第10話 ミウ覚醒、”あの人”の帰還、新たなる舞花
領主の館へ向かう急使と遭遇して、私たちも春華さんの元へと走る。何が起こったんだろう?
館に辿り着くと、何やら慌ただしい雰囲気だ。姉さんが門番に柄の家紋を見せて春華さんに取り次いでもらうように伝える。すると爺やさんが飛んできた。
「姫様!」
「爺や!何があったの?!」
「その事で姫様方に遣いを出すところでございました。ささ、こちらへ!」
爺やさんに案内されて春華さんの元へ向かう。途中、行きかう家臣の人達と何度もすれ違う。
「姫様!姉姫様方が来られました!」
「姉様!御呼び立てして申し訳ございません。」
「大丈夫よ。私たちも街で急使を見掛けてこっちに来たのよ。春華、どうしたの?なんか慌ただしいようだけど。」
「姉様が申しておりました件の遺跡から多数の機械人形が現れ、既に付近の村々が壊滅したとの知らせが。」
「何ですって?!」
機械人形?あ、自動戦闘機械兵!!村々が壊滅って・・・まさか殺戮人形?!
「現在、領軍の出陣準備をしている最中です。姉様方には事態が落ち着くまで遺跡探索を待っていただくようにと遣いをやるところでしたの。」
「そう。それにしてもこれは・・・対処できそうなの?春華?」
「正直、領軍だけでは厳しいかと。既に都に遣いを出しましたが、間に合うかどうか・・・。」
姉さん達の話をよそに、私は自分の中に呼び掛けていた。
リィエ!ねぇ、リィエ!!
―――そんなに慌てなくても聞こえていたわよ。間違いなく、私が視せた未来よ。だけど、タイミングがずれているわね。
やっぱり!でも、あの未来視では私たちが最初に遭遇する筈だったわよね?
―――どこかで別の選択肢に移ったようだけど・・・?
・・・あ!もしかして?!ワイバーンとの件で出発が遅れたから?!
―――それね。だから、いきなり遭遇する筈の未来から変わったって事よ。少なくとも、あのまま全滅する未来からは外れたわね。
でも、だからといって助かるとは限らない、わよね、当然。
―――ふふっ、分かってきたようね。何もしなければ、多分、ここで無数の殺戮人形に囲まれて”THE END”じゃないかしらね。
何かみんなを救う方法は・・・そうか、現在、未来視を使えば・・・
―――分かってる?相当危険よ?下手をすれば精神が耐え切れずに死ぬことになるわ。
分かってる。でも、私はみんな助けたい。それに、この程度で死んでたら「あの人」のパートナーになんてなれない、でしょ?
―――言うようになったわね。じゃあ、やってみせなさい。そして、”あの人”の隣に立ってみせなさい。そうしたら・・・
そうしたら?
―――諦めてあげるわ、貴女の身体を。
あら。諦めなくてもいいのに。さっきの姉さん達への話も聞いてたんでしょ?リィエも”あの人”を支える一人に入ってるに決まってるじゃない。”私は貴女。貴女の中の私”とか言ってたわよね?何なら、たまになら身体、使ってくれてもいいよ。あ、でも、”あの人”との、は、”初めて”の時は譲ってよね?
―――うふふ・・・負けたわ、ミウ。貴女なら”あの人”を支えてくれそうね。なら、私も手伝ってあげる。余計な映像は受け流して私に回しなさい。貴女は絶望の奥にある”希望”だけを目指して。いいわね?
