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VS勇者×100 ~絶望の勇者と希望の魔王~  作者: 雪中餡
小さな魔王編
7/29

そうだ 毒を盛ろう

「それなら、睡眠打破Σを持たせた魔王空軍に、

 勇者一行を襲撃させればいいのではないですか?」


 第49回勇者対策会議でそう発言したのは四天王が一人、闇のシャドウだ。

 右腕に包帯をグルグルと巻いて、肩にカラスを乗せている人型の魔族だ。

 全身黒ずくめの服を着ており、背丈は魔王と同じくらいと随分小柄だが、

 これでも勇者を通算7回も倒している魔界きっての強者だった。


「そ、それはそうなのだが、諸事情があって睡眠打破Σはしばらく使えないのだ」


 魔王があちこちに忙しなく目を逸らしながら言った。

 諸事情とは調子に乗って睡眠打破Σを全部人間相手に売ってしまったという事情である。


「また前回の羊のようなことがないとは限りません。

 正面切って戦力をぶつけるのは得策ではないでしょう」


 ハルピュイアが淡々と意見を述べた。


「ふむ。では今回の目的は勇者一行の殲滅ではなく、足止めということですね」


「いや、殲滅だ。大規模な戦力は送れぬゆえ、

 力ではなく他の何かで勇者どもを倒す手立てを何とか考えて欲しいのだ」


「それならば、飛竜に乗って各種バッドステータスに耐性を持った

 少数精鋭の部隊で攻撃をかければよろしいのではないでしょうか」


「それはできぬ。どうも北の大陸より何か強大な力が

 こちらに向かっておるようでな。

 戦力は出来るだけ魔王城の近くに集めておきたいのだ」


 この世界には、大まかに分けて3つの大陸がある。

 

 まずは中央大陸。

 中央大陸はちょうど真ん中で二分されており、

 西側を人間族が、東側を魔族がそれぞれ支配している。

 大陸中に現れる動物の突然変異体——魔物は、人間、魔族に共通の悩みのためだ。

 

 次に南大陸。

 中央大陸の半分ほどの大きさのこの大陸は、エルフとドワーフが共存している。

 豊かな森、貴重な鉱石がとれる鉱山があり、

 どういうわけか、この大陸にはほとんど魔物が現れない。

 そのため、人間は何度も侵略戦争を挑んでいるが、

 その度にめっためたに叩きのめされている。

 

 最後に北大陸。別名、暗黒大陸だ。

 この大陸はほとんど手つかずで、どの程度の大きさなのか、

 どのような生物がいるのかも明らかになっていない。

 時折この大陸から来たとおぼしきものが、

 中央大陸にやってきては好き放題暴れていく。

 

 北大陸には、魔王の言う強大な力を持つ存在がいても、何ら不思議ではないのだ。

 そしてその対応のために戦力を近くに集めておきたいという魔王の判断は、

 至極当然といえるだろう。


「強大な力……。気になりますが、まずは勇者一行をどうするかですね。

 しかし、力以外の手段でどう勇者を倒したものか……」


 みなの視線がハルピュイアに集まるが、

 これには流石のハルピュイアもお手上げ……ではなかった。


「では、こういうのは如何でしょうか? 毒を盛るのです」


 うわーお。これまた過激。でも素敵。

 魔王はそのアイデアをとても気に入った。


「なるほど。直接叩くのではなく、毒を使うのであれば戦力は必要ないか。

 ……考えたなハルピュイアよ」


「ハッ!」


「しかし、どうやって毒を盛るかということが問題ですねッキィ!」


 ドラッキィが指摘したが、それは想定済みです、

 というようにハルピュイアは薄く微笑んだ。


「人間に協力してもらえばいいのです。

 幸い勇者の嫌われようは凄まじいですから、

 勇者を殺せるとなれば、村単位で喜んで協力してくれるでしょう」


「しかし、奴らのパーティには解毒魔法を扱える僧侶がいるぞ。

 それも100人。奴らを何とかしなければ、折角毒を盛っても

 解毒されて終わりじゃないか? なあバルムンク」


 闇のシャドウが肩に乗ったカラスに話しかけた。

 なんだか見てはいけないものを見たような気がして、魔王はぞわりと身を震わせた。


「その点も抜かりはありません。来なさい。我が下僕たちよ」

 

 ハルピュイアの呼びかけに、会議室の扉がバン! と勢いよく開いた。

 扉からトコトコと姿を現したのは、ジンギスカンを免れた十数頭の羊だった。


「私は研究の結果、羊には眠り以外にも、

 魔法を封じるダンスがあることに気付きました。

 この羊たちに踊ってもらい、僧侶の解毒魔法を封じます」


「ほう。羊ならば村や街にいても何ら不思議はない。考えたなハルピュイア!」


「でも、やつらは毒けし草をいっぱい持ってるはずッキィ!」


 ドラッキィの言う通りだった、勇者一行は街や村々から略奪した

 様々なアイテムを大量に持っているはずだ。

 今度こそハルピュイアの計画は崩れたのだろうか。


「買い取ります。相場の2倍の値段で。

 勇者一行は飛びつき、全ての毒けし草を換金するでしょう」


「そう上手くいくだろうか? 

 流石に最低限自分達で使う分は残しておくんじゃないか?」


 鬼の首取ったり! とでも言いたげに魔王がハルピュイアの作戦に待ったをかけた。

 しかしハルピュイアは涼しい顔で


「折角作ったマジックアイテムを、

 調子に乗って根こそぎ売ってしまったどこかの魔王様もいるくらいですからね。

 私は人間のことを魔王様以下の知性と認識しております。彼等なら全て売り切るでしょう」


 手痛い反撃を受けて黙った。

 睡眠打破Σを全部売ってしまった前科がある身としては、これ以上何も言えなかった。


 しかし、いけるんじゃないか? これ。


 魔王は満足していた。

 きっと上手くいく。そう確信し、魔王は


「では解散する! ハルピュイア! 具体的なところは全て任せたぞ!」


 

 ハルピュイアに全て丸投げした。




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