第3話 静粛の街
私の再精製が終わってからしばらくして姉さん達の再精製も終わった。
三人で最初に目覚めたのはリィエだった。
「リィエぇぇぇ!リィエぇぇぇぇぇぇ!!」
私は泣きながら、身体を起こした彼女を抱きしめた。よかった!!本当に!!
「ミウ、ほら、泣かないの。貴女とコウのお蔭よ。ありがとう!」
抱き合う私たちを二人一緒に抱き寄せてくれる温かい手。コウの手だ。
「おかえり、リーエロッテ・・・。」
「コウ・・・私・・・私・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
リィエの目から涙が溢れ出した。それは、愛する人に再び逢えた歓喜の涙なのか、それとも、愛する人に過酷な運命を背負わせてしまった後悔の涙なのか。
両方なのだろう・・・きっと・・・
「君が悪いんじゃない。俺が考えなしの行動を取らなければ・・・いや、それ以前に君をもっときちんと見ていれば良かったんだ・・・。だからもう泣かないでくれ・・・俺は君の笑顔が見たいんだ。」
「うっ・・・、あっ・・・・、うん・・・・・・」
涙を拭った無理やりの笑顔。今はそうでも、いつか普通に笑える日が来るよ、きっと!だって、コウがずっと傍にいてくれるから!
「さ、シャワーを浴びて、服を着てくれるか?ミウ、付き添ってやってくれ。」
「うん、わかった。リィエ、いきましょ!」
「えぇ。コウ、綺麗になってくるわね。」
二人で医療室の奥のシャワールームへ向かう。
「そういえば、ミウ、貴女胸を気にしてたみたいだけど、大丈夫よ。二十歳くらいにはそれなりになるからね♪」
「そうなの?!よかった~!って、何で分かるの・・・?」
「あら?前に言ったでしょ?この身体の遺伝子、あ~設計図は私のだって。私もこのくらいの頃には悩んだものよ?」
「そっか!ねぇ、リィエ!私、もっとたくさんの事知りたい!教えてくれる?」
「えぇ、いいわ。私の知る限りの事を教えてあげる。それでコウを支えていきましょう。」
「うん!!それじゃ、私は外で待ってるね。」
私が脱衣所から出ると、コウが雪華姉さんを起こそうとしていた。
「姉さぁぁぁぁぁぁん!!」
「うわっぷ!!ちょっとミウ!!」
間にあったポッドを跳び越えて身体を起こした姉さんに飛びついた。
勢いが付いたままだったからそのままポッドの中に押し倒してしまった。
「わかった!わかったから!あんたに身体を壊されそうよ、もう・・・。」
「あ、ごめんなさい・・・。」
おずおずと姉さんの上からどく。自分の力の事忘れてたや・・・。
「おいおい、雪華は強化してないんだから、優しくしないとダメだぞ?ほら、雪華、これ羽織って。シャワーを浴びてくるといい。ミウ、シャワーまで付き添ってやってくれ。」
「うん、わかった!姉さん、行こう。」
「ありがとね、ミウ。コウ、また助けられたわね。ありがと。」
「助けるのは当然だ。雪華も、大切な女性だからな。」
「!! ヒャ、ヒャワーに案内してくれる、ミウ?」
「うん!こっちよ!」
姉さん、顔赤いよぉ~?しかも噛んだし。
それはともかく、私にはそれ以上に気になる事があった。
「姉さん、どうして強化してもらわなかったの?こう言っては何だけど、いい機会だったのに・・・。」
「・・・・・そうね、何ていうか・・・私はこのまま、まだやるべき事があると思って、ね。」
「・・・そっか。ちょっと残念だったけど、姉さんが決めた事だもんね。それに、コウがきっと助けてくれるから大丈夫だし。」
「そうね。コウは本当に頼もしいわ。それに優しいし。」
シャワールームの脱衣所に入ると、ちょうどリィエが着替えを終えたところだった。私は髪をうなじのところで結んでいるけど、リィエは髪をアップにまとめている。同じ身体なのに、その方が大人っぽく見えるのは何故?
