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VS勇者×100 ~絶望の勇者と希望の魔王~  作者: 雪中餡
小さな魔王編
6/29

じしん かみなり かじ ゆうしゃ

「むっふっふっふっふ! 見ろ! この戦果を!」


 玉座の前には、山のように様々な武器、防具の数々が積み上げられていた。

 その高さたるや、装備の山の傍らに立つハルピュイアの背丈の倍以上はある。


「これで勇者一行は貧弱な装備のまま旅を続けねばならんというわけだ! 

ハァーハッハッハ!」


「それは大変よろしゅうございまし……ああっ!?」


 雑に積み上げられていた装備の山が崩れ、ハルピュイアになだれ込んだ。

 一瞬の内にハルピュイアの姿は埋もれて見えなくなる。


「そろそろ偵察にだしたドラッキィが、

絶望に打ちひしがれる勇者一行の様子を伝えに来てくれることだろう!

 待ちきれんぞ! ハァーハッハッハ!」


 玉座の前で、崩れてきた戦利品の山に埋もれていたハルピュイアが

 ぷはっと顔を出した。

 その時だった、玉座の間の大きな両開きの扉が開かれたのは。


「キィー! ただいま戻りましたッキィ!」


 人間の頭部くらいの大きさの、やけに丸っこくディフォルメされた

 蝙蝠型の魔物——ドラッキィが羽をパタつかせながら入ってきた。

 

「おおっ! 待ちわびたぞドラッキィよ!

 早く我に勇者一行の間抜けな姿を伝えるがいい!」


 立ち上がり、両手を広げて歓迎のポーズをとった魔王、

 しかし、ドラッキィは勢い余って武器や防具の山に突っ込んでいった。

 けたたましく鳴り響いた金属音が広い室内に反響し、

 頭だけ見えていたハルピュイアは、再び埋もれてしまった。


「お、おお……。二人とも大丈夫か?」


 ドゴオオン! 

 と、凄まじい爆発音と共に装備の山が弾けた。

 頑丈なはずの、結構いい値段がしたフルメイルが放物線を描いて飛んで行き、

 壁にぶち当たってバラバラになった。


「大丈夫です」


 能面のように冷たい顔をしたハルピュイアが爆心地に立っていた。

 

 あっ。これあかんやつや——。

 

 魔王はハルピュイアの静かな怒りを感じとり、

 ハルピュイアの怒りが収まるまで真面目にしてようと固く誓った。

 ハルピュイアはひょい、と、片割れで気絶していたドラッキィを摘み上げると、

 フッと息を吹きかけた。


「うぅ~ん。フローラルな香り……ハッ!? ハルピュイア様!?」


「ドラッキィ。魔王様に報告を」


「そうでしたッキィ! 魔王様! ご報告差し上げます……ッキィ!」


 フラフラと頼りなく飛びながら、玉座の傍までドラッキィが寄っていく。

 

「そうだ。早く我に勇者たちの涙目なアホ面を……」


 待ちきれないといった様子で、

 顔を紅潮させ目を輝かせた魔王に届いた言葉は、期待通りのものではなかった。


「あいつら……。ちっくしょう! 

 あの勇者たちったら、全然気にしてなかったっキィ! 

 それどころか、街や村が豊かになったと喜んでいやがったんですっキィ!」


 ドラッキィは羽で拳を作ると、悔しそうに地面に打ち付けた。

 だがそれ以上に悔しそうな顔をしたのは魔王だ。涙目になっている。


「ば、馬鹿な!? どういうことだドラッキィ!?」


「勇者のやつら……最初から強い装備を持っていやがったんですッキィ!」


「な、なんだと……? あの、世界を救うために旅立つ勇者に、

 何度代替わりしてもお小遣い程度の軍資金しか渡さなかった、

 超々ドケチな人間の王が——高価な装備を与えたというのか!?」


「その通りですッキィ!」


 魔王はまるで稲妻にうたれたかのような衝撃を受けていた。

 冷静に考えると、勇者にはした金だけ渡して魔王討伐を言い渡す

 今までの無茶振りっぷりがやばかっただけなのだが、

 とにかく衝撃を受けたことに変わりはない。

 

