来る。出来うる限り各員の安全を考え、かつ、ヤーマット近衛艦隊到着前に迅速に片を付けるべくコウが考えた作戦だ。
凄まじい勢いでジェンティアからカタパルト射出されるアネモネとアンジェリカ・ペリカリス。ジェンティアからの情報を元に一直線に相手旗艦を目指す。
『キャンディ、設定は巡航をベースに手動でDFをMAXまで上げるんだ。ミウ、雪華、鏃になったつもりで相手旗艦に突き刺され。その程度じゃポラリスには傷一つ付かないから安心しろ。』
『無茶苦茶な力業に思えるけど、彼我の戦力差を把握した上で、相手に対応する暇を与えずに目的を達する方法としては理に適ってるわよね。よく考えたら、私が長刀相手に戦う時に似てるわ。一気に懐に飛び込んで、長刀の利点である威力とリーチを潰した上で小太刀の利点てある取り回しの良さをを生かす。そんな事を艦隊戦でやってしまうなんて・・・流石ね、コウ!』
『褒めるのは春華を救出してから、な?キャンディ、こいつの武装に慣れる為にも複数照準で光子魚雷をばら撒いてやれ。』
「りょうか~い♪武装選択・・・複数照準・・・いっけぇーーー!!」
アネモネから多数の光弾が射出され、相手艦艇を追うように飛んでいく。そして着弾すると、その部分が抉られたように消失した。
「な、な、なにこれすごいーーー!!相手の魔術防御や装甲を完全無視してない、これ?!」
『陽電子砲も光子魚雷もれっきとした物理兵器だからな。魔術防御じゃ防げないし、通常の物理装甲も紙同然だ。』
キャンディが素っ頓狂な声を上げて驚いている。私にもどういう原理かよく分からないけど、要するに、相手はこちらの攻撃を防げないって事ね?改めて、ポラリスってとんでもない機体なのね・・・。
『よし、見えた!さて、わざわざ挨拶に行ってまで記録してきた春華の生命反応で探査して・・・艦橋じゃないな・・・ミウ、雪華、MISEに転送した場所に突っ込め!反対側に貫通しないように気を付けろ!』
『「了解!!」』
網膜投影された突入ポイントにアネモネを突っ込ませる!戦艦の装甲をぶち抜いてる割には衝撃も少ない。なるほど、本当に”傷一つ付かない”んだ・・・。どういう理屈でそうなるのか、時間が出来たらコウに聞いてみよう。
『ミウ、キャンディ、問題ないな?』
「うん!大丈夫!」
「問題ないよ、コウさん!」
『よし、そのまま少し待て。目的地までの通路作るからな。』
え?通路を”捜す”じゃなくて”作る”?
『角度はこのくらいか?【デストラクション・レイ】!』
次の瞬間、アネモネから少し離れた場所を下から上へ斜めに光条が貫いた!うわっ!びっくりした!
『よし。それじゃ、この通路をFSEで通って、春華のところに向かうぞ。』
『「「りょ、了解!!」」』
コウ、これって、通路じゃなくて、ただの破壊痕だと思うよ?
アネモネから出る前に、自動攻撃設定をセット。私たち登録されている4人以外の何かが近付くと、警告の後、攻撃する。
外へ出て周囲を確認。今のところは敵の反応はない。装備を確認してから穴の方に向かう。
今回の装備は今まで使っていたもの。FSE用の武器はまだあまり練習出来ていないから、乱戦になりかねない戦いで慣れない武器を使うのは危険だとコウが止めたからだ。
私とキャンディが穴に駆け寄って下を覗くと、コウと姉さんが上がってきてるのが見える。
「あぁ~~~~~~っ!!雪華姉ズルい~~~~~~!!わたしも~~~~~~!!」
姉さん、またコウに抱っこされてる・・・。そういえば二人共FSEの練習、あまりしてなかったよね。あ、こら、キャンディ!!あんたまで抱っこされたらコウの両手塞がっちゃうでしょ!!
