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ストロベリアムの村/キツネ狩り

 転送が終わると、二人は大理石でできたストーンヘンジの様な場所に立っていた。

 ストーンヘンジの様な石の建造物はどうやら転移門らしかった。

 

 石のサークルの中央に発光する分部があって、触れるとストロベリアム転移門を記録しました。とシステムメッセージが出た。

 転移門の周りを見回し、改めて二人は嘆息をついた。

 そこは、まるで本物の中世の農村の様だった。


 いくらダイブギアが全五感タイプのゲーム機で、そのCGは分子結合を再現した次世代CGとはいえ、大半のCGはどこか作り物っぽさを抜けきれずにいた。

 しかしSEXO(セイクリッドエンパイアX)のCGはまさにド胆を抜くもう一つの現実だった。


 太陽の光、畑のあぜを流れる小川のせせらぎ、質素な木造の建物にかっぽするニワトリやヤギ。

 ひとしきり辺りを観察すると、突然瑠璃子が大声を張り上げた。

「わーーーーーーい」

 そして、村の中をずっと向こうまで駆けて行った。


 突然大声を上げた瑠璃子のことを何事かと、同じ初心者と思しき数人のプレイヤーがあっけにとられながら見つめる。

 瑠璃子は村のはずれまで、全速力で駆けていくと、また大声を上げながら戻ってきた。


 ぜえはあと息が上がっている。瑠璃子はスタミナゲージが続く限り走った。

 現実の肉体が疲労するわけではないのだが、VRでも走ると息が上がるという人は多い。


「すごい気持ちよかった。子供の頃に戻ったみたい」

 ここ最近見ていなかった、瑠璃子の満面の笑みだった。

「元気でた?」

「うん、ねえ、この村ちょっとお散歩してみようよ」

 真司はコクリと頷くと瑠璃子の手を取った。


「ニワトリさんコンニチハッ!」

 瑠璃子が大声でニワトリに挨拶すると、ニワトリは驚いたように逃げた。

「スゴイな、こんなニワトリまで作りこまなくてもいいのにな」


「こっこっこっこ~♪」

 瑠璃子がニワトリの目の前で指を回す。ニワトリは指先を見つめ、くるくると頭を回した。

「あはっ……可愛い」

「ルリちゃんは動物好きだね、相変わらず」

「うん、病室でもよく動物動画みるよ」


 病室に動物を連れ込むわけにもいかず、モフモフ好きの瑠璃子にはそれもストレスだったのかもしれない。

 ニワトリと心底楽しそうに遊ぶ瑠璃子を見て、真司も目じりを下げた。


 ニワトリと心ゆくまで遊んだ瑠璃子の次の興味の対象は村の中央通りに沿って流れる小川だった。

 川っぷちまで歩いて行って、まずは水を手ですくってみた。

「わぁ……冷たい」

 川はすねがつかるくらいの深さで、流れも緩やかだった。


 瑠璃子は早速ブーツを脱いで川に入った。

 バシャバシャと派手に水しぶきが上がる。

「ああーお魚さんもいる。おおっ! カニもいるよ」

 瑠璃子が見て見てと言うので真司も川を覗きこんだ。

 確かに色々生き物がいて本物の田舎の川の様だった。


「カニさんゲットだぜぇ」

 瑠璃子がカニをつかまえて頭上に掲げると、カニが光って消えた。

「あれ?」

 すると、ストロベリアム沢蟹を入手しました。とメッセージが出た。

 パーティを組んでいる真司にもそのメッセージは見えた。


「それ、アイテムになるんだ」

「何に使うんだろ?」

「たぶん食材だと思うけど」

「食べるのは可哀想だけど、でもちょっと美味しそうだね」


 そう言って瑠璃子は何匹かカニを捕まえたのだった。

 すでにログインしてから三十分ほどが経とうとしていたが、二人のゲームは全然進まなかった。

 瑠璃子は村のあれこれを見つけては歓声を上げて喜んだ。

 瑠璃子と遊ぶと大体こんな感じになるな。と真司は幼い日々をふと思い出した。

 