 ——人間って、馬鹿じゃなかったんだ。


「どうやら今代の王は、まともな考え方ができるようですね」


「ヒノキの棒しか渡さずに勇者を放り出したいつぞやの王に比べれば、

 至極まともと言わざるを得ないですッキィ!」


 ハルピュイアとドラッキィの中で、

 人間の王は猿以下の知能という評価だったため、二人は偉く感心した。


「ううう。我の苦労がぁ……」


 魔王は未だショックから立ち直れず、

 玉座に浅く腰掛け項垂うなだれて真っ白に燃え尽きている。

 どこかで見たことあるな、とドラッキィは思った。


「あっ! そうだっキィ! 魔王様、あいつらパーティーを変更してたッキィ!」


「ええ……? 別にどうでもいいよぅ。どうせ羊飼いが抜けたとかそんなでしょ?」


「ま、魔王様、もうちょっと興味を持ってほしいッキィ……。

 まあそうなんですけど、羊飼いの代わりが入ってたッキィ」


 魔王は興味なさげに粘っこい目でドラッキィを見上げた。

 その荒みように、ドラッキィはやるせない気持ちになったが、

 これも仕事だと割り切った。

 ——頑張らねば。なんせドラッキィは可愛い妻と

 生まれたばかりの子供を養っていかなければならないのだ。


「羊飼いの代わりに、盗賊が増えてたッキィ……。あの、もう帰ってもいいですか?」


 魔王は片手を振って許可を与えた。

 ていうかお前普通に喋れるのかよと

 去っていく後ろ姿を見つめながら魔王は思った。


「待ちなさいドラッキィ。勇者一行に盗賊が増えた理由はわかりませんか?」


 ハルピュイアが去りゆく背中に問いかけると、

 ドラッキィはくるっと縦に半回転した。

 天地が逆さまになったままドラッキィはハルピュイアの質問に答える。


「勇者一行は村や街が潤ってることに気付いたッキィ。

 だから行く先々の村や街を襲撃して、金品を強奪しながら進んでいるんですッキィ」


「なるほど。呼び止めてすみませんでしたね。ドラッキィ。ゆっくり休みなさい」

 

 ありがとうございますッキィ! 

 と告げて、今度こそドラッキィは軽い羽取りで玉座の間から出て行った。


「勇者一行といえば、平気で人の家を荒らす外道ばかりだと思っていたが、

 今度のは外道っぷりに磨きがかかっているな」


「ええ。まさか同じ人間族の街や村を荒らすために盗賊を増員するとは、

 流石に私も予想外でした」


 恐らく、今度の勇者一行が通った街や村では、薬草一本残っていないことだろう。


 ——勇者。

 

 その名は人間にとって、魔王以上に恐れられている。

 なんせ、我が物顔で土足で家に上がり、

 勝手に箪笥は開けるわ、ツボは割るわ、

 隠してあったなけなしの財産を持っていくわ、やりたい放題なのだ。

 

 しかもそれを国家が黙認しているというのだから質が悪い。

 抵抗しようとしても返りうちにあうし、

 憲兵に泣きつこうともまともに取り合わない。

 おまけに、長い歴史の中で勇者が魔王に勝ったことなど一度もないのだ。

 取るもんだけとってろくに役に立たない勇者の嫌われぷりっときたら、

 それはもう半端なものではなかった。


 どのくらい嫌われているかと言うと、勇者の活動が活発だったころは、

 毎日魔王宛に激励のメッセージが届く有様だった。


『まおうさま。がんばって

 ゆうしゃのくそやろうをぶっころしてください』——しぇすた5さい

『勇者のやつ。母ちゃんの形見のネックレスを持っていきやがった。

 許せねえ。俺が心血注いで打った剣を送るから、

 それで勇者をぶっ殺してやってくれ』——ゴンザレフより

『魔王たんハァハァ。今何色のパンツ履いてるの?」——ポポロタウンのヤムベエ


 こんな具合である。


「このままでは、また魔王様にファンレターがどっさり届きますね」


「そ、それは困る。凄く嫌だ」


「では、如何いたしましょう?」


「うむ。あれをやるとしよう」


 そうして通算49回目、

 1週間ぶりの勇者対策会議が開催されることとあいなったのである。

 

 



 

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