「二人は帰ったらFSEの特訓だからな?それより早く行くぞ。ミウはついて来られるな?」
「もちろん!あ、でも、終わったら私にもして?」
「わかったよ。お前だけしないのは不公平だしな。それじゃ行くぞ!」
「うん!」
二人を抱えたコウと私は穴を通って上に向かう。途中で攻撃してきた青黒い顔の兵士はコウとキャンディの魔術、姉さんの銃で迎撃していく。私はコウの後から付いていく。銃で迎撃しても弾、なくなっちゃうし。
「ねぇ、コウさん、ちょっと聞きたいことあるんだけど~?」
「ん?どうした?キャンディ?」
「この前ポラリス乗った時やFSE着けた時に気付いたんだけど、ポラリスやFSEの動力源って、エーテルマナリアクターじゃないよね?だってエーテル集めてないもん。」
え?そうなの?私、全然気づかなかった・・・。
「流石”賢者の後継者”だな。そうだ、これらの動力源はエーテルマナリアクターじゃない。だから、ポラリスに乗りながらでも魔術は使えるし、”エーテル・アニヒレイター”の効果範囲内でも問題ない。興味があるなら帰ってから詳しく教えようか。」
「やった~~~!よ~~し、さっさと春華さん助けて、早く帰ろう~!」
前にキャンディに教えてもらってたんだけど、エーテルマナリアクターと魔術は共にエーテルを集めて利用する。つまり、エーテルマナリアクターの近くで魔術を使おうとするとエーテルを互いに取り合ってしまってうまく使えないんだそうだ。
例えば、ウィンドライドに乗った状態で魔術を使おうとすると、エーテル不足で、最悪、魔術も使えないしウィンドライドも墜落するなんて事が起こるそうだ。
もちろんそれは、魔術を使う人のエーテル凝集力とリアクターのエーテル凝集力で変わってくるけど。
しばらく登ってから途中のフロアで降りて通路を進む。あ、もちろん、姉さんとキャンディはコウから降りて歩いている。
そして私たちは両開きの扉の前に辿り着いた。
「コウ、この先に春華が?」
「そうだ。何としても春華を連れて帰る。心の準備はいいな?、雪華。」
「えぇ・・・。ねぇ、コウ、お願いがあるのだけど・・・キスしてもらっていい?」
「・・・それで雪華の心が落ち着くなら。」
コウと姉さんがゆっくりと唇を重ねる。キャンディが何か言いたそうに少しピクッとしたが何も言わなかった。
「・・・ありがとう、コウ。私、コウが居てくれるなら何があっても大丈夫。さぁ、いきましょう。」
コウと姉さんが二人でゆっくりと扉を押し開けた。
その向こうは奥に長い部屋だった。この場所は外には接していない筈だけど、天井と壁には外の風景、青い空が見えている。お蔭て横幅はそれ程広くないけど閉し込められた感じはあまりしない。
そして、その部屋の奥、他より一段高くなっている場所に豪華な椅子が設えてあり、そこに目的の人物、春華さんが鎮座していた。
「あら、姉様に皆様。お約束は夕刻でした筈。何かございましたか?」
顔には春華さんらしくないいやらしい笑みが浮かんでいる。明らかな挑発。
「春華殿、雪華も心配しています。どうか一緒に来て、治療を受けてもらえませんか?」
「春華!貴女は良くない人に唆されているだけ!私達と一緒に来て、過ちを償いましょう!」
その挑発を意に介さず話を続けるコウ。姉さんは必死に説得しようとしている。が・・・
「あら、姉様、私、唆されてはいませんの。”あの方”は道を示して下さっただけ。選んだのは私ですの。私は私を縛っていた鎖から解き放たれて自由になれたのです。姉様が私に押し付けた鎖から。」
「春華・・・ごめんなさい・・・私が自分勝手に放り出していったせいで・・・。でも、だからと言ってもやってはいけない事があるの!ねぇ、春華、私達と一緒にやり直しましょう!コウが力になってくれるから!」
「あら姉様、私にはもう姉様もコウ様も必要ありませんの。”あの方”の言う通りに、あの紫の船を手に入れれば、私はまた束縛される事はないでですから。」
その言葉と共に、壁にジェンティアに追いすがるトウバ艦隊が映し出される。ジェンティアは特装砲以外の武装と先に出撃させたプレアデス達との連携で凌いではいるけど、相手の数が多い為、多勢に無勢になりつつある。このままじゃ・・・
「春華殿、いや、春華、一つ聞かせてくれ。”あの方”とは、俺と同じ顔のヤツか?」
「「「えっ・・・?」」」
コウ?どういう事?コウと同じ顔って?