 結局真司たちがゲームに本格的に着手したのはログインから小一時間経った後だった。

 午前中にインしていたが、時刻はもう正午を過ぎている。

 チュートリアルのメッセージに従いながら、村の農夫から最初のクエストを受けた。


「やあ、ここら辺では見ない顔だなあ? 冒険者さんかい? 実は頼みたいことがあるんだが」

 NPCノンプレイヤーキャラクターと思しき、他の農夫より少しだけ仕立ての良い服を着た青年の顔にはこれまた柔和な笑みが浮かんでいた。

 外見は完全に普通の農夫だが、やはりNPCなせいか、瑠璃子が色々と話しかけるが、簡単な返事しか返してこない。


「お兄さんのお名前は何ですか?」

「おいらの名前はケン、このストロベリアムで農家をしてるんだぁ」

「お兄さん恋人はいるの?」

「恋人ってなんだぁ?」


 その後もいくつか質問してみたが、どうやら特定の単語に反応して返事を返してくるだけで、未設定の単語には〇〇ってなんだぁ? と返すだけらしい。


「会話ができるAI操作のNPCもいるらしいけど、このケン君はクエストをくれるだけみたいだな」

「NPCとそうじゃない人ってどう見分けるの?」

「NPCは地図に緑のドットで表示されているっぽい、黄色はプレイヤー、赤はモンスターらしい」

「へ~、じゃあクエスト受けてみようよ」

 

 瑠璃子たちの前にはシステムメニューが立ちあがっていて、キツネ狩りのクエストがオファーされました。と表示されていた。

 受領しますか? の所のYESボタンをタップした。


「実はオラ、最近男爵様から新しい畑をもらったんだ。立派なイチゴ畑にしてえんだけど、畑にキツネが住み着いて困ってるんだ。どうかキツネを退治してくれえ」


 受領と同時にクエストの概要がシステムメッセージで表示された。

 キツネLV1を十匹退治しろ、きちんと地図も添えられていた。

 散歩では歩かなかった方向のエリアだ。


「こっちだ。行ってみよう」

「うん、悪いキツネを退治するのだ」


 意気揚々と向かったはいいが問題は早々に発生した。


「あら、可愛い」

 なんとキツネは瑠璃子好みのぬいぐるみのようなモンスターだったのである。


 早速真司が倒そうとすると「いじめちゃダメ」と瑠璃子が止めた。

 真司はヤレヤレと笑うと剣を収めた。


 瑠璃子はキツネと遊び始めた。

 真司は瑠璃子の気の済むようにさせようと思った。なんならクエストは破棄してもいい。


「よしよし、いい子、いい子」

 瑠璃子がキツネを撫でると、キツネは喉を鳴らしてすり寄ってきた。

 ひとしきりキツネを可愛がるとキツネは瑠璃子をじっと見つめてクウンと切なそうに鳴いた。


「お腹減ってるのかな?」

「さあ? どうだろう?」

 確かに何かを欲しがっているようにも見えた。


 瑠璃子がストレージをあさると、スタミナ回復用のパンと沢蟹が見つかった。

「これ、食べるかな?」

 瑠璃子は恐る恐るとキツネの前に食べ物を差し出してみた。


「あっ! 食べた食べた」

 ぬいぐるみの様なキツネは大きな口をあけて、パンと沢蟹を食べた。


「美味しい? うん……そう」

 瑠璃子が目を細めて、キツネの顎の下を指先でかいてやった。

 キツネはクーンと鳴くと、畑から去っていった。


「あれっ! クエスト進んだぞ」

 真司がシステムメニューを開いてみせた。

 確かにクエストのキツネ討伐数のカウントが一つ増えている。

「本当? キツネいじめなくていいの?」

 その時瑠璃子が見せた笑顔はチューリップの花みたいに可愛かった。


 その後は川にカニを捕りに行き、キツネにあげた。


「ありがとう、キツネを餌付けして帰しただか? 大したもんだぁ、少し報酬をおまけしといた。受け取ってくれ」

 農夫の青年は少し大きめの硬貨が入った袋をくれた。


「やった~、クエストクリアー」

 初心者クエストの割には思ったより時間がかかった。効率がいいプレイとはとても言えないが、ルリちゃんらしいな、と真司は思った。




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