分かった。姉さん達に伝えてくるからちょっと待ってて。もし倒れた時に対処してもらわないといけないし。
―――そうね。大丈夫、私に時間は関係ないから。
リィエとの話を終え、顔を上げる。姉さん達はまだ難しい顔で協議している。
「雪華姉さん、キャンディ、そして春華姉さん。私が能力を使って視てみるから。私が”みんなが生き残れる可能性がある未来”を見つけるから。だから、もし倒れた時はフォローお願いね。」
「なっ?!無茶よミウ!!貴女に何かあったら!!」
「そうだよ!みんなで”家族になる”って約束したじゃない!!」
みんなが私を心配してくれる。みんなが私を必要としてくれる。ありがとう。だから私は笑顔でこう言える。
「だからこうするの。”あの人”が4年前にそうしたように。”みんなが生き残れる可能性がある未来”を見つける為に。だって私、”あの人のパートナー”だもん。」
「・・・・・・わかったわ。だったら座ってやりなさい。倒れた時危ないから。」
「何かあったら、私が助けるから、絶対!!」
春華姉さんが一人置いてきぼりになってきょとんとしている。ごめんなさい、後で雪華姉さんにでも聞いて下さい。時間ないし。
私は最初に春華姉さんがしていたように膝をついて座る。後から教えてもらったけど、これ、”正座”って言うのね。
みんなの見守る中、静かに目を閉じ、意識を心の奥、自分の中の扉に集中する。
扉に手をそっと触れる。と、もう一組の手が私の横から扉に触れる。隣を見ると、私がもう一人。そっか、リィエだ。お互いに頷きあってから、二人で扉を押し開く。
とたんに溢れ出る未来への奔流。激しい流れが私を傷つける。
痛い・・・苦しい・・・怖い・・・でも、諦めない!
リィエが先に立ち、私に向かう奔流を防いでくれている。リィエの為にも、私が”希望”を見つける!
どこ?!どこにあるの?!
奔流の向こうに目を凝らす。
そして・・・
きらりと光る一粒の何か。奔流の先。確かに見えた!
リィエの陰を飛び出し、一直線にそれに向かう。右腕を必死に伸ばし、そして、
掴んだ!!
途端に私に流れ込む未来の映像。そして傷ついたところが治っていく。急いでリィエのところに戻り、それを掴んだ右手をリィエに握らせると、リィエの傷も癒えていく。
頷きあって、扉のこちら側へと戻り、扉を閉める。
―――やったわね、ミウ。貴女はもう、”あの人”のパートナーになれるわ。
ううん、まだまだよ。これはリィエや、姉さん達、家族のお蔭。だからリィエ、これからもよろしく。
―――いいわ。一緒にいてあげる。さぁ、早く!みんなが待ってる!
うん!
そしてゆっくりと目を開き、右手を見つめる。
そこには何もない。でも、ある。確かなもの。みんなとの”絆”。
「雪華姉さん!キャンディ!行こう!大元を叩かないと!春華姉さん、街の北西側に防衛線を築いて下さい。防衛に専念して被害をなるべく少なくして持ちこたえて下さい。援軍が来ます。」
「ミウさん、貴女もしかして、イヨ様と同じ能力を?!」
「未来視という能力です。私は”イヨ様”を存じ上げないので同じかどうかは何とも・・・。それより時間がありません。私たちは遺跡に向かいます。防衛線の構築を急いで下さい。」
「分かりました。姉様、ミウさん、キャンディさん、お気を付けて。」
私たちは互いに頷きあい、スターライトの預けてある駐機場へと駆ける。
「姉さん、キャンディ、作戦はスターノヴァになってから説明するから!」
「分かったわ!」
「了~解!」
◇◇◇
駐機場からスターライトを出し、ノヴァ・ユニットの隠し場所まで移動して、姉さんとキャンディはスターノヴァへと換装。一路遺跡を目指す。
「姉さん、キャンディ、このまま遺跡を目指すと地上を侵攻してくる殺戮人形と出くわすから、私と姉さんで迎撃。キャンディは遺跡をフルバースト出来るところまで進んで、フルバースト2射で遺跡を破壊して。」
『えっ?!壊しちゃうの?!そんな事したら・・・!!』
「後続を断たないとジリ貧になる。それと、2射したら絶対にこちらに戻ってきて。調子に乗って留まっていたら絶対に死ぬから。」
『!! わかった!2射したら必ず戻るね!』
「姉さん、迎撃に入ったら絶対に動きを止めないで。殺戮人形の中に魔力砲持ちがいる。念の為、パラを手動設定でATを少し落としてDFに。シュンランの強化型連射魔力砲ならAT落としても相手の装甲を抜けるから。私のスターライト・プリムラ改でも武器を連射魔力砲から通常の魔力砲に換装してもらったから何とか倒せる。」
『わかったわ。』
「・・・それと、もし私が墜とされても絶対に助けに来ないで。私を助けようと動きを乱した瞬間に墜とされるから。大丈夫、ちゃんと対応策あるから。」
『!! でも、ミウ!!』
『!! ミウちゃん!!』
「大丈夫、私を信じて。何があっても心を乱さないで。それが”みんなが生き残れる可能性がある未来”を掴む為の絶対条件だから。」
『・・・わかったわ。』
『・・・わかったよ。』
「絶対みんなで生きて帰る!”あの人”も一緒にね!」
『『えっ?!それって?!』』
「行こう!未来を掴む為に!!」
街と遺跡との中間あたりに差し掛かると、センサに多数の反応。だけど反応が安定しない・・・。スターライトだから?