「あら、雪華さん。ミウがいつもお世話になっております。わたくし、コウの最初の婚約者のリーエロッテ=ユーミットと申します。リィエとお呼び下さい。ミウ共々これからよろしくお願いしますね。」
「え?あ?い、いえいえ、これはご丁寧に。こちらこそミウには助けてもらってます・・・って、ミウの顔で言われると違和感半端ないわね・・・。」
「私も。鏡の中の自分が勝手に動いて喋ってるように錯覚しそう・・・。」
「急でしたから、仕方ないですね。ミウの双子の姉だとでも思っていただければ。え~と、ミウは雪華さんの事を姉のように慕ってますから、わたくしも”雪華姉様”とお呼びしますね。」
「え、えぇ、リィエさん。」
「姉様、ミウと同じようにリィエと呼んで下さい。妹なのですから。」
「・・・わかったわ、リィエ。・・・なんか調子狂うわね・・・。」
姉さんが浴室に入っていったのを見届けて私たちが外に出ると、コウがキャンディを連れてシャワールームに来ていた。
「「・・・・・・。」」
何故かキャンディはコウにお姫様抱っこされていた・・・。コウ、説明を求めます。
「キャンディも精神的に堪えたみたいだったから、落ち着かせる為にこうしてるんだが・・・どうした、二人共?」
「「い~え~?べっつにぃ~?」」
当のキャンディは私たちを見て目を見開いて、口をポカンと開けている。
「み、ミウちゃんが二人?!分身?!もしかして、イーセテラに伝わる”忍術”ってヤツ?!」
「「違います。」」
◇◇◇
コウに降ろされても抱っこをせがむキャンディをシャワールームに押し込んで一息つく私たちとコウ。
二人を待ちながらコウがおもむろに口を開いた。
「ミウ、リィエ、こうなった原因に心当たりはあるか?特に、最近食べた物とか。」
「うーん・・・食べた物・・・来る途中は保存食だったし・・・着いてすぐ春華さんの館に向かったし・・・。あ!姉さんの刀を直しに鍛冶屋に行った時、途中で蒸し饅頭食べた!でも、それだと他の人もおかしくなってる筈だし・・・。」
「だが、侵食の拡がり具合から、胃周辺から始まったと考えるのが妥当なんだ。そうすると、食べ物に紛れて摂取させられた公算が高い。だとすると・・・。!! マイア!ここからトウバの街の生命反応をスキャンしろ!大至急だ!!」
『イエス、マスター。ただし、距離がある為、街全体のおおまかなものになります。・・・・・・生命反応を確認。ですが、通常とは異なるパターンを検知しました。』
どういう事?!コウがこんなに焦りを表すなんて・・・。
「プレアデス達はマイアを除いてメンテ中か・・・。後30分くらいは掛かるな。仕方ない、マイア、お前の機体を借りるぞ!」
『イエス、マスター。機体の出撃準備を開始します。』
「ミウとリィエは、雪華とキャンディがシャワーから上がったら全員船橋に。俺はプレアデスでトウバの街を偵察してくる。」
彼女たち7人の自律自動人形も”プレアデス”なら彼女たちの使う小型飛行艇も”プレアデス”なのね。
「それなら私たちも一緒に!!」
「駄目だ!再精製されて、まだ1時間も経ってないんだぞ?!せめて1日は駄目だ!」
「でも!!」
「上空から偵察してくるだけだ。無茶はしない。推測が正しければ、一人でどうにか出来る状態じゃないからな。」
「・・・わかった。だけど、通信回線は常に開いておいてね?でないと私たちも状況が分からないから。」
「当然だ。じゃあ、ジェンティアの方は頼むぞ。」
そう言うとコウは医療室を出て行った。私たちはシャワーから上がった姉さん達に状況を説明し、船橋に向かった。
「マイア!アンジェリカ・ペリカリスの出撃準備をしなさい!!」
「申し訳ありません、マスター・雪華。それはマスターより止められていますので出来かねます。」
「いいから準備して!!」
姉さん・・・春華さんの事が心配で気が気でないのね・・・。分かるよ、姉さん。もし窮地に陥いってるのがコウなら、私も同じようになるかも。
「待って、雪華姉様。ここはコウを信じて情報を待って。再精製されたばかりの身体ではコウの足手纏いになるだけだから。」
目を逸らさず、真っ直ぐ見つめて姉さんを説得するリィエ。身体はともかく、精神は私たちの中で一番大人よね。さすがコウの最初の婚約者。私も見習わないと。