「そうですね。顔は同じですが、目の色が違いましてよ。」
「そうか・・・分かった。さて、雪華。もう荒療治しか方法がないが、どうする?」
「・・・私がやるわ。それが私が出来るせめてもの償いだから。」
「分かった。もしもの時は俺が何とかする。だから君は君の出来る限りの事をやってくれ。ただし、何があっても諦めるな。いいな?」
「・・・うん、ありがとう、コウ。」
「よし、なら俺も自分の出来る限りの事をしよう。マイア!やれ!!」
『イエス、マスター。ジェンティア、船体変形。特装砲、砲身展開。』
コウの指示と共に壁に映ったジェンティアの船首は左右に割れ、斜め後ろへと引き込まれる。そして割れた中央部分から巨大な砲身がせり出してくる。
『充填率100%。エーテル・アニヒレイター、発射。』
そして放たれる漆黒の球体。その球体が爆発的に拡がりトウバ艦隊全体を飲み込んだところで消滅した。
そしてその直後、トウバ艦隊の艦船が次々と力を失って墜落していく。
「ば、馬鹿な!そのような事が!!”あの方”はあの船にこんな力があるなど何もおっしゃっていなかった!!」
愕然として壁の映像を見つめる春華さん。圧倒的優勢だった自分があっさりと覆された。その精神的なダメージは計り知れないだろう・・・。
「分からないか?こういうデータを取る為に、君は当て馬にされたんだ。君の言う”あの方”に。」
「そんな筈ない!!”あの方”は”私が必要”と言って下さったのだ!!かくなる上は、お前達をここで殺してあの船を手に入れるまで!!」
そう言うと春華さんは佩いていた刀を抜き放った。あの刀・・・姉さんが親方さんから貰ったものに似ている。
「春華!貴女は私が止めてあげる!!それが貴女の姉として、今私が出来る限りの事だから!!」
姉さんも刀を抜き放った。いつもの碧双月じゃない、親方さんから貰った刀。確か銘は”十六夜・真打”。
「春華ぁぁぁっ!!」
「雪華ぁぁぁっ!!」
ギイィィィン!!
地を駆け春華さんに肉薄し斬撃を撃ち込む姉さん。対して姉さんの斬撃を刀で受ける春華さん。鍔ぜり合い。ギリギリと硬い金属同士が擦れ合い軋む音。
だけどそれも長くは続かない。姉さんが段々押し込まれる。変異細胞によって強化された春華さんの方が力は上みたいだ。
「くっ!!」
相手の力を逸らし、後ろへと跳ぶ姉さん。油断なく刀を構える。
「あら姉様、しばらく見ない間に随分と弱くなられたようで。あぁ、姉様が弱くなられたのではなく、私が強くなっただけですか。」
余裕の笑みで刀を構える春華さん。
「なら、これはどう?!はぁぁぁあああっ!!」
再び踏み込み、今度は左右から目にも留まらない連撃を叩きこむ。姉さんの刀技”八重桜”。武者修行の旅で身に着けた姉さんだけの技。魔物を一瞬で切り刻む技。でも・・・
「姉様、今のは中々でしたわよ?」
「そんな・・・」
多少の切り傷は付けたものの、あり余まる身体能力で全ての攻撃を受け流した。
「では、今度は私から。はぁぁぁっ!!」
春華さんの斬撃が姉さんを襲う。何の変哲もない袈裟斬り。だけど・・・
ギィィィィィィン!!
「きゃあぁぁぁっ!!」
受け流そうとした姉さんの刀が弾き飛ばされて宙を舞い、姉さんも尻もちをつく。
「さぁ、終わりです、姉様。さようなら!!」
そして・・・