「キャンディ、オキシのセンサで殺戮人形の反応、捉えられてる?」
『う~ん・・・反応はあるんだけど、チラチラしてる。今までこんな事なかったのに・・・。』
オキシペタルムの高精度複合センサですら捉え切れない・・・つまり、スターノヴァのセンサーにすら対応できる隠蔽機能を持ってるという事。それは、この事件の背後に私たちと、いや、”あの人”と同等の技術を持った誰か、または何かがいるという事。
もしかして、”あの人”が時と世界を越えて旅をしてきたのは、それを捜す為?
いや、それは”あの人”が帰ってきてから聞けばわかる事。今は目の前の事に集中しないと。
「それじゃ、さっき話した通りに。姉さん、私たちは下の奴らを。キャンディは遺跡を。」
『了解よ。ふふっ、それにしても”あの人”みたいね、ミウ。』
『ほんと、まるで”あの人”が一緒にいるみたいだね。』
「うふふ、そう言われると嬉しいな。さぁ、行くよ、みんな!」
『ええ!!』
『うん!!』
オキシペタルムは一直線に遺跡へ。それに気付いた魔力砲持ち殺戮人形たちが対空攻撃を始めた。だけど、所詮は人間大の機械人形の装備。オキシペタルムの防御フィールドは貫けない。こちらとしては厄介な魔力砲持ちがどこにいるのか教えてもらって大助かりだ。
「姉さん、先に魔力砲持ちを叩こう!」
『”面倒は先に片付ける”ね!了解よ!』
砲火の根元を光学表示で確認。あれ?隠蔽機能を持ってる割には形が丸見えじゃないの。表面が黒色だから暗くなると見づらいけど。これなら!!
「はぁぁぁあああっ!!」
上空を向いている殺戮人形たちの隙を突く為に地表すれすれに降下。
スピードを落とさずに殺戮人形たちへと接近し、魔力砲をお見舞い。
すぐ機体を傾けて右にスライドさせ、更に2射。
そして機体を浮かせつつ時計と反対回りにロール、360°捻りつつ左に移動しながら2射。
ここは山奥の遺跡に向かう途中の森の中。視界は良くないがそれを逆に利用し、かつ、スターライトの小ささを生かして相手の攻撃を躱す。相手は移動予測をして攻撃してくるが、遮蔽物の陰で動きを変えてやれば躱すのも難しくない。
そして、こちらに注意が向いたところで、
『やぁぁぁあああっ!!』
雪華姉さんのシュンランが強化型連射魔力砲で雨を降らせて次々と仕留める。
相手がこちらに攻撃すれば姉さんが仕留め、逆に姉さんを攻撃すれば私が仕留める。息の合った連携攻撃でどんどん数を減らしていく。魔力砲持ちさえ片付ければ、後は上空から打ち込んでやれば簡単に倒せる。
順調に数を減らしてはいるが、まだまだ多い。そして、いつまでも続けられるほど集中力も持たない。
キャンディが戻ればフルバーストで一気に薙ぎ払える。それまで何としても持たせる!
『遺跡は・・・あれかな?情報の場所とも一致してるし。山に隠れてて分かりにくいけど、いいや、フルバースト!!』
キャンディからの通信。その直後、彼方から爆音。
『うん!間違いない!!よ~~~し!もう1発いっけ~~~!!』
更に彼方からの爆音。キャンディ、上手くやってくれたみたい。だけど、ここからが正念場。まずはキャンディを退避させないと!
『よし、完了!!これから急いで戻るからね!!』
「キャンディ!!急いで森すれすれまで高度を下げて!!早く!!」
『えっ?!わ、わかった!!』
直後、空を割るような光条が走り、遅れて雷のような爆音が轟く!!