「・・・・・・分かったわ。確かに情報もなく状況も分からない状態じゃ、何も出来ないわね。」
「コウはちゃんと分かってくれてるから大丈夫。私達の今為すべき事は、この身体が一刻も早く使い物になるように、栄養補給と休息を取る事。マイア、だったわね、再精製体用のゼリーは何処?」
「医療室にあります。ところで、貴女様はマスター・ミウでよろしいのでしょうか?生体反応が登録されているマスター・ミウのものと一致しますが、同じ反応が2つあります。」
あ、そうか。身体の設計図、同じだものね。ちょっとややこしいかも。
「取り敢えず光学情報を追加でリンクさせて区別してもらえる?私はリーエロッテ、リィエでいいわよ。」
「イエス、マスター・リィエ。非常時の暫定措置として、権限はマスター・キャンディと同等といたします。」
「それでいいわ。コウが帰ってきたら改めて登録を更新してもらうから。キャンディさん、運ぶの手伝ってもらえる?」
「了解です!」
あれ?キャンディ、リィエに敬語になってない?リィエは私と同い年・・・身体は。
二人が船橋を出て行くのを見送ると、ふいに姉さんが吹き出した。
「ぷっ!リィエと話してると誰が一番年上なのか分からなくなるわね!」
「あははは・・・、見掛けは私と同じだけど、中身はコウと同い年だしね。」
「そっか。頼りになる仲間が増えたわね。」
「うん!」
姉さん、どうやら少しは落ち着いてくれたみたい。リィエのお蔭ね。
そうこうしているとコウの準備が整ったのか、マイアとやりとりしている。そして、船橋のメインスクリーンにコックピットのコウの姿と、コウの乗っているプレアデスが映した光学映像が表示される。
『ん?船橋にいるのはミウと雪華、マイアだけか?』
「リィエとキャンディは医療室に再精製体用のゼリー取りにいってるよ。」
『そうか。雪華、君に先に言っておかなくてはならない事がある。これから先、君は辛いものを見る事になる。だが、忘れないでくれ。君には俺やミウ、キャンディ、知り合った人達みんなが付いている。何があっても、君は君を見失わないでくれ。』
コウは多分、もう未来視で視て、何が起こってるのか分かってる。そしてそれは雪華姉さんにとってとても辛い事なのが。
私は雪華姉さんの腕を抱きしめて寄り添う。見上げる私の頭をそっと撫でる姉さん。
「コウ・・・。分かったわ。コウもくれぐれも気を付けて。」
『分かってる。みんなに心配掛けたくないからな。マイア、ジェンティアは離水していつでも動けるように。よし、プレアデス、コウ=フジイ、出る。』
「イエス、マスター。プレアデス発進後、ジェンティア、離水。」
プレアデスからの映像が激しく流れ始める。遥か遠くに海岸線が見えるが、そちらに向かわず、むしろそちらから離れて行っている。
「あれ?コウ?街に向かうんじゃないの?」
『真っ直ぐ向かったらジェンティアの位置がバレるだろう?大きく迂回して、街の南から進入する。』
なるほど!さすがコウ!どんな時にも私たちの事考えてくれてるのね!
「ねぇ、ミウ。貴女もこの先何が起こるのか知ってるの?」
姉さんはプレアデスからの映像を見つめながらポツリと私に問いかけた。私は首を横に振る。
「私はまだ視てないの。私も再精製されてたし、リィエと二人に別れる処置もしていたから。私が見たのは未来じゃなくて過去の記憶。コウとリィエの。」
私は雪華姉さんにコウとリィエに起きた事を話した。この会話はコウにも通信で届いている。でも、画面のコウは目を閉じて何も言わなかった。
「そんな・・・コウは・・・」
姉さんはかなりショックのを受けたみたいだった。私の頭に置いている手が震えている。
『・・・だからこそ、もう誰にも俺と同じ過ちを犯して欲しくはない。だから雪華、何があっても俺達を信じてくれ。』
画面のコウが姉さんを真っ直ぐ見つめる。姉さんもコウに真っ直な視線を返す。しばらく見つめ合う二人。そして・・・
「ねぇ、コウ。貴方を信じたらあたしを幸せにしてくれる?もちろん、出来ない事があるのは分かってる。だから、最大限、あたしを幸せにしてくれる努力をしてくれるなら、あたし、貴方を、そしてみんなを信じるわ。」
『分かった、約束する。俺の全力を持って君を幸せにするように努力する。それは、ミウ、お前も同じだし、リィエもキャンディもだ。』
