境界線
いつもと同じような毎日が続くと思っていた
けれどそれは本当に偶然だった
なぜか猫が出てくる夢を見て
学校へ行く途中の、公園に続く長い階段の下でいつもは滅多に見ない猫に出会って
その猫がなぜか人懐っこくて
あ、こいつかわいいって思っちゃったんだよ
それからは学校の行き帰りによく見かけるようになった
懐いてくれるから構ったり、たまに餌をあげたりした
猫じゃらしを見つけたときはそれで遊んであげたし
でもときどき全く無反応な日もあった
そのうち、ただ学校へ行って帰ってくるだけの単調な日々が変わって見えてきた
学校がなんか楽しいし、部活でも最近調子良い気がする
「今日、学校でさ…」
学校帰り、階段に座って猫を撫でる
その日あった出来事や友だちから聞いたおもしろい話などを私は心の中で"彼"に語りかける
撫でている間はおとなしくて、まるで私の話を聞いてくれているみたいだった
今ではそれが日課になりつつあった
なんで楽しくなってきたんだろう
"彼"に出会ってしばらく経つけれど私は名前をつけたりはしなかった
自分で引いたその境界線は越えないようにしようと思った
「それ、持つよ」
言われたと同時、手から荷物がなくなった
軽々と持ってくれる彼は爽やかだ
夏の終わり、秋が始まる空になると文化祭シーズン
つまり、いわゆる買い出しというやつ
今回、私は彼とペアだった
「あ、ありがとう」
「いーよ、今日も行くんだろ?」
「どこに?」
「公園の階段んとこ」
「なんで…っ」
なんでそれを知ってるの
だれにも話したことないのに
「俺の家もそっち方向だから帰りによく見かけるんだよ」
まさか見られていたとは
準備のために学校でも少し話をするようになった人だけど私は相変わらず人見知りだった
そんな私にも彼はやさしく接してくれる
だからなのか、よく人と自分との間に境界線を引く私だけれど、彼との間に引いた境界線はいつも見えなくなる
ああ、そっか
今日は遅くなっちゃったけど、あの場所に"彼"はいるかな…
どうしても伝えたいことがある
もう辺りは薄暗かったが階段の下を陣取って座っている"彼"はすぐに見つけられた
急いで来たので少し息が上がっている
なんだか今日の"彼"は素っ気ない
私を一瞥した後そっぽを向いてしまった
構わずいつものように階段に座り、息を整えた
やっとこっちを向いた"彼"に心の中で告げる
「あのさ、」