『きゃあああぁぁぁっ!!』
「キャンディ!!大丈夫?!」
『な、なんとか・・・ミウちゃんが言ってくれなかったら危なかった・・・』
「とにかく、手動設定でDFとSPに振って、急いでこっちに!!早く探知外に出ないと、もう一発撃たれたらお終いよ!!」
『わ、わかった!!』
私は視た未来視にそれはあった。恐らく、飛行戦艦の形をした自動戦闘機械兵。動きは非常に遅いが防御が固く、オキシペタルムの攻撃でも通らない。また、主砲も強烈で、オキシペタルムの防御フィールドを以ってしても一撃で消滅させられる。
『ミウ!貴女、あれが出てくるもの分かってたの?!』
「姉さん、うん、分かってた。でも、遺跡を破壊しなくても後から出てきてた。だったら、見張りやすい状態にした方が対処がしやすいでしょ?私の視た映像の中には”全て終わったと思って油断してる時にアレの不意打ち受けて全員消滅”なんていうのもあったから。」
『なるほど・・・それは御免被りたいたいわね。それで、対処は?』
「今は放っておいて、人形を片付けながら防衛線まで後退する。アレは足はものすごく遅いから、防衛線が射程に入るまでには間に合ってくれるわ、援軍が。」
『わかったわ!キャンディも聞こえたわね?ここが正念場よ!』
『わかってる!』
オキシペタルムも戻ってきて、魔力砲持ち殺戮人形も片付いてきた。
このまま上手く立ち回れれば・・・。そう思った矢先、スターライトの後部に直撃!
「くっ!ここはやっぱり避けられないのね!」
バランスを崩して地面と接触。そのまま横転して止まる。覚悟してた私はコクピットの装甲を排除して飛び出し、近くの岩陰に滑り込む。直後、追い打ちで魔力砲を受けたスターライト・プリムラ改が爆散した。ごめん、プリムラ。今まで本当にありがとう。
『ミウ!!』
『ミウちゃん!!』
「来ちゃだめっ!!私は大丈夫だから!!姉さん達は予定通りお願い!!」
『『でもっ!!』』
「心配ない!!もう来るから!!”あの人”が!!」
そうだ!あと少し!あと少し生き延びれば!!
何体もの殺戮人形が迫りくる絶望的な状況。私は地を駆ける、殺戮人形に向かって!
私の行動を予測した殺戮人形が剣を横薙ぎに振るった瞬間、スライディングして相手の股を抜け、更に間髪入れずに右に飛ぶ。そして、銃を抜き、狙いも定めずに右斜め後ろに3連射。
空を切り、また、地面に突き刺さる殺戮人形の剣。そして弾丸を顔部に受けて狙いが逸れた殺戮人形の魔力砲が別の殺戮人形を直撃して破壊する。
残りの弾を別の殺戮人形の顔面に叩き込み、銃を投げ捨て、両手で小太刀を抜く。そして、魔素を集め、魔力に変換し、小太刀の刃に【シールド】の魔術を掛ける。イーセテラに来る前にキャンディに特訓してもらって覚えた魔術。
刀身を強化した小太刀を使い、殺戮人形の攻撃をいなす。小太刀本来の使い方。雪華姉さんに特訓してもらった守りの法。
だが、多勢に無勢。大きな傷は負ってはないものの、岩場に追い詰められ逃げ場がなくなった。
「さすがにこれは拙いかな・・・。でも、まだよ。まだ終わらない!!」
小太刀を構え、殺戮人形へと走る。
そして・・・
幾条もの光弾が殺戮人形を貫いた!!
「もう!遅いよ!”コウ”!!」
岩場の上、長銃身のライフルを構えた人影。
構えた銃を下ろし、岩場から飛び降りてくる。
「待たせたな、ミウ。遅くなってすまない。」
私が、ううん、雪華姉さん、キャンディ、アーシアさん、そしてリィエ、みんなが待ってた”あの人”、”コウ=フジイ”。
「おかえり、コウ・・・待ってた・・・待ってたよ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
笑顔で言うつもりだった言葉。でも、コウの顔を見たら涙が溢れてきて・・・
「よく頑張ったな。もう大丈夫だ。」
優しく抱きしめてくれるコウ。私がずっと待ちわびてたもの。コウの温もり、優しい手。
「さ、少し抱かれててくれ。おい、そこの殺戮人形共。俺のパートナー虐めやがって。屑鉄になる覚悟は出来てるんだろうな?」
左手一本で横抱きにされ、少しの恥ずかしさとたくさんの嬉しさが込み上げてくる。そして、私とコウの周りをフワッと風が包み込み、空へと舞い上がる。
「うわっ!飛んでるよ?!小型飛行艇にも乗ってないのに!!」
「Flight-Support-Equipment(飛行支援装備)、FSEだ。小型飛行艇程高速飛行は出来ないが、使い方によっては便利だ。」
岩場の上に降り立ち、眼下に銃を向け、
ドシュン!ドシュン!ドシュン!ドシュン!ドシュン!