決意と覚悟。コウの瞳に宿る光。信じるに足る心の光。いつの間にか戻ってきていたリィエとキャンディもその光を見つめていた。
そして私たち4人は顔を見合せ、頷いた。
”コウを信じて支えていこう”
言葉を交わさずとも分かった想い。
「コウ、教えて。何が起こってるの?推測でもいいから教えて。先に聞いておいた方が、まだ覚悟が出来る分、取り乱さないで済むし。」
姉さんが改めてコウに聞く。私たちはそのやりとりを見守る。
『みんなを侵食したあの細胞。恐らくはもうトウバの街中に拡がっている。時間を考えると、もう再精製でも助けられないだろう・・・。そして、それをバラ撒いたのは・・・春華だ。恐らく彼女の背後にいる何者かに唆されたのだろう。心の闇を突かれて、な。』
淡々と語るコウ。それが何より、事実である事を物語っている。
「姉さん・・・。」
「雪華姉・・・。」
「・・・・・・。大丈夫、大丈夫よ、二人共。」
下ろしている左手を握りしめる雪華姉さん。私とキャンディは姉さんのその手を自分たちの手で包み込んだ。
『春華に関しては、再精製で助けられるのかどうか、まだ俺でも分からない。情報が少な過ぎるんだ。だが、春華一人だけなら再精製が手遅れでも助ける方法はある。』
「分かったわ。コウ、春華をお願いね。」
『了解だ。』
そうこうしているうちにコウのプレアデスは街の真南の海上に到達した。
『よし、ここから街に向かう。真っ直ぐ北に向かって、領主の館に向かう。』
「気を付けて・・・。」
『了解。』
プレアデスが向きを変え、みるみるトウバの街の外壁が近付いてくる。だけど違和感を感じる。外壁が壊れてたりはしないけど・・・。
『炊事などで出る煙が見えないな・・・。やはり街の人々はもう・・・。』
違和感の正体は生活感が見られなかったからか・・・。
『あの変異細胞に侵食されると食事による栄養補給は必要なくなるだろうからな。後、個人差はあるが自我もなくなる可能性が高い。人間を自律自動人形のようにしてしまうという事だ。』
人間を人形のようにしてしまう・・・。悪魔の所業ね・・・。
「ねぇ、コウ・・・まさか・・・」
ん?リィエの様子が・・・?何だろう・・・?
『・・・リィエなら気付くと思ったよ。昨日話そうとしていた俺の旅の目的にも関係している。だが、今はこの事態の収拾が先だ。終わったらみんなに必ず話す。』
「「「・・・わかった。」」」
私が視たリィエの記憶、コウの過去。あの後、私に出会うまでに何があったんだろう・・・。聞くのが怖い・・・。
やがて映像は街壁を越え、市内に入った。映る街並みの通りに人影はない。昨日まであんなに賑わっていたのに・・・。
『ん?この反応は・・・。雪華、この場所に心当たりはあるか?』
メインスクリーンに街のマップが表示され、1か所赤い光点が灯る。街を南北に走る中央大通りより西、街の北西の辺りだ。
「ここは・・・職人街の辺りだけど、地図だけじゃ・・・。知っているお店に行くのに、地図見ないし。」
『なら、この街に来て、最近この辺りの店に行った覚えはあるか?』
「ん~・・・、あ、刀を直しに”長光”の親方の所に行ったわ!でも、どうして?」
『ここに通常の生体反応がある。正確には”ここだけに”な。十中八九、罠だろうな。』
そう言いながらもコウはそちらに向かうように方向を変えた。うん、コウならそうするだろうと思った。
「ちょっと、コウ!罠だと分かっていても行くつもり?!」
『雪華、助けが必要かもしれない人を放っておくような男、お前、好きか?』
「そうだけど!そうだけど!!コウに何かあったらあたし・・・もう・・・」
『さっきは罠だと言ったが、罠と分かる罠は罠じゃない。罠は分からないように仕掛けてこそ罠だからな。これは罠というよりは”ご招待”だろう。ご招待だからと言って、すんなり帰してくれるとは限らないから、用意は整えて行くけどな。』
程なくして反応のあった場所に到着する。街路にはやはり人影はない。人影はないが、道には茶色のシミはいくつも見受けられる。
『おーおーいるいる。大歓迎だな。』
コウがわざわざ外部スピーカーまで使って言い放つ。でも、人影は見えない・・・。
あ、もしかして、私が戦った目に見えないヤツ?