コウが引き金を引く度に胸部のリアクターを貫かれ、屑鉄と化していく殺戮人形。
「こんなものか。ミウ、一旦街の防衛線付近まで戻るぞ。流石に、アレの相手は生身ではキツい。マイア、”アネモネ”と”アンジェリカ・ペリカリス”の準備は?」
『只今最終チェック中。出撃可能まであと300second。』
「”プレアデス”の方は?」
『現在、エレクトラ、ターユ、アルキュオネ、ケライノが出撃待機中。』
「分かった。プレアデスは順次発進。殺戮人形共の掃討を開始。俺達はそちらに合流する。ところでそっちに向かったスターノヴァの収容は?」
『現在本船の周囲を旋回中。通信を試みていますが応答ありません。恐らく搭乗者が応答を拒否しているものと推測します。』
「そうか、知らない船から通信されればそうなるか。ミウ、二人に”ジェンティア”に着船するように伝えてくれ。」
「うん!姉さん!キャンディ!聞こえる?その船、コウが持ってきた援軍なの!だから大丈夫!中に入って待ってて!」
『ミウ!よかった、無事だったのね・・・。』
『ミウちゃん!心配したんだからね?!』
「心配掛けてごめんなさい。私、今、コウと一緒にいるから大丈夫よ。」
『コウと?!そっか、よかったわね、ミウ。』
『ちょっとぉ~!わたしもコウさんに会いたいんだけどぉ~?!』
「今、二人でそっちに向かってるから。」
風を切って飛ぶ私とコウ。やがて森が切れて遠くにトウバの街が見え、その手前に大勢の人の姿。防衛線だ。
そして街と防衛線の間に一隻の飛空船が着陸していた。濃い紫と薄い紫で塗り分けられた綺麗な船。ウィスタリアよりも一回り小さくてシャープな印象。あれが”ジェンティア”。
私たちとすれ違いに小型飛行艇4機が森へ向かう。さっき言ってた”プレアデス”ね。
防衛線を飛び越えジェンティアへと向かう。防衛線を飛び越える時に一斉に携行型魔力砲を向けられたけど、構ってる暇はない。
そのままジェンティアの開け放たれた後部ハッチから格納庫へと降り立つ。中の雰囲気はウィスタリアとさほど変わらない感じだけど、ウィスタリアよりはかなり広い。そして2機のスターノヴァの姿もあった。
「ミウ!!」
「ミウちゃん!!」
「姉さん、キャンディ、ただいま!」
姉さんやキャンディと抱き合う。みんな無事だ。よかった・・・。
「雪華、キャンディ、ただいま。遅くなってすまなかった。」
「コウ・・・あなた・・・よく無事で・・・」
「コウさん!本物のコウさんだ!」
「あぁ、本物だよ。二人共、ミウをこんなにいい娘に育ててくれて感謝する。ありがとう。」
「ううん、私達、大した事してないわ。この娘が自分で頑張ったの。」
「あの、コウさん、ごめんなさい・・・。ミウちゃんのプリムラ、わたしのせいで・・・。」
「キャンディ、みんなが無事ならそれでいいんだ。プリムラが散ったから今ここでみんなが無事にいられた。そうだよな?ミウ?」
「うん!コウの言う通り!あれで出発が遅れたから今みんなが無事なの。だからキャンディ、もう気にする事ないからね!それにコウ、あるんでしょ?私たちの新しい翼、天空を舞う花が。」
私が目を向けた先、緋色の機体と蒼碧の機体。小さい。スターノヴァの半分くらいかな。
でも分かる。この花たちはスターノヴァを遥かに超える力を持っている。
「ポラリス型高次元空間戦闘機。緋色の方が”アネモネ”で蒼と碧の方が”アンジェリカ・ペリカリス”。なりは小さいが出力はスターノヴァのざっと30倍。文字通り桁違いの機体だ。ポラリスは複座型だから、アネモネにはミウと俺が、アンジェリカ・ペリカリスには雪華とキャンディで乗る。」
アネモネ・・・どんな花なのかな?花言葉は?後で調べよう・・・。
「さぁ、時間があまりない。三人共俺に力を貸してくれ。殺戮人形共はプレアデス達に片付けさせてるから、俺達で大きいのを仕留めるぞ。ミウと雪華が前部座席”ドライバー”、俺とキャンディが後部座席”ガンナー”だ。」
「えっ?私が前?!」
「そうだ。お前に俺の生命を預ける。いいな?」
「わ、わかった!!私、頑張る!!
「シートのところに新しいMISEがある。着け直してくれ。」
「「「了解!!」」」
それぞれが機体のそれぞれの場所に乗り込み、MISEを交換して装着する。今のところ違いは分からないけど。
「システム、マスター権限により搭乗者登録開始。ドライバー、ガンナー共通登録。”アネモネ”/ミウ=フジイ、”アンジェリカ・ペリカリス”/柊 雪華、キャンディ=サァユ。」
『マスターコマンド受領。搭乗者登録。”アネモネ”/ミウ=フジイ、”アンジェリカ・ペリカリス”/柊 雪華・キャンディ=サァユ。生体パターン・脳波パターン登録完了。』
あ、今、私の事、”ミウ=フジイ”って・・・。
思わず振り返ってコウを見る。
「ミウはもう俺のパートナーだからな。」
そう言ってウィンク。
嬉しい・・・!私は”ミウ=フジイ”!コウのパートナー!!
『あらあら、お熱いことで~♪じゃあ、私も”雪華=フジイ”って名乗っちゃおうかなぁ~?』
『ミウちゃんいいなぁ~!わたしも”キャンディ=サァユ=フジイ”って名乗るぞぉ~?』
「ん?おい、ミウ、話が見えないんだがどうなってる?」
「え~とね、私が姉さんやキャンディに言ったの。みんなでコウを支えようって!」
「おいおい・・・。本人いないところで・・・。その事は終わってからじっくり話し合うとして、出撃するぞ。ミウ、雪華、さっきも言ったが出力が桁違いだから、最初は抑え目でいってくれ。」
「了解!任せて!」
『了解よ!ぶっつけ本番でもモノにしてみせるわ!』
それぞれのポラリスが別の発進カタパルトに移動させら見えなくなる。ハッチが開き、その先に夕暮れの空が見える。
『カタパルト接続完了。発進制御を各ドライバーに移行。You have control.』
「I have control!アネモネ、出ます!」
ものすごい勢いで射出されるアネモネ。でも加速度は感じない。スターノヴァにもあった慣性制御システムね。きっと装甲の流体制御も働いてる。でないと周りに衝撃波を撒き散らしちゃうし。
少し機体を振ってみる。反応がものすごくいい。少しの反応遅延も感じられない。機体が思い通りに動く!
「ミウ、雪華、運動制御設定は狙撃でいい。慣れない状態でそれ以上機動性を上げると地面に刺さるぞ。」
『そんなヘマは、って言いたいところだけど、反応が敏感で油断すると本当に刺さりそうね。』
「でも、スターノヴァより全然思い通りに飛べる!まるで自分が飛んでいるみたい!」
くるんくるん!と機体を連続でロールさせてみる。楽しい~~~♪
「こらミウ、遊んでる場合じゃないぞ!いいか二人共、向かって右から大きく回り込んで相手の左側面から攻撃。まず主砲を潰すんだ。」
『えっ?何でそんなまどろっこしい事を?真っ直ぐ行って叩けばいいんじゃ?』
「姉さん、コウが正しい!もし真っ直ぐ行ってあの攻撃撃たれたら、私たちはともかく街や防衛線の人達を巻き込んじゃう!」
『!! そうか・・・ごめん、コウ。私ちょっと浮かれてたみたい・・・。』
「分かってくれればいいんだ。一撃加えれやれば相手はこちらを脅威と判断して方向を変える筈だ。だが、もしこちらを向かなかった時に備えて、まずは主砲を叩く。」
『了解! やっぱりコウがいると締まるわね。それにとても安心出来るわ。』
大きく右に迂回。街や防衛線の人達を巻き込まない角度になってから飛行戦艦型機械兵に向かう。
「キャンディ、撃て!アンジェリカ・ペリカリスの連装陽電子砲ならここからでも届く!どんな物理装甲も無効化出来るぞ!」
『りょ~かい!ターゲット・インサイト!いっけぇぇぇっ!!』
二本の眩い光がアンジェリカ・ペリカリスから放たれ、飛行戦艦型機械兵に突き刺さる!