『もう少し工夫しないと、その程度の隠蔽は通じないぞ?』
相変わらず何も見受けられない。
少し待ってから、コウがでコックピットハッチを開き、座席から立ち上がるのが見えた。プレアデスはまだ地上までは20mくらいの高さにある。
そしてコウは銃を構えると、眼下に向けて引き金を連続で絞った。
ドシュン!ドシュン!ドシュン!ドシュン!ドシュン!ドシュン!
コウが撃った回数だけ青黒い液体が飛び散り、半ば頭を吹き飛ばされた人影が地面に倒れ伏す。
見えない相手に対し、その全てを頭撃ちしていく。何で分かるの?
『確かにその熱光学迷彩は中々によく出来ているが、正面への投影が綺麗過ぎて浮ているぞ?』
コウの言葉を聞き、じっと映像を見る私たち。ん?確かに何か違和感を感じる・・・。
あ!ほんの一瞬だけど、景色の一部がユラっとした気がする!そう思って見ると、微かにだけど道のあちこちに陽炎のようにユラっとした塊がいくつも見える!
『そろそろ片付いたな。降りて確認してくる。映像はMISEからプレアデスを経由してそちらに送る。』
「分かった。十分に気を付けてね、コウ。」
メインスクリーンのコウの映像が消え、代わりにコウ目線の映像が表示された。コウがプレアデスから飛び降りると、映像の地面が急速に近付き、着地直前で辺りを確認するように周囲を映す。
そして映像は一軒の建物へと向かった。間違いなく、姉さんの刀を預けたあの鍛冶屋だ。
『誰かいないか!救援に来た!』
『うううぅぅぅ・・・。』
扉の向こうから呻き声が聞こえた。コウはショートソードを抜いて紫の光刃を発生させ扉に切りつけ破壊し、中に突入する。
建物内は鎧戸の窓が閉めきられていて暗い。だけど、MISEが暗視モードに切り替わって周りを映し出している。
すると建物の奥、作った品を置いておく棚の前で倒れている人影が。
だけどそれを見つけたコウは駆け寄るでもなく、普通の足取りで近付いていく。そして・・・
『全く・・・趣味のいい事だ、な!!』
映像が横に激しく流れ、その視界の端に紫の剣閃が煌めく!次の瞬間、青黒い液体が飛び散るのが見えた。
それが幾度が繰り返され、ようやくコウの動きが落ち着く。その足元は青黒い液体で染まっていた。
『わざわざ屋内にまで配置するとは、本当に大歓迎だな。』
辺りを確認するように見回した後、コウは人影に駆け寄る。
『おい!しっかりしろ!』
うつ伏せに倒れている人影を仰向けに助け起こすコウ。その人物はあの鍛冶屋の親方さんだった。コウが親方さんの服を捲りあげると、胸の殆どが変色していた。よく見ると首元まで達している。キャンディの時より酷い感じだ。
親方さんは呻きながらも目を開け、コウを見つめる。
『・・・どこの誰だか知らんが・・・頼みがある。・・・この刀を・・・こ、この街の二人の姫さんに・・・』
そう言って、倒れてなお離さなかった二振りの刀をコウに押し付けた。
『・・・あ、あと、姉姫さんに”打ち直し出来ずに、す、すまねえ”と。』
親方さんは気を失ったように脱力する。
「親方!!コウ!!何とかならない?!」
『・・・分かった。リィエ、そこにいるな?RBSの準備を頼みたい。今から彼を乗せてプレアデスをオートパイロットにして運ばせる。収容して処置を頼む。マイア、プランBだ。ステローペがメロペーのプレアデスをセミオートで発進。彼を収容後、この大陸を離脱しろ。相手の狙いはジェンティアの鹵獲だ。俺は領主様に挨拶してくる。』
「!! ダメよ!!コウが危険過ぎる!!」
『だが、彼を助けるにはこれしかないぞ?まぁ、大丈夫だ。そこまで含めての”ご招待”だろうからな。』
「コウ・・・ごめんなさい・・・またあたしのせいで・・・」
『気にする事はない。俺が雪華を護りたいだけだ。それは雪華の心も含まれてるからな。』
「ありがとう・・・コウ・・・」
コウは素早く親方さんを抱き上げると上空に待機させていたプレアデスに戻る。親方さんを乗せ、再び地上に戻った。
『しばらく通信不能になるが心配するな。それじゃ、また後でな。』
そして通信は途切れた。