一本は船体中央付近、もう一本は船体上部の主砲に。当たったとこが大爆発を起こす。よし!これでアイツは主砲を使えない!
「さすがキャンディ!伊達に生身で山吹っ飛ばしてない!」
『ちょっ!!それ誉め言葉になってないよミウちゃん!!』
「よし!よくやったキャンディ!リアクターの位置は・・・よし、確認した!ミウ!雪華!一気に行け!」
『「了解!!」』
二機のポラリスが飛行戦艦型機械兵の上空を華麗に舞う。パラメータは狙撃のままなのに、相手の近接防衛砲を難なく避ける。
『船体を穴だらけにしてあげるわ!!』
「大人しく壊れなさい!!」
シュドドドドドドドドド!!
ポラリスの機首に装備されている速射斥力場加速砲で、MISEから投影された位置を撃ちぬく!!
「よし、二人共離脱だ!リアクターの爆発に巻き込まれるぞ!」
『「了解!!」』
シュドゴォォォォォォン!!
その数瞬後、飛行戦艦型機械兵は船体後部を爆発させ、墜落していった。
「よし、ジェンティアに戻るぞ。マイア、殺戮人形共の状況は?」
『殲滅を確認。一部プレアデスの迎撃を逃れた殺戮人形が防衛線に接触しましたが、撃退に成功しています。』
「分かった。エレクトラ、ターユ、アルキュオネ、ケライノ、ジェンティアに帰投しろ。」
『『『『イエス、マスター。』』』』
私たちがジェンティアに戻ると、格納庫で7人の女性がビシッと並んで出迎えた。
んん~?コウ?説明を求めます!!
「彼女たちはプレアデス。俺が支援用に造った自律自動人形だ。他の自律自動人形と区別する為に、付けた名前から”星団の乙女”と呼んでいる。あの戦いで人手が足りなかったと反省してね。左からマイア、エレクトラ、ターユ、アルキュオネ、ケライノ、ステローペ、メロペー。マイア、ステローペ、メロペーはジェンティアの運用管理を、他の4人は俺達の支援を担当してくれる。ミウ達3人の事は既に主人として登録してあるから、何か用があるなら言いつけるといい。」
「初めまして新たなるマスター方。マスターに造られし”星団の乙女プレアデス”が一人”マイア”と申します。プレアデスを代表してご挨拶申し上げます。」
優雅にあいさつをするマイア。自律自動人形とは思えない滑らかな動作だ。
姉さんやキャンディなんかポカンとした顔でプレアデス達を見つめてる。
「初めましてマイア。これからよろしくね!」
「はい。よろしくお願い致します。」
「さて、船内を案内したいところだが、まずは下の人達に説明しないとな。放っておくと攻撃されかねないし。」
「そうだね。さすがに攻撃はされないと思うけど、春華さんにコウの事紹介したいし。姉さん達はスターライトで降りて?私はコウに降ろしてもらうから。」
「え、えぇ・・・わかったわ。」
「それにしても・・・すごいね、これ。ポラリスだけでもビックリなのに。」
ジェンティアを降りた私たちは防衛線の指揮を執っていた春華姉さんと合流し、状況の説明とジェンティアの大型駐機場への着陸許可をお願いした。春華姉さんは、今回の事件解決の功労者という事ですんなり許可してくれた。
それよりも春華姉さんはコウに興味津々で、根掘り葉掘り聞いていた。
コウがジト目で私を見る。これに関してはコウの造った碧双月のせいであって、私は関係ないからね?
騒動も一段落し、私たちに穏やかな日々が返ってくる、はずだった。